この世界には虫がいないらしい
もう少し詳しく書いて欲しかったとか、せめて地図とお金と食料くらいは用意していて欲しかったとか、言いたいことは沢山あったが、今の自分の状況だけは理解した。
どうやら、私はとにかくこのアグネさんに迷惑をかけ、自分の記憶を消す手伝いまでさせたらしい。
なんて奴だ、私。
何があったか知らんが、何もかも放り出して好きなように生きていけると思っているのか、私。
そもそも、子供でない年になれば誰でも大なり小なり、色々背負って生きていくものなのだぞ、私。
「いや、まずは落ち着け、私」
明るいうちに人里か、最低でも水場を、見つけること。危険な獣に見つからないように、行動すること。安全な場所が見つからなかったら、この場所に戻ること。
行動開始である。
あたりを見回しながら、できる限り物音を立てないように外に出る。手紙には「異世界人の性格」と書かれていた。それを鵜呑みにするなら、ここは今までの常識が通用しない世界と考えて間違いないだろう。
しかしながら、竹の水筒、ここには竹があるのだ。そしてこの体、これはこの世界の人なのだから、当然この世界に適応しているはずだ。
幸いにも暑くも寒くもない気温だ。木や草なども、どこかで見たことのあるようなものだ。
しかし、すぐに違和感をおぼえる。
いないとおかしい「虫」がいない。アリや蚊などは、山にはつきものだし、クモの巣がそこここにあるのが普通だ。それらがない。
大体、山なのに歩きやすい。若い男だから体力がある、というだけではない。背の高い草が少なく、邪魔にならないのだ。まるでわざとそのように植えてあるように。
手で足元の土をすくってみる。しっとりしている、しかし、微生物がいるような感じがない。
目の前を、木の葉が舞い落ちて地面に触れると、数秒で粉々になって、消えた。
地面にふれると、数秒で消えた……?
なるほど、本当に世界の在り方から、違っている。
この、虫いない設定で、作者が田舎暮らしであることがバレバレに。
だって、ラノベって普通に主人公がサバイバルしてるけど、蚊とかダニとか思いっきり寄ってきて無理じゃない?
山小屋で寝泊まりしている上司は、寝袋で頭の先までしっかり閉めて、ミノムシ状態になっていたなぁ。