新婚中も目がはなせない
陽向と優馬は教師と生徒だけど、実は結婚している。
そんな中、校内の体育祭で陽翔に告白された陽向。
結婚していることバレさなかったものの、優馬が陽向を独占して陽翔にバレてしまう。
「この子は、俺のだから」そう優馬さんに宣言されて、辻君は一瞬状況が読めず、呆然と立ち尽くしていたけど、やっと把握したのか、
「マジかよ…………………」
愕然と、あたしと優馬さんを見つめた。
「あ、あの…………辻君……………」
みんなにバラされたら、あたしも優馬さんも学校を辞めることになるかも知れない。
ううん、それより教師の免許がなくなるとか!?
一瞬、そんなことが頭に過ぎって血の気が引いて、思わず優馬さんの袖をギュッと掴んだ。
「教師が生徒に手を出していいのかよ!?」
最初は愕然としていた辻君だったけど、挑発的な目で優馬さんを睨みつけた。
「人を好きになるのに、教師とか生徒とか関係ない」
「ーーーっ…………西野さんは、どうなんだよ?先生のこと好きのか!?」
辻君に訊かれて、迷うことなく大きく頷いた。
「……………………………」
それ以上、辻君は何も言わずに仕事に戻って行ってしまった。
「ど、どうしよう………みんなにバラされたら……」
へなへなと地面に座り込んでしまいそうになったあたしを、優馬さんが身体を支えてくれた。
「ごめん……辻と一緒にこっちに来るのが見えて、いてもたってもいられなくて、つい…………でも、陽向のことは俺が絶対に守るから」
真剣な瞳であたしの顔をを覗き込む優馬さんに、鼓動が早くなる。
「ありがとう……でも、優馬さんだってただじゃすまないかも………」
「陽向を守れるなら、俺のことはどうなったっていい」
優馬さんの言葉が嬉しくて、あたしの目から涙が溢れてきて視界が滲む。
「あーあ、泣いてたら、みんなの所に戻れないだろ」
苦笑いしながら、優馬さんはそっとあたしの涙を指先で拭いてくれた。
「だ………だって、優馬さん……あたしと視線を合わさずにしてたから、嫌われたのかと思ったんだもん」
「あ、いやー、それは……辻に嫉妬してた顔を………陽向に見られたく……なかったって言うか………なんて言うか……」
優馬さんの声が段々と、小さくなって最後は口ごもってしまった。
嫉妬してたんだ………………?
あたしは優馬さんが嫉妬してくれていたに嬉しさを感じて、顔が綻んでしまっていた。
なんとか、その日は無事に体育祭も終わり片付けをすませ、奈留と一緒に帰えろうと昇降口の外で待っていると、辻君に呼び止められた。
「西野さん、ちょっと話があるんだけど……」
辻君は神妙な顔つきで言われて、優馬さんのことだと直感する。
「………今、人もいないし、ここで話しない?」
周りに誰もいないことに気づき、優馬さんのこと秘密にしてもらうように頼むのも、今がチャンスだと思い、辻君と話する事を受け入れた。
「あ、あの……辻君。先生とのことだけど………」
辻君が話を切り出す前に、まずは優馬さんとのこと秘密にしてもらうように頼まないと。
でも、途中で辻君が口を挟んできた。
「杉浦先生のことだけど………西野さんは先生と付き合っていけると思ってるの?」
「………あ、あの………」
実は先生と結婚してるなんて、言っていいのかどうか迷ってしまう。
「俺は、どうしても先生が西野さんを大切にできるとは思えないんだけど。休みの日だって、デートできないし、2人で手を繋いで歩くことだってできないだろ?」
真剣な表情で辻君に言われて、言葉に詰まらせる。
「……………………………」
確かに、生徒に見つかるとまずいからって休日は外でデートしたこともないし、手を繋いで歩くこともないけど、その分、家で優馬さんとDVDを観たりして、のんびりと過ごしている。
「俺だったら、一緒に手を繋いで外も歩いてあげられるし、西野さんがして欲しいこと、何でもしてあげられる………だから、西野さんのことまだ諦めたわけじゃないから」
「…………………っ!!そ、そんなこと言われても、あたしは辻君の気持ちには応えられない。だから、ごめんなさい!!」
申し訳なさそうに頭を下げると、その場にいずらくなって、あたしは門に向かって駆け出した。
奈留を待ってないで、先に帰って来ちゃった………。
家まで来てしまってから、ハッと気がついて慌てて奈留に謝りのメールを送ると、すぐに返事が返ってきた。
『気にしないで!それより、もうすぐテストだね!頑張ろうね』
「ーーー!!」
もうすぐ中間テストがあるの忘れてたーーー!!
