私の家
正直、名前は思い出せなかった。けど、顔は覚えてる。
こんなところで出会うなんて思ってもいなかった。
だけど、名前が本当に出てこなかった。
「音原だけど覚えてる?」
そうだ音原だったと思いながら
「覚えてるよ、」と思ったよりも声が出にくく態度悪く見えてしまった。
「こんなところで出会うなんてごめんね」
そういえばこいつは優しい人だったと鮮明に思い出した。
大学の時サークル恋愛で皆と険悪な雰囲気になった時こいつは只管に私の主張を何も言わずに聞いてくれていた。ただこんなに優しい奴がなんで万引きなんてしたんだろうか。考えてもきりが無かった。その時音原が心情を悟ったかのように私に
「俺、就活失敗して色々あって破産して無一文なんだよね。」と徐に話した。思わず
「そんな顔しないで!」と言ってしまった。
音原はとても驚いていたが店長の方が驚きを隠せていなかった。
「知り合いなら不問にしてやる」と店長は一言言って出ていった。何も話すことがない二人は黙っていたが、私はふと彼が帰る家がないのではと思い本意ではないのに
「行くとこないなら今日私の家泊まっていけば?」なんて言っていた。確かに音原には借りがあるがそこまでしなくてもいいのでは?と私自身も考えていた。音原は戸惑いながらも
「ありがとう、泊まらせていただきます」と言い不安から解放された安堵感が表情に映しだされていた。