実地見学編 3話
ケントーニハンター学院、第3実技演習場を見下ろす櫓の中。彼──否、彼女は、逆境を目前にした若人たちにほくそ笑む。
「焼石犀──昔で言うところのヒサイね」
ヴァニラはひとり、懐古した。荒野を駆け、獲物を狩り、血を滾らせていた頃を。
「当時のヒサイよりも、皮膚は硬く、角は大きく太くなっている──あの子たちの作戦は、ハンターとして正しい」
焼石犀の討伐では、ビシアの作戦通り、毒魔法によって硬い皮膚を軟化させ、水魔法の効力を確実にする、中・遠距離からの攻撃が定石になる。
しかしこれは、ヴァニラに言わせれば──
「ハンターとしての教養に過ぎないけどね」
彼女の時代のハンターが行っていた狩猟の方法はほぼ、現代ハンターの狩猟には受け継がれていない。
ハンター候補生たる彼らに、命知らずの無謀な策が教えられることは無いからだ。
「今で言う冒険者のやり方──それを思いつくことが出来れば、突破口になるかもしれないわね」
◇
ビシアの頭の中に、この状況の対応策になる知識は無かった。
Cクラス、トルール・シーマと他班の遠距離主力要員による冷却も、さほど効き目が無い様子だ。
獰猛化した標的に中・遠距離攻撃を命中させるのは難しく、同じミスを犯せば状況が悪化する。
足止めがきかず、弱体化も見込めない。
読んで字のごとく、絶望的な状況だ。
ビシアは、首に提げた魔石に手をかけた。この魔石を使えば、焼石犀に埋め込まれた魔石が反応し、即時、標的の命に終止符を打つことが出来る。
それはつまり最終手段であり、同時に白旗でもある。
ビシアがぎゅっと唇を噛んだ、その時。
第9班から伝令がやって来た。
「角を狙う!うちの近接戦闘員が雷魔法でやるから、遠距離支援は身体強化頼む!」
その指示を聞いて、ビシアは思い出した。
──そうだ。焼石犀の角は、体内の熱を外に逃がすための器官でもあるんだ。
そして気付かされた。角がその機能を失えば、焼石犀は自分の熱に耐えきれず、自滅する。
ビシアは焦るあまり、角の機能を失念していた。
その上、策を考えることすら半ば諦めていた。
「──遠距離支援、彼の指示に従ってください」
「了解!」
マイ・シオルが詠唱を開始。
彼女以外の第12班員は、為す術なく立ち尽くすのみだった。
その後、第9班の博兵による作戦通り、焼石犀は討伐された。
ヴァニラが言うところの突破口とは、まさにこの作戦のことだった。
◇
焼石犀の実技演習の翌日。
2限目、ヴァニラはGクラスでの授業を行っていた。
この日の朝、各班の実技演習の成績と、順位が発表されていた。
それを受けて、生徒はそれぞれに、さまざまな感情を抱きつつも、いつも通り厳粛な雰囲気で授業を受けている。
しかしその中で、珍しく上の空に見える者が1人──ビシア・ビィシャだ。
──普段から頑張ってるだけに、余計悔しかったみたいね。
Gクラスでの授業を終え、3限目はBクラスでの授業。これが終わると、昼休憩だ。
ちょうど、その昼休憩に入ったタイミングで、ビシアと同じ第12班の、ケリン・オムラがヴァニラに声をかけた。
「ヴァニラちゃん……俺、みんなの足引っ張っちゃったよな……」
ケリンは、自分の水魔法が早まってしまったことを悔やんでいた。
「失敗は成功の対義語じゃないわ。大事なのはここで膝を折らないこと。昨日のことは、必要な段階だったと捉えなさい」
「そんなやさしい答えいらないよ──俺たち最下位なんて、みんな悔しいに決まってる。もしかしたら、俺の事恨んでるかも」
実際、ケリンのミスは文字通り命取りだった。その上第9班の機転も相まって、相対的に見られた第12班の評価は、輪をかけて低くなっていた。
「そんなふうに思うなら、同じ班のビィシャちゃんと話してみるといいわ」
「え?」
「彼女も相当、今回の結果を悔しがっていたみたいだから」
ヴァニラの言葉に、ケリンは少しうろたえた。
やはり彼女も、自分を恨んでいるのだろうか──だがケリンは、その逡巡を断ち切るように決然と、首を縦に振った。
「確か、博兵やってた人だよな……ってことは、Gクラス?」
「そうよ」
「俺、行ってくるよ」
そう言うなり弁当も持たず、ケリンは教室を出ていった。
──ビィシャちゃん、いい仲間に恵まれたかもしれないわね。
ビシアの1番の欠点ともいえる、孤立。そこに降り注ぐ、一筋の光芒。
彼──否、彼女は、一縷の希望を見出したのだった。