新婚中も目がはなせない
陽向と優馬は学校では、先生と生徒だけど秘密の結婚をしている。
その事を知っているのは、クラスメートの陽翔だけ。
でも、優馬の元婚約者の葵に優馬と付き合っていると勘づかれる。結婚していることまでは気づかれていない様子。
陽向と優馬を引き離そうと、陽向を陽翔とくっつける作戦に出る葵は2人を資料室に閉じ込めてしまう。
犯人を突き止めようと目撃者を捜す陽向と陽翔だったけど……………。
あたしは辻君と、資料室のドアを閉めた人がいないか、2、3日捜したけど目撃者は見つからなかった。
「先生達に訊いても、目撃者いないなんて、マジかよーーー……………」
放課後、誰も目撃者が現れないことに、辻君は誰もいなくなった教室で力が抜けたように大きな溜め息をついた。
「でも、今日休みの人や出張の先生だっていたし、まだわからないよ」
励ますように辻君に言ったものの、自分でも弱気になっていた。
灯野先生が資料室のドアを閉めた確率は高い。
でも、このまま目撃者が現れなかったらどうしよう………。
翌日のお昼休みも昨日、休みのだった人や出張だった先生に聴き込みをしたけど、誰も目撃者はいなかった。
「失礼しました………………」
あたしと辻君は、職員室を出ると同時に溜め息をついた。
「はあ~~~~~」
放課後で、資料室の通りは人通りが少なかったとはいえ、誰も目撃者がいないなんて…………。
「辻君………誰も目撃者がいないんだし諦めたほうがいいのかな…………」
つい弱音を吐いてしまうあたしに、辻君は横に首を振る。
「まだ、俺は諦めない」
「………………………」
「陽向はいいのか?杉浦先生に信じてもらえなくても」
「そりゃぁ………信じてもらえないのは辛いけど、証拠がないんじゃ…………」
諦めかけた時、灯野先生が追いかけるように職員室から出てきて、あたし達の前に立った。
「あなた達、この前の犯人捜しをしてるんですって?」
「犯人捜しと言うより、目撃者がいないか訊いているだけです………誰から訊いたんですか?」
このことは、奈留と優馬さんにしか言っていないはず。
「優……杉浦先生から訊いたのよ。あたしが疑わられているのは可哀想だから、疑いを晴らす為に杉浦先生も犯人捜しの協力してくれてるみたいよ」
灯野先生は、フッと含み笑いをする。
「ーーーーーー!!」
確かに証拠を捜すのを手伝ってくれるって言ってくれた。でも、それは灯野先生のことを想ってのことだったの………………?
信じられない顔で、灯野先生を見つめる。
「なあに?西野さん。信じられないっていう顔してるけど、本当に困ってる時は、杉浦先生はあなたじゃなくて、あたしの方を助けてくれるのよ」
灯野先生は、勝ち誇ったような顔をさせた。
「陽向、行こう!次の授業が始まる」
辻君は助け舟を出すように、背中を押され教室へ向かった。
「ありがとう……辻君」
教室に行く途中、まだ、次の授業まで時間があるのに気がついて、あたしはさりげなくお礼を言った。
「ん?」
「さっき、灯野先生から連れ出してくれたでしょ?」
「陽向が、泣きそうな顔してたから」
「…………………………」
そんなに泣きそうな顔してたかな………………?
「あのまま、灯野先生の言ってること本気にしてたら、身が持たないぜ」
「うん………………」
怒られた仔犬のようにしゅんとさせながら、気のない返事をしてしまう。
「杉浦先生も何やってるんだろうなーー、灯野先生が言ってること本気にして」
「…………………………」
「誰か目撃者いないのかよ!?」
辻君は、悔しそうに拳を握りしめる。
このまま、目撃者がいなかったら、優馬さんは灯野先生の言ったことを信じたままなんだよね?
