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14 初めてのお供え。2



「あ、お布団もだけど、魔石がいるのだったわ」

 エリザベスがしまったと、気がついた。


 この世界で、生きて十五年。

 リラも不思議となりながらその便利さにお世話になっているもの。


 魔石。


 この世界には魔法がある。

 科学文明のかわりに魔法が文明になったのだと、この年になればしっかりと受け入れていた。

 そして魔石という、生活の助けとなるエネルギー源がある。それは特別な鉱物で。それらが電気やガスなどのかわりとなる。

 石炭などもまだまだ需要あるが、ときとしてそれらも魔石に置き換わる。

 空気が汚れなくて良いのではないかしらなんて、案外頭が柔らかいリラであった。

「火の魔石は、絶対必要よね……」

 ユージェニーが館に残っていたかと急いで探したが、残念ながら。

 高価な食器や花器などと違い、足が付きにくい消耗品な魔石などは、館が空になるときに時の使用人たちが持って行ったのだろう。幽霊では使うこともなかったし、気にもしていなかったと、反省の三姉妹。まぁ、急な退職になったから申し訳なかったし。

「お風呂、どうしましょうね……」

 グローディア邸には三百年前からエリザベスの要望により、風呂を設置してあったのだ。当時には大貴族や裕福な商人くらいしかもってなかったが――はい、大貴族のグローディア家である。

 風呂自体は現代では一般ご家庭にも普及しているが、庶民には公共の銭湯が未だありがたいだろうか。

 そう、火の魔石はまさに火の代わりに。コンロに使ったり、こうして組み合わせることで浴槽にお湯を出すことも。

 そうした設備を整えることができるのが未だ現代でも金持ちの証しでもある。

 日本人であった記憶があるリラには、子爵家にも風呂があったことに感謝しかない。もともと身体を動かし、汗をかく騎士の家だから、奮発して設置されたのだろう。騎士は身嗜みも仕事のうち。

 魔石を使わない風呂もあったりする。大きな盥にわざわざ湯を沸かして移すことをいう。こういうご家庭もまだある。

 薪を燃やす、日本でおなじみなそうした造りの風呂もあったりするが。


 魔石は基本的に消耗品だ。永続性の効果があるものはめったに見つからないといったほうが正しいだろうか。しかもものすごくお高い。

 ならば無理して買わずとも、消耗品を購入する方が経済も回るというもの。グローディア家でも三百年前にはそうしていた。


「竈の一部はまだ薪だったのですね」

 調理場も少しずつ魔石によるコンロに変わっていたようだが、大人数を呼ぶこともあった館の竈は数も多い。まだ薪の竈も残っていた。そもそも魔石は決して安くはないし。

「それに先ほどの暖炉も薪の……」

 故に魔石にすべてを頼っていないのは現代も。

「まだ日があるうちに!」

 リラはひらめいた。

 公園になっているものの、館の周りは一部は森のよう。

「たきぎ、拾ってきます!」

「お手伝いしますわ」

 三姉妹さんは地縛霊ではないのでお館の外にも行けたんだったと――思っていたよりも早く薪拾いが終わって呆気にとられたリラであった。夕方で薄暗くて良かった。人が居なくて良かった。浮かぶ薪を見られるところで、幽霊屋敷にまた一つ、話ができるところだった……。


「ここのところ天気が良かったのも幸いでした」

 薪は竈で良く燃えた。

「自分たちの火は、不思議と燃えないのですよねー」

「明るいのでありがたいです」

 それははじめに燭台を明るくした青白い火のこと。今は本当に灯り代わりにさせてもらっている、もう腹をくくったリラ。だって灯りに使う魔石ないし。

 さすがに大貴族の三人は火の付け方を知らなかったりと、本来は調理場にも立ち入ることはなかったのだろう。そちらの火による赤い明るさに興味津々だ。

 今日はお風呂は我慢して、お湯を沸かして身体を拭くことにした。

「薪割りも、斧か鉈があれば……」

 リラは今後もこの竈に世話になるならそれも辞さない。

 薪割りできるのかと、三姉妹さんはぎょっとするが、生前もやっていたりした寺の子である。山裾にあった寺だから、たまに手入れで伐採する木材を薪にしていた。ちなみに握力から背筋を鍛えるのに役立ちました。

「金貨、足りなかったらまた差し上げますから」

 そう話したら、明日は魔石を買いに行ってくれと何故か頼まれた。鍛錬に良いのに。

 何せ今し方、井戸から水を汲んでくることさえしたのだ、この少女は。

 といっても。調理に水は必要だから、すぐ近くに井戸があり。調理場で見つけたまだ使えた桶で水壺に溜めただけだと、リラはけろりとしているが。

「でも、飲料にはまだ水質調べてからのほうが良いですよね……」

 枯れずにあったことは良かったが、三百年間、手入れされていたか謎な井戸である。

 井戸の場所と、枯れずにありとのことは三姉妹さんから教えてもらった。

 何せ掃除のときにも水は必要だから。

 リラは先ほどの買い物で、お茶屋さんに寄ったときに飲み水を別けてもらってきていた。今日はこれで乗り切るつもり。

 ちなみに水道はある。三百年前、きちんと導入していたグローディア家だ。使用人たちが楽になる故に。井戸はその前からの名残。ありがたい。

 止められているのを明日はそれも手続きだ。さすがに手続きだけでなく、錆など手入れもいるかもだが……。



 そうこうしながら、生活の基盤を確保しながら、リラは一日を何とか終える。とてつもない一日になった。



 陶器は意外と保つものだと、改めて。

 食器。

 三百年前のまさしく骨董品を使わせていただくことなった。そもそもが、当時の高級品。今はおいくらかしらと、ちょっぴり怖い。

 だけれども、何とかお茶を煎れることはできた。使えた鍋でお湯を沸かして、高価なティーポットに移して買ってきた茶葉を蒸らしつつ。


 リラはずっと気になっていたことをすることにした。

「何をなさってますの?」

 リラが別の部屋で見つけた小さな机。彼女がそれを担いで階段を昇ってきたことに三人はぎょっとした。まさかお焚きあげリターン?

「あ、こちらに置きますね」

 三人がビクビクしているのに気がつかず、リラは机を三姉妹の肖像画の前に設置した。

 すぐにお盆に湯気立つティーカップ。そして買ってきたカステラを載せて戻ってきた。

 そして――。


「今日よりお世話になります」


 合掌。




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