知らない所に、知らない人の体で存在していることに驚く
ちょっとまて、何が起こった。
パニックになりそうになるのを、数回深く息を吸い込んで抑える。
人生経験が長い『おばちゃん』。だてに、何度も修羅場をくぐってきてはいない。まずは、周囲の状況を確認。
今いる場所は浅い洞窟のような場所。
すぐ目の前は外で少し傾斜のついた土手になっている。いいあんばいに木が影を作り、外からこちらは見えにくい。逆にこちらからは、ある程度は見通せる。
次に明らかに変化している自分自身を冷静に、観察してみる。なじんだ中年女性の体ではない。若そうに見える男の体。
黒に近いモスグリーンのコート。短めのブーツ、厚めの生地のズボン。
コートを脱いでみると、かなり特徴のあるチェニックが目に入る。
白地に金糸や多彩な色で細かく刺しゅうの縁取りがされている。
これがお祭りの衣装とかでないなら、祭祀など特殊な仕事をしている人の服。
洗濯が大変そうだとは、おばちゃん的思考。
よく見るとコートの内側に大きいポケットがあり、小型のナイフ、竹の水筒、そして封筒が入っている。手掛かりになることを祈って、その封筒を開けてみる。
手紙が一枚。見たこともない文字。しかし、なぜか読める。
『この手紙をご覧になっておられる時には、私はもうこの世にはいないでしょう。直接、お会いして、ご説明できないことが、残念です。
多くをお伝えすることは、できません。貴方自身がそれを、お望みではなかったからです。
貴方はご自身の記憶を消すことを決断されました。理由があり、それが最善とされたからです。私は、そのお手伝いをさせていただきました。
ただ、記憶を消すにしても、赤ん坊のようになってしまっては、問題があります。
貴方と相性の良い人格を植え付けてあります。
異世界人の人格ですから、分からないことも多いでしょうが、ゆっくりこの世界を知り、そして好きになっていただきたいと、思っております。
最後にこのことだけは、どうしてもお伝えしなければなりません。
貴方はこの世界にとって、どうしても必要な方なのです。それだけは、決して忘れないで下さい。ご自身を大切になさってください。そして、どうか、お幸せになってください。
貴方の忠実なしもべ、アグネより』
手紙をたたみ、封筒に入れなおして、ポケットに戻す。よく、考えてみる。
もしかして、あの白い空間で聞いた上品そうな声は、神様じゃなくてアグネさん?
……結論は出た。
「やばい、私、コピペだ……」