プロローグ
初めまして。春野仙と申します。今回が初投稿で文章やそれ以外の点でも至らない箇所が多いと思いますが、シリーズ最後までお楽しみいただけると幸いです。
人は自分の利益を得るためにのみ行動する。
例えば、なぜ人は食事をするのか。
それは生きるということは何にも代えがたい価値がある、即ち最大の利益であるからだ。
例えば、なぜ人は友情を貴ぶのか。
それは友人という集団を形成することによって、強者から身を守るためだ。
これらの問いには別の観点から利益を求めることもできるだろう。だが一つ言えるのは、これはすべての人間に対して成立する一つの真理であるということ。
「だから、人は他人の利益を奪うのが自然な状況で、現代社会ではそれを罪という概念である程度言語化し法律というルールを決めて線引きしたわけだ。人が追い求めて良い利益の範囲を」
俺は高らかに持論を歌い上げた。
目の前の聞き手は途中からウンザリ、と言った表情でスマホを弄り始めた。恐らく、俺の信条よりもスマホの操作の方が彼にとっては利益が大きかったのだろう。
というか、これは聞き手ではなかったかもしれない。
俺の布教が終わると、やっとか、と言わんばかりにスマホをしまってこちらを見る。
「分かってるよ。それに論破できないことも何度か確認してるしね。でも、それが犯罪をしていい理由にはならないけどね」
「分かっているさ」
「それじゃあ行こうか、大和」
軽く頷くと呼び出された場所へ向かうため下校を始めた。
俺、篠原大和がこの黒崎高校へ入学してから二か月が経つ。
いろいろと経緯が複雑だが、訳あって中高一貫のこの黒崎高校へ高校の部から入学してきた。高校からの入学者は六十人であり、それがF組とG組の二クラスに分かれている。中学からの人たちとは関わる機会が減るが、すでに出来上がったグループへ入るよりもマシだという学生への配慮の結果らしい。
階段の踊り場の鏡に自分の姿が写った。
外見に関して言えば、白髪が混じったせいで灰色にくすんで見える髪以外は平凡といえる。
対照的に、一緒に下校しているこの友人、天藤樹人は茶髪がかった金髪に美形の持ち主で女子からはそこそこ人気があるらしい。
以前自分たちの髪色を染めるか話したが、コイツに言わせれば髪の色はその性格を表すそうだ。その理屈では日本人は腹黒ということになるが、それを否定する根拠もないので放置した気がする。
授業の進む進路が遅いだとか、誰々先生の声はアルファ波で満ちているなど、くだらない会話をしているうちに目的の建物へ着いた。
眼前に聳え立つのは五階建てのビル。一階はファミリーレストラン、二階から四階までは幾つかの娯楽施設になっており、目的地は五階である。
俺達はファミレスの横の細い通路へ入った。二階以上へ行くにはこの奥通路の奥にあるエレベーターか、建物の丁度反対にある階段から登らなくてはならない。この階段というのが意外と曲者で、五階へ上がる頃には疲弊しているのが常だ。よってこのエレベーターを愛用している。
「一階です」
という無機質な音声でドアが開き、俺達は乗り込んだ。入るときにそっと五階のボタンを押すことを忘れない。
その仕草を見ていた樹人が感慨深そうに言った。
「大和も、もう慣れたものだね」
「何だかんだ週3くらいでは来ているからな。バイト先なら当然だろう」
「名義上はそうなっているけどね」
どうだか。俺は目下、小銭を稼ぎの手立て程度にしか考えていない。だが、普通以上に割りが良く、たまにスリルがあるこの仕事を気に入っているのも確かだ。
「五階です」
エレベーターを降りると受付があり、看板に社名が書いてあった。
[探偵会社 アネモネ]
俺はここで探偵のバイトをしている。
今回はプロローグ、ということで少し短めの文章にしました。
一度の投稿量は他の方を参考に、少しずつ適応していく予定です。本編も是非お楽しみください!