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11 「あなたを雇いたいのです」


「ご事情はわかりました」

 答えづらかったことだろうにと、エリザベスの眼差しは優しい。

「ならば、まだこれからのご予定は……ほとんど決まっていないのですね?」

「ええ、まず住まいを決めてから、と……あれこれ、考えています」

 それで、住まいが――ここになる予定だったのだが。

 住所不定ではやはり就職活動は難しい。後見人は親や兄、己の友人たちが引き受けてくれるかもだが。しかしそのひとたちも、貴族がほとんど。聖女さま絡みのあれこれて頼み辛い。

 やはり不動産屋さんのお誘い乗るべきか。しかしこれ以上、親切に厄介になるのも心苦しい。

 そんなところを悩むリラ。


 そんな彼女を見て、三姉妹は互いに顔を見合わせて――うなずいた。

 三百年以上の付き合いで。もはや目と目で察し合う。


「では、わたくしどもから提案させていただけませんか?」

「え?」

「あなたを雇いたいのです」


 どうやら、本当に面接だった。


「雇いたいって……あ、泥棒対策?」

「まあ、それもありますが」

 このお嬢さんなら本当に泥棒対策になりそうだわと、エリザベスは内心でうなずく。物理的にも、こう、うん……。

「それより、お願いしたいことがあるのです」


 それは彼女らの三百年の悩み。


「何故、わたくしたちがこの世に留まっているのか。調べてくださいませんか?」


 三百年間、どうして天に行くことができないのか。


「何故、成仏できないのか、ですか……」

 リラも確かに「どうしてだろう」と気になりはする。

「成仏、とは?」

 リラが気にしていたら、リラの言葉に三人は興味をもった。

 何だか不思議な響き。嫌ではない。

「成仏とはですね」

 無意識に「成仏」と使ってしまったが、この場合の話に最も適した言葉だと、リラはもう開き直ることにした。


「私がかつて生きていた世界の言葉で、まさに天に召されることを申します」


 正しいことを伝えるなら、仏教からあれこれ説明しなくてはならなくなる。

 この世界にそれを持ってきても伝わるだろうか。そうなると実は困る。正直、リラはそこまで詳しくない。跡継ぎは弟たちだったから、得度も受けていないし。


「まさに皆さまは、成仏していない、と」


 まぁ、間違いではないだろう。そしてこの状況にはこれで合っているだろうと、リラは自分に言い訳する。遠い世の寺のおじいちゃん、お父さん、そしておじさん。かなり端折りました。適当ごめんなさい。


「不思議な響きですが、嫌ではありませんわね」

「何より、天に召されるあれこれより、短い」

「うん、わかりやすい」


 三姉妹は気に入ったようだ。幽霊たちが気に入るてどうなんだろと、リラはちょっと悩んだが。

 以降、彼女らも成仏と何だかんだ言うとはまだ思いもよらず。


「でも、確かに気にはなります。何故皆さまが成仏できないのか」


 彼女らは未練もあまりないという。

 三百年も現世に留まっていても、幽霊の身ではやることも掃除しかなく。


 そして、恨みも悔いもない。


「これも、ご縁でしょうか……」

 すでにあれこれ話を聞いてしまっては。このまま何もなかったとはし難い。気まずい。

 それに成仏していただいた方が、この館の持ち主としてありがたいかもだし。

「わかりました。私にできる限りで」




 しかし。自分にも前世の叔父のような力があれば。

「おじさんみたく、強制的にお祓いもできればなぁ……」


「……わたくしたち、悪霊ではありませんからね?」

「……先ほど、祓われたらどうなっていたのでしょう……」

「……お焚きあげはイヤ……お焚きあげはイヤ……」




「そ、それでは、よしなにお願いしますね」

 リラが了承したことにエリザベスは良かったと美しくうなずいた。これにて契約、である。


「しからば、まず手付け(・・・)をお支払いいたしましょう」

「え?」

「あら? 雇うと申しましたでしょ?」


 幽霊が、賃金契約?

 リラは彼女らからお金を頂く気はまったくなかった。というより、幽霊がお金を持っているの?


 きょとんとしているリラを放って、エリザベス嬢は執務机に移動すると何やらいじりはじめ――


 がこん。


 壁から何かしら音が。

 続いてキリキリと歯車や鎖が動く作動音。


 やがて本棚がずれて動き始めた。


 ――壁の中に金庫が現れた!


「良かった。動いたわ」

 エリザベス嬢はほっとしている。

「か、壁の中に金庫が……」

 目が丸くなるリラは、その数分後にまたさらに丸くするとはまだ思わず。

「あら、これくらいの仕掛けは当たり前でしょ?」

 いえ、子爵家(うち)にはありませんでした。

 リラの様子に三姉妹さんは「時代が変わったのかしら」とおっしゃってる。

 それは時代じゃなくて、規模と何かいろいろじゃまいかと、誰かに突っ込んで、欲しいリラ。

 そんなとんでも公爵家のエリザベス嬢は壁の中の大きな金庫を――壁一角、本棚サイズに金庫だ――また何やら操作して開いている。そういえば花瓶を投げつけたりできるんだった。触れるんだ。三百年は伊達じゃない。

 そんな驚きぱなしのリラであったが――。


「あ、よかった。こちらも錆びてないわ」

 エリザベス嬢が開いたその先。


 金庫。

 すなわち、金をしまっておく庫である。


 金銀宝石で目が眩むかと思ったと、後にリラは何度も遠い目をした。


「あなたの孫子くらいまでなら養えましてよ?」

 それは公爵家ジョークであったのだろうか。いや、きっと事実。



「わたくしたちが成仏できたら、こちらをすべて、差し上げますわ」



 それが、報酬。


「どうせ死んでて使い道ありませんでしたしね」

「あ、机の使い方、あとで教えますね」


 妹たちも、先ほどの目と目の会話で納得済み。


 目を丸くして固まっているリラに、「とりあえずこれくらいかしら」と金貨をひとつかみ渡したエリザベス嬢は、大事なことを。


「これでちゃんとしたご飯を買ってらっしゃい」


 新鮮な野菜を食べなさい。

 ――と。

 




異世界ですし、このご時世に宗教をあれこれ語るのも何ですので、この程度でほんのり。書いてる当方は宗教について他人様にあれこれ言うのは興味ありませんし、某ゲーム好きだから語れますけどもw

そしてそれより…本棚動かしたら隠しあれこれが浪漫!(ぐっ)



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