新婚中も目がはなせない
陽向と優馬は学校では先生と生徒だけど、実は結婚している。でも、クラスメイトの陽翔に知られてしまう。
おまけに、優馬の元婚約者の葵が現れ、今まで住んでいる部屋は優馬と葵が住んでいた部屋と知りショックを受ける陽向。
そんな陽向に気を使って、優馬は引っ越すことを決意する……………。
引越してから何日か過ぎて、優馬さんはお父さんと会う約束をした。
「大丈夫かな…………」
ソワソワしながら、時計をチラッと見た。
お父さん……仕事の帰りに優馬さんと会う約束をしたみたいだけど、夜の8時を過ぎても帰ってこない。
話が拗れてるのかな…………。
オロオロしていると、玄関が開く音がしてお父さんが帰ってきた。
「ただいまーー」
「お帰りなさい」
あたしは、パッとお父さんを玄関に出迎える。
「何だ?そんなに慌てて」
「お父さん、優馬さんと会ってたんでしょ………………?」
「ん?ああ……」
「それで………考えなおしてくれた?あたし達のこと………」
恐る恐る訊いてみると、お父さんは溜息をつく。
「優馬君が陽向を大切しているのはわかったし、今回は目を瞑ろう」
「良かった~~~。じゃあ……そろそろ、優馬さんの所に戻っても………」
一安心しながら、期待に胸を膨らませる。
「それはダメだ………」
「えっ、どうして!?引っ越して新しい環境にも慣れたいし……それに、今までみたいに灯野先生だって来ないはず」
引っ越したことは、校長先生以外の人には話してないって、優馬さんは言っていた。
「優馬君と一緒にいる所を、いつ誰かに見られるとも限らない。卒業までは家にいなさい」
「……………………………」
お父さんの言ってることにも一理ある。でも、優馬さんといられないなんて寂しいよーー。
お父さんに言われたからと言って、そう簡単には気持ちは抑えられきれない。
休み時間にこっそり優馬さんに逢いに、英語準備室へ足を向けた。
ドアをノックすると、優馬さんが顔を覗かせた。
「西野…………どうした?」
「え………あ、授業でわからない所があって…………」
勉強を口実に、持ってきた教科書を見せる。
「次の授業の準備があるから少ししか教えられないけど、それでもいいなら」
「うん、わかった」
大きく頷くと、準備室の中へ入った。
「じゃあ、早速だけどわからない所のページを開いて」
「…………ごめんなさい。授業でわからない所があったのは嘘なの…………優馬さんに逢いたかったから勉強を口実にしただけ」
気まずそうに俯くと、優馬さんはあたしの頭をポンポンと撫でた。
「引っ越してから、2人っきりになれなかったもんな」
「うん………あたしは優馬さんの所に帰りたいんだけど、卒業してからしかお父さんの許可がおりなくて………」
「仕方ないさ……お父さんも陽向のことが心配なんだよ」
「わかってる、わかってるけど……………」
気持ちが落ち込むばかりで、シュンとしながら俯いた。
「陽向……今日のお父さんの予定はどうなってるかな?」
突然、訊かれて朝、お父さんがお母さんに言ってたことを思い出す。
「確か、今日は仕事で遅くなるとか言ってた………」
「今日は早く帰れそうだから、夕飯を作ってくれないか?久しぶりに陽向の手料理が食べたい」
「うん…………………!!」
「じゃあ、これ合鍵。まだ、渡してなかったからな」
そう言って、あたしの手に合鍵を渡す。
「優馬さん、ありがとう!!」
嬉しくて、合鍵を握り締めた。
「その代わり、お父さんが帰る前には帰ること。送って行くから」
本当はずっと優馬さんと一緒にいたいけど、今は我慢するしかない。
あたしは大きく頷いた。
学校が終わると急いで夕飯の買い物にスーパーへ寄り道してから、優馬さんと一緒に住むマンションへ行く。
久しぶりに、優馬さんの好きなビーフシチューを作ろうーーー!!
