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アセンブル3 ― backstage  作者: 桜木樹
第二章 duo

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第11話 陰と陽 1

 アセンブルの作用によって私の体に様々な異変が起きた。


 体の成長が止まり、あと数年しか生きられない体になってしまったこと。延命のために定期的にアセンブルを摂取しなければならなくなったこと。その代わりと言っては何だが、人ならざる身体能力を得たこと。


 そして、もっとも大きな異変は――


 私の肉体に別の人格が宿ったことだ……


 …………


「体の調子はどうだい?」


 私に話しかけてきたのは、髪を後ろで縛った胡散臭そうな笑みの眼鏡の男性。その人は私の義理の父親ということになっている。アンブルの研究施設から逃げ出した私と弟を保護してくれた人で、今現在名乗っている『犬塚』の姓はこの人のものだ。


「問題ない」


 場所は5階建てのビルの屋上。時刻は日付をまたごうかという時間。空は暗雲に覆われていて星の輝きを感じることはない。しかしながら、地上の建物は綺羅びやかな様相で、夜はこれからと言わんくらいに歓楽街は賑わいを見せていた。

 私達のいる場所にもメインストリートに向かってネオンの看板が設置されている。私達が視線を向けているのはその反対側。


 表と違って、下の様子が伺えないくらいに深い闇が広がっている。滅多に人が通ることはないゆえに後ろめたいことをするにはうってつけの場所と言える。


「作戦内容は?」


「大丈夫よ」


 義父は『叛逆する者たち(レイブンズ)』と呼ばれる組織を追っている。私はその手伝いをしている。私達は『叛逆する者たち(レイブンズ)』を追って今から1年ほど前にこの街に越してきた。


 そして数日前にその『叛逆する者たち(レイブンズ)』の人間が歓楽街の裏手でクスリの取引を行っているという情報を手に入れた。


 私達が追っているのは『叛逆する者たち(レイブンズ)』のリーダー、名は佐伯撫子。私が研究施設に囚われていた時に何度か目にした事がある。記憶にあるのは糸目の赤い服の女。彼女を見つけ出し討つことが私達の最終目的。だがこの佐伯撫子なる人物が中々の曲者でほとんど表に姿を現さない。

 だから私達は佐伯撫子の情報を持っていそうな人間を捕まえては情報を聞き出すということをやっている。彼女に繋がる有力な情報は『アセンブル』に関することだけ。それをたどればいつかは彼女の元にたどり着くはず。地道な作業だが、これしか方法がないのだから文句は言っていられない。


「どうやらお出ましのようだね」


 義父が暗視スコープで路地裏を見下ろしながら言う。


「そのようね」


 眼下に目を向けても肉眼では人の姿は確認できない。


 ――だが、確かに感じる人の気配……


 これもすべてアセンブルのおかげ。人知を超えた能力(ちから)


「行くわ!」


 義父の許可を待たずに、その気配を頼りに私はビルから飛び降りた。普通なら怪我では済まない行為も今の私なら問題なくそれができる。ビルの壁を走るように駆け下り着地。音は殺し、男の気配を頼りに後をつけ、肉眼でその姿を確認できる距離まで近づく。男は私に気がついた様子はなく、ポケットに手を突っ込んだまま余裕な態度で歩く。


 男が向かった先には別の男がいた。


 私はサッと物陰に身を潜め、2人の会話に耳をそばだてた。


「よう! 毎度どうも」


「ああ。そっちこそ、いつも悪いね」


 2人の会話はまるで世間話でもするかのようで、事情を知らない人間から見れば薬の取引をしているようには思えない。


 ――それも計算のうちでしょうけどね。


 ただし、会話の内容がどんなに陽気であっても、この場所が場所だけに怪しさは拭えない。


「ほんじゃこれ。いつものやつね」


「あいよ」


 私は2人がクスリの受け渡しを行う瞬間を狙って影から飛び出した。


 まずはクスリを受け取ろうとしていた男に足払いを掛け、倒れた男の心臓めがけて肘落としで意識を奪う。間髪入れずに、呆気にとられているもうひとりの男の背後を取って右腕を首に回した。


