新婚中も目がはなせない
陽向と優馬は学校では先生と生徒だけど、実は秘密の夫婦。
優馬の元婚約者の葵に色々と嫌がらせをされたけど、何とか解決し優馬が葵と一緒にいるのを目撃するのが少なくなってホッとする陽向。
文化祭の準備も進み、いよいよ文化祭を迎えるのだったけど…………。
いよいよ、文化祭が始まった。
「陽向ーー!!辻君と一緒に呼び込みお願い」
実行委員の子に言われて、辻君と一緒にプラカードを持って廊下へ出た。
「何で俺も………」
辻君は気まずそうな顔で、あたしから距離を置いて歩いた。
「辻君、なんか変じゃない?あたし何かしたかな?」
文化祭が始まる前に、あたしと一緒の写真を撮ってもらおうとして、急に断ってから様子がおかしい。
「陽向は何もしてない、ただ…………」
「ただ?」
「ナイトが目を光らせてこっちを睨んでるのにこれ以上、陽向の傍にいたら後で殴られそうだしな」
「ナイト?」
キョトンとしていると、他の学校の男子2人組が前に立ちはだかった。
「ねえねえ、彼女のクラスは何やってるの?」
短髪の子と少し髪の長めの子が興味津々に訊いてきた。
「あ、うちのクラスはメイドとホストがいるのでメイホスクラブを……」
「何、それ?面白そうだね。ちょっと、向こうで詳しく訊かせてよ」
短髪の男の子の方に腕を掴まれて連れていかれそうになって、あたしは慌てて腕を解く。
「詳しく説明しなくても、クラスに行けばわかりますので!!」
組が書いてあるプラカードを男の子達に見せたけど、全然効き目がなく、今度は髪が長めの男の子に肩を掴まれた。
「よく見ると、キミ可愛いね!!客の呼び込みより先に学校の中、案内してよ」
「忙しいので、お断りします!!」
男の子達から振り切って、逃げようとしたけど全然ビクともしない。
さすがに困り果てていると、近くにいた辻君が助けようと男の子の間に入った。
「陽向が嫌がってるだろ!?」
「何だテメー!!邪魔するなよ」
短髪の男の子が辻君の胸ぐらを掴むと、辻君に殴りかかった。
「やめてーーーー!!」
あたしは無我夢中で止めようとしたけど、短髪の男の子の方が一瞬早く辻君の頬にガツン!!とパンチを食らわせられた。
「辻君!!大丈夫!?」
あたしは慌てて、辻君の傍に駆け寄った。
騒ぎに気づいて、周りの人達も何事かと集まってきたので、2人ともヤバいと思ったのか逃げようとした時、
「なんの騒ぎだ!?」
人の群れを掻き分けて、優馬さんと灯野先生が駆けつけてきた。
「辻!?どうしたんだ?」
辻君の姿を見て、優馬さんが驚くのも無理もない。
「あ、あの………あたしが……あの2人に絡まれているところを……辻君が助けてくれようとして……殴られて……」
言葉を喉に詰まらせながら、何とか優馬さんに伝えると2人を指さした。
「お前達、何処の学校だ!?状況によってはキミ達の学校と警察に連絡を…………」
優馬さんが近づいて行ったけど、2人とも慌てて逃げ出した。
「こら、待ちなさい!!」
2人を追いかけて、優馬さんは駆け出した。
優馬さんが立ち去った後、
「あとは、杉浦先生に任せて、西野さんは辻君を保健室へ連れて行ってあげてちょうだい。あたしは校長先生に報告してくるわね」
灯野先生は、心配そうに辻君の頬を見つめた。
「…………………………」
校長先生に報告ってことは、何らかの処分が下されるってことになるのかな?