腕によりをかけて、優馬さんが帰ってくるまでに夕飯の支度を始める。
食事ができあがる頃、玄関が開く音がして、
「ただいまーー。陽向、来てるのか?」
優馬さんが入ってきた。
「優馬さん、お帰りなさい!!」
パッと駆け寄ると、優馬さんに抱きついた。
「ん~~、いい匂い。もしかして、ビーフシチューを作ってたのか?」
ギュッとあたしを抱き締めると、犬みたいに鼻をクンクンさせた。
「うん!久しぶりに作ってみた」
「じゃあ、早速だけどお腹空いたし食べようかな?」
「今すぐ用意するね!その間に優馬さんは着替えてきて」
キッチンに戻ると、急いで食事の用意を始めた。
最後のサラダをお皿に盛りつけると、テーブルの上に並べる。
少し経つと、着替え終わった優馬さんが部屋から出てきた。
「陽向も食べていけるのか?」
「うん、お母さんには言ってきたから大丈夫」
「じゃあ、食べよう!」
「うん!!」
久しぶりに、食卓を囲んで優馬さんと食べる食事は幸せいっぱいな気持ちになる。
「陽向、口についてる」
「え?何処」
あたしは慌てて指で口を拭いた。
「まだ、ついてる。拭いてあげるからこっち見て」
「うん」
恥ずかしそうに少し顎を上げると、優馬さんは犬みたいに唇をぺろっと舐めた。
「ーーーーー!?」
突然の出来事に、あたしは恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にさせた。
「ご馳走様」
学校では見せない、優馬さんの悪戯っ子みたいな仕草にドキドキが止まらない。
「陽向、顔が真っ赤」
「もぅ~~~!優馬さんがそんなことするからーーー」
唇を尖らせると、ビーフシチューを口に入れた。
「ごめんごめん、陽向が可愛かったから」
「優馬さん」
そんなことを、サラッと言う優馬さんにキュンとしてしまう。
食事が終わると、優馬さんも後片付けを手伝ってくれて、すぐに終わらせることができた。
「陽向、まだ時間大丈夫か?」
優馬さんに言われて、時計見ると夜の8時を少し過ぎたところだった。
「うん、もう少しだけなら」
「じゃあ、ここにおいで」
優馬さんは購入したばかりのソファーに座りながら、隣りをポンポン叩く。
優馬さんに促されて、隣りに座ると、優しく抱き締めてくれた。
「陽向、少しこのままでいさせて」
「優馬さん………」
食事している時の出来事を想いだして、また顔を赤くさせる。
「あーあ、このまま陽向を帰したくない………」
「あたしだって帰りたくないよぉーー。でも、誰に見られるかわからないから卒業するまでダメだって、お父さんが用心深くて…………」
寂しくなって、ギュッと優馬さんに抱きつく。
「そりゃあ、お父さんだって用心深くなるさ。灯野先生と辻に俺達のこと知られちゃったわけだし。でも、いまだに誰かに話していないんだから、2人のことは心配することはないだろうけど」
「うん………」
「俺も安心してるんだ。もし、2人が誰かに話す素振りだったら、その前に校長先生に打ち明けて、陽向だけでも学校を辞めなくてすむように掛け合おうと思っていたから。そのことは、お父さんとも話したことだけど……………」
「……………………」
あたしのこと一番に考えてくれることは嬉しいけど、優馬さんが学校を辞めることになったら、きっと一緒に辞める。
「そろそろ、送ってく」
優馬さんと一緒にいられるのもあっという間で、帰る時間が来てしまった。
名残惜しそうに、優馬さんと一緒に玄関の外へ出ると、玄関の前に人影があるのに気がついて、優馬さんは身体をビクつかせた。
「優馬さん…………?」
不審に思い、優馬さんの視線の先に目をやると、そこにいたのは灯野先生だった。
「ーーーーー!?」
どうして、灯野先生がこんな所にいるの!?
