一応、あがめられてるっぽいけど、これは違う
かなり時間がたったような気もするが、待たされている時にはそう感じるだけかもしれない。
男の言葉は、扉や壁を消滅させて脱走するという方法を取れないようにしているのだと、思った。この世界ならではのやり方だなと、感心はした。そしてその冷静さに怖くなった。
扉の向こうからガタガタと音がして、ようやく戸が開いた。大男が呼びに来たようだ。腕をつかまれ引っ張られた。泉のところまではほんの数メートルという近さなのに離してはくれない。乱暴にされたわけではないが、いい気はしない。
泉の近くに、村人たち全員集合である。子供たちも例外ではない。
全員そろっても、四十人程度。家が十五軒を考えると多いほうなのか。
切羽詰まった問題。水筒に泉の水をくませてもらった。
水を飲んでも気分が悪いのは治らない。そりゃあそうだ。これほど注目されているのでは。
ネさんが申し訳なさそうな顔をしてアナグマ肉の煮込みを渡してくれた。
子供たちはがつがつとすでに食べている。女性たちもまずは食べるのを優先しているようだ。男たちは食べるより、議論を交わすほうを優先したらしい。
「みんなも承知の通り」
大男が口火を切った。
「泉の水は回復した」
好き勝手にしゃべるというよりは、一応、一人ひとり発言しているという形はとっている。しかし、内容はお粗末なものだ。ただ、言いたいことを言っているだけだ。
泉は十分な力を持って我々の暮らしを守ってくれている。
去っていった家族を呼び戻せる
また他の集落と交流しながら、豊かな生活ができる。
もっと、村を大きくできる。
神殿を作ろう。
泉はもう一つあるぞ。あちらはどうする?
誰が管理する?
他人に取られてしまうのは惜しい。
シャン村の話を聞いたか、ここより酷い状況だ。神官様には急ぎそちらへ向かっていただかねば。
いや、シャン村もガリオン村もこちらへ呼び寄せ、統合するのが良いのではないか?
ん? 知らない村の名前が出てきたな?
泉の水は永遠ではない、また枯れるかもしれん。
神官様がいれば。
巡礼を続けて危険があれば世界の損失だ。
ここに留まっていただき、お守りしよう。
よその人は、うちに来ればいい。我々は懐が大きい。これを拒まない。
なんだか、わいわい言っている。なんなのだろうね?
アナグマ、食えません。水をちびちび飲む。
誰の話をしているんだろうね? 誰も私の意見、聞く気ないね?
注目されているのに、無視。異世界人、器用だね?
シチューを食べ終わったネさんが話に参戦。
「まずは、神官様にお礼を申し上げるのが先なのではないのかい」
一瞬、沈黙。
お互いを窺うように顔を見合わせていたが、最初に出会った三人の男たちが前へ進み出た。恭しく、地面に頭をつけ、そして顔を上げて言う。
「俺たちの村に来てくれてありがとうございます」
「俺たちの村は、これで何の心配もなくなりました。」
「俺たちの村はこの先もずっと安泰です」
んんん?
なにこの、わざとらしい儀式的な、これは何?
ナさんが、話に参戦。
「神官様ご自身が、この先どうされたいのかを聞くべきじゃないの?」
再び、沈黙。
こちらに注目。水を一口。怖い。




