新婚中も目がはなせない
学校では、陽向た優馬は秘密の夫婦。
唯一、知っているのはクラスメートの陽翔だけだけど、結婚しているのを知っているのかいないのか、優馬の元婚約者の葵は陽向と優馬が付き合っていると思っているらしい。
楽しい文化祭には陽向が他校の男子に絡まれ、助けに入った陽翔が殴られ、騒動になってしまい、文化祭が終わると陽向と陽翔は校長先生に呼び出されることになってしまうが…………!?
校長先生に呼び出され、あたしと辻君は校長室へ行くと、優馬さんと灯野先生の姿があった。
「君達を呼び出したのは他でもない。文化祭での騒動のことだが……大体は、杉浦先生と灯野先生から事情は訊いたが、君達の口からもはっきりと訊きたいと思ってね」
校長先生は、渋い表情であたしと辻君を見つめた。
「……西野さんが、他校の男子生徒に絡まれていたので、助けに入ったら一方的に殴られました」
文化祭での出来事を説明する辻君の話を、校長先生は黙って訊いていた。
「西野さん、彼の話は本当かね?」
辻君の話が終わると、校長先生はあたしの方に訊いてきた。
「はい、本当です。助けに入った彼をいきなり殴りかかってきて、その後……杉浦先生と灯野先生が助けてくれました」
「話は、わかりました。今回の文化祭での出来事は、君達の処分はなしというなとで……他校の生徒の方は学校側に連絡をしてみます」
校長先生はさっきまでの渋い表情と違って、穏やかな表情に変わっていた。
「良かったな、無事に事が済んで」
校長室を後にすると、辻君はホッと胸を撫で下ろす顔には
、まだ、頬に少しだけ痣が残っていた。
「うん、でも辻君の怪我が完全に治らないと安心できないんだけど」
「もうこんなの、大した事ないし陽向は気にすることないよ」
頬に手を当て軽く叩いてみせた。
「アイタタっ……………」
「ほら、やっぱり大した事なくないよ」
まだ少し痛むのか、頬を摩る辻君に苦笑いをする。
「じゃあ、治るまで俺の傍にいて」
辻君はあたしの髪を触ると、顔を覗き込む。
「ち、近いっーーーー!!」
パッと顔を背け、辻君を押し返す。
「そんなに拒否らなくても……」
辻君は、怒られた小さな子供のように肩をシュンと落とした。
「ご、ごめん!!でも、誰かに誤解されて、また噂が広まっても困るし……」
「そんなことになったら、今度はタダじゃすまなさそうだなーーー」
身震いする辻君に、あたしは思わず苦笑いをする。
「そんなことになったら、先生も止められないかもね」
「はいはい、もう陽向には手を出しません。でも、友達としてヨロシク」
「うん」
あたしは、大きく頷いてみせた。
まだ、文化祭の余韻が残ったまま、いよいよ受験モードに突入するのだった。
「今年はクリスマス気分が、落ち着いて味わえないな~~」
学校の帰り道、奈留は大きな溜息をつきながらとぼとぼと歩いていた。
「受験生だもん仕方ないよ……」
「でも、好きな人にはクリスマスプレゼントあげたいよね」
「えっ、奈留、好きな人いるの!?」
驚いて、奈留に視線を向ける。
「まあ、1組の稲川君とか3組の坂本君とか?」
指で数えながら、奈留は名前を言っていく。
「始めて訊いたんだけど…………」
名前を言われても、ピンとこない。1組の稲川君って、どんな人だっけ?
「まぁーー、憧れみたいなのもあるけど」
「ははは…………」
少し飽きられた顔で苦笑いする。
「陽向は、優馬先生にプレゼントあげないの?」
「ん……………………」
クリスマスは、あたし達の始めての結婚記念日。
優馬さん、覚えててくれてるかなーーー??
