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伝説のハンターがオカマだった件  作者: 原案:空星きらめ/作者:犬太
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実地見学編 4話

第12班に突きつけられた現実を()、自分を責めるケリン・オムラ。

悩める若人を導くため、彼──否、彼女は、彼をビシアのもとへ向かわせたのだった。



ケリンの目前に、Gクラスの教室が見えてくる。

戸はすでに開いていて、そこから生徒が思いおもいに散っていく。


ケリンが戸に近づき室内を(のぞ)くと、ビシアが自分の席に、ぽつんと座っていた。


「あの……ビィシャさん」


ケリンが呼びかけると、ビシアとその他数人の視線が集中する。


「ちょっと話が……つーか、相談があるんだけど」


ケリンが言ったのを聞いて、ビシアは立ち上がり、彼の方へと歩く。

そして彼の(かたわ)らに立ち、目線でうながす。


「中庭にでも行こうか」


そう言うなり、彼女はまた歩き出した。


「あ、うん。俺、弁当持ってこないと」


「じゃあ、先行ってるから」


中庭の入口は、Gクラスの教室を出た左手にある渡り廊下の中ほどの辺りにある。

一方ケリンのBクラスは、Gクラスから見て右側にあるので、ビシアが歩き去ったのとは逆側に向かってケリンが歩き出す。


足早に戻ったBクラスの教室の前で、ヴァニラが壁に背をあずけて立っている。

彼女の視線はケリンに向けられていた。


「あら、オムラちゃん。ビィシャちゃんとはお話できたの?」


「いや、これからだよ。中庭で話すことになったから、弁当取りに来たんだ」


「そう……がんばって」


そう言う彼女を、ケリンは内心、(いぶか)しむ。彼女はどうもうっすらと、不敵な笑みを浮かべている。


ともあれ、弁当を持って中庭へ。C、D、E、F、Gクラスの教室を横目に過ぎ去り、食堂を目前に左手の渡り廊下へ。

半ばまで歩いて左を見ると、中庭のベンチのうちひとつにビシアが座っていた。


ケリンは彼女に歩み寄り、同じベンチに腰掛ける。彼女の顔を見ると、少し驚いている様子だった。


「どうかした?」


「いや、オムラ君、パーソナルスペース狭かったりする?」


「え……考えたことないけど」


「そ、そっか──で、相談って?」


彼女の質問を受けて、ケリンはしばらく考えを整理する。

そして、瞬きをひとつ。決然と話を切り出す。


「俺さ、この前の実技で結構なミスしちゃったじゃん……それで悩んでて。そしたらヴァニラちゃんが、ビィシャさんと話してみろって」


「……そっか」


──キラーリア先生は、私のことお見通しなんだ。

若干、笑みが(こぼ)れた。その笑みには、彼女の胸底(きょうてい)のわだかまりを隠し通すことへの諦めが含まれていた。


「オムラ君のミスは、君自身にとってはすごく重い罪みたいになってるんだと思う」


ビシアは両手を組み、手癖で指をもてあそびつつ、会話に一拍の間を置く。


「その考えって、大切だと思うよ──誰が悪いかじゃないんだよ、(かえり)みるべきは。自分に何が出来なかったか。何が出来たか。そういうことを考えるべきなんだと思う」


「でもさ……じゃあやっぱり、俺のせいだよ」


ビシアはケリンの目を見て、落ち着きを取り戻させる。


「──私ね。非常用の魔石、使おうとしちゃったんだ」


「え、それって──」


「うん。使っちゃってたら、最下位にもなれてなかった。私、諦めちゃったんだ、ちゃんと考える前に」


唇を噛み、足元に視線を落とすビシアを、ケリンはただ茫然(ぼうぜん)と見つめた。


「9班のあの子……博兵やってた子ね。筆記テストの出来は、いつも私より悪いの……私の方が頑張ってるって思ってた。負けるわけないって」


ビシアの目から涙は零れないまでも、声は小刻みに震えている。

それを自覚して、胸いっぱいに息を吸い込み、細く長く吐き出す。


「──オムラ君は、どうしてハンターになりたいの?」


