始まりの始まり
はじめまして、作者です。
お読みいただきありがとうございます。楽しめる作品だったらありがたいです。
「これよりスキル鑑定の儀を執り行う。対象の男女はフロアに集まりなさい。」
舞台前に現れたおっさんがよく通る声で言う。
スキル鑑定の儀。この世界では15歳になると一人一人スキルを授かる。それはそれは大切なイベントとされている。なにせ一生がかかっている。強力なスキルがあれば富と名声と欲しいもの全てを思うがままに、普通のスキルならそれなりの生き方を、ひどいスキルなら、、、そりゃもう最悪だ。
そのせいで神聖なイベントであるスキル鑑定は今やお祭り状態。15歳になった子は男女関係なく各村、町から都市に集まって一同に鑑定される。そのため一人鑑定が終わるごとに歓声や笑いや同情の声やら罵声やら出るような有様だ。全く持って騒がしい、しかもどんなスキルだったにせよ大勢の前で暴露されるため、プライバシーもなにもあったもんじゃない。
ところで、スキルとはいったい何なのか。世の中では一般的に”補正”だと考えられていて俺たちはこんな風に教えられる。
素質×補正=基礎能力
努力値×補正=成長値
基礎能力+成長値=限界能力
※スキルによっては特殊技能有り
つまり、スキルは素質を後押しし、努力による経験値を割り増しするため能力が上がりやすくなる。かつ、高いパフォーマンスを発揮できるというファクターなのである。その上、特殊技能を持つこともあるという。まさに俺らお年頃の年代には夢のようなシステムなのである。
そしてスキルの有用性、効果の強弱などを総合的に判断し、スキルにはランク分けされている。上からユニーク>ハイレア>ローレア>ノーマルと基本は4段階だ。だがしかし、スキルにはノーマルの下に位置づけられているランクが存在する。それが、アブノーマルだ。
アブノーマルのランクに位置づけられるのはスキルの有用性。効果の強弱にあてはまらない別の項目。それが人にとって危険かどうか。マイナスの影響を与えていないかの判断で決定される。
神は何を思ったか、時に人に試練を与えるのだ。軽いアブノーマルの事例だと手足連動してしまうといった不便だなと思えるものから、ひどいものでは麻痺や毒に掛かりやすいなどといった危険きわまりないものまである。発現率はとても低いがないわけではない、もし自分に当たったらどうしよう。といった困ったスキルの総称をアブノーマルと呼んでいる。
さて、そろそろスキル鑑定が始まる頃だ。
周りの男の子はお互いに俺の考えたさいきょー必殺技(技名のみ)wを披露しはじめるし、女の子はみんなで集まってわいわいやっている。当然子どもの親たちは全員集まるからお祭り状態で屋台も出店も大賑わいだ。
「では、名前を呼ばれた者から順にこちらへ上がってきなさい。」
声の通るおっさんがそういうとざわついていた空気も静まり、俺たちは今までで一番緊張する瞬間を待つ。すでに皆ドキドキが止まらない状態であるが、俺の順番は最後の方。初めからドキドキモードが継続する。特に自分の番の近くは超ドキドキモードだ。
「エイオン:モール 前へ」
とはいえ、あのおっさんマジで声がいい。今度イケてるボイスのオッサン(ジジイ)だからイボジだななんて面白くもないことを考えていると。一人の男の子が立ち上がりステージへと進んでいく。眼鏡をかけた小柄な男の子でがたがたと子鹿のような足取りで進んでいく。
「(最低でもノーマル、最高でもノーマル。僕は普通でいい。普通の男の子でいい。)」
あれ?モール君の心の声が聞こえるぞ?と思ったのだが、モール君、小さい声で自己暗示をおかけになっていらっしゃる。結構聞こえるほど漏れてるんですが。そんなモール君に周りは、頑張ってとか、大丈夫だよとか、かわいい。持って帰りたいとか、一部やばいやつも混じっているがおおむね優しさが先行している。
「大丈夫。大丈夫できる。僕は出来る。アイキャンフライ。アイキャンフライ。」
モール君。もう声押さえる気ないよね?結構でかい声で言ってるけど。それにモール君飛ぶの?いや、そりゃスキルもらって飛躍していくっていうのはわかるけど個人的には地に足をつけといた方がいいかと思うよ?
モール君はゆっくりとステージに上がりスキル鑑定をする心眼のスキル持ちのじいさんの前に立つ。
「では、、、」
しわがれた声とともにじいさんが細くなった目を開くとモール君から淡い光があふれ出す。
「アブノーマルはダメ、アブノーマルはだめ!!」
もう絶叫だよモール君。みんな若干引いてるよ。仮にご希望通りアブノーマルじゃなくても今後一生、今日という十字架を背負うことになるよ。思い出してのたうちまわること必然だよ。
そしてゆっくりと光は消えていき、心眼持ちのじいさん(略すならシンジイ?ガンジイ?なんか逃げない。傷付けないみたいな人だな)がゆっくりと糸目に戻る。
「おぬしのスキルは、、、」
告げられるスキル。緊張の一瞬
「一重の極み!ノーマルじゃ。して、その効果は、、、」
おい、ガンジィ。はよせい。ためるな。
「目が!!一重になる!!永続効果じゃ。そして単衣(肌着)のままでも健やかに過ごせるようになる。よかったのー」
会場の時が止まる。いやっ、それっ、使いどころねぇーだろ。
おそらく全員がそう思っていて、哀れみの視線もちらほら。どうせだったら二重だったらよかったのにね
・・・目も大きく見えるし、強そうじゃん。二重のあぁぁぁぁぁーーー
「よっよがっだです。ノーマルで!」
モール君が泣いている。うんうんと頷くイボジとガンジイ。それは悲しかったのか安堵したからなのかわからないが、彼の涙はきれいだった。。。
前途多難なスキル鑑定の儀はまだ始まったばかり。
お読みいただきありがとうございました。ゆっくりまったり更新なので気長にお待ちください。