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アセンブル3 ― backstage  作者: 桜木樹
第二章 duo

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第9話 天と地 3

 目を覚ますとワタクシは自分のお部屋のベッドで寝ていました。部屋のテーブルの上にはメモ書きがあり、そこにはこんな事が書かれていました。


『突然倒れたから家まで運ばせてもらったよ。家の場所はキミの所持品を勝手に調べさせてもらった。レディの持ち物を勝手に漁るのは気が引けたが、急を要したので勘弁してくれるとありがたい。それと、ボクの連絡先を記しておく。あと、キミのお父さんはずいぶんとユニークな方だね』


 どうやら結さんが気を失ってしまったワタクシを家に運んでくれたようです。


「ユニーク? お父様が……? ――なるほど」


 結さんとお父様の間に何があったのかなんとなくわかってしまいました。きっと、お父様は結さんのことを男と勘違いしたのでしょう。それでひどく詰め寄られた。その一連の出来事を結さんは『ユニーク』と称したのでしょう。


 心のなかで深くため息を付きました。


 ――お金と一緒に心の余裕までも失われて……


「失礼なお父様……」


 ワタクシは、メモ書きにあった連絡先に電話して、助けてくださったお礼とお父様の無礼を謝罪したのでした。


 …………


 あの日以来、ワタクシは定期的に結さんと遊ぶようになりました。それがいわゆるワタクシなりのレールから外れる行為。しかし、ある時ワタクシは、それが間違いだったと気づいたのです。


 一度レールから外れることを知ってしまうと、とたんに学校や家での生活が億劫になるようになっていました。以前のように、友人に囲まれ、家族の温もりに包まれていればそうは思わなかったのかも知れませんが、今のワタクシは孤独すぎました。


 ふと気づけば、ワタクシは結さんと過ごす楽しい時間に思いを馳せるようになっていたのです。


 そんな中で、孤独になったワタクシに時折り声かけてくださったのは猪口さんだけでした。彼女がどういう人間なのかはよく理解しているつもりです。きっと、真にワタクシのことを慮っての行動でしたのでしょう。


 ですがそれすらも今のワタクシにとっては無味簡素なものでしかありませんでした。


 …………


「やぁ!」


 結さんとの幾度目かの逢瀬で、ワタクシは彼女の家にやってきました。


 場所は郊外にあるアパート。ひどく年季が入っていて、女性がひとりで住むような場所には適していないような気がしました。


 ――ええ。もちろんそれが偏見だということはわかっていますわ。


 世の中にはいろいろな事情を抱えている方がいます。そういった方たちに対する偏見は正していかなくてはいけません。そう頭ではわかっていても、今のワタクシにはもう少し時間が必要のようです。


 結さんの部屋はこじんまりとしていて素朴でした。ただ、一方の壁面には何枚ものポスターが貼ってあり、そこだけが嫌に目を引きました。


 化粧をして髪を染めた男性のポスター。歌手だということはわかりますが、ワタクシはそちら方面には疎いので詳細は不明です。そもそも、こういった殿方に心を惹かれる女性の気持ちが微塵も理解できません。


