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新婚中も目がはなせない  作者: 夢遥
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新婚中も目がはなせない

葵が優馬から貰った婚約指輪を大切そうに持っていることを知った陽向。

まだ、指輪を貰っていない陽向は落ち込むばかり。

そんななか、急な雨に傘がないことに困っていると、優馬の車に乗せてもらい実家に送ってもらうことになって…………………。

「昨日、大丈夫だったのか?」


翌日、自分の席に座りながら、1時間目の用意をしていると、後ろの席から辻君が心配そうに顔を出してきた。


「辻君が心配しなくても、大丈夫だから」


そう言いながら、昨日のことを思い出していた。




あたしの家に着くと、「もう遅いからご両親に挨拶するから」と、優馬さんは車を降りるのを見て、


「えっ、まだそんなに遅くないと思うんだけど?」


灯野先生が怪訝そうにみたけど、優馬さんはあたしと一緒に玄関に入る。


「ただいまーー」


あたしが帰ったことに気がついて、お母さんがキッチンから出てきた。


「お帰り、陽向。あら、優馬さんも一緒だったの?」


「うん………傘忘れたから、送ってきてもらった」


「そうー、優馬さん良かったら少し上がっていって」


「いえ………今日はこれで失礼します……………」


お辞儀をして帰ろうとした時、奥からお父さんが出てきた。


「優馬君、来てたのか!」


「お父さん、帰ってたの?」


いつも帰宅が遅いのに珍しい。


「今日は外回りだったから、真っ直ぐ直帰で………いや、そんなことはどうでもいい、優馬君に訊きたいことがあったんだ」


お父さんは、真顔で優馬さんを見る。


「あ、はい………」


お父さんを見る優馬さんは、何処か緊張しているようだった。


「陽向の体調もすっかり良くなったのにずっと、優馬君の所に帰らないでいるのが、気になっていただ」


お父さん、口には出さなかったけど、ずっと気にしてたんだ?


「もしかして、結婚していることが学校にバレて優馬君の所に帰れないんじゃないのか?」


「ち、違う!バレてないから」


あたしは、思わず口を挟んでしまった。


「陽向は、こう言っているけど本当のとこどうなんだ?」


眉をひそめながら、お父さんは優馬さんに尋ねた。


「陽向さんの言う通り、俺達が結婚していることは学校にバレていません」


優馬さんの真剣な表情に、お父さんは少しほっとしたみたいだ。



結婚する時に学校にバレた場合は即、離婚する条件付きで結婚の承諾をもらった。


辻君には結婚しているまではバレていないけど今の所、あたし達のことは誰にも喋っていないみたいだしセーフだろう。



「おかしいとは思ったんだ、学校からも呼び出しがないから…………バレていないならいいんだ。じゃあ、他に理由は何なんだ?まさか………優馬君、浮気が原因じゃなかろうね?」


