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新婚中も目がはなせない  作者: 夢遥
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新婚中も目がはなせない

陽向と優馬は秘密の結婚をしている。なぜなら、陽向の学校の先生だから。

塾の講師をしていた優馬のことは、学校でも知っている人が多く、みんなの人気者。

毎日のように、ヤキモチを妬く日が続く。

そんなある日、灯野先生が元婚約者だと言うことを知って、陽向はショックを隠せないでいた………。

朝は太陽の光を浴びていた空も、帰る頃には厚い雲で覆われていた。


「今日は家に帰りたくないな………」


独り呟きながら、昇降口で靴に履き替えた。



灯野先生が元婚約者だったこと、どうして秘密にしていたんだろう………。


まだ、頭の中で整理できない自分に虚しさを感じていた。



とぼとぼと歩いているうちに、家とは反対方向に歩いていることに気づいたのは、冷たい雨が頬にあたってからだった。


まずいな………、傘持ってないのに。


引き返そうと来た道を戻ろうとした時だった。


凄い勢いで雨が降ってきて、道路に激しく打ちつけ、辺り一面水浸しになってしまった。


あたしは、慌てて通り道にあった公園へ行くと、屋根のある建物の中へ駆け込んだ。



すぐに止むのかと思ったけど、全然、そんな気配がない。


「くしゅん!……………寒い」


雨で服も髪もびしょびしょに濡れているせいか、身体も冷えきっていて思わず身震いをした時だった。



「西野さん…………?」


ふいに誰かに呼ばれ、声のする方へ振り向くと、驚いた顔で辻君が立っていた。


「辻君…………?どうして…………こんな所にいるの?」


「俺は……家がこっちだし、公園の前通りかかったら、西野さんが見えたから………で?こんな所で何やってるの?」


「……………………」


さすがにぼんやりしていて、家とは反対方向を歩いていたなんて言えない。



「……………言いたくなければ言わなくてもいい よ」


「…………………………」


何か言おうとしたけど、段々と意識が朦朧としてしてきクラクラしてきた。



「それ…………より…………そのままじゃ…………風邪引く………し俺の…………家………が近いから…………ーーー」


辻君の声が遠退いていく中で、あたしの身体がぐらっと傾いた。


「西……野…………さん!?」


辻君の慌てた声が聞こえてきたけど、完全に意識が途絶えてしまった。






あたしの意識が戻ったのは、病院のベッドの上だった。


朦朧とした意識で横を見ると、ベッドの横で辻君が心配そうに椅子に座っていた。



「西野さん!!気がついた!?」


がばっと立ち上がると、辻君は安心したのか吐息を漏らした。


「辻……君………?」



始めは、どうして病院にいるのか状況がわからなかったけど、徐々に記憶がハッキリしてきた。



そうだ、急に目の前が真っ暗になって、辻君の前で倒れたんだ!!



やっと、状況が呑み込めてベッドから起き上がろうとしたけど、頭がクラっとしてまた、ベッドの上に倒れ込んでしまった。


「もう少しで肺炎になりかけてたって医者が言ってたから、まだ寝てないと!熱だって高いみたいだし」


寝かせようと、辻君はあたしの肩を押さえた。


「………………………………」


普通の風邪だと思ってたのに、肺炎になりかけていたなんて驚きもいいところだ。



「西野さんが、そんなに無茶した原因って…………」


辻君が言いかけた時、ガラッと病室のドアが開いて優馬さんが息を切らせながら入ってきた。


「陽向!?」


慌てて走ってきたのか、優馬さんの額には汗が滲んでいた。


「……………優………馬さん………」


優馬さんが来てくれたことに、嬉しさと複雑な気持ちに動揺を隠せないでいた。


「辻…………………」


辻君がいることに、優馬さんはハッとさせる。



「西野さんが無茶した原因、わかった……………」


辻君はあたしの表情を見てピンときたのか、いきなり優馬さんの胸ぐらに掴みかかる。


「つ、辻君ーーーー!?」


あたしは、驚いて止めに入ろうとしたけど、熱のせいか身体が思うように動けないでいた。


「最近、西野さんの体調が悪かったの気がついてたか!?きっと、先生に心配かけないように無理してたに決まってる!!そんなことも気づいてやれないで、彼女の隣にいる資格があるのかよ!?」