クリスマスプレゼントも、特別な物を用意したい。
「ライバルがいっぱいいるから、大変だろうけどプレゼントあげるなら言ってね?協力するから」
「う、うん…………」
やっぱり、奈留には嘘つくなんてできないな………。
今すぐ、本当のことを話したいけど、動揺されるかも知れないし、とにかく、入試が終わって落ち着いたら本当のことを話そう。
とりあえず、受験勉強に専念しなきゃ……、プレゼントは勉強しながらでも考えよう………。
そして、クリスマス当日。
日直の為、職員室に日誌を取りに行った帰り、教室へ向かう途中、
「優馬先生!!クリスマスプレゼント受け取って」
学校では、優馬さんの周りに女子生徒の群れができていた。
「葵先生と別れたって訊いて、プレゼント受け取って貰おうとみんな必死みたいだな」
辻君は今、登校して来たところなのか、鞄を持ったままあたしの方へ歩いてきた。
「辻君……………」
「いいのかよ、ほっといて」
「先生は、みんなからのプレゼント受け取らないって、信じてるもん……」
「陽向にそんなに信じてもらえて、先生が羨ましい」
「何、言ってるの?きっと、辻君にもそういう人が現れるよ」
「そんなこと言われてもなーー、失恋したばかりだし、いつ現れるか……」
辻君を元気づけるつもりが、反対に落ち込ませてしまったことに気づく。
「ご、ごめん……そ、そんなに落ち込まないで」
どうしていいか、しどろもどろになっていると、辻君は顔を緩ませた。
「ウソウソ、落ち込んでなんていないって」
「もぅ、辻君ってば!!」
優馬さんが見てるとも知らないでつい、辻君の背中をバシッと叩いた。
「イタタっ………」
辻君は、痛そうに背中を摩る。
「あ、ごめん!!」
「大丈夫大丈夫、それより、陽向も先生にクリスマスプレゼントあげるんだろ?」
「うん………」
プレゼントは学校の帰りに買う予定だったけど、結婚記念日も一緒だし、サプライズでプレゼントをあげたい。
男の人ってどんな物が喜ぶのかなーーー?
「ねえ、辻君………男の人って何あげたら喜ぶと思う?」
「今日、クリスマスなのにまだ買ってないのか!?」
プレゼントを買ってないことに驚いて、辻君は目を丸くさせた。
「だって……受験勉強しながら、何がいいか考えてたら当日になっちゃったんだもん………」
どうしよう………、このままじゃ間に合わない。
「んーー、そうだなーーネクタイとかかな?」
少し考えた後、辻君は口を開く。
「ネクタイか…………学校の帰りに、お店覗いてみようかな………」
「値段が手頃で、親父の行きつけの店を知ってるけど、行ってみるか?」
「本当?助かる~~~!!」
これでやっとプレゼントの用意ができると思ったら、テンションが高くなった。
「で…………?どうして、辻君がいるわけ?道だけ教えてもらえれば、あたし独りでも大丈夫なのに…………」
辻君に教えてもらったお店に行く為に放課後、急いで日直の仕事を終わらせて目的地に到着したものの、何故かお店の前で先に帰ったはずの辻君の姿があった。
「………いや、何となく気になってっていうより、俺も親父と何回も来てるし、何か役に立つかなと思って」
「ありがとう…………でも、あたし独りでも大丈夫だから」
はっきりと断ったはずなのに、辻君は「いいからいいから」と言いながら、先にお店の中へ入っていった。
「いらっしゃいませ~~!!」
辻君の後から店に入ると、女性の店員さんの明るい声が聞こえてきた。
「あら?辻さん所の陽翔君。今日は、彼女と一緒にお買い物?」
店員さんは、あたしの方へ視線を向けると、にこやかに微笑んだ。
「ち、違います!辻君とは友達……」
「そうなんだ~~、彼女が兄貴にクリスマスプレゼントあげるのにネクタイを探してて」
あたしの声を遮るように、辻君は話を進めた。
『ちょっと、辻君……あたしにお兄ちゃんはいないんだけど』
店員さんに聞こえないように小声で言うと、辻君は人差し指を唇にあてた。
『しぃーー、俺に任せて』
「でも……………」
辻君の言うように、ネクタイをあげるのはお父さんより兄の方が、デザインも良いかも知れない。
「それなら、こんなのはいかがですか?」
店員さんは、幾つかネクタイを持ってくると並べて見せた。
色は黒や青、紺、赤、などある。柄はストラップが入ってる物や無地、その他、水玉模様など。
どれにしよう………、色的には優馬さんの好きな色は青とか
だけど、さすがに学校にしていくのには落ち着いた色のほうがいいかも知れない。
でも、高いので一万円以上のネクタイもあるから、あたしのお小遣いで何とかなるかなーーー!?
あたしは恐る恐る、値札を覗いてみると、4000円の値札が………。
お小遣いはほとんど使ってしまうけど、このくらいなら買えないこともない。
しばらく考えた後、紺色のストラップ入りのネクタイに決めた。
店員さんに、選んだネクタイを渡すと、さっそく会計をしてくれた。
「3800円になります」
「えっ……………」
店員さんの言葉に、あたしは驚いて目を向けた。
「陽翔君のお父様はお得意様なので、彼女さんだから特別におまけと言うことで」
店員さんは、人差し指を唇に当てると、ネクタイを箱に入れてラッピングをはじめた。
「はい!!お兄様もきっと、喜びますよ。ありがとうございました~~~!!」
店員さんからラッピングが終わったネクタイを受けとると、お店を出た。
「ありがとう、辻君」
店を出た後、あたしは辻君にお礼を言う。
「陽向に、お礼を言われるようなこと何もしてない」
「でも、安くしてもらえるってわかってたから来てくれたんでしょ?」
「ん……まあ………。でも、親父の影響もあるからーー」
「ううん、辻君が来てくれたからおまけしてもらえたんだし、本当にありがとう」
嬉しさのあまり、つい顔がにやけてしまう。
「もう、いいよ。それより、早く帰ったほうがいいんじゃないか?」
辻君に言われて、携帯の時計を確認すると、もうすぐ5時になるところだ。
いけない!!早く帰って準備しないと。
泊まりはダメだけど今日は、優馬さんの所に戻っていいと、特別にお父さんから許可が降りた。
優馬さんが帰ってこないうちにクリスマスツリーを飾って、お料理しなきゃ!!