「大丈夫よ、西野さん。校長先生から事情を訊かれるかも知れないけど、あなた達には危害が及ばないようにするから」
灯野先生は安心させるように、あたしの肩をポンと叩くと行ってしまった。
あたしは辻君を保健室へ連れて行ったけど、先生がいなかったので消毒液とガーゼを用意すると、辻君の手当をした。
「………………っ」
そっと消毒してあげたつもりでも、痛そうに辻君は顔をしかめた。
「ごめん、痛かった!?」
慌ててピンセットを持った手を引っ込めた。
「いや……大丈夫。続けて」
「うん………。ごめんね、辻君」
結構、腫れてきた頬に消毒を塗りながら、あたしは謝ることしかできなかった。
「どうして……陽向が謝るんだよ?」
「だって、あたしを助けたばかりにこんな事になって……謝っても謝りきれない」
「気にするなよ……俺がしたくてやったことなんだから……陽向を守れただけでも…良かったと思ってる」
「辻君………………………」
申し訳ない気持ちで一杯になっていると、優馬さんが保健室に入ってきた。
「辻、大丈夫か?」
「はい……それより、あの2人は?」
そこは、一番気になるところだ。
「他の先生方も協力してくれて、捕まえることができたよ。あとは、校長先生の判断に任せよう」
「はぁ~~、良かった」
辻君は安心したのか、ホッと胸を撫で下ろす。
「でも、陽……西野のこと守ってくれて助かった。ありがとう」
優馬さんが深々と頭を下げると、辻君は照れているのかそっぽを向く。
「べ、別に先生の為に助けたわけじゃない。陽向のこと守りたいから助けただけだから」
「辻……………」
「言っとくけど、また陽向のこと泣かせるようなことしたら、結婚してようと俺が陽向を奪うからな」
「それは困るなー。誰にも渡さないために、西野と結婚したのに」
サラッと言う優馬さんだったけど、辻君に向ける視線は凄く真剣なものだった。
「ふっ、そんなの先生を見てればわかるよ」
優馬さんが真剣に言っているのに、辻君は鼻で笑った後、あたしの腕を掴むと抱き寄せた。
「ーーーー!!」
急に優馬さんの前で、辻君に抱き締められて、慌てて突き飛ばそうとしたけど、優馬さんが強引ににあたしを引き寄せた。
「その顔!!先生いっつも、その顔で俺のこと見るから、陽向のこと泣かせたら奪うって、少しカマかけてみただけだし」
優馬さんを見つめながら、辻君はやってられないと言う顔をさせた。
チラッと優馬さんに視線を向けると、攻撃的な視線で辻君を睨んでいる。
「………………………」
もしかして、辻君が言っていたナイトが睨んでるって、優馬さんのこと!?
「あのなーー、辻。いくら、カマかけたって言っても、今のは反則だからな。俺の嫁さんに触るの禁止」
優馬さんが深い溜息をつくと、
「はいはい、すみませんでした。俺、先に行ってるから2人は後から来るといいよ」
辻君は呆れた顔で、手をヒラヒラさせた。
「えっ、でも………後から先生と一緒に行くのまずいだろうし…………」
みんなにバレる恐れがある。
「何とか、みんなには誤魔化しとく」
そう言うと、さっさと辻君は保健室から出ていってしまった。
「参ったな………辻には」
辻君が出ていった後、優馬さんは苦笑いしながらあたしに視線を向けた。
「陽向、アイツらと辻に何処触られた?」
急に真剣な顔になって、訊いてきたので、あたしは正直に応える。
「腕と……肩……と……」
「わかった、陽向、こっちに来て」
優馬さんに手を引かれ、ベッドに座らせられると、腕にチュッとキスをされた。
「ゆっ、優馬さん!?」
突然のことに、恥ずかしそうに腕を引っ込めたけど、それだけじゃ終わらず、メイド服の襟首を捲ると肩にもキスをされた。
「……ゆっ……優馬さん…」
身体がじんじん熱くなるのを抑えながら、とろんとした顔で優馬さんを見つめた。
「消毒しておかないとな……。でも、そんな顔するのは俺だけにしとけよ?」
優馬さんがあたしの頭を撫でると、先生の顔に戻る。
「そろそろ教室に戻らないといけないとこだけど、陽向と交代。俺が客の呼び込みしてくるから」
「でも………………」
「これ以上、俺にヤキモチ妬かせる気か?」
あたしは首をブンブン振る。
「わかればよろしい、陽向は後から教室に戻るように」
サッとあたしの頬にキスをして、先に保健室を出ていく優馬さんの背中を見送った。
こんな幸せでいいのかなーーー。
でも、あとは優馬さんとまた、暮らせたら言うことなしだけど、お父さんの許可が必要だ。
そんなことを考えながら、教室へ戻ると、お客さんで教室は溢れていた。
「陽向、お客さん呼び込みの時、変な人達に絡まれたんだって!?」
実行委員の子が慌てて駆け寄ってきた。
「う、うん………」
「ごめん!!あたしのせいだよね。客呼び寄せを頼んだばかりに……」
「で、でも、辻君と杉浦先生が助けてくれたし……そ、それより、やけに女性のお客さん多くない?」
ちらほら、男性もいるけどほとんど女性だ。
「杉浦先生が陽向の代わりに、呼び込みしてくれているんだけど、さすが杉浦先生だよね~~、女の人に囲まれちゃって一気にこの通りよ」
実行委員の子は、満足そうに教室の中に視線を向けた。
「はい、次のお客様ご案内ーー」
優馬さんが、女性のお客さんを連れてきた。
「ホストなのに、先生はあたし達の相手してくれないんですか~~?」
女性のお客さんは、甘えた声で優馬さんの肩に触れる。
「結構、客も集まったし、そろそろ生徒のヘルプに入ろうかな」
優馬さんはにこやかに応えると、女性のお客さんをパァーと顔を明るくさせる。
「良かった~~」
それから、優馬さんに席を案内してもらって、お客さんはますます上機嫌。
その様子を、あたしはモヤモヤした気持ちで見つめた。
あんなに、にこやかな顔で接待することないじゃない。
ヤキモチ妬かせてるのはどっちよ!
