EXTRA 天国と地獄
偶然の出会いを運命と言い換えてみることで意味をもたせようとする輩がいる。
運命ならば必然だ。
だが偶然は必然ではない――
しかしながら、ボクは今偶然という名の運命に翻弄されている。
あの男の娘が目の前に現れた。ボクは彼女が大好きだ。一目惚れってやつだった。そしてこの気持は今なお続いている。誰といるときも、誰と寝るときも、片時も彼女のことを忘れたことはない。
…………
小さな部屋――
頼りない灯に照らされた空間。お世辞であっても良いとはいえない安アパート。
「そうなんだよ。どうもボクらの存在を嗅ぎ回っている連中がいるらしくてっさ、それで、使えるコマの数が減ってるんだよ。だからさ――」
電話の相手に補充要員の催促をする。
「仕方ないじゃないか。そもそもここら一帯をボク一人で切り盛りしろってのが無理な話なんだよ」
半ば愚痴のような物言いに、電話の相手はため息を付きつつもこちらの要求を受けてくれるようだった。
「――わかった。期待せずに待っとくよ。それじゃ」
ふぅ……と息を吐いて体を座椅子の背に預ける。
あの人と話をするのは疲れる。
何事にも動じないのがボクの取り柄だけど、彼女との会話は緊張する。もちろんそれを表に出したりはしないけど。電話越しなら多少強気に出られるけど、直接会って話すとなったらそうはいかない。
今後、直接会って話をする機会がないことを願うばかりだ。
にしても……
ボクは部屋の壁に目を向けた。そこには壁一面に所狭しと並べて貼られた“あの娘”の写真。ボクの想い人の写真。
「……やっぱりかわいい」
だがわかっている。それが許されない感情だということに……
「ボクのモノにできないのなら――」――他人のモノになるのは耐えられない。
「ならばいっそこの手で――」――命を奪うのか。ボクが?
「……っと、もうこんな時間か」
ボクは押し入れに仕舞っておいた大して好きでもないアーティストのポスターを取り出し、写真の貼られた壁に、それらが隠れるように重ねて貼っていく。
「実験のためとは言えなんでこんな面倒なことを……」
ポスターを貼り終わるのとほぼ同時に家のチャイムが鳴る。
「はいはーい!」
この時間ににこの家を訪ねてくる人間は一人。
玄関の扉を空け、
「いらっしゃい」
満面の笑み。作り笑顔で“モルモット”を迎えるのだった。