そう考えるとまた、辛くなってくる。
それによりによって、次の授業は英語の時間だ。
あれ以来、優馬さんとは授業の時以外は、話さない現状だった。
逢えるのは嬉しいけど、憂鬱な気分で授業を受けることにした。
「今日は、抜き打ちテストをやるから、教科書をしまえよーーーー」
教室に入るなり、優馬さんはテスト用紙を配り始めた。
「え~~~、いきなりテストかよーーー」
「全然、勉強やってないよーーーー」
みんなは不満そうにブツブツ文句を言う。
「最近、授業でやったヤツだから、そんなに難しくないと思うから、頑張れよ~~~」
優馬さんにいわれて仕方なく、みんなは問題を解き始めた。
今はテストに集中してた方が、他のことを考えなくてすむから助かる。
何問か問題を解いてると、見回りに来た優馬さんがあたしの横を通る時、小さなメモを机の上に置いてすぐに行ってしまった。
「………………?」
優馬さんをチラッと見たけど、何もなかったように見回りを続けていた。
優馬さんが置いて行ったメモをそっと覗き込む。
『夜、陽向の家に行くから』
メモに書いてあった一言にドキドキと鼓動が速くなる。
「あたしの疑いを晴らす為に、杉浦先生が犯人捜しに協力してくれる」と言った灯野先生の言葉を思い出す。
いつまでも灯野先生のこと疑ってるから、あたしのこと嫌いになっちゃった?
それとも、別れたいとか………。
嫌な事ばかり考えてしまって、テストの問題が頭に入らなかった。
夜、夕飯とお風呂もすませてリビングでソワソワしていると、約束通り優馬さんがやってきた。
「あら~、優馬さん。いらっしゃい」
「夜分遅くすみません。陽向さんいますか?」
「いるわよ~、良かったら上がってちょうだい。陽向ーー!優馬さんが来てくれたわよ」
お母さんが、優馬さんを連れてリビングに入ってきた。
「………あっ……」
何か声をかけようとしたけど、なかなか言葉が出てこない。
「陽向、今大丈夫か?」
優馬さんは、少しお母さんの方を気にしながら尋ねてきた。
「う、うん……………」
ぎとちなく頷くと、お母さんがあたし達に気を使って、
「陽向、お父さんも仕事で遅いみたいだし、部屋に行ってお話したら?」
と、言ってくれた。
辻君と灯野先生に知られてから、お父さんの監視の目が厳しくてなかなか優馬さんの所には戻れないし、家でも優馬さんが来ても2人っきりになれることが少ない。
「ありがとうございます。陽向、行こうか」
「あら、いいのよ~。ゆっくりして行って。あとで飲み物を持っていくわね」
お母さんの好意に甘えて、あたしの部屋に優馬さんを連れて行った。
でも、2人っきりになるとドキドキしてしまって、まともに優馬さんの顔が見れない。
「え、えっ……と、優馬さん」
何か話さなきゃーーー。
言葉を考えていると、優馬さんが口を開いた。
「とりあえず、座ろう」
優馬さんに言われて、自分の部屋なのに緊張しながらカーペットの上に正座した。
「…………陽向、ごめん!!」
突然、優馬さんが謝ってきたので、驚いて目を見開いた。
「ど、どうしたの……優馬さん…?」
やっぱり、別れたいとか…………!?
嫌な予感にドキドキしながら、優馬さんを見つめた。
「資料室のドア閉めた犯人を目撃者した人が見つかったんだ」
「えっ…………………」
あれほど捜してもいなかったのに、いったい誰が目撃してたんだろう。
「清掃に来ていた用務員のおじさんが、目撃していたんだ……」
「…………………………」
目撃者が用務員のおじさんだったなんて、思いもよらなかった。
「それで………陽向と辻が資料室に入った後、近くにいた灯野先生がドアを閉めたのを見たみたいなんだ」
「ーーーーー!!」
やっぱり、灯野先生が犯人だったんだ!!
