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アセンブル3 ― backstage  作者: 桜木樹
第二章 duo

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第4話 ねねと真理絵 4

 保険の先生の話では命に別状はないとのことだった。


 万葉学園の保険の先生は、他校で言うところの養護教諭と意味合いが異なり、ちゃんと医師免許を取得している専門の先生だ。その先生が言うんだからひとまず安心。その上で事の経緯が経緯だけに、家族に知らせることになった。


 担任の先生はご家族の方が来たら対応お願いねと私に託し去っていく。


 そんなことまで私がやるの? ――と言いたくなったけどグッと言葉を飲み込んだ。


 お世話係は私だ。私にも責任はある。


 教室に戻ると、綺麗サッパリもぬけの殻になっていた。先生が全員を帰したのか、あるいは関わり合いになりたくなくてみんな帰ったのか……どちらにせよ、薄情すぎだなと思った。


 犬塚さんの家族が来るまで私は散らばったままになっていた薬をかき集め、割れたガラス瓶を処分した。


 そんなことをしていると、教室の扉が開く音が聞こえて、そちらに顔を向けた。


「ひぇ――!」


 私の目に飛び込んできたのはこの学園にはとてもじゃないけど似つかわしくない人だった。


 教室に現れたのは、茶色に染めた逆立てた髪に黄色のレンズのメガネ(サングラス?)をつけた男の人だった。革のジャンパーのポケットに手を突っ込んだまま睨むような視線をこちらに向ける。


「んで? 来いって言われたから来たんだけど?」


 ぶっきらぼうな物言い。蛇に睨まれた蛙のごとく足が震え、声も出せなかった。単純に怖かった。見た目は完全に不良。ほんとに漫画でしか見たことないような不良そのもの。


 万葉学園に通う生徒はその生い立ちを考えれば、まずもって不良と呼ばれるような人と関わることはない。でも、目の前にそれが現れた。


「おーい? 聞いてるかー?」


 私の目の前までやって来るお兄さん。そりゃそうだ。だって教室には私しかいないんだから。


「へあっと! あの、その……」頭が真っ白になって何を言えばいいかわからなくなる。「あ、ああ、あのあのあの――」


「おい落ち着けって。なんでそんな緊張したみたいになってんの?」


 ――する! 緊張するよ! だって怖いんだもん!


 あわや泣き出しそうになったとき助け舟が入った。


「あら? もしかして犬塚さんのご家族ですか?」


 教室に入ってきた来たのは担任の先生。仕事を任されていた立場も忘れてほっと胸をなでおろす。


「おう。そうだけど」


「保健室に案内しますね。ついてきてください」


 先生はやっぱり大人だ。お兄さんの見た目に臆することなく普通に会話を成立させている。


「りょーかい。――あ、あと、ねねちゃんって子に会いたいんだけど」


「ひ――っ!?」


 自分の名前を呼ばれ思わず体が跳ね上がった。


「え? なんなん? もしかして君がねねちゃん?」


 私はメガネが飛ぶんじゃないかって勢いで高速で首を縦に振っていた。


「へー。いつも真理絵が話してるからどんな子か知りたかったんだけど」そう言って。値踏みするお兄さん。「よく見るとカワイイじゃん」


「ひゃい!?」


 カ、カワイイ……!?