「うちはハンターの家系だから。まぁ、中距離主力のやつは、みんなそんな感じだけど」


「そっか。私も父さんがハンターだったんだ」


「そうなんだ。なんか意外」


「実は結構有名な人なんだよ。(ツルギ)なんて呼ばれて」


「え、じゃあビィシャさんのお父さんって──ギィス・ビィシャ?!」


「知っててくれてんだね」


「あ……うん」


(ツルギ)と呼ばれたそのハンターは、14年前に殉職(じゅんしょく)している。


──3歳の時か……じゃあ、記憶もあんまりなかったりすんのかな。


オムラが心中、哀れんだ時。


(ツルギ)はどんな男だったんだ?」


2人のすぐ後ろのベンチから、声が聞こえた。


「えっ」


聞こえたのは、ウィリスの声だ。

ケリンが驚いて振り向くと、彼の真剣な面持ちがそこにあった。


「ちょっ、イーリオちゃん、バレちゃうじゃない」


「おい(きたね)ぇな、食ってるもん飲み込んでからしゃべれや」


「うわヴァニラちゃんまで……ってそれ俺の弁当じゃん!つーか12班みんないる?!いつから?!」


彼らは、2人の会話を一部始終聞いていた。


「すごい……全然気づかなかった」


「もうちょっとびっくりした方が人間味出るよ、ビィシャさん」


2人が驚き感心するのを意に介さず、ウィリスが再度ビィシャに問う。


「なぁ、(ツルギ)はどんな男だったんだ?」


「おまえさ、デリカシーって無いわけ?だいたい3歳の頃のことなんて憶えてるわけねぇって。俺たち世代は、噂でしか聞いたことが……」


「いや、9歳だったはずだ。そうだよな?」


ウィリスは至極当然といった口調でビシアに問うたが、ケリンの眉間には疑念という名のシワが刻まれるばかりだ。


「何言ってんだ?自分の歳わかんなくなっちまったのか?」


「イーリオ君、正解です」


「は?」


「オムラ君。言ってなかったけど私、今23歳です──父さんは優しい人だった。父さんとの約束を果たすために、私はハンターを目指してます」


ウィリスは腕組みし、彼女の言葉に首肯。


「そうか──なら、俺もやさしくなろう」


ウィリスに怪訝(けげん)な、あるいは憮然(ぶぜん)とした視線が集まる。


「──ともあれ、ビィシャさんの考えは大切にしていきたいと思ったよ」


Aクラス、カイリ・スマトラが歩み出て、班員に目配せする。


「そうかもね。『若博(じゃくはく)老兵(ろうへい)を頼れ』なんて言葉もあるし」


と、Fクラス、ヒーラーのメィリ・リースール。

若い博兵の経験を伴わない知識よりも、年老いた戦闘員の経験則の方が有益であるという意味の俗諺(ことわざ)──ニアリーイコール、「亀の甲より年の功」だ。


「……私もさ、オムラ君とタイミング合わせられなかったし。っていうか、ビィシャさん断然(ダンゼン)若博だし!」


と、Dクラス、遠距離支援のマイ・シオル。


「シオルさん、それ片手落ち……年齢の方フォローしようとしすぎだから──僕も、何も出来なかったな……(ツルギ)の血を継ぐビィシャさんと同じ班になれたんだ。もっと頑張らないと……!」


Cクラス、遠距離主力のトルール・シーマの目に、ひとしおの熱がこもる。


「うん。シーマ君の言う通りだ!来週は見学直前、2度目の合同実技演習がある……みんな、リベンジだ!」


カイリの言葉に、ケリン、マイ、ビシア、トルールが、まばらに「おー!」と賛同。

残り2人は沈黙。しかし、胸中ではリベンジに燃えていた。


「あんたら、ホントに頑張りなさいよ。次の結果次第では、荷物持ちしかできなくなっちゃうんだから」


ヴァニラの言葉に、声を上げた5人はたちまち押し黙り、メィリはふんと鼻を鳴らす。


「は?……聞いてねぇぞオカマ。どういうことだ?!」


聞いていなかったのは、彼だけだ。


「Aクラスのマチェス先生から、説明があったわよ」


今回と次回の実技演習の得点の合計がいちばん少なかった班は、荷物持ち──第12班の行く末を案じつつ、彼──否、彼女は、憮然とケリンの弁当を頬張るのだった。

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