優馬さんが帰ってこないうちに、家に行くと急いで準備を始めた。
部屋の飾り付けや優馬さんの好きなビーフシチューを作る。
時間を忘れ、準備に夢中になっていた時間はあっという間で、いつの間にか時計の針は7時20分を回っていた。
優馬さんまだかな…………?
優馬さんが来るまで、勉強してよう……………。
リビングのテーブルに勉強道具を広げると、勉強を始める。
でも、勉強しているうちに、睡魔に襲われてウトウトしてしまい、あとは夢の中へまっしぐら。
一方、その頃。
「全く、教頭先生に仕事を頼まれるなんてついてない」
陽向が家に来ているとも知らずに、優馬は急いで陽向へのプレゼントを買ってから陽向の家へ直行したものの、お義母さんに陽向は友達の所へ行ったと言われ、仕方なく家に帰ることにした。
折角、花束と陽向に似合いそうなネックレスを買って今日のうちにお祝いしたかったのに、留守なんてついていない。
それに、お義母さんの言っていることが、何だか意味ありげに感じたのは気のせいか…………?
まさか陽向が俺達の結婚記念日を忘れて辻と…………!?
今日はクリスマスだし、いくら受験生といえども、たまには息抜きも必要だけど、辻と一緒にいるとは考えたくない。
モヤモヤした気持ちで家に帰ると、リビングで勉強しているうちに寝てしまったのか、陽向が無邪気な寝顔で寝ている姿が目に映って、優馬は一気に力が抜けてしまった。
それに、殺風景だった部屋にはクリスマスツリーが飾ってあったり、部屋の中にも飾り付けしてあって、陽向の気持ちが伝わってくる。
思わず寝ている陽向に、キスをするのだった。
「ん……………………」
唇の冷たい感触に、あたしは目を覚ます。
勉強しているうちに、寝ちゃったんだ!!
パッと身体を起こした時、いつの間にか帰ってきたのか、優馬さんが着替えて部屋から出てきた。
「陽向、起きたか?」
「優馬さん………いつ、帰ってきたの?起こしてくれればよかったのに」
「さっき、帰ってきたばかりだけど、陽向があまりにも気持ちよさそうに寝てたから、起こしちゃ可哀想だと思って、起こさなかったんだ」
「ーーーーーー」
帰ってきたばかりで優馬さんも身体が冷えてるし、唇に残る感触は優馬さんにキスされたからかも知れない。
そう考えたら、顔が赤くなってしまう。
「どうした、陽向?」
「え?う、ううん………何でもない。そ、それより、外寒かったでしょ?ビーフシチュー作ったから、食べよう!!」
赤くなった顔を隠すように、急いでキッチンの方へ向かった。
ビーフシチューを温めたり、サラダをお皿に盛り付けしていると、
「俺も手伝うよ」
優馬さんも手伝ってくれて、早めに食事の準備が整った。
「優馬さん、ご飯を食べる前にプレゼント受け取って」
綺麗にラッピングしてあるネクタイの入った箱を、優馬さんに渡した。
「開けてもいいか?」
「うん」
あたしが頷くと、優馬さんは包み紙を開け、箱に入っているネクタイを手にした。
「陽向………サンキュー!!でも、高かったんじゃないのか?」
ネクタイを見つめながら、優馬さんは心配そうに顔をさせた。
「大丈夫、辻君のお父さんがいつもそこのお店を利用していて、辻君の知り合いならって、少しおまけしてもらっちゃったの」
彼女と間違えられて、おまけしてもらったなんて言ったら、優馬さんに嫌な思いをさせてしまう。
「ふーん、だから今日、辻といることが多かったのか…………店も一緒に行ったのか?」
一瞬、優馬さんは眉をひそめる。
「うん、で、でも……あたしが自分で選んだし、辻君はただ付き合ってもらっただけで………」
何だか言い訳にしか聞こえないかも知れないけど、優馬さんを想ってネクタイを選んだのは事実だ。
「……………わかったから。折角、陽向が選んでくれたんだし、大事に使うな」
「うん、ありがとう」
「俺も陽向にプレゼント」
優馬さんから花束と、プレゼントの入っている箱を渡されて、思わず笑顔になってしまう。
「ありがとう!!開けてもいい?」
「ああ……」
優馬さんの許可が出て、サンタさんから貰ったプレゼントみたいに、ワクワクしながら開けてみると、中には指輪の形をしたネックレスが入っていた。