イライラしてしまっている自分を抑えながら、仕事に集中することにした。
お客さんも一段落した頃、実行委員の子があたしと辻君に、休憩に入るように声をかけた。
「じゃあ、休憩に入るねーー」
チラッと優馬さんを見ると、今度はさっきと違う女性のお客さんに囲まれてもていた。
優馬さんが塾の講師をしていた時のことを思い出すな………。
まだ、優馬さんに告白する前、いつも女の子に囲まれていて、
遠くから見ていることしかできなかった。
でも、勇気を振り絞って告白して、断られても何度もアタックしたっけ………。
寂しそうに優馬さんを見つめるあたしに辻君が、溜息をつく。
「陽向のことほっといて、先生もよくヘラヘラしてられるな」
「………一応、あれも仕事だし、仕方ないよ……」
「でもなぁーー」
「ありがとう、辻君。気にしてくれて」
「陽向が、泣くとこ見たくないだけだから」
「あたしは大丈夫だよ、先生のこと信じてるもの」
「はいはい……でも、せっかくの文化祭なのに先生と回れないのはどうなんだか」
「………仕方ないよ………」
そりゃあ、できれば一緒に回りたい。
「俺となら普通に一緒に回れるのにな」
「あはは………、そうだね」
「じゃあ、俺と回る………」
「辻君の言葉は有難いんだけど、奈留の所に行ってみる。一緒に回れるかも知れないから」
軽くあしらうと、辻君はガッカリと肩を落とす。
「残念、せっかくのチャンスだだったのに」
「ごめん、そろそろ奈留の所に行ってくる」
とりあえず、奈留のクラスにでも行ってみよう。
運がよければ、奈留も休憩に入ってるかも知れない。
「ごめ~ん、陽向!もう少しで休憩入るから」
教室に顔を出したあたしに、お化け姿の奈留に謝られると、忙しい時に来て何だか凄く申し訳ない気持ちになってまう。
「じゃあ、その辺で待ってるね」
仕方ない、奈留が休憩時間まで、まだ時間があるしいったん教室へ戻ろう。
教室に引き返そうとした時、優馬さんがこっちへ歩いてくるのが見えた。
「あ、優……杉浦先生!!」
優馬さんの姿をみつけ、パアッと駆け寄ろうとしたけど、うちの学校の女子達に囲まれてしまった。
「先生、あたし達と回ろう~~~~!!」
「俺はいいから、お前達だけで回ってこい」
「え~~、じゃあ、あたし達とお化け屋敷だけ付き合ってよ」
女子達に言われて、優馬さんは最高の笑顔でニコッと微笑んだ。
「みんなと入りたいのは山々なんだけど、先生も仕事があるから楽しんでおいで」
「もぅーー、仕方ないな」
やっと諦めたのか、みんなガッカリしながら、優馬さんから離れていった。
何だか、今日はやけに優馬さんに笑顔が多い。
戸惑いながら、その場に立ちつくしていると、優馬さんがこっちに気がついた。
「西野、荷物運ぶの手伝ってくれないか?」
「今、休憩時間だしいいけど」
あたしが頷くと、優馬さんに促されて後をついて行った。
使っていない教室まで来ると、優馬さんは廊下に誰もいないことを確認してから、中へ入った。
「陽向………」
教室のドアを閉めると、優馬さんはあたしを抱き締めた。
「えっ、どうしたの?優馬さん……」
「ちょっと、陽向で充電させて」
優馬さんがあたしの耳元で囁く。
「で、でも、荷物運ぶんじゃ…………」
「陽向とこうしていたかったから、荷物運ぶのは口実」
「そんなこと言って、女の子に囲まれてデレデレしてたくせに………」
むくれた顔で口を尖らせると、優馬さんがあたしの顔を覗き込む。
「何だよ、妬いてるのか?あれは、営業スマイルに決まってるだろ?陽向にしか俺の素顔は見せないんだから」
「優馬さん………」
「でも、妬いてる陽向も可愛いけどな」
優馬さんはもう一度、あたしをギュッと抱き締めると唇にキスをした。
「よし、充電完了!!」
優馬さんはパッと身体を離すと、あたしの頭を撫でた。
「日吉も休憩に入ってる頃だし、そろそろ行くこうかーーー?誰がいるかわからないから、陽向が先に行って」
「う、うん………」
あたしは、名残惜しそうに頷くと教室を出ると、奈留の所へ向かった。
「あ、陽向ーー!!何処に行ってたのーー?」