いくらなんでも酷すぎる。
「本当にごめん!!」
「………ううん、嘘じゃないってわかってくれただけで充分。それに、目撃者まで捜してくれてありがとう……」
「こらっ、陽向が困ってる時に助けるのは当たり前だろ?」
優馬さんに引き寄せられ、コツンと自分のおでことあたしのおでこをくっつけた。
「で、でも……灯野先生の為に捜してくれたんじゃ……………」
「は?そんなことあるわけないだろ。もしかして……俺が灯野先生のこと信じてあげようとしてたこと、まだ気にしてるのか?」
「だって……………」
「今は友達だし、友達を信じてあげたい気持ちもあっただけのことだから。陽向だって、もし俺の立場で日吉が灯野先生の立場だったら、信じてあげたい気持ちにならないか?」
「……………………………」
そう言われてみれば、もし奈留が灯野先生の立場だったら、そんな気持ちも芽生えることもあるかも知れたい………。
あたしは子供のように、思わずギューっと優馬さんに抱きついた。
「わかってくれた?」
優馬さんに訊かれて、コクリと頷く。
「わかってくれたなら、よかった。じゃあ、話はこれで終わり」
優馬さんは優しく抱き締め返すと、あたしの瞳を覗き込む。
「よかった…………実は言うと、優馬さんに別れたいとか言われるんじゃないかってビクビクしてたんだ………」
安心したせいか力が抜けて、優馬さんに凭れかかった。
「バカだなーー、そんなこと言うはずないだろ?」
「~~~~~~っ」
「陽向のことが一番大切だから、結婚したのに」
もう一度顔を覗き込まれ、その真剣な瞳には、とても優馬さんが嘘をついているようには思えなかった。
「何があっても、俺が陽向を守るから」
ゆっくりと優馬さんの顔が近づいて、あたしは目を閉じる。
そして、唇が触れそうになって時、
「陽向、ジュース持ってきたから入るわね~~~」
いきなり、お母さんが入ってきたので、驚いて優馬さんはパッとあたしから離れてしまった。
もぅ~~~!!久しぶりにいい雰囲気でキスできたのにーーー。
「あら、ごめんなさ~~い!ここにジュースを置いとくから、あと続けてちょうだい。でも、それ以上のことは卒業してからね。お父さんとの約束もあることだし」
トレーに乗せたジュースをテーブルの上に置くと、さっさと部屋出て行った。
「もぅ~~!お母さんってば何言ってるの」
恥ずかしさのあまり、顔から火が出そうになるのを抑えながら、持ってきてくれたジュースに手を伸ばそうとした時、優馬さんに腕を掴まれた。
「陽向、お母さんのお許しもでたことだしキスしようか?」
「な……何言ってるの?優馬さんまで」
耳まで真っ赤にさせながら、優馬さんから目を逸らしたけど、唇を奪われてしまった。
「んぅ……ゆ……優…馬さん」
久しぶりのキスは、次第に深くなっていき身体を熱くさせる。
頭がボッーとしてきたところに、優馬さんにヒョイッと抱き上げられると、ベッドの上に寝かされた。
ーーーーー!!
えっ、ままままさかこのままーーー!?
「あ、あの……ゆ、優馬さん!!」
突然のことに、あたしは慌てふためいた。
「できることなら、このまま陽向の全部を奪いたいところだけど、お父さんとの約束もあるし、今はこの辺で我慢することにしようかな」
優馬さんの吐息が首筋にかかると鎖骨の方へとチュッチュッとキスのシャワーが降り注ぐ。
「んっ……あっ…………」
変な感覚に襲われて、思わず変な声が出てしまった。
は、恥ずかし~~~!!
真っ赤にさせながら、両手で顔を隠すあたしの手を優馬さんに掴まれた。
「え、えっと………ゆ、優馬さん」
ドキマギしながら、優馬さんを見つめる。
「はぁ~~~、そんな声出されたら、理性が飛ぶ」
優馬さんが耳元で囁くと、鎖骨に向かってキスをすると同時にピリッと痛みが走った。
ーーーーーー!?
突然のことに、パッと鎖骨に触れる。
「……………っ………!!」
「虫除けしとかないとな」
優馬さんはニッと微笑むと、あたしから離れベッドから下りた。
まままさか……キスマーク!?
「さてっと、ここからは本題に入ろうかな」
「…………………っ」
優馬さんの後に起き上がって、ベッドに座ったのはいいけど身体が熱く感じて、優馬さんの切り替えに頭がついていけない。
「灯野先生のことだけど……明日、辻にも集まってもらってきちんと話を………陽向?」
固まっていあたしの方を振り向くと、優馬さんは子供をあやすように頭をポンポン撫でる。
「陽向にはちょっと、刺激が強すぎだったかな?」
「そ、そんなことない………」
顔を真っ赤にさせながら応えたけど、
「卒業したら、ゆっくりと進めていこうな」
優馬さんは、チュッと頬にキスをした。
「~~~~っ~~~!!」
卒業したら、キス以上のこともするってことだよね!?