怪訝そうな顔で優馬さんを見るお父さんに、あたしは慌てて否定した。


「ち、違うよ!え、英語のテストが悪くて……それで、独りで集中したいから、あたしのわがままで少しの間だけ、家に帰ることにしただけだから………」


「陽向………………」


半分は当たっているあたしの嘘に優馬さんは、申し訳なさそうな瞳で見つめる。


「本当なのか、優馬君?」


お父さんは不信感を持ったまま、優馬さんに問い掛けた。


「は、はい。英語の点数が落ちたのは俺の責任なので……陽向さんの意思を尊重してOKを出しました」


あたしの嘘に優馬さんは話を合わせてくれた。


「わかった………」


お父さんは渋々頷くと、それ以上何も言わなかった。



多分、もう疑ってないと思うけど……あの後、優馬さんはバツ悪そうな顔をしてた。





「大丈夫なら………いいけど………陽向、何かあったら……俺に言えよ」


辻君の声に引き戻されて、はっと振り向く。


「今の訊いてたか?」


「う、うん」


曖昧に返事をするあたしに、辻君が怪訝そうに見たけどそれ以上何も言わなかった。





放課後、教室を出てすぐに優馬さんに声をかけられた。


「西野、ちょっと仕事を頼まれてくれるかな?」


「え………………」


優馬さんが、放課後に仕事を頼むなんて珍しい。


「これから、職員会議なんだ。だから、頼む!」


優馬さんに必死に頼まれて、仕方なく優馬さんの後をついて英語準備室へ行くと、プリントを渡された。


「2枚ずつまとめて、ホッチキスで留めといてくれないか?」


「はい…………」



見た限り、それほど量は多くなさそうだ。


これなら、すぐに終わりそうー。



さっそく、ホッチキスでプリントを留め始めたのはいいけど、優馬さんに見つめられていることに気がついた。


「ひ、独りでも大丈夫だから、会議に行ってもいいよ………」


「少し時間あるから………それより、あの後、お父さんから何も言われなかったか?」


「うん……何とか信じてもらえたみたい」


「そっか………なら、いいんだけど……でも、このままって訳にもいかないな……………次の定期テストが終わったら、家に帰って来てくれないかな?」



「……………………」



優馬さんの所に帰りたい……でも、元婚約者だった灯野先生を家に呼んだことが、あたしの判断を委ねている。



「陽向…………………」



「あたしが帰って……また、灯野先生が家に来たりしないかな…………」



プリントをホッチキスで留めながら、独り言のように呟いた。



「あ、あの時は家の中に他の先生も何人かいたし、それに灯野先生から家に行きたいって言ったわけじゃないから」



慌てて説明してくれたけど、灯野先生のことを何も話してくれなかったこともあるし、なかなか優馬さんの言ってることを信じることができない自分が嫌になる。


「だから………」



「少し考えさせて……………」



俯いたまま返事を返す。



「陽…………」



優馬さんに優しく肩を抱かれて、抱きついてしまいたい気持ちを抑えようと、ホッチキスを持つ手に力が入ってしまっていた。



「わかった…………じゃあ、そらろそろ時間だから、会議に行ってくる。陽向も、それが終わったら、気をつけて帰れよ」


名残惜しそうに、優馬さんは準備室から出て行った。


「はぁーーー」



優馬さんがいなくなった後、溜息をつくとホッチキスをテーブルの上に置いた。



優馬さんのこと嫌いになったわけじゃないのに、話を訊く勇気が出ない、うじうじしている自分が嫌になってしまう。




さっさと仕事を終わらせて家に帰ると、着替えて階段を下りていくとお母さんが紙袋を持って玄関に立っていた。


「……………どうしたの?何処か出かけるの?」


お母さんが持っている、紙袋に目をやる。



「夕飯作りすぎちゃって……陽向、悪いんだけど、優馬さんの所に持っていてあげて」


お母さんは、おかずが入っている紙袋を、あたしの手に預けた。


「えっ………で、でも今日は会議で遅くなるみたいだし……………………」


「それなら、優馬さんのこと待ってなさい。それに、学校では話せない夫婦の話もあるでしょ?」



「………………!!」



遠回しに言ってるけど、あたしと優馬さんが今どんな状況なのか、お母さんは気づいてるのかも知れない。



「ほらほら、さっさと行ってきて!」


「え、で、でも……………」


「優馬さんによろしくね」


躊躇しているうちに、さっさと外に追い出されてしまった。




仕方ない……優馬さんに届けたらすぐに帰ってこよう。



でも、まだ帰ってきていないかも知れないと思っていたのに、行ってみると優馬さんが家の中から出てきた。


「陽向………………」


来るとは思っていなかったのか、驚いた眼差しで優馬さんはあたしを見つめた。




「まだ、学校かと思った……」


「会議、すぐに終わったから……」


「そ、そうなんだ?あ……これ、お母さんから……………」


ぎこちなく紙袋を、優馬さんの前に差し出した。


紙袋の中を覗くと、


「お母さんのビーフシチュー、食べたいと思ってたんだ。サンキュー!」


子供のように優馬さんは目を輝かせる。


「じゃ、あたしは帰るね…………」


優馬さんの顔を見てると帰りたくなくなっちゃう。


後ろ髪を引かれる思いで、帰ろうとした時、優馬さんに腕を掴まれて引き寄せられてしまった。


「ーーーーー!!」


玄関の外だし、誰かに見られたらと思うと、つい優馬さんを突き放してしまった。


「………今日は帰らないでくれないか?陽向とまだ、話がしたい」


あたしの腕を離そうとしない優馬さんに、あたしは揺れる想いのまま振り向くことができないでいた。


「家に入ろう」


優馬さんに促されて、躊躇いながら家の中に入ることに。



「ここに座って」


リビングに行くと、優馬さんはソファーに座るなり、隣に座るように促された。


「……………………………」


あたしは、少し躊躇ったものの隣に座る。


「陽向……今まで灯野先生のこと言わなくてごめん」