「うわっ! なん――」


 男は突然の出来事に手に持っていた透明な袋を地面に落とした。


 反対の手で相手の左腕を取って背側に回し抵抗を防ぐ。力を入れすぎると話が聞けなくなるので締め上げることはしない。


「質問に答えて」


 男の頭がカクカクとうなずく。


「あなた、『叛逆する者たち(レイブンズ)』の人間よね?」


「――さ、さあ……」


 明らかな動揺が見えた。背中側に回した腕をほんの少し締め上げる。


「とぼけても無駄よ。話さないなら、折る!」


 締め上げている力をゆっくりと強めていくと、男はこちらの本気度を理解したようだった。


「わ! わかった! タンマタンマ。そうだよ! 俺は『叛逆する者たち(レイブンズ)』だよ!」


 締め上げた腕を少しだけ緩める。


「なら聞くわ。佐伯撫子はどこにいる?」


「佐伯……なんだって? そんな奴知らねぇよ」


 今度は動揺している様子は伺えない。


 ――つまり本当に知らない。


「じゃあ、今あなたが持っているクスリはどこで入手したの?」


「にゅ、入手経路は知らねぇ。ただそいつに渡してこいって頼まれただけだけだ」


 男は倒れている男に向かって顎をしゃくった。


「誰に?」


「名前はわからん。けど、女みてぇな男だったよ」


 女みたいな男だけではどこの誰かはわからない。そもそもそれはこの男の主観であってその人物が誰から見ても女みたいな男に見えるとは限らない。


「そう……」


 その後いくつか質問を試みたが、返ってくる言葉は役に立たないものばかりだった。どうやらこの男は使いっぱしりで、大した情報を持っていないようだった。


「もう話すことは全部話したんだ。いい加減放してくれないか?」


「そうね」 ――と言ってこのまま逃がすわけがない。


「残念だけど、警察行きね」


「はぁ!? う……」


 首に回した腕を締め上げるとすぐに男は意識を失った。


「いやぁー、遅れちゃってごめんねー」


 ようやくビルから降りてきた義父が緊張感の欠片もない声で言った。義父は普通の人間で私のようにビルから飛び降りるなんて芸当はできない。だから遅れるのも仕方がない。ただ仕事なのだからもうちょっと緊張感を持ってほしい。


「この男どうするの?」


「ん。それはこっちに任せてもらえばいいよ。――にしても、情報は全然だったね」


 私は無線マイクを身に着けていたので、男とのやり取りは義父も届いていた。


「今回もほとんど空振りだったね」


「ほとんど? 全然の間違いでしょ?」


「いいや、それは違うよ。このまま僕らが『叛逆する者たち(レイブンズ)』の人間をひとりずつ潰していけばいずれトップが出て来ざるを得なくなる。と思わないかい?」


「すぐにでも適当な人間を補充するだけでしょうからイタチごっこよ、きっと」


「ノンノン。『叛逆する者たち(レイブンズ)』で働くことがリスクしかないとわからせてやれば、組織に入ろうなんて思う人間はいなくなるだろうし、そうなる前に佐伯撫子にたどり着ければそれでいいわけだしね」


「そうね……」


 まぁ、それまでにどれだけ時間を掛けるつもりだって話だ。その頃には私はもう生きていないかもしれないんだから。


 取り敢えず、私は地面に落ちていた袋を拾って、中身を確認した。透明のビニール袋に入っていたのは結晶を顆粒状に砕いたものだった。


「これ……アセンブルじゃないわね」


「ほんとうかい?」


 私にはアセンブルを嗅ぎ分ける能力――これもアセンブルによる影響だ――が備わっている。その私が言うんだから間違いない。


 佐伯撫子を追うことも大事なことだが、私にとってはアセンブルを手に入れることも大事だった。なにせそれを摂取することで延命しているのだから。


 ただ、こちらにそれを作る技術はない。だからいつも、『叛逆する者たち(レイブンズ)』がクスリの取引をしているところを狙って、横取りのようなことをやっている。


「はぁ……。まあいいわ」


 ストックがないわけではない。以前、“真理絵”が無茶な暴飲を犯したことがあったけど、それでも当面は大丈夫。それに、アセンブルがなくなったらなくなったで、その時は覚悟を決めるだけだ。


「でも、そうね……」


「うん? なにか言ったかい?」


「なんでもないわ」


 今は昔に比べて生きることを意識するようになったのは間違いない。それはきっと――間違いなく“彼女”のせいだ……

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