転生は出来ないんだってぱ!
短いです。5話完結。
続きは現状考えてません。
「いーやーでーすー!!」
とある場所で今日も繰り広げられる一幕。
「絶対の絶対の絶対の絶対に転生なんかしてあげないんですからねっ!!!」
断固たる意思で絶許と叫ぶのは足元までゾロっと伸ばした銀髪を振り乱した女。
「そ、そこを何とか……」
そこに縋り付くのは眼鏡をかけたうだつの上がらない男。
「ちょっとだけでいいですから、お試しに、ね? 転生やってみましょうよ?」
「イヤったらイーヤー!!」
「なんでそんなこと言うんですか? 僕は悲しい。一体何が不満だって言うんですか、擦り合わせましょう、お互いの妥協点を」
「交渉とかないの!」
手をバッテンにして全力のノー。
「私をお家に返して!」
そして悲痛な叫びを上げる女は、遂には泣き崩れてしまった。
「あぁ……すみませんすみません。でも、お家に返すのはちょっと……」
男の方も参ったなぁ……みたいな表情で頭を搔く。
「だってここ、神様の家でしょ?」
「じゃあ帰ってよぉっ!!」
よく分からん材質の床をバシバシと拳でぶっ叩きながらの絶叫。
女はどうやら神様らしい。
「でも、僕、転生トラックに跳ねられちゃいましたし……」
ははっと男が笑う。
へらりとした気の抜けた表情で。
「だ か ら っ !! アンタに転生の適性はないって説明したじゃない!? ねぇ!? 私の話聞いてんの!?」
「そこをなんとか……っ!」
「無理な物は無理なの! 大体ね……あの転生トラックは生きるのに疲れたサラリーマンのおっさんが自殺しようとしてたところを居眠り運転の暴走車から幼女を守ろうとして、自殺するよりはマシな命の使い方かなってトラックに轢かれて転生する用のトラックなの!!」
「うん、それは知ってたけど……」
「そのサラリーマンのおっさんを更に突き飛ばして轢かれてもアンタじゃダメなんだってばぁ……魂の価値が違うの、ね、分かって?」
「でも、足りないならともかく溢れてるんでしょ? それならその分を捨ててくれていいんだけど……」
「魂の価値はそんな風に扱えないの! コップに入った水じゃないんだから、多い分は捨てればいっか、とかならないの!」
「じゃあ僕はどうすれば……」
「元の世界に帰りなさいよ」
「トラックに轢かれたのに!? 僕に死ねって言うのかい!?」
仮にも神様がなんてことを言うんだと驚愕に仰け反りながら男が崩れ落ちた。
勿論、頭から崩れ落ちたら危険だから細心の注意を払って、安全に受身を取りながらしかし自然に見えるように配慮しつつ。
この時の為に姿見の前で何度も練習したと思われるわざとらしさのない芸術的な演技だった。
「いや、死んでないからね」
「……え?」
「轢かれそうな幼女を助ける為に駆け込んで突き飛ばしたサラリーマンのおっさんを、更に突き飛ばす為に突っ込んだんだからさ、勢いそこで止まるわけないじゃない。アンタも一緒にギリセーフで難を逃れてるわよ」
「じ、じゃあ、なぜここに!?」
「転生に割り込むな! ってクレーム言う為に決まってんでしょ!? これで何回目か分かってんのアンタ!?」
「過去の事は忘れた(キリッ)」
「しねっ! 転生とは関係ない事故とかに巻き込まれてしねっ!」
「それは出来ないよ……僕の運命が、それを許してくれないんだ……」
「許す許す、じゃんじゃん許してあげる!」
「フフ……僕のカルマは、神の意思すら超越してしまうんだね、なんて……残酷なんだ……でも、僕は運命なんかに負けないっ!!」
「負けてよ! お願いだからっ!」
「じゃあ、僕を転生させてくれるかい?」
「無理だから」
そこだけは譲れないとキッパリお断りをした幼女な神様、疲れきったとのっそり立ち上がって瀟洒な感じのするテーブルに手をかけて椅子によじ登ると、男に座れと指し示した。
「前から、不思議だったんだけど……」
「何が」
「自分サイズの椅子にしたら良くないかな?」
「ハッ! 私が? アンタに? こっちに気を使えって? じょーだん! 人間のくせに生意気ね、それに私はオトナだから無理なんかしてないから」
どう見てもお子様が背伸びしてるようにしか男には見えなかったが、そういうことらしい。
まぁいつもの事かと思い直した男は椅子に座って、神様がお茶を淹れる様を眺めた。