深々と頭を下げられて、あたしはどうしていいかわからず、視線を逸らす。


「別に、隠していたわけじゃないんだ。陽向に言うと、余計に気にすると思って……だから、言えなかった」


「それでも………あたしは、優馬さんの口から訊きたかったよ……………」



「ごめん…………今度から何でも話すようにするから。それに、灯野先生とのことは終わってることだし、陽向は気にしなくて大丈夫だから」


優馬さんに優しく抱き締められたけど、あたしは小さく首を振った。


「気にするよ………灯野先生は優馬さんから貰った婚約指輪を大切に持ってた………あたしにはくれないのに」


「婚約する前に、急遽、結婚しちゃったし……結婚指輪だって、まだ買えないまま式を挙げたからな」


「………………………………」



確かに、指輪も買う暇もないくらいとんとん拍子で式を挙げちゃったけど、灯野先生があんなに大切そうに指輪を持ってるの見たらヤキモチを妬いてしまう。



「陽向………………」


優馬さんは、あたしの頭を優しく撫でると顔覗き込んだ。


「ご、ごめんね………別に指輪が欲しくて催促してるわけじゃないの……………」



優馬さんと結婚できただけでも、幸せに想わないといけないよね…………。



「ごめん…………でも、灯野先生がまだ指輪を持ってるなんて知らなかった」


優馬さんは溜息ををつく。


「まだ、優馬さんに未練があるみたいだった………………」



「…………灯野先生と少し話してみるよ。陽向は、何も心配しなくて大丈夫だから」



そう言って、優馬さんはおでこにキスをした。





心配しなくても大丈夫なんて言ってくれたけど、灯野先生と2人で逢うのかと思うと、また、嫉妬心が芽生え、その日は優馬さんに送ってもらい実家に帰った。






翌日、体育の授業が終わって更衣室で着替え教室に戻る途中、優馬さんに呼び止められ、周りに誰もいないことを確認すると、準備室へ引っ張ってこられた。



「ど、どうしたの?優馬さん………」


背中越しの優馬さんに声をかける。


「昨日、帰る時……陽向、元気ないみたいだったから………気になって」


「や、やだなあ~、元気だよ?」


ガッツポーズをして、わざと元気なフルをする。



優馬さんは灯野先生と話をつけるために逢おうとしているのに、ヤキモチを妬いているなんてバレたら、ウザいと思うかも知れない。



「………なら、いいんだけど」


小さく溜息をつくと、優馬さんはあたしを優しく抱き締めた。


「ごめんなさい………心配かけて」


あたしは優馬さんの背中に手を回すと、ぎゅっと力が入ってしまう。



その時、ガタンと音がして優馬さんもあたしもハッと振り向くと、灯野先生が青ざめた顔で立っていた。



「葵…………っ………!!」


優馬さんは、慌ててあたしから離れた。


「あ、あなた達、これはいったい……………」


驚きのあまり、灯野先生は言葉を詰まらせる。



どうしよう!!灯野先生に見られた!!



あたしはただ、その場に立ち尽くすことしかできないでいた。



「俺達のことは………後で話そうと思ってて」


「何、言ってるの?教師と生徒なのに……こんなこと他の先生にバレたら、優君はクビになるかも知れないのよ!?」


「ーーーーー!!」


クビ!?そんなのダメだよ!!


あたしは思わず、優馬さんの服の裾をぎゅっと掴んだ。


「ま、いいわ。優君、学校が終わったら話しましょ」


灯野先生は、優馬さんの腕を掴むと引っ張って行く。


「西野さん、こんなことがバレたらあなたもタダじゃすまないわよ」


廊下へ出る間際、灯野先生はあたしに言った。


「ーーーーーー」


校長先生の耳に入ると、親にも連絡がいくよね……………?そうなると離婚………………!?



愕然とその場に座り込んでしまった。





その日の夜、優馬さんから『心配しなくても大丈夫だから』とメールが届いた。



心配しなくても大丈夫って言っても、あたしは気が気じゃない。

灯野先生が、喋らないっていう保証はないし。



優馬さんと灯野先生は2人で会っていることも知らずに、あたしは不安な気持ちでメールを見つめていた。








学校が終わってから、俺は葵と近くのバーに来ていた。


葵にバレないように、陽向にメールを送ったけど、どう葵に言えばいいか少し不安もあった。


「西野のこと、校長に言わないでくれないか?」


「…………もう一度、訊くけどあの子と本当に、そう言う関係なの?」


「ーーーーーーー」


結婚してることも言えずに、俺は頷くことしかできない。


「優君が昔からモテるのは知ってるけど、その反面、誰にでも優しいのよね…………だから、西野さんに押し切られて付き合ってるんじゃないの?」


「違っーーーーじゃなくて、それはそうだんだけど………………」


確かに、猛烈アタックはあった。でも、塾で逢うたび陽向の良い所も悪い所も含めて、惹かれていった。



「そんな優君が…………あたしには好きだった………でも、嫉妬で押しつぶされそうになって、婚約破棄しちゃったけど、ずっと後悔してたの………」


「…………………………」


「今でも、優君に貰った婚約指輪だって持ってるし」


愛おしほうに、首から掛けていた指輪を見せた。


「あたしはまだ、優君のこと忘れられない。だから、もう一度やり直したいの!」


「ーーーーー!!」


必死に俺を見つめる葵を、まともに見ることができないでいた。


「ね?お願い!!」


瞳を潤ませながら、葵は俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。


「…………………………」


どんな時でも、必死になる葵が俺は好きだったんだよな。



俺は、そっと溜息をついたのだった。
































































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