辻君のことや実行委員のこととか、いろいろありすぎて、そこまで頭が回らなかった。
明日は休みだし、テスト勉強に集中することにしよう。
そして、あたしはテスト勉強に専念することにしたけど…………。
「疑問文だし、この動詞がこれだから………この主語が………?………わかんなーい!!」
英語のテスト勉強が思うようにいかず、頭を悩ませていた。
優馬さんに教えてもらおうかな?
テスト問題を作るのに、午後は学校へ行くと言っていた。
その前に、教えてもらえるかも知れない。
テキストを持って、あたしは優馬さんがいるリビングへ行くと、優馬さんは難しい顔で、携帯と睨めっこしていた。
あたしに気がついた優馬さんは、慌てて携帯
をポケットにしまうと、ソファーから立ち上がる。
「陽向……どうした?」
「あ……英語でわからない所があって……」
少し優馬さんに違和感を感じたけど、あまり深く考えずに優馬さんに近づいた。
「陽向、結婚する時に約束したよね?わかならない所があったら、学校でなら教えるてあげるって」
忘れるわけがない。
結婚する時、あたしだけえこひいきにならないように、みんなと平等に学校でなら教える約束をした。
「ごめんなさい……でも、どうしてもわからなくて、全然はかどらなくて………」
「………仕方ないなー。じゃあ、少しだけなら教えてあげる。あと、わからない所は職員室においで」
諦めて小さな溜息をつくと、優馬さんは優しく手招きした。
「うん!」
あたしは弾んだ気持ちで優馬さんの隣に座ると
、勉強を教えてもらうのだった。
何日か過ぎ、テスト期間に突入して2日目のテストが終わった頃、
「陽向、今日の英語どうだった?」
学校の帰り道、奈留が少し心細い声で、あたしに訊いてきた。
「まあまあ書けたけど、ヤマがハズレてたのもあったから、自信ないかな……」
学校でも優馬さんに教えてもらいに、職員室に行ったけど勉強していない所が出てがっくり。
さすがに、出る所までは教えてもらえないし、仕方ないことだけど。
「あたしは、全滅だよー。いいな、陽向のクラスは~~。英語、杉浦先生で!わかりやすいって噂だよ!」
羨ましそうに、奈留が言うものだから、あたしは自分のことのように嬉しくなって、顔がにやけてしまう。
「それに顔、ルックスも文句ないから、みんなに人気だし、杉浦先生のファンクラブもできたみたい」
「えっーー……………」
ファンクラブまでできてるなんて知らなかった……。
何だか、みんなに優馬さんを取られた気持ちで気分が落ち込んでしまっていた。
いよいよテスト最終日。
やっとテストが終わって、ほっとしながら帰る用意をして教室を出ようとした時、
「西野さん、話があるんだけど」
告白を断って以来、辻君とは気まずくて目も合わせないようにしていたのに、向こうから声をかけてきた。
「………………」
振り向かずに、素通りしようとした時、辻君に腕を掴まれて屋上まで連れて行かれた。
「ちょ、ちょっと辻君!奈留、待たせてるの。だから、行かないと」
辻君の手を払いのけると、睨みつけた。
「奈留には、先に帰ってもらった」
「……えっ…………」
「ごめん、勝手なことして。でも、どうしても、西野さんと話がしたくて」
「…………告白、断ったよね?それとも、先生とのことみんなにバラすつもり?」
「西野さんが、困るようなことはしないよ………。でも、先生が相手だなんて、どうしても納得いかないんだ!どうしても断るって言うなら、帰りだけ1週間一緒に帰ってくれないかな………?帰ってくれるなら、西野さんのこと諦めるよ………」
「そ……そんなこと言われても…………」
捨てられた子犬のように目を潤ませながら、辻君に見つめられて、戸惑ってしまった。