奈留のクラス近くまで行くと、奈留が廊下で待っていた。
「ごめん、ト、トイレに行ってた」
何とか誤魔化していると、いつの間にか辻君があたしと奈留の話を訊いてたのか、意味ありげにあたしをみる。
「何?辻君…………」
「いや、何でもない」
「……………………」
多分、優馬さんと一緒にいたことは辻君にわかっているんだ………。
「な、奈留、休憩時間なくなるから、早く回ろう。何処先に行く?」
気持ちを入れ替えて、奈留のことを促す。
「うん………そうだなーー。あっ、丁度良い所に、優馬先生が来たし誘ってみよう」
後から来た優馬さんに、奈留は声をかけた。
「先生ーー!!陽向がお化け屋敷に入りみたいなんだけど、一緒に入ってあげて」
「えっ、ちょっ……奈留!?」
そんなことしたら、みんなにも睨まれるし後が怖い。
「大丈夫大丈夫、あたしと陽翔も一緒に入るから陽向は先生と後から着いてきて………だから、先生少しだけ付き合って?」
奈留は優馬さんに問いかけると、
「見回りもあるから、少しだけなら」
少し考えた後、二つ返事でOKを出した。
「と、言うことだから陽翔、中に入るわよ!!」
「あ、ああ………」
辻君は奈留に引っぱられてお化け屋敷の中へ入って行った。
「俺達も入るか」
優馬さんに促されて、後から入ると中は結構、本格的に作ってあって、薄暗い中を恐る恐る進んで行く。
途中で人形が突然、現れてドキッとする。
人形もリアルに再現してあって、急に現れたら絶対怖い!?
元々、怖いの苦手なんだよなーーー。
前を歩いている奈留達は、辻君と楽しんでるようだ。
少し足が竦んでいると、優馬さんが何も言わず、手を繋いでくれた。
「だ、誰かに見られたらまずいよ……」
あたしは小声で優馬さんに言ったけど、
「大丈夫、暗いし見えないから」
小声で返され、嬉しい気持ちと少しハラハラした気持ちのまま、出口へと向かうのだった。
廊下へ出ると、奈留はあたしの耳元で内緒話をするように口を開いた。
「どうだった、先生と一緒にお化け屋敷に入って」
「どうって………ドキドキしちゃってわからないよ……」
「お化け屋敷の中は誰もいないし、怖いフリして抱きつくとかすればよかったのに~~」
「あはは………ごめん」
他にも人がいるし、手を繋いでいたことは、今は内緒にしておこう………。
でも、奈留がこんなに応援してくれるなんて思わなかった。
やっぱり、奈留には本当のこと言うべきなのかも知れない。
「2人でコソコソ何話してるのかな?」
優馬さんは怪訝そうに、あたしと奈留を見比べた。
「先生、葵先生と別れたって本当?」
突然、奈留が訊いてきたきたので、優馬さんは目を丸くさせる。
「別れたも何も、俺と灯野先生は付き合ってない。付き合ってたのは昔の話……でも、何だよ……その話は!?」
「知らなかったの?学校中の噂になってるよ?」
驚いた顔で奈留は言った後、
「じゃあ、好きな人とかいる?」
単刀直入に話を切り出す奈留だった。
「ああ……いるよ」
「えっ、どんな人?」
興味深そうに身を乗り出す奈留だったけど、すぐにハッとして咳払いをした。
「えっと………先生の好きな人ってどんな人なんだろう?」
「んーー、そうだな……後で時期がきたら日吉にだけ紹介するから」
「本当!楽しみ~~~」
「おっと、もうこんな時間だ。そろそろ見回りに行かないと」
優馬さんが見回りに行ってしまった後、奈留はバツ悪そうにあたしに視線を向けた。
「ご、ごめん!!陽向」
「何で奈留が謝るの?」
「だって……優馬先生のこと協力するって言ったのに……先生に好きな人が………」
「ふふふ………、大丈夫。気にしないで」
なんたって、優馬さんの好きな人ってあたしだもの。
「先生に好きな人がいるって言うのに、陽向嬉しそうだね?」
奈留は、怪訝そうにあたしの顔を覗き込んだ。
「そ、そんな……顔してないよ!!」
慌てて首を振るあたしを辻君は、呆れ顔で見つめていた。
それから、文化祭は何事もなく無事に終わり、2、3日過ぎた頃、あたしと辻君は生活指導の先生に校長室へ来るようにと呼び出されるのだった。