 私の顔の熱が一気に高くなった。 


 …………


 私、先生、お兄さんの3人で保健室に向かう。当然ながらお兄さんの存在は周囲の注目の的となった。


 道すがらお兄さんに事の経緯を説明する私。先程よりもましになったとはいえ拭えない恐怖を感じながらたどたどしく説明する。


 説明しながら不安になる。今回の騒動は自分にも落ち度がある。


 いっぱい文句を言われるかも知れない――


 最悪の場合暴力を振るわれるかもしれない――


 お兄さんは黙って私の説明を聞いていた。その話が終わる頃には保健室に到着した。


「ああ!! お兄ちゃんだ~!!」


 ベッドに座っている犬塚さんが無邪気な笑顔で迎えてくれた。どうやら保険室には彼女しかいないみたいだった。


「なんだ? 大丈夫そうじゃねぇか」


「私はこれで。後はよろしくね猪口さん」


 先生は「失礼します」とお兄さんに向かって軽く頭を下げて去っていった。


 さすが先生。私もいつかあんな女性になれるだろうか……


 でもやっぱり、心細い私としては先生に傍にいてほしかった。


 そう思ってしまう私はまだまだリッパな大人には程遠いのだろう。


「お前、薬大量に摂取したんだってな」


 お兄さんがベッドの犬塚さんに話しかけた。


「う、うん」


 いつも笑顔の犬塚さんにしては珍しくシュンとした声でうなずく。


「1日1錠って教えただろ?」


「でもぉ、床にバーってなったからぜんぶ捨てられちゃうとおもって~。そしたら食べたほうがいいとおもったの。ジュミョーがのびるでしょ?」


「あほ。大量摂取したら逆に命に関わるんだよ。教えただろうが」


「うぅん? 聞いたような~、聞いてないような~」


「はぁ……」


 お兄さんは盛大に肩を落とした。


 なんだかちょっと聞いてはいけないような話を耳にした気がした。


 ――ジュミョー? 命に関わる? それってつまりそういうことで間違いないんだろうけど……


 とても気になったけど、それを聞く勇気はなかった。


 代わりと言ってはなんだけど、私は2人に伝えなければいけないことがあった。


「あ、あの……」


「うん? どうした?」


 返事をしたのはお兄さん。できれば犬塚さんと会話をしたかったけどここで無視はダメだ。


「え、えと……これを……」


 普通の受け答えができずに、しどろもどろで私は透明な袋に入った錠剤を彼に差し出した。私が拾い集めておいた薬だ。


「一応、目についたものだけ拾っておきました。汚いから薬としてはもうダメかもしれないですけど……」


「ほ~ん。すげぇ気が利くんだな。――汚れに関しては再精製すりゃ問題ないから気にしなくていいよ」


 私から袋を受け取るお兄さんの手が私の手に触れる。


「ひゃっ……」


「あん? なんだ?」


「ひ、ひぇ、なんでも」


 あまりのことに声が裏返っていた。


「あはは。ねねちゃんおもしろ~い。タコさんみたいだよ~」


「あぅ……」


 犬塚さんの言うとおりだ。顔の熱が上がっているが自分でもわかる。


「ああ。あれか。ねねちゃんて男に免疫ない系?」


「いえ……そんなことは……」


 クラスの男子とは普通にい話せるから男の人が苦手とかそういうことではない。


 だけど、お兄さんくらいの歳の男性との交流経験はほとんどないし。それを抜きにしても、いわゆる不良の類の人との会話なんて経験がない。そのことが変な緊張を生んでいた。


 しかも、男の人に“ねねちゃん”と呼ばれるのがどうにもむず痒い。


 耳の後ろがゾワゾワして……内臓がくすぐられるような……そんな感覚。


「ほんじゃ、このまま真理絵連れて帰るわ」


「あ、それじゃあ私犬塚さんの荷物取ってきますね」


 私は恥ずかしさから逃げるように保健室を出た。


 …………


 犬塚さんをからかっていた3人は先生からきついお灸をすえられたようで、あの一件以降彼女に絡んでくることはなくなった。というよりもクラスメイトのほとんどが犬塚さんから距離を置くようになっていた。


 理由は、彼女のお兄さんだ。校内をうろついていた彼の姿を目撃した生徒も多く。そこから一気に噂が広まった。今では学年のほとんどの生徒がその話を知っていて、そこに尾ひれがついて、いつの間にやら犬塚さんは危険人物扱いになっていた。


 結果的にではあるけど、それはある意味でよかったと言える。ここ最近はトラブル続きだったけれど、ようやく平穏な学園生活を取り戻しつつあった。

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