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13 初めてのお供え。1



 リラは昼飯と夜、そして明日の朝食を求めて街に。

「あ、この時間なら図書館に行く道にまだ屋台が出てますよ。市は夕方前にはしまっちゃいますからね」

 何で幽霊の方がこの街に詳しいのだろうと少しだけ苦笑いしながら。


 幽霊の三姉妹さんとのあれこれで、時間は夕方近い。

 なんかもう、いろいろ疲れた(主に精神的に)リラは言われた通りに屋台で買い物をすることにした。

 これから拠点になる区域を知るにもちょうど良く。

 図書館へ向かう通りは、なるほど屋台街。図書館まわりはさすがに静かにご注意を、だが。

 一つ離れた道は馬車などが通る大通りだが、こちらは市場に続く道でもあり、また少し離れた大公園への道でもあり、そちらへ向かうひと目当てにいつしか屋台が出始めたのだろう。屋台だけでなく、軽食を売る店やカフェもある。

 ちなみにその大公園。



 もとはグローディア家の土地である。



 大公園内の整えられた庭園はそっくりとそのまま、かつては威光ある公爵家のものだった。

 いくつもある小さな池や大きな池。今も渡り鳥の休憩地として有名。大きな池の方はボート遊びも可能。

 噴水もある迷路のような薔薇園も。

 ご家族連れでピクニックできる芝生の広場も。

 そう、グローディア家は広かった。

 庭だけでなく、離れや鍛冶場、馬房や馬も走らせられる小さな運動場なども当時はあったらしい。

 しかし、引き受けたエマルシア家も持て余し、いつしか歴史の流れで国により公園として扱われることになった。もともと王立図書館に近かったこともあり、都としてもこの付近をまとめて静かな民の憩いの場所として整えることにしたのだろう。

 手入れされずに荒れるよりは良いと、三姉妹も受け入れているようだ。変に建売住宅とかに切り売りされたり、変な団体に引き取られて奇抜な建物建てられるよりは、公園として残してくれて本当に。

 とうの館は、逆に今では公園の外れ。そこの辺りだけ私有地。譲られたコルシオ家が管理しつつ――肝試しスポットなのは哀しいが。

 まぁ、そのおかげで公園の手入れのついでに館周りも草抜きなどされていたのはありがたいことで。


 両替にも大変な金貨を出すのは躊躇われ、リラは手持ちの金で屋台にて麺料理(ヌードル)をすすっていた。そもそもリラは一文無しだったわけでなく。親御さんもお兄さんも都に残るリラを心配していたわけで。多少の蓄えを渡してくれていた。 

 多少の。

 節約生活を覚悟していたところに、いきなりの大金が……実際、懐の重みが一番しんどい。

「……あったかい。おいしい」

 これはどちらかというとフォーに近い。疲れた胃には優しく染みた。

 若いお嬢さんがふらふらしながら現れ麺をすすっている姿は、空いている時間帯もあって屋台の親父さんたちもチラチラと気にしていた。おじょうちゃん、訳ありかしら。訳ありです。

 しかしお節介をするべきかそっとしておくべきか親父さんたちが悩んでいるうち、リラはお腹にあたたかいものが入ったことによりホッとして顔色を良くした。

 親父さんたちも、ホッ。

 リラはカフェの方で晩御飯用にテイクアウトの、野菜がたくさん挟まれたサンドイッチを買った。これならきっと怒られない。

 時間も時間だから、お店は閉める準備をしているところもある。この辺りは図書館の近くにあることからも、喧騒はあまりないようにとされていて。屋台も夜は出さないとか。飲み屋街はまた別の区間にある。そうしたのを目当てのひとはそちらにいくように。

 朝ご飯はまた買いに来た方が良いかもしれない。

 そうしてふと目に入ったのは一口サイズのカステラを売っているお店。

 甘いものも食べたいかも。

 確かさっきサンドイッチを買ったお店の近く、お茶屋さんもあった。三姉妹さんは館には三百年で食べ物はなにもないと言っていたし、お茶もないだろう。三百年前の食べ物はさすがに――あ、梅干しとかってむしろ高級なんだっけ? と、未だちょっと現実逃避気味だが。

 昔懐かしい鈴カステラに近いそれをリラはまたひとつテイクアウト注文して、屋台街に来たときよりもしっかりした足取りで帰りはじめた。お茶屋さんにまた寄りつつ。

 図書館などにはまた今度にしようと思いながら。



 ひっそりと。

 親父さんたちは改めて、ホッとした。食べる気力があるなら、人間は大丈夫だ。

 食べる。それはつまり、生きること。

 その源だ。

 このおじょうちゃんがご近所のお化け屋敷に越してきたと知るのはまたすぐのこと。それにより、別な方面で心配することになるとは、まだまだ今日は知らないことで。


 


「……ただいまもどりました」

 ただいまと言っても良いのか。本当に悩み、でも何も言わないのは余計に気まずい。

 リラはそう言いながら扉を開く。今度は花瓶はとんでこなかった。

「あ、おかえりなさい」

 リラの帰宅に気がついたのはイヴリン。彼女は明るい笑顔で迎えてくれた。うん、幽霊だけども、明るい笑顔で。

「ただいまです」

 改めて。

「今、お姉さまたちはあなたのお部屋を整えているから」

 何と?

「主寝室を使うのはきっとまだ気後れされるだろうから、一番良い客室を、て」

 主導は長女さんで動いていると聞いて、本当にエリザベス嬢は人を見る目があるのだとリラは感謝だ。内心、雇われ(・・・)だから使用人部屋でも良いんじゃないかしらとも思いながら。それは「あなた、所有者でもあるのよ」と叱られることになる。

「あら、おかえりなさい」

 他の二人も気がついて、おかえりと迎えてくれたことがなんだか不思議。まだたった数時間の付き合いなのに。

 リラが案内されたその客室が、子爵家の自室よりはるかに豪華でまた放心するのは、もはやお約束。

 窓を開けて空気の入れ換えを済まされた部屋は、三百年無人であったのが嘘のよう。まぁ、三百年、掃除できる幽霊はいたし。

「お布団、どうしようかしら?」

 悩まれる姉妹さんたちは現状は絵の中が寝床のような。

「さすがに駄目よね……」

「ついでに買って来てもらえばよかったわ、お布団」

「でももうこんな時間……」

 薄暗くなってくる窓の向こうだ。自分たちはむしろこれからが活動時間だけどもと、姉妹さんたちは頬に手を当て悩まれる。

 本当に面倒味が良いなと、リラの方が恐縮するが。三姉妹にしてみたら実は久しぶりに人のもてなしをできるので楽しんでいたりする。

「し、しばらくは毛布だけで大丈夫です」

 何せ、館で野宿――間違いではなく、こんなにきれいだとは思っていなかったから――するつもりで、手持ちの小さな荷物のなかには薄いものを一枚持参してきていたのだ。ちなみに騎士団や冒険者も野営時に使うという薄くても保温性抜群の優れもの。兄の予備兼お古。



「あ、お布団もだけど、魔石がいるのだったわ」

 エリザベスがしまったと、気がついた。




グローディア家はとあるお家を参考に。

屋台のラーメン憧れです。でも、疲れた時にはフォーの方が良いかなぁ、と…がんばれリラさん。



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