第3話 残された者たち
「……うわ、悲惨だな。あいつら」
ボロボロの様子で冒険者組合に入ってきた三人組を見て、誰かがそう言った。
振り返ってみると、そこにはギースたちがいた。
半年前、初めて見たときとは全く異なる惨めな姿がそこにはあった。
彼らは三ヶ月前からC級冒険者になり、様々な依頼を精力的にこなしていた。
しかし、いずれの場合も中途半端にしか達成できなかったり、そもそも失敗したり、さらにいうなら依頼者からの苦情も多く、一月もしないうちに降格されてしまった。
さらにD級の仕事も出来ず、E級すらも怪しいと言われるようになって、もはや依頼者の方からあいつら以外にしてくれという備考がつくほどにまでなった。
こうなると冒険者として生きていくのは厳しい。
ろくに食事や睡眠も取れていないことから、魔力や筋力もかなり落ちているようで、E級の魔物を倒すのがやっとの実力しか今ではないというのも問題だった。
彼らの生活を支えているのは、たまに出現するゴブリンであり、それ以上になると彼らは逃げるしかない。
冒険者組合もそんな彼らを見かねて、冒険者をやめて普通の仕事につくように言ったらしいのだが、拒否されてしまったようだ。
いわく、それは二ヶ月ほど前から新聞を賑わせるようになったあるA級冒険者の記事が原因のようだ。
「……アル、頑張ってるんだな」
新聞を手に取って見出しを見ると、そこには《王都期待の新A級冒険者アルフレッド! ついにドラゴンスレイヤーの称号を得る! S級も近いか!?》と書かれていた。
どうやら、アルの実力はもう俺には完全に手の届かないところまで行っているらしい。
彼をキリエに任せて、本当に良かったと心から思う。
しかし……。
「……くそっ! なんでアルがA級なんだ……俺たちが……俺たちの方がずっと凄いのに!」
同じ新聞を見ながら、全く別の表情で怨嗟の声を呟くギースにとっては、全く喜ばしいニュースではないようだ。
「そうよ……私たちの方が、ずっと相応しいわ……」
「……ねぇギース。私たちも、王都に行こう。そうすれば、アルの化けの皮、剥がせる……」
「そいつはいいな……! よし、そうしよう! 路銀は……かなり厳しいが、武具を売ればなんとかなるだろう。そうと決まれば善は急げだ!」
そんな話をして、冒険者組合から出て行ってしまった。
「……あいつら、頭の方も大分おかしくなってるな……」
正直に言ってそうとしか思えなかった。
王都に行きたい、それは別にいい。
冒険者ならそこでの活躍は夢だし、ある程度実力をつけた者が拠点を王都に移すことは普通だ。
だが、そのための路銀すらない状態で行こうとすることがまず、おかしい。
その路銀を捻出する方法が武具を売る、というのも極めつけにおかしい。
お前ら冒険者じゃないの? それ売ってどうやって依頼受けるの?
そう尋ねたくなる。
まぁ、それでも一応、大体何を考えているかは分かるが。
あいつらはまだ、アルもパーティーメンバーのつもりだから集る気なのだろう。 王都で活躍するA級の稼ぎは、それはもう凄い額だからな。
一回の依頼で金貨どころか白金貨ですら手にすることが出来てしまう。
だから会って強請れば……と、そういう思考なのだろう。
だが、その計画には大きな問題がある。
そもそもA級冒険者に会うのはそう簡単ではないと言うことだ。
彼らは国にとって重要な戦力であり、B級までの冒険者と異なって冒険者組合の通常受付で依頼を受ける、ということがまずない。
貴族や王族から直接依頼が舞い込み、手続きはそちらの方で全て代行されるのだ。
だから、冒険者組合に出かけることがなく、待ち伏せのようなことが出来ない。
かといって直接、宿や家に訪ねるというのも無理だろう。
なぜなら、今、アルが住んでいるのはS級冒険者キリエの屋敷だ。
俺は行ったことはないが、手紙によるとそれこそA級冒険者の侵入すらも完全に防げる結界やら罠やらが大量に設置してあるという話だ。
それに加えて従魔も放し飼いになっており、まかり間違って迷い込んだら死を覚悟するしかないだろうとも。
そんなところに向かおうとしているギースたちの頭は少々どころか、完全に逝ってしまっている、としか言いようがないのだった。
そして俺が、あんな不穏な奴らが王都に行っても安心していられるのはそういうことが理由だった。
そもそも、仮にアルに会えたところで……もはやあいつらは全く相手にはならない。
それこそS級クラスの武具を彼らが仮に手に入れ、完全装備で寝込みのアルに襲いかかったところで、片手で一蹴される。
そのレベルだ。
一つ願いが叶うなら、その場面をこの目で見たいものだと思うが……。
まぁ、無理だろう。
その代わり、きっと手紙で知らせてくれるはず。
アルとの文通は、月一で行っている。
キリエとは週一で、そっちの方が多いかな。
どうもキリエは親馬鹿というか師匠馬鹿というか、アルのことが可愛いらしい。
恋愛感情のようなものは一切ないと分かるが、極端に過保護というか……。
かつて、獄氷魔術師キリエと呼ばれて他国の軍隊から恐れられた面影が、手紙からは一切感じられないのだ……。
まぁ、楽しいからいいんだけどな。
まだ彼女と酒を飲むという約束は果たせていないので、いずれ王都に訪ねていっても良いかもしれない。
アルとも約束したことだし……そうだな。
計画でも立てるか……。