「来ちゃった………………」
灯野先生は優馬さんに近づくと、すがりつくようにしがみついた。
「来ちゃったって………どうして、ここがわかったんだ?」
呆然とする優馬さんに、灯野先生は少しムスッとさせた。
「優君、急に引っ越しちゃったから、校長先生に訊いたらすんなりと教えてくれたもの」
優馬さんは、「しまった」っと言う顔をしたけどもう遅い。
でも、引越し先まで来るなんて、これじゃまるでストーカーみたいだ。
「どうして、引っ越しちゃったの?もしかして……西野さんの為?」
「……………………」
「本気なの?このままじゃ、2人とも学校にいられなくなるかも知れないのよ!?」
「それでも構わない」
「どうして?あたしは前と変わらず優君のことこんなに好きなのに……」
灯野先生は優馬さんに抱きついた。
「葵ーーー!!」
慌てて引き離そうとしたけど、灯野先生は優馬さんの顔に近づけるとキスをした。
「ーーーーーー!!」
あたしは、ショックで放心状態になる。
「いきなり何するんだよ!?」
優馬さんは慌てて灯野先生の身体を離した。
「今更、そんな慌てることないじゃない。昔は、もっと激しいキスしたのにーーー」
灯野先生の言葉に、あたしはまたショックを隠せないでいた。
激しいキスって!?ディープキスってこと??
優馬さん、あたしには激しいキスなんてしてくれないのに。
「そ、そんなの昔のことだろ!?」
あたしの顔色を見ながら、優馬さんはオロオロしている。
「ううん、あたしにしたら昔のことじゃないもの」
すっと優馬さんの首に手を回すと灯野先生は、またキスをしようとした。
「ーーーーー!!」
これ以上、見たくない!!
思わず目を逸らそうとした。
「いい加減にしろ!!」
優馬さんは強い口調で、灯野先生を突き放すと、あたしの肩を抱き締めた。
「どうして?優君…………あんなに愛し合ったのに」
灯野先生は、寂しそうに顔を歪ませた。
「言っただろ?もう、俺達は終わったんだ」
「……………あたしは、そうは思わない。諦めないからーー!!」
灯野先生はジロっとあたしの方を睨みつけると、あたし達の前から去っていった。
「はぁーーーーー」
灯野先生が行ってしまった後、優馬さんは深く溜め息をつく。
「優馬さん………………」
不安になって、ギュッと優馬さんの袖を掴んだ。
「ごめん、陽向」
優馬さんは優しくあたしの頭を撫でてくれたけど、不安は消えなかった。
それから、毎日のように灯野先生は優馬さんにベッタリで学校中、2人は結婚すると噂が広まっていた。
「優馬先生、葵先生といつ結婚するのーーー?」
授業中もクラスの女子に質問詰めにあっていた。
「結婚するって誰が言ったんだ?」
教科書に目をやりながら、優馬さんは口を開いた。
「だって、みんな言ってるもん」
「みんなが言ってるからって、本当に結婚するとは限らないだろ?」
「俺は、灯野先生が杉浦先生と結婚するって言ってるの訊いたけど?」
今度は男子が騒ぎ立てた。
「あのな…………、俺は結婚するなんて一言も言ってないんだけどな」
優馬さんは呆れた顔で、深い溜め息をつく。
「え?じゃあ、葵先生とは結婚しないのーー?」
クラスの女子は、期待に胸を膨らませながら目を輝かせる。
「今は授業中だから、この話は終わりな。それより、この問題はセンター試験にも似たような問題がでるから覚えておけよ~~」
一方的に話を終わらせると、優馬さんは黒板に書いた英文を指差した。
みんな何か言いたそうにしていたけど、諦めてノートに写し始めた。
授業が終わると、優馬さんはさっさと教室を出て行ってしまった。
「陽向ーー、お昼一緒に食べよう!!」
英語の授業が4時間目だったので、チャイムが鳴り終わるとすぐに奈留が教室に顔を出す。
「うん…………あっ…………」
返事をして鞄からお弁当を取り出そうとして、ハッと気がつく。
そうだ、優馬さんにお弁当を作ってきたんだったーーー。
「ごめん、奈留。トイレに行ってから行くから、先に行ってて」
「あ、うん。わかった」
奈留が行った後、あたしは隠すようにお弁当を持って優馬さんの所へ急いだ。
準備室にいるかわからないけど、いなくても置いておけば気がついてくれるかも知れない。
