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アセンブル3 ― backstage  作者: 桜木樹
第一章 backstage
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第4話 二階堂申彦の場合 3

 場所は所長室。


 ディバインキャッスルから帰還した僕は、自分の考察を交えながら、所長にそこで起きたことを報告した。


「仕方ないさ。誰もそんな事件が起きるなんて予測できなかったんだから」


 所長が慰めの言葉をかけてくれる。


 それから僕はディバインキャッスルで入手したクスリのブリスタとSDカードを所長に手渡した。 


「ほほぅ、これが……」


「ええ、そうです。結局誰が『叛逆する者たち(レイブンズ)』の人間だったのかはわかりませんでしたが……」


「そんなに気を落とすことはないよ。事件のことがなかったとしても、相手はプロなんだからそんなに簡単に尻尾を出したりはしなかっただろうしね。むしろこのブリスタを入手できたことは大きいんじゃないかい」


 そう言われると少々照れくさくなった。


「このブリスタは警察に渡すとして、問題はこっちだね」


「問題も何も、両方とも渡せばいいんじゃないんですか?」


 すると所長は「中身。気にならないかい?」とニヤリと笑みを浮かべた。


 はぁ、と僕は深いため息をつく。


 気にならないといえば嘘になる。しかし、僕らはあくまで警察に協力している立場であり、これを最初に精査するのは警察であるべき――


「――って所長!?」


 所長は勝手にSDカードを自分のノートパソコンに挿していた。


 僕は所長の隣に立ち一緒になってノートパソコンの画面に注目した。


「なんだ、やっぱり君も気になるんじゃないか」


 言い訳できなかった僕はただ黙って画面を注視した。


 ――ま、何かあっても所長の責任にすればいい。


 SDカードが認識され自動的にフォルダが開く。そこには3つのフォルダがあり、それぞれ『仕事』、『趣味』、『極秘』と名が付けられていた。


「ふむ。きれいにフォルダ分けされているね」


 気になるのはやはり『極秘』と銘打たれたフォルダだった。それは所長も同じで最初にそのフォルダを開いた。


 中には複数の画像ファイル。特に名前がつけられているわけではなく、001から順に番号が振られているだけだった。


 所長が『001』の画像ファイルをクリックする。展開された画像ファイルにはサングラスにマスクの男性――伊集院アキラこと牛山さん――とツーブロックの大男――大河さん――が写っていた。


 どうやら2人が何かを手渡している瞬間のようだが、この画像からはそれが何かまでは判別できなかった。


 所長が次の画像ファイルを開く……


「これは!?」「なんとっ!?」


 僕と所長は同時に声を上げていた。


 その画像は先程と同じような構図の画像だった。


 ではなぜ驚いたのかというと、画像の焦点が2人の手元に寄っていて、2人がやり取りしているモノが明らかにブリスタであることが判明したから。


 僕が牛山さんの部屋から回収したブリスタ――恐らくそれがこの画像に写っているものだろう。だとしたらアセンブルを売っていたのは大河さんということになる。


 もちろんブリスタを調べてみないことにははっきりしたことは不明だ。しかし、絶対に間違いないという確信めいたものがあった。


「いやぁ! お手柄だよ!!」


 所長のテンションが上っていた。警察より先にアセンブルに関する重要な情報を手に入れられたことが嬉しいのだろう。


 それから『極秘』ファイル内の画像を順に検めていくと、それは牛山さんの遺体の写真だったり、瓜生さんと奥さんが一緒にいる写真だったり、大河さんの写真だったりだった。


 結局、『極秘』ファイルの中には、大河さんと牛山さんの写真、瓜生夫妻の写真、牛山さんの遺体の写真があったわけだが、これらの画像を見て思ったのは江藤さんは一体何者なのかということだった。


 所長は『極秘』フォルダを閉じて、『仕事』フォルダを開いた。


 そのフォルダの中もやはり画像ファイルで名前も001から順に付けられているだけだった。


 フォルダ内の画像は城から望む景色を撮影したものや、城の中の写真ばかりで、アセンブルに関係のありそうな画像はなかった。


 最後に所長は『趣味』と名付けられたフォルダを開いた。


 その名が示す通りそこには彼女の趣味に纏わる画像が収められているのだろう。さすがに趣味の写真がアセンブルに関係しているとは思えないが――


「むほぉ!? こりわっあぁっ!!」


 『001』の画像を開いた瞬間。所長は興奮して変な言葉を発した。


 そこに写っていたのは楡金さんだった。


 ほんの少し前屈みになっている彼女のTシャツの襟から胸の谷間が見えている。恐らく斜め上から撮影されたもので、遠目ではあるが彼女の胸の大きさを知るには十分だった。その煽情的な画像に僕もドキリとしてしまう。


 この画像に写っている楡金さんはカメラの存在に気づいておらず、いわゆる盗撮であることがわかる。


 ――趣味……? 盗撮が? しかも女性の?


