新婚中も目がはなせない
陽向と優馬は学校では秘密の夫婦。
でも、憧れの先生、葵が元婚約者だと知ってヤキモチを妬くばかり。
そんな中、奈留と花火大会に行く約束をする。
待ち合わせ場所に行くと何故か陽翔がいて、そのまま一緒に花火を観ることになったけど、優馬と葵にばったり逢いショックを隠せないでいた。
「陽向、花火大会どうだったぁーーーー?」
花火大会の翌日、奈留から電話がきた。
「どうだったって…………別に……」
優馬さんのことを思い出して、かき消すようにブンブン首を振る。
「別にって、陽翔と一緒に花火を見たんだよね?」
「見たけど……酷いよ、奈留!あたしは奈留と花火見るつもりで、行ったのに辻君がいるんだもん」
「ははは…………ごめん!陽翔がいまいち自分の気持ちを押しきれないみたいだから、ついね~~~~」
奈留の明るい声が、耳に響く。
辻君に告白されたことは、奈留も知っているはずだけど、断ったことはまだ話していない。
「あのね……奈留」
あたしが断ったことを話すと、
奈留のしょんぼりした声が耳に届く。
「陽向には陽翔みたいな人が、お似合いだと思ったんだけどなーーー」
「……………………………」
そう言われると、辻君みたいな人を好きになってたら、こんな辛い気持ちなんて知らなかったのかもしれない。
「ね、今からでも陽翔のこと意識してみたら?好きになるかも知れないし」
「ごめん……………」
やっぱり、意識するのは優馬さんだけ……………。
「そうだよね…………急に言われても困るよね………。無理言ってごめん!!」
「ううん…………」
奈留に、優馬さんのことを打ち明けられないのが心苦しい。
しばらく奈留と話して、電話を切ると優馬さんからメールが入っていたことに気づいた。
ーーー陽向、辻に何もされなかったか!?
「……………………………」
心配してくれてたんだ…………?
キュンと胸が高鳴ったけど、抑えながらメールを返信した。
ーーーあたしのことより、灯野先生のこと気にしてあげて
ーーー花火大会でのこと気にしてるのか?
「……………………………っ」
胸の内を見透かされて、あたしはドキッとする。
ーーーー今日は他の先生方と見回りに行ってただけで、灯野先生もその中の独りだから。
「何だ………見回りだったんだ…………」
優馬さんの返信に、ホッとしながら電話を握り締めた。
もしかして、あたしの誤解を解くためにメールくれたのかな……………?
何だか、優馬さんと前みたいに話せるような気がして、今だったら、将来のことで相談にのってくれるかも知れない。
距離を置こうって言われたけど、電話をかけるくらいいいよね?
勇気をだして、優馬さんに電話をしてみる。
呼び出しコールが何回か鳴ってから、電話に出た気配がした。
「もしもし……優馬さん?」
あたしは、ドキドキする胸を抑えながら呼びかけた。
「あら、西野さん?」
「ーーーーーー!?」
その声は、灯野先生ーーー!?
電話を握り締めたまま、固まってしまった。
「杉浦先生に何か用?」
「え…………と」
何か言わないと…………。
そう思っているのに、思うように言葉が出ない。
「今、お風呂に入っているから、出て来たらかけ直すように伝えておくけど……」
「……………………!!だ、大丈夫です!!」
慌てて電話を切ると、へなへなと床に座り込んでしまった。
灯野先生、優馬さんの所にいるの?
