表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第1話 1

どうも、今回までがギリギリプロローグと言ったところでしょうか。本編の内容も入ってくるので一応一話扱いにしましたが……。この章ではざっくりとしたキャラ紹介と簡単な謎解き(?)をしてあります。最後までお読みいただけると幸いです。

 俺達はアネモネへ入ると正面の受付を無視して右側の廊下を進んだ。

 普段は人のいる受付も今は無人だった。

俺達は客でないので構わないが当番中に抜け出す時点で担当が誰はおそらくあの人だろう。

 このフロアの構造は入ってすぐに受付、その左右に迷路のような廊下が走っている。廊下の壁には一定の間隔で個室が並んでおり、受付で依頼を済ませた後はこの部屋へ案内されるシステムだ。

 なお、この個室は防音性が高くどれほど騒いでも外へ声が漏れることはない、という点や複数の部屋が確保できるという点でも十数人から二十人程度勤務しているこのアネモネの支部には適した建築であると思う。だが、廊下を通るたびにこれらの特徴に一致する娯楽施設を連想してしまうのも確かだ。

 無論、複数の部屋を合わせたり、スタッフルームを広げたりと改装工事はしたようなので全く不便はないが。

 

 俺達は入口の電子キーに社員証をかざしてスタッフルームへ入った。部屋の中央には会議室で使うような長机が複数並んでおり、長方形状に配置されている。

ちなみに実際にはただの事務連絡の集会か休憩室代わりに使われるくらいで、基本的にはこの部屋は休憩室になっているだけだ。また、左右の壁に三つずつ、奥に一つ扉が付いており、この先が会議室と更衣室である。

俺はこの部屋に入るとテーブルに伏した人陰を確認した。

「……眠い」

 今現在も休憩室替わりとしてしっかりと機能しているようだ。受付嬢の服に身を包んだ女性が仮眠を取っていた。

というか寝ながら眠い、と言う矛盾を指摘したい。……が、この欲求を抑え、いつも通り無視したまま3と書かれている一番右手前側の部屋へ入った。


 部屋に入るとこちらに銃口が向けられていた。

 比喩ではなくも本物の改造モデルガンが。

 部屋は正面にキャスター付きのホワイトボード、中央にガラス製の長机とそれに合わせた皮のソファーがあり四隅には勉強机がある。

 それらの家具とは別に、部屋の付属品の様に人形のような少女がソファーに飾られている。その容姿に反するように左手に握られた銃口がこちらを向いているのだ。

 樹人は反射的にハンズアップしていた。

 俺はやや上ずった声でその自動迎撃人形のような少女に問う。

「何か気分を害すようなまねをしたか?」

「いえ、ちょうど新しいものが届いたから確認していたのよ」

「試射は他でお願いしたいんだが?」

「当たり前でしょ。いくら信用ならない人たちでも無抵抗な人間を打ったりしないわ」

抵抗したら打つのか……。

 そう言うと銃を置き、机の上の文庫本を開く。

 彼女の名前は月崎蛍(つきさきほたる)。日を浴びたことの無いような白い肌に、整った顔立ち。そして何より印象的な長い白髪。膝まである黒いスカートにシャツの上からカーディガンを羽織った姿もますます人形らしい。彼女は主にこのバイトの関係で学校を休むことが多いことので、それらを加味して非現実の世界から現れた妖精ようだ……などと一部の学生で神格化されている。確かに俺も初対面の時は見惚れかけたことは否定しない。否定はしないのだが、その外見とは裏腹に彼女の無駄に切れる頭脳と人間不信な性格、さらには自称合法的な改造モデルガンを常備しているという事実から地獄からの使者に思えてならない、というのが俺の現在の見解である。


「そんなところに立ってないで座ったら?」

「ご丁寧にどうも」

 愛想の無い言い方だが、それが彼女のスタンダードだ。

とはいえ銃口向けてくるような不穏なことは日常的ではない。

そう……初対面の挨拶として背後に突き付けられた時以来だな。

適当な軽口を返しながら自分の机に荷物を置いて、月崎の対角線上に座った。

 樹人は荷物を置くとそのまま自分の机に腰を掛ける。

「アプリ見たけど、今日の依頼人は?」と樹人。

 コイツのいうアプリと言うのはアネモネの職員のみが利用できるアプリだ。通常のメールやSNSだと依頼内容が漏洩する危険性があるとして開発され、基本的な依頼内はすべてそのアプリを通じて伝達される。海外のハッカーに対するカウンタープログラムで逮捕まで漕ぎつけたという実績もあるらしい。また、依頼書の他に簡単なチャット機能も付いており、何らかの事情で参加できない場合はこちらで連絡を取るよう決まりになっていた。

