実地見学編 1話
ヴァニラ・キラーリアの勤める、ケントーニハンター学院。
14歳から17歳のハンター候補生を抱えるこの学院には、AからHのクラスがあり、各クラスごとに特性が異なる。
例えばEクラスは、近接戦闘特化のクラス。
そして、この日の2限目。彼──否、彼女の授業が行われているGクラスは、ハンターの獲物であるモンスターや、ハンター最大の武器である魔法などの知識を蓄え、仲間を指揮する「博兵」の育成に特化したクラスだ。
──このクラスは、授業を真面目に受けてくれるし、雰囲気も落ち着いていて素敵だわ♪
水を打ったように静かな室内に、ヴァニラの声が凛と響き渡る。
「はい、今日はここまでよ。午後からの合同演習では、来週の実地見学の班を発表するから、そのつもりでね」
2限目終了の鐘がなる。ヴァニラは、教室を出ようとした。
「先生」
呼び止めたのは、とある女生徒。
「炎魔法の用法について、理解できない部分があったのですが……」
「ああ、それはね──」
──ビシア・ビィシャちゃん。この子は勉強熱心だし、成績も優秀だわ。でも、クラスには馴染めていないようね。
そのことを案じている教師は、ヴァニラ以外にも何人かいる。
いくら成績が優秀でも、協調性が無くては、ハンターとして優秀とは言えない。
つまり学院からすれば、優秀な人材を飼い殺してしまうことになる。
──Hクラスからの編入だから、仕方ないと言えばそうなんだけど。
実地見学のことを思うと、一抹の不安にかられた。
◇
4限目、学年合同実技演習の時間。
Aクラスの担任教師が、整列した生徒に向かって説明を行っている。
そんな中、列を離れているものが1人。Eクラスのじゃじゃ馬、ウィリス・イーリオだ。
「こら、イーリオちゃん。整列しないと」
「せまっくるしいのは嫌いなんだよ。別にいいだろ。話はこっからでも聞こえる」
「あんた、もう5年生でしょ。いい加減にしなさい」
「関係無いね。いくつになろうと、俺は俺だ」
──この子もたいがい、協調性無いわよね……
「それでは、実地見学の班を発表するぞ」
Aクラスの担任教師が言った。
「班活動だ?しゃらくせえ」
「ちょっと。ハンターはみんな、もれなくパーティに所属することになるのよ?班活動はそのための練習なんだから、そんな事言わないの」
「……分かってるよ。俺の足引っ張るやつさえいなけりゃ、それで構わん」
「まぁ、いいご身分ですこと」
彼の傲岸不遜な態度に、ヴァニラはため息をひとつ。本日1つ目と胸中で勘定した。
「……次、第12班。Aクラス、スマトラ。Bクラス、オムラ。Cクラス、シーマ。Dクラス、シオル。Eクラス、イーリオ。Fクラス、リースール。Gクラス、ビィシャ。以上7名」
ウィリスを含む第12班員が発表された。
それを受けて、ヴァニラは彼の顔をうかがう。
「なんだよ」
「いえ……良かったじゃない?スマトラちゃんと、ビィシャちゃんは、それぞれクラスでかなり優秀な生徒よ。5年生全体で見ても、成績上位だったはず」
「関係無いね!」
「あんた関係絶つの好きねぇ……」
そしてため息。本日2つ目だ。
この国には、「三つ目のため息は恋」という俗諺がある。
──それも悪くは無いけどね。
ヴァニラは憮然と、ため息を飲み込んだ。
◇
全ての班が発表された。
「それでは早速、班でモンスターを討伐してもらうぞ。演習場に移動だ」
Aクラス担任の指示に従って生徒が動き、続いて教師陣も移動を開始。
「いくわよ、イーリオちゃん」
「言われなくても」
──合同演習も実技科目だから、イーリオちゃんはいつも通りやれば、まあ問題ないんだけどね。
行く先を運命に託し、彼──否、彼女は不敵に微笑んだのだった。