じゃなきゃ、優馬さんがお風呂に入ってるなんてわかるわけないよね…………。ま、まさか、灯野先生と身体の関係…………。
でも、婚約者だったんだし、身体の関係もあったんだよね?多分………………。
だんだん、想像が膨らんでいく頭の中を消すように、ぶんぶん首を振った。
優馬さんを疑うなんて、自分がだんだんイヤな子になってしまう。
いつまでたっても相談できそうにないまま夏休みは終わり、始業式を迎えた。
「おはよー、陽向」
始業式の為、体育館へ移動するのに席を立つと、教室を出て行こうとすると辻君に肩を叩かれた。
「おはよう、辻君。あっ…足…………」
花火大会では、少しびっこを引いていた足も今は普通に歩いていた。
「あー、足?もうすっかり良くなったから」
辻君が、軽くジャンプしてみせた時、クラスの男子数人がニヤニヤしながら近づいてきた。
「陽翔、見たぞ!西野と2人で花火大会に行ってただろーー?」
「何だよ、来てたんだったら声かけてくれればよかったのに」
「いや~~~、2人の邪魔しちゃ悪いと思ってさーーー」
「そりゃあ、邪魔されたくないけど」
「付き合ってないようなこと言ってたけど、本当は西野と付き合ってるんじゃないのか~~?」
「いや…………付き合ってないから」
「本当かよ?」
「ああ」
辻君がきっぱり言うと、クラスの男子はつまらなさそうに、先に体育館へと移動した。
「これじゃ、他にも俺達を見かけたヤツがいるかも知れないな…………」
「そうだね…………」
確かに、クラスの人に逢わなかったけど、あたし達が気がつかなっただけかも知れない。
「また、俺達が付き合ってるなんて噂になったら、杉浦先生に怒られそうだけどな」
「………そうかな………先生には、距離を置こうって言われてるから、もうあたしには気持ちがないかも知れないし」
「は?何だよ、それ…………!?結局は灯野先生を選んで陽向とは別れるつもりなのかよ」
「しぃーーー!辻君、声が大きいってば」
はらはらしながら、周りを見たけど、幸い近くには人はいなかった。
「悪い………つい」
「まだ、はっかり言われたわけじゃないし、そうと決まったわけじゃ………………」
「……………バツイチになっても、俺が陽向のことずっと守るから心配しなくていいよ」
突然のプロポーズらしき言葉に、ドキッとしてしまった。
「あの、辻君…………それって何だか………」
おずおずと言いかけた時、
「こら、そこ!早く体育館に移動しなさい」
先生の怒鳴り声にビクっと身体が反応する。
振り向くと、優馬さんがムスッとした顔で立っていた。
「陽向、行こう!」
辻君はあたしの腕を掴むと、早足で歩き出したけど、優馬さんにも腕を掴まれて、あたしはどうしたらいいか躊躇してしまう。
「あ…………もう、体育館に行かないと」
あたしの言葉に、優馬さんは掴んだ手を離す。
「は……………早く行きなさい」
「うん…………ゆ…杉浦先生もね」
「ああ……………」
寂しそうに、優馬さんは頷いた。
「ーーーーーー」
本当にあたしと別れること考えてるなら、あんな顔するかな………?
あたしの脳裏から1日中、優馬さんの表情が忘れられないでいた。
「進路調査の用紙に第3希望まで書いて、来週の2者面談で見せてもらう。決定ではないので、まだ考え中の者は、面談の時に相談にのるから言うように」
夏休み明けてから何日か過ぎて、担任の先生が進路調査の用紙を配った。
まだ、なんにも決めてないあたしにとって、凄く悩むところだ。
まずは優馬さんに相談したいのに、なかなかタイミングが合わなくてどうすればいいのかわからなくなっていた。
担任の先生に相談することは自然なことなんだろうけど、このまま決まらなかったら、大学にいかないでそのまま優馬さんの所に永久就職っていう選択もありかも知れないなんて、考えたこともあったけど、灯野先生のことがチラついて、気持ちは落ち込むばかりで何も考えられなくなっていた。
「陽向、進路のこと杉浦先生に相談できたか?」
休み時間になると辻君が、こっそりと耳打ちしてきた。
あたしは静かに首を振る。
「やっぱり、陽向のことほっとけない。俺が力になる。だから、帰り一緒に帰ろう」
辻君だったら、真剣に話を訊いてくれるかも知れない。
そう思ったら、自然と首を縦に振っていた。
放課後ーーー。
「陽向、ごめん。これから委員会があるから、教室で待ってて」
「うん」
急遽、委員会の集まりで辻君は慌てて、教室を出て行った。
とりあえず、辻君が戻ってくるまで暇だし、課題でもやっておこうかな………。