そんなことを思いながら、準備室へ行くとやっぱりまだ、来ていなかった。
机の椅子を引くと、誰が入ってきても大丈夫なように袋にお弁当を入れたまま、椅子の上に置いてまた戻に戻した時、
「ね、受け取ってくれてもいいでしょ?」
灯野先生の声が聞こえてきて、反射的に机の下に隠れてしまった。
優馬さんと灯野先生が入ってくる気配がして、机の陰からそっと覗く。
「悪いけど、受け取れない」
どうやら、灯野先生も優馬さんにお弁当を作ってきたらしく、食べてもらいたいみたいだ。
「どうして?昔は、美味しい美味しいって食べてくれたじゃない」
「もう、昔のことはもういいだろ………終わったことだし」
「………あたしは優君に食べてもらえて、凄く嬉しかったんだから」
「………………………………」
「これで最後にするから、今日だけ受け取って……お願い」
灯野先生は、縋るように優馬さんを見つめていた。
優馬さんは、少し困った顔をしたけど、椅子の上に置いてあるお弁当に気がついたのか、さっと椅子から取ると、お弁当を見せた。
「今日は弁当……持ってきてたんだった。だから、受け取れない」
「お弁当って、優君が作ったの?」
驚いた顔で見る灯野先生に、優馬さんは顔色を変えずに応える。
「ああ」
「一緒に暮らしてる時は全然、料理なんてしなかったじゃない」
灯野先生の言葉にあたしは驚きを隠せない。
朝、寝坊した時なんて優馬さんが朝食を作ってくれたりしているのに。
「ま、あ、ある程度、自炊もできないと思って少しは……」
「……優君が作ったお弁当かーー、なんだか興味あるわね……ねぇ、あたしも味見させて!!」
灯野先生はパッとお弁当を優馬さんの手から奪い取ると、開け始めた。
「あ、おい!勝手に開けるなって」
優馬さんは、慌てて取り戻そうとしたけどもう遅い。
灯野先生はお弁当の蓋を開け、言葉を詰まらせたまま固まっていた。
誰かに見られても大丈夫なように、普通に作って詰めたつもりだったけど、優馬さんが作ってないってバレた………!?
オロオロしながら机の陰から、灯野先生を見つめることしかできなかった。
「想像してたより、上手に作れているのね」
「け、結構、料理の勉強したからね」
苦笑いしながら応える優馬さんは、どことなくぎこちない。
「ま、それはそうだけど……………」
「そろそろ、返してくれないかな?」
優馬さんが手を伸ばしたけど、灯野先生はお弁当を離さない。
「まだ、味見してないからダメ」
そう言って、灯野先生は卵焼きを口に運んだ。
「ーーーこの卵焼き、本当に優君が作ったの?」
食べ終わったあと、灯野先生は怪訝そうに優馬さんを見た。
「ああ………」
優馬さんはとことんシラを切るつもりらしい。
「嘘よ。卵焼きは甘党だったでしょ?」
「ーーーーー!!」
お母さんの卵焼きは少し甘さ控えめの卵焼きで、それが当たり前なのかと思っていた。
あたしが作る卵焼きを、優馬さんはいつも美味しいって食べてくれてたから、気づかなかった。甘党だったなんて………………。
よく考えてみれば、ケーキーやシュークリームの甘さなんて気にせず食べてたいた。
あたしだけ知らずにバカみたい…………………。
自己嫌悪に陥ってしまう自分に、落ち込むあたしの耳には優馬さんの優しい言葉が届いた。
「最近は、甘さ控えめの卵焼きにハマってるんだ」
「ふーーん」
いまいち納得いかなさそうに、灯野先生は卵焼きを見つめていた。
「あ、ほら。時間もなくなるし、早く食べないといけないから返してくれないかな?」
「いいわよ」
「それじゃあ………」
ホッとした顔で、優馬さんは手を伸ばした。
「でも、その前に一つだけ条件があるの。条件を呑んでくれたら、返してあげてもいいわよ」
「条件……………」
あたしも優馬さんも息を呑む。
「簡単よ。あたしが作ったお弁当を食べてくれればいいだけだもの」
「それは、ちょっと………」
優馬さんは困った顔をさせたけど、
「食べてくれないなら、返してあげない」
子供が駄々をこねるみたいに、灯野先生はそっぽを向いてしまった。
どうしよう、灯野先生のお弁当は食べてほしくない。でも、食べないとあたしの作ったお弁当は食べてもらえない。
もやもやした気持ちで、机の陰から2人を見つめた。