「………………っ………」


黙ったまま優馬さんは唇を噛み締めた。


「西野さんは、俺が守る!あんたには、彼女の隣にいる資格はない、出てけよ!!」


「ーーーーーー」


辻君は病室の入り口の方へ、優馬さんを追い詰めて廊下へ無理矢理追い払うと、病室のドアをバシッと閉めてしまった。


「あ、あの…………辻君」


複雑な気持ちで辻君を見つめていると、あたしの隣に座り深呼吸をすると辻君は口を開く。


「西野さんのこと諦めるって言ったけど……やっぱり、気が変わった。俺のこと好きになってもらうように、頑張るから」


「えっ……………」


辻君の言葉に、何か言おうとしたけど、言葉が出てこない。



先生と結婚してるから、諦めてなんて言えるわけない………。



「だいたい、灯野先生が元婚約者だってこと西野さんは知ってたのか?」


「…………………っ」


辛そうに首を振るあたしに、辻君は深い溜息をつく。



「じゃあ、尚更、西野さんをあいつに渡すことなんて、できるわけない」


「……………………………」


優馬さんに秘密にされていたことは、ショックだけど………何かあたしに言えない事情が

あったとか?



モヤモヤする気持ちのまま、念の為と医者の言うこともあって、そのまま入院することになってしまった。





「はい、今日のノート」


入院して3日目、順調に回復して明日、退院することが決まった。



辻君は毎日、授業でのノートを持って来てくれながら、お見舞いに来てくれる。


「ありがとう…………」


辻君からノートを受け取ると、ペラペラと捲った。



辻君の綺麗な文字と一緒に英文が目に入る。



あ………今日、英語の授業あったんだ………。



あたしが倒れた時は、あんなに汗をかきながら優馬さんが駆けつけてきてくれたのに、あれから一度も病院に来てくれないし、メールもこない。


あたしも、携帯の方にメールを入れようとしたけど、何て返事が返ってくるのかが怖くて、入れられない状態でいた。



「西………陽向…………」


急に辻君に下の名前で呼ばれて、ドキッとさせながら振り向く。


「ごめん、名前で呼ばれるの嫌だった?」


「そ、そんなことはないけど…………」


男友達だって、名前で呼ばれてる子だっている。でも、辻君の場合は愛情が絡んでいるから、少し困ってしまう。



「良かった~~!正直、名前で呼んだら怒られるかなって思ってたんだ」


嬉しそうな瞳で、顔を覗き込まれて、慌てて目を逸らしてしまった。


「さてっと、もう遅いし帰ろうかな。明日、学校も休みだから、また来るよ」


「え、明日、退院だから、来なくても大丈夫だよ………お母さんも来てくれるし」


「俺が来たいだけだから、気にするなよ。じゃ、おやすみ」


辻君は顔を近ずけると、あたしの額に軽くキスをした。


「ーーーーー!!」


慌てて額を押さえたけど、もう遅い。額には温かい感触が広がっていた。







翌日、退院したあたしは、優馬さんも仕事で忙しいだろうから、体調が回復するまで実家から学校に通うことととお母さんの提案で、実家に帰ることになった。



3日間、ベッド生活だったせいか、少しふらつく足取りで病院を出ると、辻君が待っていた。


「退院おめでとう」


辻君は笑顔で出迎えてくれた。


「辻君…………………」


優馬さんじゃないことに、少しガッカリさせながら、ぎこちなく微笑んだ。



「陽向のお友達?」


お母さんは辻君を見るなり、あたしに耳打ちする。



「あ、俺、陽向さんと同じクラスで辻陽翔って言います!今日、退院するって訊いたので、何か手伝いできらればと思って来ました」


あたしが言う前に、辻君はお母さんに挨拶する。


「あら、ありがとう。でも、荷物もそんなにないし…………ね?陽向」


お母さんは何かを感じとったのか、遠慮がちに言ったけど、辻君にとっては無意味なことだった。


「いえ!その荷物、持ちます!」


辻君に催促するように、お母さんの前に手を出されて、お母さんは遠慮がちに持っていた着替えや洗面用具など入っているバックを渡す。


「あ、ありがとう………助かるわ」


お母さんは、ぎこちなく微笑んだ。


「いえ、お役に立てて嬉しいです!」


満足そうな笑みで、お母さんに振る舞う辻君。



「彼………もしかして、陽向のこと好きなんじゃないの?」


3人で歩き始めてから数分、辻君に分からないように、お母さんが小さな声で囁いた。


「……………………」


少し困った顔で頷くあたしに、やっぱりと言う顔でお母さん苦笑いする。


「やっぱり………。でも、彼の気持ちを知ってるってことは、告白されたのね?」


「うん…………でも、ちゃんと断ったんだけど………」


「陽向のこと諦めてないみたいね」


「わかる?」


「女の勘でね。でも、陽向には優馬さんがいるんだから、もう一度、きちんと断っておいたほうがいいんじゃない?」


「………う、うん…………」


優馬さんのこともあるし、そんなに簡単には諦めてくれるとは思えない。



あたしは、小さく溜息をついた。





「おはよう」


休みが終わり、朝、学校へ行く準備をして外へ出ると、辻君が玄関先で待っていた。


「えっ、辻君ーーーー!?」


あたしは驚いて、目を丸くさせる。


「迎えに来た。退院したばかりで、陽向も大変だと思って」


「……………………………」


どうして、これが優馬さんじゃないんだろう…………。全然、逢いにも来てくれないし、あたしのこと飽きちゃったのかな。


「先生の方が良かったか?」


あたしの考えていることを見透かすように、辻君はあたしの顔を覗き込んできた。


「………………………!!」


「残念、杉浦先生は来ないよ」


「え……………」


それって、どういう意味………?