数学の時間に、課題を出されたことを思い出して鞄からプリント
を出した。
しばらくやっているうちに、わからない所が出てきて、頬ずえをつきながら考えてるうちに、ウトウトとしてきて机に頬をつけながら深い眠りに入ってしまっていた。
スヤスヤ寝息をたてているころ、優馬さんが教室の前を通るとも知らずに…………………。
下校時間が近づいてきた頃、優馬は陽向の教室の前を通る。
「おーい、そろそろ下校時間だぞーーー早く帰れよーー」
みんな帰った誰もいない教室に、明かりがついていたので俺は教室を覗いた。
誰もいない教室には、机に顔をつけたまま眠っている陽向の姿があった。
「西野……………起きろ。もう、下校時間だぞ」
俺は陽向の肩を軽く揺すったけど、起きる気配がない。
「んん………………優馬さん………」
寝言で俺の名前を呼ぶ陽向が、何だか可愛くて誰もいないことを確かめてから、そっとキスをした。
「陽向、ごめん遅くなって」
辻君の声で目が覚めると、頭がぼーとしたまま呆然としていた。
「大丈夫か?」
「あ……………うん…………」
なんだ………夢か…………………。
優馬さんとキスする夢を見た。
あんなに優しいキスをされて、何だか結婚式を挙げた時のことを想い出す。
それに、リアルすぎて夢のような気がしなかったあたしにとって、ガッカリもいいところだ。
あたしと辻君が学校を出る頃には辺り一面、夕陽に包まれていた。
「陽向、今度の日曜日に何処か出かけないか?」
少し戸惑いながら、辻君を見る。
「陽向の行きたい所とかあれば、一緒に行こう。何かやりたい事とか見つかるかも知れないし」
「………………………」
「別にデートって言うわけじゃないから、気軽に出かけなよう」
あくまで、辻君はあたしの力になってくれようとしてくれてるんだよね………。
「うん、わかった」
あたしは、大きく頷いて見せた。
でも、辻君と出かけること、優馬さんに言った方がいいのかな?
ううん、優馬さんだって灯野先生と…………。
チクンと胸が痛むのを抑えながら、小さくブンブンと首を振った。
そして日曜日ーー。
あたしは辻君と待ち合わせして、買い物に行くことにした。
「陽向、いいのかよ?何処も行かなくて」
辻君が少し不満そうに、あたしを見たけど、
「聴きたかったアーティストのCDが発売されたから、欲しかったんだー。だから、気にしないで」
笑顔で応えると、お店へ向かった。
「陽向が好きな曲って、どんな曲?」
お店について、最近発売されたばかりのCDを手にすると、辻君が覗き込んできた。
「あー、このアーティストのかー。結構、明るい曲が多いよな」
辻君は納得しながら、呟いた。
「落ち込んだ時なんか、この人の曲を聴くと元気を貰えるんだよね」
「俺もたまに聴くけど、元気を貰えるのはわかる」
時間を忘れて、辻君と話が弾んでいった。
買い物が終わって、お店を出た頃には、お昼を少し回っていた。
「あ~、腹減ったー。陽向、何食べたい?」
「辻君に任せる」
これといって、決まっていないし、辻君に任せることにする。
「じゃあ、最近できたパスタのお店にしよう」
少し考えてから、辻君は応えた。
そして、パスタのお店へ行くことにしたけど、行ってみると長い行列ができていて、順番がくるまで時間がかかりそうだ。
「これじゃ、いつになるかわからないなー。どうする?」
辻君に訊かれて、少し考えてからあたしは口を開く。
「せっかく、来たんだし並ぼう」
「そうだな………あと、いつ来れるかわからないしな」
仕方ないと溜息をつきながら、行列に並ぶことにした。
それから、1時間は待っただろうか、前に並んでいる人数も少なくなってきて、あと少しという頃。
「ママ、並ぶのもう疲れた~~~!!」
前に並んでいた親子で並んでいた、3才くらいの女の子が駄々をこね始めた。
「もう少したがから、待っててね」
お母さんは優しく言ったものの、
「やだ!もう帰るーーー!!」
女の子はお母さんの手を引っ張り始めた。
さすがに、お母さんも困っているみたいだ。
あたしは、思い立ったように鞄の中を探り始めた。
確か、使ってない髪飾りが入ってたはずなんだけど………………。
何度かゴソゴソとしてから、花の形のヘアピンを見つけると、女の子に近づいた。
「これあげるから、もう少し待っててね!」
女の子の髪につけてあげると、気に入ったのかパァっと明るくなって笑顔になる。
「お姉ちゃん!ありがとう!!」
か、かわいい~~~~~!!
