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お祖父様との約束

アレッタが帰った後のフレデリックの私室。

フレデリックは、リリーが入れ直した紅茶を一口飲むと後ろに控えるリリーに話しかけた。


「リリー、アレッタをどう思う?皇帝陛下は気に入るだろうか。」

「間違いなく気に入ると思います。美しい黒髪に陛下のお祖母様と目の色が同じですから。ルイーズ様とは違う愛らしさがございます。」

「じゃあ、約束通りにしないとね。」

「ファーレン侯爵が離さないのでは?第一王子の婚約者に据える位ですし。」


フレデリックは一つため息を吐くと、手紙を書き始めた。


「ルイーズ様には簡潔に伝えた方がいいと思うからこれでいいかな。ファーレン侯爵の今日の予定は?」

「宰相殿の今日の予定は、特別な行事も来客もございません。定時でご帰宅なさると思います。」

「じゃあコレ、ファーレン侯爵とルイーズ様に届けておいて。影を使って構わないよ。二人ともリリーの事はご存じだ。」

「かしこまりました。」


リリーはフレデリックに礼をすると、スッと影に消える。


「さぁて、どうやって話したら良いのかな。僕、こういう交渉って苦手なんだよなぁ。エリック嫌いだし。」






「ルイーズ!ルイーズはいるかい?」


屋敷に帰るなり、アレッタの父親であるファーレン侯爵は侯爵夫人に呼び掛ける。


「こちらです。フレデリックが手紙寄越したわよ。アレッタの事で話したい事があるって。」


メイドに応接室の準備を指示しながらルイーズが答えると、ファーレン侯爵は疲れたようにソファーにドカッと座る。手紙にはアレッタの事を聞きたいと書いてあったが、下手に答えたら連れていかれてしまう。


「ああ、しかし、アレッタは王太子と婚約している、未来の王妃だ。他国がどうこう出来ないだろう?」

「どうでしょう。約束を破る事にはなりますわ。」

「そ、それは……。」



ノックの音にハッとして入室の許可をする。執事のシェーンがフレデリックとローランドを案内してきたのだ。



「御主人様、フレデリック・ウェスト様がいらっしゃいました。」

「ああ。待っていたよ、フレッド。久しぶりだな。」

「久しぶり、エリック。ルイーズ様もご機嫌うるわしく。」


フレデリックは侯爵夫妻よりも5つ下の、ルイーズの部下だった男だ。帝国からルイーズが来た時に、護衛として一緒にやって来た。まだ14だった為に学園に通いながら魔術師団に入ったのだ。そして、ルイーズが侯爵と結婚する時に帝国に帰る予定だったのだが、残った。それを侯爵は、良く思っていない。


