神に誓って
コポコポと音を立てて沸くポットを眺めながら尻の位置を直すように椅子に軽く座り直した男は、同じくポットに目を凝らす幼女神をなんとはなしに見詰めた。
まぁ、綺麗可愛い子だよな、と。
「まあ? 神ですから? 当然の美貌よね」
艶のある長い銀髪は触り心地良さそうだし、世界一のルビーだってこんなに綺麗な紅色はしてないだろう瞳に、薔薇色のほっぺはふにふにしてそうだし、ちょこんとした鼻に桜色をしたぷるんと音のなりそうな唇、色白の肌に華奢な体躯はまさにお人形さんのようだし、衣装だって白ロリの最高峰と言っていい。
「とはいえそんなに舐めるように見られるのは不快としか思いませんけど」
そんな神様が、クイッと手をやるとどこからともなくカップが出てきて、手ずから注いだ紅茶をこちらにサーブしてくれた。
神様の淹れた紅茶である。
1杯1万でも安い。
なんなら宗教に人生捧げてる人に出したら、たとえ地面にこぼそうが這い蹲ってでも舐めるに違いない。
「発想の方向がキモい……」
「ふふ、生粋のオタクだからね」
「何故、そこでドヤ顔になるの」
まぁ、紅茶の善し悪しなどは分からないが、カップから薫るのが良い匂いな事が分かればいいだろう。
どうせ腹に入れば同じだし。
「ふむ、これはマンダリンかな……?」
「え……?」
びっくりした表情の神様にちょっと気持ちがいい。
テキトーぶっこいたのにまさか当ててしまったのだろうか?
「マンダリンだとオレンジなんだけど」
「…………」
「後さ、マンデリンって言いたかったんだと思うんだけど───」
「そう! それだよ! いや、ちょっとウィットなジョークだったんだけどね! ふふ」
へちんと指を鳴らしてザッツライト! と言う。
何度練習しても上手く音が出ないんだが、何故だろうか。
「マンデリンはコーヒーだけどね」
「…………」
「ふ……」
「見栄はりました、すみません」
「素直でよろしい」
やはり、ゲームのやりすぎで目が悪くなって掛けた眼鏡には秀才効果は見込めないらしい。
「その素直さで諦めて欲しいんだけど」
「だが断るっ!」
「はぁ……何をどうしてもアンタが転生することは無いからね?」
「諦めなければ、夢は叶うさ……どんなに果てしない道でも1歩ずつ歩いていけば、どんなに遠くてもいつかは辿り着けるように」
「それって道が繋がってる前提でしょ? 迷路のスタートとゴールがいつも繋がってるとは限らないのよ」
「それはもう迷路じゃなくないかな?」
「それが今のアンタの現状よ。転生というゴールは無いの」
諭すように言ってくる神様に、なるほど、と思った。
「転生はスタートラインだしな!」
「そうじゃなくて!!」
今度はテーブルに拳を叩きつける神様に、どこからか出てくるテーブルは置いとくとして、痛くないんだろうか、と疑問に思った。
まぁ、幼女っぽいとはいえ、ゴッドフィスト神拳パンチは頑丈なんだろう。
神様だしな。
でもその場合、おぱいは頑丈なんだろうか?
なだらかな曲線が描かれているソコはパッと見では青い果実らしい柔らかさに難ありな弾力しか無さそうだが、これが豊穣の女神とかならバインバインなんだろうか。
まぁ、転生の女神なら必要ないしいいのかもしれないが、女性らしさ的にはせめてこうもう少し。
「ねえ……」
「何か?」
「私が神だからとかじゃなくてね、そんないやらしい視線を向けるのはダメだから」
「は? まさか、僕がそんな薄いパイに欲情してるとでも?」
「してた。というか、服を透かしてみるくらいの目力で見てたよ」
「後で2次元に置き換えて神様じゃなくなるから平気でしょ」
「どこが!? むしろ寒気がしたよ!?」
「大体ね、神様で見た目幼女ってことはさ、ロリババアな訳じゃない? いわゆるのじゃロリ枠? でもさ、ロリババアって合法ロリとはまた違った違法ロリだと僕は思うんだよね、邪道だよ、邪道。ロリはロリだからいいんじゃない。それを見た目はロリだけど年齢が大人だから合法、合法ロリ万歳! みたいなのはさ、真のロリじゃないと思うんだよね。だってそれなら見た目大人の年齢ロリは違法ロリじゃないとおかしいじゃない。勿論、神様も分かってると思うけど、ジャンルが逆なんだから別ジャンルとして認めるのは僕もやぶさかじゃないけど、それも含めてね、ロリはまず真のロリに敬意を払う必要はあると思うんだ。イエスロリータノータッチ、あれは世のロリコンが紳士であるために必要なスローガンだった。だけれどもだからこそ昇華されることも無く鬱屈と抱え込むことになるリビドーは2次元に救われるんだよ。というか2次元で救われないといけない。だから僕は神様を見ても、どれだけエロい視線で見ていても欲情はしていないよ、だってそれは2次元で救われるものだからね。その代わり2次元になった神様には僕の気持ちを全て吐き出しちゃうけど、それは神様でも神様じゃないからセーフ! 分かるかい!? ちょっと見た目が目が潰れるくらい綺麗可愛いからってそれで何かするわけじゃないんだよ、僕のドストライクだけどそれでも襲ったりはしないよ、当たり前だろう? これでも僕は紳士だからね!」
「キモい」
「ぐふぅっ!!」
神様の容赦ない言葉のナイフが僕をズタズタに引き裂いた。
しにたい、しのう。
「まぁ、転生は出来ませんけど、どうぞ」
「あれー?? おっかしいなぁ、今の流れは転生出来そうだったはずなんだけど……」
「どれだけ頑張っても演技と素の情動の区別くらい出来ずに何が神ですか」
「演技だったけど……それなら僕がキモいとか言われるのは冤罪と思うなぁ、お詫びに転生させてください」
「安心してください。いつも何しても全部キモいなって思ってますから」
「言葉でも人を殺せるんだぞ! 訂正しろっ!!」
「すみません、キモいな、とか軽い感じに言いましたけど、本当は心の底から吐き気がするのを我慢してるんです、お仕事ですから」
「訂正の下方修正っ!」
「ウ・ソ・♪ これでも神ですからね、人の子を慈しむのは当然ですよ、転生は何度も言っている通り出来ませんけど」
「じゃあ今の蔑むような視線は……」
「全部冗談に決まってるじゃないですかー。なんでしたっけ? そうそう、ウィットなジョークってやつですよ」
「神様が心を抉ってくるっ!」
「いい加減にしろ、邪魔ばっかしやがって、許されるなら存在抹消してやりたいとか、露ほども思ってませんよ」
「本当に?」
「神に誓って」
「…………」
あなたがかみじゃありませんでしたけ?
にこっと笑った神様が口に指を当ててシーっとした。
誰にナイショにしろと言うのか。