「帰ってくれたら絶対に諦めるって約束する!だから……」
神頼みのように、あたしの前で両手を合わせる辻君に、仕方なく頷いた。
「絶対、約束だからね!?」
これも諦めてもらうため、一緒に帰るのはしょうがないよね………。
あとで、優馬さんにはきちんと事情を話そう。
「じゃあ、早速今日からよろしく!」
辻君は嬉しそうに、あたしを促すと屋上から出て行く。
「えっ……今日からって……」
慌てて辻君の後を追っていくと、廊下で懐かしい人影が目に入った。
「お、灯野先生じゃん!」
辻君は、懐かしそうに先生の元へ歩み寄った。
灯野葵先生は、年明けにそうそう階段ら踏み外して怪我をして入院していた。
「あら、辻君と西野さん~!久しぶり」
灯野先生は、あたし達に気がついて笑顔で手を振ってくれた。
天然な所もあるけど、いつも笑顔がかかせない、そんな先生だから、生徒にも人気がある。
「先生、退院したんだ?」
辻君の問いかけに、
「そうなの、1週間前にね。そろそろ復帰できそうだから、校長先生に挨拶してきたところなの」
灯野先生は、恥ずかしそうに応える。
「また、先生の授業を受けられるなんて嬉しいな」
現国が教科担当だた灯野先生の授業は、他の先生と違って和気あいあいで、楽しく授業を受けたことを思い出す。
「西野さん、ごめんねー。違うクラスを受け持つことになっちゃったみたいなの」
灯野先生は申し訳な顔で、眉間にシワを寄せた。
「何だ~、残念。俺も先生の授業受けたかったなー」
あたしと同じく、辻君も残念そうにシュンと肩を落とす。
「そんなに気を落とさないで、わからない所があったら、いつでも訊きにきて」
灯野先生の言葉に、辻君もあたしも嬉しさを感じた。
「それより、間違ってたらごめんね。もしかして2人とも付き合ってたり………」
あたしと辻君を見ながら、灯野先生がにやにやする。
「やっぱり、俺達そう見えますか~~?」
辻君はあたしの肩を抱き寄せる。
「ちょ、ちょっと、辻君っ……」
もし、こんなところ優馬さんに見られたりしたら、なんて説明したらいいのよーーー!!
はらはらしながら、辺りを見渡したけど、人っ子ひとり誰もいない。
ほっとしながら胸をなで下ろす。
「見える見える。2人ともお似合いだもの」
そんなあたしの気持ちも知らずに、灯野先生は明るくはやし立てた。
「俺達、お似合いだって~!」
辻君は調子に乗って、ぎゅっと肩を抱き締めてきた。
「いいわねー、あたしもそんな時があったなぁ~~」
灯野先生は羨ましそうに、目を潤ませた。
「今は?」
あたしは、少し気になって訊いてみた。
「んーーその人とは、婚約までしたけど、あたしのわがままで別れちゃった」
「ご……ごめんなさい……変な事を訊いて」
辛そうに目を伏せる灯野先生に、あたしは慌てて謝る。
「気にしないで。じゃあ、そろそろ行くわね」
明るく言ってくれたけど、何処かさっきより元気なさそうに見えた。
「あれは、絶対に後悔してるな」
灯野先生の後ろ姿を見つめながら、辻君は顎に手をやった。
「辻君もそう思う?」
「うん。でも、元婚約がいたなんて初耳だな」
「そうだね……って言うか、そろそろ離してくれないかな?」
いつまでも、あたしの肩を掴む辻君の手に視線を向けた。
「あ、ごめんーー」
辻君は、ぱっとあたしから離れると、残念そうな顔をさせた。
「灯野先生、あたし達のこと勘違いしてなければいいんだけど………」
「俺は、勘違いされたほうがいいけど」
ボソっと呟く辻君だったけど、あたしの耳に入っていなかった。
家に帰ると、夕食の準備に取り掛かる。
今日は優馬さんの大好きなビーフシチュー。
優馬さん、今日は早く帰ってくるって言っていたし、辻君のことも話さなきゃ…………。