フレデリックはルイーズの手を取りキスをする。


「変わらずお綺麗ですね。会えて嬉しいです。」

「私も優秀な部下に会えて嬉しいわ。」

「さぁ、何か話があるのだろう。座りたまえ。」


ファーレン侯爵はサッとフレデリックの手を振り払い、ソファーを指差す。


「エリックは相変わらずだね。」

「妻を狙う男は嫌いだよ。当たり前じゃないか。」


フレデリックは笑いながら勧められたソファーに座ると、背筋を正し、顔を引き締める。

ファーレン侯爵夫妻も、向かいのソファーに腰を下ろすと、揃ってフレデリックを見つめた。ローランドは黙って両親の後ろに立つ。


「今日は帝国の使者として、アレッタ嬢の話をしに来ました。先の約束はいかがなさるおつもりですか。」

「アレッタはこの国の国王に王太子妃にと望まれています。この国の国民である以上王家に従うのが筋かと思っています。」


ふーん、そう来たか。


「では、ルイーズ様のお祖父様、前ブルース公爵との約束は。」

「黒髪の子供が産まれたら帝国へ返すと言う約束ですよね。今は叶える事は出来ません。」

「一言、相談があってもよろしかったのでは?3年前なら前ブルース公爵は健在でした。」

「それは、そうだが、私の娘だぞ。私に嫁がせる所を選ぶ権利が」

「ありませんよ。」


フレデリックが、ファーレン侯爵を静かに見つめると、ファーレン侯爵の顔色が悪くなっていく。


「エリック、何故かはあなたもご存じなはず。」

「フレッド、私達は逆らおうとかは考えていないわ。アレッタの幸せを考えたのよ。」


フレデリックはため息を一つ吐いて、今度はルイーズに問いかける。


「今日、初めてアレッタ嬢に会いました。リリーが黒髪なのに驚いてましたよ。帝国の話を少ししたら何も聞いていない。話してもらっていないと言っていましたが。」

「話していない。あの子は帝国にやるつもりはない。」

「……そうですか。それは、アレッタ嬢がこの国で苦しんでいても、ですか?」

「どういう意味だ!」


ファーレン侯爵が語気を荒げ、立ち上がった。

フレデリックは紅茶に口を付けると、チラッとローランドを見やる。

「父上、話を聞きましょう。」

「フン。どういう事なのか話してみたまえ。」

「世の中の生き物の中には、色を持たずに生まれてくる子がいる事をご存じですか?」

「アルビノだろう。知っている。」

「では逆に真っ黒に生まれてくるものをご存じですか?」


ファーレン夫妻は顔を見合わせ、揃って首を振った。


「メラニズムと言います。アルビノも、メラニズムも自然界では同種族から迫害される事が多いそうです。」

「……何が言いたい。」

「アレッタ嬢は、金や茶などの色素の薄い人しかいないこの国でどう扱われていたかご存じですか?」

「まさか。」

「子供の内は、汚い。と言われていたらしいですね。」

「そんな!!」


ルイーズが悲鳴のような声を上げ、ファーレン侯爵は真っ青になった。

フレデリックは更に続けた。


「僕が髪の色を変えた時に、この国の人間が黒髪をどう見ているのか気が付かれるべきでしたね。お二人は結婚したばかりで、人の事など見ている余裕など無かったとは思いますけど。」


スゥっとフレデリックの目と髪が黒に染まる。

フレデリックも学園では遠巻きにされていた。帝国から来たせいだと思っていたが、黒髪黒目を理由に差別されていたのだった。


「当時は魔女に使えるカラスとか言われましたよ。ルイーズ様は帝国から来た魔術師でしたから直接何かを言う者はいなかったのでしょう。ローランド、君は知っていたのだろう?」


フレデリックは問いかける。ローランドは三人に見つめられ、仕方なしに話し出した。


「はい。私も一緒にいましたから。だから、ウィル、ウィリアム殿下が家に来て遊ぶようになったんです。アレッタを守るために。」

「どうして言わなかったの?」

「何度も言おうと思いましたよ。でも、アレッタが言わないでと言ったんです。母上に知られたくないと。同じ色ですからね。」

「そんな。アレッタ……。」


ファーレン侯爵は、娘が髪の色で差別されているなど想像もしていなかった。泣き出したルイーズの背中を宥めるように擦ると、フレデリックに問いかけた。


「フレッドはこの国ではアレッタは幸せになれないと思うか?」

「いいえ。ですがこのまま王太子妃、王妃になれば必要の無い苦労は多いでしょうね。生まれたお子が黒髪だったりしたら余計に。」

「ああ。私は何と言う事を。」


第一王子を王太子にと王に願われてアレッタとの婚約を決めたのだった。

アレッタも幸せになると思っての事だったのに、苦しめてしまう事になる。

夫妻はどうしたらいいのか分からなかった。


「帝国からの指示が何もなかったので、今まで黙っていましたが、ここから先は婚約解消を目指して動かれるべき、と、僕は思いますよ。帝国の事は僕から教えます。アレッタ嬢は転移魔法を持ってますのでその訓練も兼ねて。」


読んでもらえて嬉しいです。

ありがとうございます。

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