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12 数時間が、なんだ。



「これが駄目なら、私の部屋の金庫からでしたね」

 エリザベスが執務机をいじるとまたがこんと音がして、逆回りに壁が戻っていく。

 ユージェニーの言葉に、内心でまたぎょっとしたリラ。


 まだ、あるのか?


 そういえば先ほど、ご先祖さまの肖像画を立て替えるとか……言っていたような……。


 手の中の金貨はちょうど十枚あった。

 手付けとしてありあまりすぎる。


 固まっているリラに、エリザベスがはっとした。

 少しばかり見当違いに。

「あらやだ、もしかしたらその金貨、時代遅れでつかえませんの?」

「い、いえ、それは大丈夫です」

 確かに時代遅れではあるが、使えないことはない。

 この国――大陸の主だった国では貨幣が統一されているのは、すごいことだとはリラもうっすらと。日本でも幕府を開いた人が統一したんだっけ、違ったっけと……。あいにく、リラは歴史は得意ではなかった。平均点を超えれればいいんだ。赤点とらなきゃいいんだ。いや、ちゃんと勉強しようね。

「このお金は、使えます。」

 この国も統一された中に入る。

 そして柄が多少違う統一前の旧硬貨などもまだまだ使える。むしろコレクターもいる。

 破損がある金は回収されて年々新しい硬貨も発行されるが、この金貨はじゅうぶん使える――むしろ、ピカピカと光を放つほど。三百年、よほど保存が良かったらしい。さすが公爵家の金庫。

 もしかしたら、これ、鑑定に出したら付加価値ついて、元の値段より高くなるんじゃ……。そういえば父や叔父がお賽銭箱の中にあった穴が塞がった五円玉や旧硬貨を、そうしたのはコレクターに喜ばれるとか、なんか言っていたような……それに近いんじゃないかしら。三百年前の金貨は……。

 手の中の十枚の金貨が、ますます重たく感じる。


「使えるなら良かったわ」

 エリザベスにほっとされて。今度はリラが、はっとする。放心していたのを慌てて現実にもどる。財宝、それだけまぶしかった。


「ちょ、ちょっと待ってください! こんな、たった数時間前に出会ったばかりの人間にこんな大金を渡しちゃだめです! それに財産も見せちゃだめです!」


 それはとんでもなく常識的であった。

 渡された本人が言うべきでもなく。


「私が泥棒になったらどうするんですか!? 金庫の場所見せちゃ駄目でしょう!?」


 けれども、相対する三姉妹は――三百年ものなのだ。


 ――数時間が、なんだ。


「わたくし、人を見る目はあると自負しておりますの」

 エリザベスは優雅に微笑む。それは公爵家当主としての自信をもって。

「あなたは……どうみても、善人だわ」

 妹二人もこっくりうなずき同意する。

 今のリラの反応で、さらに。

 普通、泥棒になるような人間が先に言うものか。

「それは、嬉しいですが……」

 褒められたととる。実際、彼女らのお眼鏡にかなったのだ、リラは。


 三百年の願いだ。ようやくきたチャンスを逃すのが嫌なのは――むしろ姉妹たちの方。


「わたくしたちの方があなたにお願いしたいのです」


 この長い年月の間。

 それなりに彼女らを見ること、声を聞けるものもいないわけではなかった。

「百二十年ほど昔にも、多少は声が届くものもいましたが」

 しかし。

「けれど、あなたほどの強さはありませんでした」

 そして、前世からの知識と経験。

 この娘にかけようと、三人は互いに思っていた。


 自分を犠牲にしても、他の姉妹には安寧の安らぎを。永久の穏やかなる眠りを。

 それを思って過ごした切ない三百年。


 理由もわからず、この世に留まる頼りない魂。


「何もあなたに成仏させろと命じているわけではないの。三百年も何もなかったわけだし……」

 そこまでをたった十五の少女に背負わせるのは心苦しい。だが、縋りたいのも、また。

 そう、ユージェニーが図書館に出掛けたり、エリザベスたちも他の幽霊に話を聞いたりと。いろいろ手を尽くした。

 自分たちより後に幽霊になったものが、先に天に召されるのを見送る時もあった。


 ――あきらめはじめていた。


 そんな日々が。

 今日、初めて変化が訪れた。


 開幕手刀からのダッシュで。


「重ねて申します。わたくしたちの方がお願いしているの。よろしくて?」

 それでも上からな言い方になってしまうのは染みついた、身分故に。


「そもそもね、この土地も屋敷も今はあなたのものなのですからね」

 元の持ち主はすべて(・・・)を放棄している。そこはユージェニーがきちんと書類を再確認。

 更地にしてよいとすら。

 手続きもすべて済んでいる。正式に。

 コルシオ伯爵家はよっぽどここを手放したかったらしい。

 そもそも、嫁と一緒に押し付けられ、住めもしないのに税金だけとられて百年越え。今は手入れもできてないと建物は税は付かなく、土地部分だけだったとしても。

 中に、こんなに財宝があったと知らなくても。

 そんなに怖がらせ過ぎただろうかと、三姉妹はか細い悲鳴をうっすら思い出す。


「この国では発掘中に見つかった遺跡の財宝なども、土地の持ち主のものになります」

 その辺りは図書館などにて知識とかはアップデート済みな次女さん。

 そこから発掘隊や発見者に謝礼をどれだけ払うかは持ち主次第。だいたい一割から二割が平均。

 リラの場合は持ち主にして、同時に発見者になるだろう。

 彼女の総取りである。


「あきらめて受け取りなさいな」


 そしてそれは本来の持ち主である三姉妹も、良しとすることで。 

 変な相手に受け継がれるより、この善人にもらわれる方が良い。ひっそりと持て余してもいたのだ。死んだら財宝なんて使い道、まったく、なかったし。

 幽霊たちは話を聞くうちに、この少女に好感を持ったし、同情もしていた。生きてるんだからちゃんとしたご飯食べさせたい。そういう使い道が、一番良いのではないかしら。

 おまけに推しの子孫様だしと小さくつぶやいて姉妹に苦笑されたのも真ん中に。


「あ、ほら。花瓶も直していただかないと」

 修繕費込みで。前払いと。

「……はい」

 そこまで頼まれたら。

 三百年も待ったのだと言われたら。

 義理とか人情が、リラになんか色々のしかかった。

 ……金貨、受け取っちゃったし。




 そうして、幽霊三人とリラの、同居が始まったのだった。




こうして始まりました。

半年後にワープ――しないで、もう少し生活基盤わちゃわちゃします。

魔法もあるなんちゃって世界だから、貨幣制度もなんちゃって、です。長持ち硬貨なのは、金庫がそういう魔法かかってます。リラさんちにはなかった金庫自体も実は高価。


別作のペンなドラゴンの中の人は歴オタなので「日本の貨幣制度では実は輸入していた銭もありましてなその銭もまたびた銭て――」とオタ早口しそう。


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