家族はみんな過保護
「お帰りなさいませ、お嬢様。」
執事のシェーンが出迎えてくれる。きれいに撫で付けた銀髪と同じ色の口ひげが見事なナイスミドルだ。お父様と同じくらいに見えるけど、貫禄が違う気がする。
「ただいま帰りました。お兄様はもう帰ってらっしゃるのかしら?」
「まだお帰りではありませんが、学園で何かございましたか?」
「いいえ、何もないわ。今日は学園で会えるかしら?と思っていたのだけど、お兄様をお見かけしなかったから、ちょっとお話したかっただけなの。」
シェーンが眉をひそめ、心配そうにいうので慌てて答える。
「それでは、ローランド様がご帰宅なさったらお知らせしましょうか?」
「そ、そうね、お願い。」
笑顔で言うとシェーンは安心したのか、一礼して下がっていった。入れ替わりに侍女のマリーが現れる。
シェーンは子供の頃から油断ならない。嘘はすぐに見抜かれるし、いたずらも途中で必ず見つかる。隠し事が出来ないのだ。
自室のテーブルにバッグを置いて、ソファーに座る。お兄様になんて聞こうか考えてると、思わずため息を吐く。
「お嬢様、何かありましたか?」
着替えを用意しながら、マリーがアレッタに問いかける。
「え、なんでシェーンと同じこと言うの?」
ビックリしてマリーを見る。
「いえ、今朝お出掛けになる時は楽しそうになさっていたのに、今は心配事があるように感じられますので。」
「はぁ、みんな良く見てるのね。」
「当たり前です。」
マリーの目が光った気がした。
んー、ここはマリーには味方でいてもらった方が良いのかもしれない。私一人でシェーンとマリーに隠し事するのは無理だわ。
なんて言って切り出そうか、あれこれ考えていると、マリーが「無理に話そうとなさらなくて良いんですよ。」と言いながら笑ってる。
どうせ、色々隠して話してもバレる。ならばそのまま話す事にした方が良さそうだと思った。
「えーと、学園でね、黒髪の令嬢を探してる人達が居てね、なんかちょっと気になったの。」
「ウィリアム殿下の婚約者の令嬢を見に来られただけでは無いのですか?お嬢様の髪の色はこの国では珍しいですし。」
「うん、そうね。それとね、可哀想って言われたわ。」
「なっ!」
「お父様やシェーンには絶対に内緒よ!大騒ぎになられても困るの。私は楽しく学園に通いたいのよ。今日始まったばかりなんだからね?マリー?いいわね?約束よ。」
「……分かりました。」
凄く不服そうなので、一応釘を指しておく。
「私はマリーを信じてるから話したの。相談に乗って欲しいのよ。お父様に話したら、今後一切マリーには何も言わないからね。」
「分かりました。何があろうと私からは侯爵様に言いません。」
マリーは右の手の平を顔の横に上げて、宣誓のポーズを取る。
「ありがとうマリー。それでね、何が可哀想なんだと思う?こんな髪の私?それとも、こんな髪の色の婚約者がいる殿下の事が可哀想なのかしら?この事、お兄様に話しても大丈夫だと思う?」
マリーはムッとした顔を隠そうともせずにちょっと不機嫌そうに話し始める。
「お嬢様の髪はお綺麗です!」
「ありがとう。で、どう思う?」
「……そうですね。ローランド様にはまだお話しない方がいいと思います。確実に殿下に伝わります。」
「そっか、そうね。殿下にも知られたくないわ。」
「可哀想とは今のところ、何の事か分かりかねます。ただのやっかみかもしれませんし。また何かありましたら少しずつでもよろしいので話して頂けると、繋がってくるかもしれませんね。」
嫌味にしてはただ可哀想と言うのはおかしいような気がする。具体的な事は何も言われていないし。
ドサッとソファーの背もたれに寄りかかる。
「ローランド様には、殿下の様子を聞かれては?」
「そうね。最近お忙しくて会っていないし、生徒会でもご一緒だから様子を聞く位なら、おかしく思われないわよね。」
「はい。」
「ありがとうマリー。」
「いいえ、お役に立てたのでしたら良かったです。では、お召し替えいたしましょう。」
着替えを済ませ、色々と考えていると、お兄様が戻られたと伝えられた。