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アセンブル3 ― backstage  作者: 桜木樹
第二章 duo

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第5話 ねねと真理絵 5

 時が経ち、私は2年生になった。高等部にはクラス替えはなく基本はそのまま。だけど今年はちょっとした事があった。それは、経済状況が理由でドロップアウトする生徒がいた。その原因は天地くんの家の投資の影響だった。


 そんな中、西園寺さんは頻繁に学園を休むようになった。夜逃げの準備でもしてるんじゃないかという噂も囁かれるようになり、本人も相当気が滅入っている様子だった。


 たまに学校にやって来る西園寺さんは目にする度にやつれていた。心配して声をかけたこともあったけど、以前のような鼻にかけたような仕草はなく。


「なんですの……用がないのでしたらあっちへ行ってくださいな……」と、うわ言のように話すだけだった。


「げんきな~い?」


「そうですわね……」


 目の敵にしていた犬塚さんの言葉に対してもこんな調子。おそらく今の私にしてあげられることは何もない。


 それからひと月経って5月。万葉学園ではまたも大事件が発生した。


 …………


 私が委員会の仕事で犬塚さんと別行動をしているときだった。


 校舎の廊下の窓から犬塚さんがひとりでいるのが見えた。彼女はなぜか部活棟の方に向かって歩いていた。犬塚さんは部活に入ってないので部活棟になんか用事はないはず。ただ、彼女はひとりでいるとき色んな場所に足を運んでいることは知っていた。好奇心旺盛でひとつの場所に留まっていられないのだ。だから、この時の私は彼女のその行動をいつもの事として捉えていた。


 用事が済んで教室に返ってきた。帰る準備をしているときにふと横の席に目をやると、机に荷物がかかったままになっていた。


「犬塚さんまだ帰ってないんだ」


 もしかして遊びに夢中になっているのかも知れないと思い彼女を探すことにした。


 最初に向かったのはさっき見かけた部活棟。すでに別の場所に移動している可能性もあったけど取り敢えずそこに向かった。


 部活棟内をつぶさに探しながら2階へ上がる。


 その時だった。外から女の子の悲鳴が聞こえてきた。近くの窓から外を覗くと地面に横たわる生徒を囲むように何人かの生徒がいた。


 地面に横たわる生徒の頭部には赤い水たまりができていて、すぐ近くには緑色のフェンスがあるのが見えた。


「……あれ? もしかして……西園寺、さん……」


 この高さからでもそれとわかるくらい見慣れた彼女の姿だった。


 ――西園寺さん……どうして? まさか飛び降り自殺!?


 たしかに、最近の西園寺さんの様子はお世辞にも快調とは言えなかった。むしろアンニュイな雰囲気を漂わせ、過去の栄華は見る影もなかった。


「それを苦に自殺……ううん、そうじゃない――」


 私は弾かれたようにして屋上へと向かった。


 部活棟の屋上の造りは少々特殊で、校舎側にはフェンスがなくて、反対側にのみフェンスが設置されている。


 本気で自殺を考えているなら、フェンスのない校舎側に向かって飛び降りるはずで、わざわざフェンスのある方を選ぶなんてことはしない。


 だけど、西園寺さんの傍にはフェンスが一緒に落ちている。


 そういう状況になるってことはつまり、フェンスごと落ちるような物凄い力がかかったということ。だからきっと誰かに突き飛ばされたんだ――


 私はそう信じて疑わなかった。


 階段を上がり屋上へと繋がる扉を開け外へと飛び出した。確かにフェンスの一部が外れていた。そしてそのすぐ近くにひとりの生徒が倒れていた。


 あれは――!?


 こちらに向けている頭には特徴的なツインテールが見える。


「犬塚さん――!!」


 叫びながら私は彼女に駆け寄った。


 やっぱり犬塚さんで間違いなかった。


 どうして彼女がこんなところで倒れいているのかもそうだったけど、より私を驚かせたのは彼女の脇腹に刺さっていたナイフだった。黒い制服の上からでもわかるくらいその部分が血で変色していた。


「どうしたの!? 何があったの!?」


 額に脂汗を浮かべうつろな目をしている犬塚さんが発したのは、


「お、とうと……」


 というか細い声だった。


「おとうと……弟――?」


 犬塚さんに弟がいるなんて初耳だ。


 けど今はそんなことどうでもいい。彼女がいわんとしていることは家族に助けを求めているということだ。


 私はすぐに部活棟を駆け下り、本校舎へと走った。


 靴を履き替えている時間も無駄にできないと思った私は、外履きのまま職員室へ駆け込み、そこにいた先生に救急車と家族への連絡をお願いした。


 本当はすぐにでも犬塚さんのもとに戻りたかったけど、先生にはすぐに帰りなさいと諭された私は一旦昇降口で靴を履き替えて自分の教室に戻った。友達ならこういうときは食い下がってでもお願いするもべきなんだろうけど、私と犬塚さんの関係はそういうのとはまた違ったものだ。


「友達か……」


 切っ掛けはお世話係として始まった犬塚さんとの交流。


 よくよく考えると、一緒にお出かけしたり遊んだりとかはしたことないけど、高等部に上がってからは学園内の誰よりも一緒にいる機会が多かったことは間違いない。


「猪口さん。ちょっといいかしら」教室で帰り自宅をしていた私に声をかけてきたのは先生だった。「犬塚さんのご家族が貴方に話があるそうなの。校門で待ってらっしゃるからすぐに行ってちょうだい」


「はい」


 犬塚さんの家族……


 そう聞いて思い出すのはあのお兄さんだった。そして、校門前で待っていたのはやっぱりその人だった。


「ぅ……」


 こうやって会うのは2度目。やはりどうしても慣れない。


「悪いね、来てもらって。今から病院行くんだけどついてきてほしいんだよね。それで、その間に何があったか説明してほしくてさ」


 以前、犬塚さんが倒れたときとまったく同じ状況だった。


「はい……。でもその前に家族に遅くなると連絡を……」


 このまま病医院へついていったら門限を過ぎてしまう可能性もある。


「オッケー。待ってるよ」


 犬塚さんが刺されて病院へ運ばれたというのに、お兄さんはあまりにも普通だった。


 …………


 お兄さんの運転する車で病院に向かう。私は助手席に座り自分が知っている範囲で事の経緯を説明した。


 ――といっても知っていることなんてほとんどないんだけど。


 屋上から落ちた生徒がいて。その時屋上にいたのが犬塚さん。でもその犬塚さんは何故か脇腹を刺された状態で倒れていた。


 私が知っているのはそれだけ。


 しばらく無言が続き、車内に気まず空気が流れる。


「あのさ……」


 その静寂を嫌ってかお兄さんが話をはじめた。


「正直な話、真理絵が学校にうまく馴染めるか不安だったんだよ」


 ――うん。わかる。


 犬塚さんはあんな性格だ。もしも私が家族の立場だったら絶対に不安になる。


「でもあいつ、家に帰ってくるとずっとねねちゃんねねちゃんって君の話ばっかすんだよ」


「そう……なんですか?」


「ああ。ねねちゃんのこと相当気に入ってるみたいでさ」


 そう言われるとなんだか気恥ずかしくなる。


「んでさ、ちょっとねねちゃんに話しておこうと思ってさ。真理絵とオレのことをちゃんとわかっててもらったほうがいいって思ってさ」


 そう言って、お兄さんは話し始める。その内容はにわかには信じがたいものだった。


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