 江藤さんという人物がますますわからなくなる。


「ってちょっと!」


 僕は慌ててマウスを握る所長の手を抑えた。奇しくもそれは所長の手を優しく包み込むような形となった。


「え? 君、まさか!? わしはそっちの趣味はないよ!!」


「そうじゃないでしょ! 誤魔化さいないでください!」


 あろうことか所長は先程の楡金さんの画像を自分のパソコンにコピーしようとしていたのだ。


「いや! これはだね……その、調査の一環だよ!」


 かなり動揺していた。


「誰にでもわかるような嘘をついて……」


「いやしかしだね、君だって男ならわかるだろ?」


 確かに僕もそういったものに興味がないわけではない。だが今は仕事中で公私混同するつもりはない。


「奥さんに言いつけますよ!」


 奥さんに弱い所長はシュンとなってあきらめ、次の画像を開いた。


「むほあっ!?」


 またしても所長がおかしくなった。


 理由は次の画像も盗撮と思われる楡金さんの画像だったからだ。


 先程よりも被写体までの距離が近い。襟から下着がちらりと覗いていた。


 結局、楡金さんを盗撮した画像は計3枚あった。後は卯佐美さんの画像――これはきちんとカメラ目線なことから許可をとっていると思われる――や、犬塚さんと猪口さんが楽しくおしゃべりしている画像に、それぞれが1人で写っている画像――犬塚さんと猪口さんの画像はどれも視線がカメラに向いていなかった――などがあった。


 このフォルダ内の画像に登場したのは楡金さんと卯佐美さん、犬塚さんと猪口さんの4名で、卯佐美さん以外の画像はすべて盗撮と思われるものだった。


 ――何なんですかこれは……


 すべての画像を検め終えても、やはり気になったのは江藤さんという人物が何者なのかだった……


「――ってまたですか!!」


 あきらめの悪いことに所長がまたしても楡金さん画像を移動しようとしていた。


「や、やはりだね、この画像はとても素晴らしいと思うんだよ。君もそう思うだろ? ね? ね?」


 そう言って開いた画像ファイルの楡金さんの胸を指差す。


 それはまるで、どうしても手に入れたいオモチャの素晴らしさを親に説く子どものようであった。


「いい加減にしないと本当に奥さんに……ぅん?」


 僕はモニターに映る画像を見ていてあることに気がついた。


「お! やっぱり君も男だね。うんうん。そうだろうそうだろう。正直が一番だよ」


 所長が盛大な勘違いをしていた。


 僕が見ていたのはその画像に一緒に写っている卯佐美さんだった。前屈みになっている楡金さんの後ろに控えて立つ彼女。


 その視線がこちら――つまり“カメラを見ているのだ”。


 気になって残り2枚の画像を再度確認してみるが、その2枚は楡金さんの胸元に寄っているため卯佐美さんの姿は写っていなかった。


 たった一枚ならただの偶然で片付けることもできるが……


 ――例えば、“卯佐美さんはカメラの存在に気づいていた”としたら?


 江藤さんの持っていたカメラを思い出してみる。


 大砲のような大きなフォーカスレンズが装着されたカメラ。僕はカメラに詳しくはないが、あれだけのフォーカスレンズなら結構遠くからでも被写体を狙えるはずだ。


 特に一枚目の画像なんかは恐らく階上から斜め下の中庭にいる楡金さんを捉えたものだろう。


 果たしてその距離でカメラの存在に気付けるのか……?

 

 ――偶然か……? 本当に……?


 卯佐美さんを最初に見たときに感じたあの不気味さも相まって、僕は妙な引っ掛かりを覚えた。


「……所長!」


 またも画像を移動させようとしている所長の手を無言で止めて、僕は『趣味』と名の付けられたフォルダを削除した。


「あぁ!! 流石にそれはマズいよ!! 警察になんて説明すれば――」


「大丈夫ですよ。これを見たのは僕と所長だけですから。――さすがに実はもう1つフォルダがありましたなんて言いませんよね? そんなことをしたら僕らが先にこれを検閲したことがバレますからね」


「ぐぬぬ……」


 所長は声に出して悔しがっていた。


 もちろん僕のやった行為は間違っている。


 ただこれは、楡金さんの名誉を守るためでもあるのだし、おそらくこのフォルダにある画像はアセンブルとは関係ないはずだ……と、思いたい……

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