あたしは、違和感を感じた。






「おはよう!陽向~~。もう、大丈夫なの?」


学校へ行くと、奈留が嬉しそうに飛びついてきた。


「うん!もう、すっかり元気だよ~~」


入院中、奈留もお見舞いに来てくれて、退屈しなくてすんだ。


「2人で登校なんて、もしかして………」


隣にいる辻君に気がついて、奈留の顔が綻んだ。


「ち、違うから!辻君は、あたしのこと心配して迎えに来てくれただけで………」


慌てて否定するあたしを見て、余計に奈留の顔がにやけた。



絶対、誤解してるーーー!!


困り果てていると、前から灯野先生が歩いて来るのが見えた。



「あ、灯野先生~~!!」


奈留が元気よく手を振ると、先生がこっちに気がついて笑いかけてくれた。


「おはよう、日吉さんに西野さん、辻君」


「お、おはようございます…………」


今は、灯野先生とは話したくない気持ちがあるせいか、ぎこちなく挨拶してしまう。


「西野さん、入院してたって訊いたんだけど、もう、大丈夫なの?」


「………は、はい」


「そう、良かった。身体には気をつけてね」


優しい言葉をくれる灯野先生に、嫉妬している自分がいるなんて何だか嫌になってしまう。




「あ、そうだ!灯野先生、杉浦先生の元婚約者だって本当ー?」


そんなあたしの気持ちも知らずに、奈留が追い討ちをかける。


「ええ………」


「えー、どうして結婚しないの?杉浦先生と灯野先生ならお似合いだから、みんな納得するのにー」


はっきり物事を言う奈留は、いい所なんだけど、たまにグサッとくる言葉を言うから玉に瑕だ。


「あの通り、優君………あ、杉浦先生ね」


恥ずかそうに言う灯野先生は、頬を赤らめる。



…………優馬さんのこと、優くんって呼んでるの?



どうして、婚約破棄になったのか気になりながら、胸の奥が締め付けられる思いで、灯野先生の話に耳を傾けた。



「杉浦先生モテるでしょ?いつも、女の子達に囲まれてて、それが耐えられなくてあたしから婚約破棄したの…………」


そう言う灯野先生の表情には、後悔している様子が感じられる。



灯野先生まだ、優馬さんのこと好きなんだ…………。



お互い嫌いで別れたわけじゃないことがわかり、あたしの心をずっしりと重くさせた。



「先生………それ……」


灯野先生の首元に光る物を見つけて、奈留が小さく声をあげた。


「あーあ……見つかっちゃったか………」


首にかけてあるネックレスの鎖には、指輪が引っかかっていた。


「……………もしかして、婚約指輪?」


あたしの問いかけに、少し躊躇いながら、


「実は……これ、杉浦先生から貰った婚約指輪なの……」


と、灯野先生は大切そうに指輪を握り締めた。


「ーーーー!!」


あたしは、ショックのあまり何も言えなくなってしまった。



小さな教会での秘密の結婚式は、優馬さんの仕事の都合で急だったこともあって、知り合いの牧師様に頼んで指輪なしで式を挙げた。


たまたま、クリスマスの日に空いてたから、ロマンチックな日にはなったけど、今まで優馬さんに指輪を貰ったことなんてない。



「このことは、みんなには秘密ね?杉浦先生にも……………」


ぎこちなく微笑む灯野先生は、切なそうに見えた。


「でも、嫌いで婚約破棄したんじゃないんでしょ?灯野先生の気持ち、杉浦先生に言ってみたら?案外、杉浦先生だってまだ、灯野先生のこと好きかも知れないよ?」


灯野先生の気持ちに気づいたのか、奈留は励ますように言う。


「そうね………。それも、ありかも知れないわね」




「……………………!!」


灯野先生の言葉に、あたしの心をぎゅっと締め付けられ、その後の奈留と灯野先生の会話が段々と遠くなっていった。




「そろそろ、教室に行こう!」


辻君の声に、あたしはハッとして助けるようにあたしの腕を掴むと歩き出した。


「えっ、陽翔!?」


驚いて振り向く奈留には見向きもせず、あたし達はその場を立ち去った。






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