「興味あるのかい? だったらCD貸すよ」


「いいえ。結構ですわ」


「そうかい? それは残念だ」


 ほんの少し寂しそうにする結さんを見て慌ててフォローします。


「違いますわ。別に嫌いという意味ではなくて……その……」


 必死に取り繕うとしてもうまい言葉が出てきません。


「はは。無理しなくていいさ。時間はたっぷりとあるから少しづつ理解してもらえればいいさ」


 そう言って結さんは片目をつぶってみせるのでした。


 その後結さんの家で食事を御馳走になりながら、彼女の好きなヴィジュアルとか言うバンドの話に耳を傾けていました。


 正直よくわかりませんでしたが、話をする結さんの楽しいそうな表情はとても自由で、それを羨ましいと感じているワタクシがいました。


 ――誰にも何にも縛られずに生きるとは、こういうことなのかも知れませんわね。


「最近は以前よりましになってきたけどまだまだって感じだね」


「え……なんですの? 急に……」


「キミは未だどこか上の空な時がある。以前悩みを聞いてあげたがそれだけで本調子とはいかなかったようだね」


「そう……ですわね……」


 否定はしません。


 以前ほどではありませんが、今でもときどき創造さんのことを思い出して枕を濡らすこともありますし、何よりも問題なのは家族のことです。


 日に日に景気が落ち込んでいるのはワタクシにもわかります。このままではきっと会社は潰れてしまうでしょう。


「ふむ……。ボクも魔法使いではないからね、死んだ人間を蘇らせるってのはできないが。家族の問題を解決する方法を思いつかないわけじゃない」


「え……? それって……なにか策があるんですの?」


 すると、結さんは自信満々に指を立てて「ある!」と明言したのです。


「キミのお父さんの会社は天地家から多額の投資を受けていた。しかしその家の御曹司が何者かに殺されたことによって投資が打ち切られた。

 天地家は万葉学園に通う生徒の誰かが御曹司を殺したのだと疑っている。しかし学園側は“その誰か”を頑なに公表しようとしない。その結果天地家は万葉学園に子を通わせている親たちの会社への投資をすべて打ち切ってしまった。

 さすがにやりすぎだとは思うけど、天地家も御曹司が亡くなって相当錯乱していたんだろうね。……で、だ。

 要は天地家の誤解が解ければいいって話だろう? だったらキミが犯人ではないということを証明すればいいのさ!」


 両手を広げややオーバーな仕草で得意満面になる結さん。


 ですが……実はワタクシはすでにその考えに至っていました。しかし、ないものをないと証明することはできません。いわゆる悪魔の証明というやつです。


 ワタクシがそう説明すると、結さんは立てた人差し指を口元で左右に動かします。


「チッチッチ……発想が逆だよ。――いいかい? キミが犯人じゃない事を証明するのではなくて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


「え……そんなこと、できるん……ですの?」


「できる! もちろんキミひとりでは無理だろうからね、ボクも協力するよ」


「でも、どうすればいいかわかりませんわ」


「まずは聞き込みだね。学園の生徒にアリバイをや目撃情報を聞いて回る」


 それを聞いてワタクシは絶望しました。


「無理ですわ。クラス内のワタクシのヒエラルキーは今や最下層。誰もワタクシを相手になどしませんわ」


「なんと!? 天下の万葉学園にまでカースト制度があるとは。はぁ……紳士淑女が聞いて呆れるね」


 お手上げのポーズでやれやれと首を振る結さん。


 結さんの指摘は間違っています。天下の万葉学園だからこそ階級が重要視されるんです。お金がそのままステータスに直結するのですから当然ですわね。


「でも大丈夫じゃないかい? それはキミのクラス内での話だろう? 事件が起きたのは3年生の教室だって話じゃないか。つまり聞き出す相手は上級生。キミの身分など関係ない」


「それはたしかにそうかも知れませんが……」


 万葉学園には学年を超えた交流がほとんど存在しません。別の意味で邪険にされそうな気もします。


「そこはキミのガッツ次第さ。それにキミのように投資を打ち切られた生徒だっているんだろ? その中にはキミに協力してくれる人もいるかも知れない」


「そうですわね」


 何もしなければこのまま衰退していくのを待つばかり。ならばダメ元でやってみるのもありですわ。


「というわけで。これ……」


「ありがとうございます」


 結さんがワタクシに差し出したのは例の錠菓。こうして結さんとともに遊ぶときはこれをもらうのがお約束となっていました。錠菓を受け取り。噛み砕いて嚥下します。鼻を抜けるようなスーッとした清涼感。ふわふわと体が浮くような感覚に身を委ねるようにして……


「このお菓子……やめられませんわ……」


 ワタクシは意識を失うようにして眠りにつくのです。

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