ドキドキと鼓動が速くなって身体が熱く感じた。
頭の中で動揺しながらも、優馬さんの話に耳を傾ける。
明日、灯野先生と辻君を呼び出して資料室のドアを閉めた犯人がわかったことを打ち明けることだった。
早速、放課後に灯野先生と辻君を呼び出して犯人が灯野先生だったことを話すと、辻君はやっぱりっと言う顔で納得しているのに対し、灯野先生は堪忍したのか深い溜息をついた。
「そうよ、あたしがドアを閉めたの」
「どうして……そんなこと」
怪訝そうに見る優馬さんだったけど、灯野先生は開き直ったように口を開いた。
「仕方ないじゃない、西野さんが邪魔だったんだもの」
「だからって、やっていいことと悪いことがあるだろ?」
それを訊いて優馬さんは、深い溜息をつく。
「そうだけど……西野さんと辻君の間に何かあれば、優君だって考え直すでしょ?」
要するに灯野先生は、あたしと辻君がくっつけば優馬さんが自分の所へ戻ってくるって信じてるらしい。
「灯野先生、もう諦めなよ。杉浦先生だって忙しいのに、陽向の為にわざわざ犯人捜ししてくれたんだし」
辻君が灯野先生を説得してくれてるものの、がっかりしている様に感じた。
「やあねー、優君が協力してくれたのは、西野さんの為じゃなくて、あたしの為よね?」
灯野先生は確認するように、優馬さんの顔を覗き込む。
「悪いけど、辻が言ってることは本当だ」
「う、嘘よ……そんなの信じない。西野さんだって、今は先生に憧れる歳なの。卒業しちゃえば、先生と付き合ってたことなんて想い出にしか過ぎないわよ」
「そんなこと、絶対にない!!あたしは本気で先生のことが好きなんです」
優馬さんに対する気持ちを否定されたみたいで、あたしは感情的につい言い返してしまう。
そんなあたしを落ち着かせる為か、優馬さんに頭をポンポンと撫でられる。
「西野はそんな中途半端な気持ちで俺と付き合ってたわけじゃない」
「そんなのわからないわよ。それに、辻君は西野さんのこと好きなのよ?資料室でも長い時間二人っきりだったし、二人の間で何かあってもおかしくないじゃない。西野さんだって辻君の方に気持ちが傾いてるかも知れないわ」
灯野先生の言葉に辻君は首を振る。
「………俺がいくら迫っても、陽向の気持はなびかないよ。杉浦先生と陽向を引き離すことはできない」
「ふふふ………引き離せないですって?何言ってるの?」
可笑しそうに笑う灯野先生とは反対に、あたしと優馬さんが結婚してることをバラすんじゃないかとハラハラするばかりだ。
「辻、もうそのくらいにしとけ」
優馬さんにポンと肩を叩かれて、辻君は納得できなさそうに眉をひそめた。
「とにかく、もう二度とあんなことはするなよ。西野の親御さんも心配してたんだからな」
優馬さんは、灯野先生に厳しい視線を向けた。
「その事については、謝るわ。西野さんも辻君も、ごめんなさい………。優君もそんなに怒らないで」
怒られた子供のように、灯野先生は頭を下げながら、しゅんと肩を落とした。
「わかればいいんだ」
優馬さんはホッとしてるけど、灯野先生があたしと辻君をくっつけようとしてることについては、まだ何も解決してない。
「よかった………優君に嫌われたらどうしようかと、思っちゃった」
灯野先生は熱い視線で優馬さんを見つめた。
「とにかく、これに懲りて西野と辻をくっつけようと思わないことだな」
「あら、生徒の恋に協力してあげてるのにそれはないわ」
「もう諦めろよ、辻をけしかけたって、どうにもならないことくらいわかってるだろ?」
「…………………」
「それに、もう一度言うけど、俺はもう葵と寄りは戻せない」
「………………………」
優馬さんの2度目の言葉に、辛そうに灯野先生は何も言えずに項垂れた。
「西野は俺にとって、大切な存在なんだ。だから、辻にも渡す気はない」
その言葉に、あたしは嬉しくて思わず優馬さんの袖を掴んだ。
「本気なのね………」
灯野先生はボソッと呟くと、悔しそうに唇を噛み締めた。
「灯野先生、あの………あたしも本気で杉浦先生のことが好きだから別れるつもりありません!!」
あたしも必死に気持ちを伝えると、灯野先生は深い溜め息をつく。
「2人の気持ちはよくわかったわ………諦めるしかないのね………」
寂しそうに応える灯野先生は、涙を堪えているようにみえた。
それからと言うもの、灯野先生と優馬さんが一緒にいるところをあまり見かけなくなった。