 樹人が先程、俺のモットーを聞き流しながらスマホを操作していたのは依頼内容を読んでいたからに違いない。

 俺も確認のためにアプリを開いて操作した。依頼書の項目から今日付けで届いたものを開く。

 あくまで本文を流し読みしつつ、視界の端で月崎が本から目を離さずに返事をするのが映った。

「情報はしっかりと最後まで読みなさい」

 依頼人は中条信也、内容はストーカー被害か。ん?性別は男性であっているな。

「いやー、どうにも面倒で」

 容疑者は三人。

「で、依頼人が来る時間は?」

 詳細は以下に記す。

「だから、自分で読みなさい」

 俺は内容にざっくりと目を通した。

「あ、もしかしてもう来てる?」

 依頼人が来るのは十九時、できれば二十時までには一度帰りたいとのこと。

「あと二時間ね」

 今は十七時だ。面倒になったのか月崎が正解を告げた。

 顔を上げると勝ち誇った樹人のドヤ顔が眩しかった。その一方で月崎は未だに本から目を離してすらいない。月崎からすれば本を読むことの方が樹人と話すよりも有意義だったのだろう。答えを言ったのも同じ理由と考えられるが、このやや冷たい態度も平常運転で樹人に非はない。

いや、無くはないか。

 俺がスマホから目を離すと同時に月崎は静かに本を閉じると立ち上がった。

「では、そろそろ打ち合わせを始めましょうか」

 彼女は本を自分の机に置いてキャスター付きホワイトボードの前に立った。

「あれ、琴野はどうした?」

「あなたも文章を読まない人なの……?やっぱりこのチームは早く解散すべきだと思うのだけれど」

 ジト目で返されては俺も反論しにくいが……。でも確かに何も連絡は来ていなかったはずだ。

「僕も来てないんだけど」

 助かった、樹人。

 援護射撃を得て俺は反撃に転じる。

「お前の方こそちゃんと見たのか?」

「見たわ。このメンバーのグループチャットに」

「僕の所へは来てなかったはずだけど?」

「俺もだ」

 俺と樹人のもとには連絡が来ていない。

 そして月崎はグループチャットに連絡が来ていたという。

 まあチャットを確認すれば済む話ではあるが……。暇つぶしにちょうどいいか。


数秒考えた後、俺は軽く頷いた。大した内容でもないが(というより、考えるまでも無くある程度の察しは付いていたのだが)このすれ違った主張の原因は分かった。

まあ動機は気づかい半分、遊び心半分と言ったところだろう。

詳細な手法は不明だ。

「大和、分かったんなら早めに頼むよ。そろそろ月崎さんに睨み殺されそうだ」

「そうだな、ヒントは、」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()、かしらね」

 どうやら月崎も同じ結論らしい。

「奇遇だな。というより、やっぱりそう言うことか……」

「ええ。これに関しては彼女にも非があるから今回は不問にするわ」

 文句に対する謝罪は無いのか。まあ別に気にしないが。

 そんな俺達の会話を聞いていた樹人が口を尖らせている。

「ねえ、僕も会話にいれて欲しいんだけど」

 月崎は目を閉じて「我関せず」と主張していた。

 樹人に対する説明は俺の担当な節もあるし構わないか。

「まず、状況の確認だが、俺と樹人の所には連絡が来ていなかった」

「それで月崎さんの所へはグループチャットへ連絡が送られている」

 そうだ。

「では聞くが、俺達の所へは連絡が来ていないというのはどういう根拠だ?」

「どういうこと?」

「直接確認したのか?と言うことよ」

 月崎の手助けで樹人が質問の意図を理解する。

「ああ、それなら通知が来ていないからだけど?」

「俺も同じ理由で来ていないといった」

そこまで言って樹人もようやく合点がいったようだ。

「なるほど。通知が来なかったけど連絡は来てたってことか。でも通知はオンのままだよ?実際に依頼があることは通知で確認したし」

「普通ならこの時点で異常だが、琴野なら……」

「確かに……」

そう。そこに琴野だから、という所以がある。名前は琴野春音(ことのはるね)。彼女は俗にいうところのコンピューターオタクなのだ。もう少し中二臭いあだ名があった気がするが忘れた。端的に言ってしまうなら凄腕ハッカーと言ったところだろう。アネモネのアプリ開発も手伝っていたと聞くし、はキングは十分可能と思われる。

これらの事実を総合すると

「要するに琴野が何らかの手段、というかおそらくアプリ経由の簡易ハッキングで非通知な連絡を送ってきた、ということか」

 彼女ならしかねないという理由で話が片付いてしまうが、まあそれが彼女にたいする信頼の裏返しでもある。

 ちなみにチャットを確認すると、しっかりと欠席連絡が来ていた。それも昼間の授業中に。

 どうやら自作のPCをいじっていたら寝不足らしい。後日談としては授業中に通知がなると申し訳ないので非常時連絡システムの応用で……とよくわからないハッキング手口を解説をしてくれた。

 このくだらない話題のせいで会議が遅れたが、まあ雑談とはそういうものだろう。依頼人が来るまであと一時間半、俺達は情報の共有と推理に費やすことにした。


さて、この元のテナントはお分かりいただけたでしょうか?正解は……まあ、そのうち発表する日が来るかもしれません(笑)

今回、その場におらずとも異様な存在感を示した琴野さんですが、残念ながら第一話ではここだけの登場なのか後々も登場するのかは未定です。どちらにせよ二話からは確実に登場するのですが……まだ第一話の初回なので早いですか。第二話までたどり着けるよう励みますので、お読みいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