「ありがとう!!優馬さん」
「ごめんな、指輪じゃなくて………………今はそれで我慢してくれるかな?」
「うん、仕方がないよ……」
学校では、先生と生徒という関係だし、指輪をネックレスにしても、体育の時間に着替える時、誰が見ているかわからない。
「つけてあげるから、前を向いて」
優馬さんに言われて、向きを変えると、あたしの首にネックレス付け始めた。
ひんやりとした感触と優馬さんの指が首筋にあたって、ドキドキしてしまう。
「はい、できた」
優馬さんはネックレスをつけ終わると、あたしの首筋にキスをした。
「ひゃっ…………」
思わず変な声が出てしまって、恥ずかしくなる。
「陽向……………」
優馬さんに後ろから優しく抱き締められ、耳元にかかる吐息が、ますます胸の鼓動を激しくさせる。
「ありがとうな、こんなに素敵な部屋の飾り付けとプレゼントまで準備してくれて」
「ううん、サプライズで優馬さんを驚かせようと思ってやったことだし」
「最初の結婚記念日だし、忘れられないような素敵な日にしような」
「うん……最初だけ?」
「勿論、来年も再来年もずっと……」
優馬さんはあたしの身体を振り向かせると、唇にキスを落とした。
「そろそろ、食事にするかーー。あぁ~~~、お腹空いた」
「ふふふ……、いっぱい食べてね!!」
久し振りに、食卓を囲みながら優馬さんとの楽しい食事もあっという間に過ぎて、帰る時間になってしまった。
食器の後片付けが終わると、リビングのテーブルに広げっぱなしの勉強道具を鞄にしまう。
ずっと、優馬さんといたいけど帰ったら、また受験勉強やらなきゃ…………。
しゅんとした気持ちのまま
帰ろうとした時、優馬さんが優しく頭を撫でる。
「陽向、勉強でわからない所があったら、学校にいる時、いつでも訊きにおいで…………って言いたいところだけど、今日は特別に2人だけの授業しようか?」
「………………!!いいの!?」
優馬さんの言葉に、あたしは胸が弾んでしいテンションが高くなる。
「但し、お義父さんの許可が降りたらな?」
あたしが頷くと、優馬さんさんはお父さんに電話をかけた。
「はい………その件に関しては大丈夫です。終わり次第、送っていきますので…………」
お父さんと話す優馬さんの真剣な表情を、近くで見ながらソワソワした気持ちでいっぱいになる。
お義父さんと何分か話して、優馬さんは電話を切ると、ホッと一息ついた。
「許可は降りたけど、必ず家まで送るようにって、お義父さんに釘をさされたけどな」
「優馬さん、ありがとう~~~!!」
小さい子供が抱きつくみたいに、優馬さんに思いっきり抱きついた。
「こら、お礼を言うのは俺じゃなくてお義父さんにだろ?」
「え~~、でも、優馬さんが言ってくれたから許可が降りたものじゃない?」
「まぁーー、勉強を理由にだけど、とにかく時間がもったいないから、さっさとやろうか?」
「はい!先生」
元気よく返事をすると、一度閉まった勉強道具を鞄から出して、テーブルの上に広げた。
「んーー、最初は英語やろうか?さっきもやっていたみたいだし」
「うん」
確かに、優馬さんが帰ってくる前に英語の勉強をしていたけど、途中で寝てしまったんだった。
優馬さんは、あたしの隣に座ると、優馬さんが帰って来る前に問いた問題に視線がいく。
「あれ?ここは少し違うな………過去形だから…………」
優馬さんの密着に、身体が熱くなって心臓の鼓動が激しく波打つ。
優馬さんが、個別指導の塾の講師をしていた時だって、こんなに密着しなかったのにーーー。
今日はやけに心臓の鼓動がドキドキとうるさい。これじゃ、優馬さんに聞こえちゃうーーー!!
「…………ここで、こうなって……って、陽向?訊いてる?」
怪訝そうに、あたしの顔を覗き込む優馬さんにハッとさせた。
「………ごめんなさい。もう一度だけお願いします」
「こらっ、訊いていなかったのか?」
軽くあたしのおでこを小突く優馬さんに、あたしは申し訳なさそうに謝った。
「仕方ないな……もう一度だけな?」
「うん」
意識してるのはあたしだけ?
でも、折角、教えてくれているのに勉強に集中しなきゃ………。
優馬さんとの個人授業は、2時間くらい続くのだった。