そう思っていたのに、待っていても優馬さんはなかなか帰って来なかった。
気がつくと、時計の針は夜の10時を過ぎていた。
「優馬さん、遅いなーー」
ソファーに座りながらテレビを観ていたけど、
テスト勉強もあって、寝不足で欠伸が連発。
段々と瞼が重くなって、いつの間にかソファーに身体を預けた。
しばらくして、ふんわりと身体が軽くなるのを朦朧とする意識の中で感じ取りながら、重い瞼をうっすらと開けた。
いつの間にか帰って来た優馬さんが、あたしをお姫様抱っこしてくれていた。
「……………………………」
夢心地に浸りながら、あたしの意識は遠のいていった。
チュンチュン…………………。
「んーー……………」
朝の眩しい太陽の光で、あたしは目を覚ました。
あれ?あたし……………。
いつの間にか、ベットに寝てる自分に首を傾げなからベットから下りる。
着替えているうちに、段々と記憶がはっきりとしてきた。
そうだ!昨日はソファーで寝ちゃって、その後は確か優馬さんに抱っこされて………ベットまで運んでくれたんだ。
あたしは、慌ててリビングへ行ったけど、優馬さんの姿はなく、朝食がテーブルに用意されていて、その隣に一枚のメモが残されていた。
『職員会議があるから、先に行きます。朝食、作ったから食べて、それから、ビーフシチューおいしかった!また、よろしく』
メモを読み終わると、胸の奥がキューンとして嬉しい気持ちでいっぱいになるのがわかった。
優馬さんが作ってくれた朝食を食べ終わると、学校へ向かった。
「おはよ~~、陽向!」
学校に到着して、昇降口で上履きを履いていると、奈留がニヤニヤしながら、あたしの肩をポンと叩かれた。
「おはよう、奈留。昨日はごめんね、一緒に帰れなくて」
「あたしのことは気にしないで!それより、昨日、陽翔とどうだった~~?」
「どうだったって、別に何もないけど………」
そう応えた時、目の前に優馬さんの姿を目撃して、
「ごめん、奈留!その話はまたあとでね!」
「え、ちょっと、陽向!?」
奈留の話はそっち抜けで、急いで優馬さんのところへ向かおうとするあたしに、奈留はまだ何か言いたそうな顔をしていた。
そんな奈留を無視しながも、優馬さんに追いつたけど、また周りには女の子達の集団ができていた。
「西野、おはよう!」
あたしに気がついて、優馬さんは声をかけてくれる。
「お、おはようございます」
あたしに気づいてくれたことが嬉しくて、優越感に浸っていると、周りいた子が優馬さんの腕に手を回した。
「優馬先生、今日のお昼、一緒に食べようよ!」
「あ、ずる~い。あたしとも!」
みんな優馬さんの取り合いになっている。
「……………………………」
辻君のこと話そうと思ったけど、嫉妬心がメラメラと燃えてきて、話すのが失せてしまった。
「先生、ちょっと忙しいから、また今度な……あ、職員室に戻らないと!……西野も早く教室に行きなさい」
みんなの誘惑にも優馬さんは適当に受け答えして、さっさとその場から立ち去って行った。
優馬さんに話せないまま、放課後は辻君と一緒に帰る日が続き3日目が過ぎた頃。
「西野さん、俺、先生に呼ばれてるから、少し待ってて」
帰りの用意をしていたあたしに、後ろの席の辻君が言った。
「陽翔ー、あまり大切な彼女を待たせるなよ~~」
クラスの男子が、冷やかすようにあたしと辻君を見る。
「彼女って………」
辻君が、へ?っと言う顔をしていたら、
「なんだよ、知らないのか?お前らが毎日、一緒に帰ってるから付き合っているって噂になってるぞ」
可笑しそうに笑い飛ばされた。
「ーーーー!!」
どうしよう!噂になっているなんて知らなかった!!
あたしは、顔がサーと青ざめていくのがわかった。