あたは、つい顔がにやけてしまう。
「貰っちゃって、いいんですか?」
女の子のママは、申し訳なさそうに
あたしを見た後、
「彼氏さんとデートする時に使ったりするんじゃ……………」
チラッと辻君に視線を移した。
「い、いえ、全然使ってないので、使ってください!それに、この人は彼氏とかじゃ…………」
彼氏じゃないことを言おうとしたけど、すぐに辻君に止められてしまった。
「俺達、付き合い始めたばかりなので、彼氏だと思ってもらえて嬉しいなーー!!」
「ちょ、ちょっとーーーーー」
調子良く、あたしの肩を抱く辻君を軽く睨みつけた。
「2人ともお似合いね~~」
女の子のママは、ニッコリと微笑んだ。
「俺達、お似合いだって」
辻君は嬉しそうに、耳元で囁いた。
「あのね…………」
溜息混じりに言うあたしに、辻君は話を続けた。
「先生と別れて、本当に俺と付き合っちゃおうか?」
「もう、何回も言わせないで。辻君とは付き合えないって言ってるでしょ?」
「わかってる。それより、陽向、子供好きなんだな」
「うん。可愛いし、守ってあげたくなっちゃうよね………」
卒業するまでは、キス以上のことはしないってお父さんとも約束してるけど、いつか、優馬さんとの子供も欲しいと思ってる。
でも、離婚するように言われてるのに、その願いも叶わなくなるのかな……………。
「それに、子供と接してる時の陽向は凄く楽しそうだった」
「そ、そうかな…………?」
「考えたんだけどさ、そういう職業につくのもアリかもな」
「…………………………」
そんなこと考えてもみなかった。
「保育士とか、陽向に向いてるような気がする」
「う、うん。考えてみるね」
保育士さんとかかぁーーー思ってもみなかったな…………。
何だか、今までの悩みがスッキリした気持ちになったような気がした。
そして、いよいよ2者面談も始まり、あたしは先生に子供に関する勉強ができる大学を希望していることを伝えるのだった。
面談期間の最終日、下校時間になって昇降口に向かう途中、優馬さんを見かけた。
面談期間は授業がないから、逢うこともなかったけど、久し振りに逢う優馬さんを切ない気持ちで見つめた。
「ケホッケホッ…………」
風邪を引いたのか、咳が出てるし体調が悪そうだ。
あたしは心配になって、優馬さんの所へ近づこうとした時、
「優君、昨日から具合悪そうなのに、無理しないほうがいいわよ」
灯野先生が駆け寄ってきて、心配そうに優馬さんの身体に触れた。
「いや、大丈夫だから…………」
そう言っているけど、優馬さんの顔色が悪そうだ。
昨日から具合が悪いなんて知らなかった…………………。
「今日はもう帰ったほうがいいわよ」
灯野先生は優馬さんを何とか帰らせようとした。
あたしも優馬さんのことが心配だから、先に帰ってお粥でも作っておいてあげよう。
チラッと灯野先生の視線を向けられていたことも知らずに、あたしは昇降口へと急いだ。




