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新婚中も目がはなせない  作者: 夢遥
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新婚中も目がはなせない

クリスマスー。


「病める時も健やかなる時も…………………」


しんしんと降る雪の中、小さな教会に神父様の声が響き渡った。




あたし、西野陽向にしのひなたは、神父様の誓いの言葉を噛み締めながら、誓いますと神様に誓う。


隣に立っている新郎の杉浦優馬すぎうらゆうまも、神父様の言葉に誓いますと言葉を返す。


そして、あたし達は神様の前で誓のキスを交わした。


「陽向、絶対に幸せにするから」


「あたしも、先生のこと幸せにしてあげる!」


優馬先生は、あたしが通っていた塾の講師をしていた先生だ。


優馬先生は、先生にも生徒にも人気があって、なかなか気持ちを伝えられなかったけど、長い想いがやっと実り、17才のクリスマスの日、結婚式を挙げ、西野陽向は杉浦陽向になった。





それから、4ヶ月後。


「陽向、行ってらっしゃい」


学校へ行こうとしたあたしに、優馬先生は軽く唇にキスをする。


「先生、行ってきます!後で、学校でね」


優馬先生は塾を辞めて、驚くことに、今日からうちの学校に新任教師としてくることになった。


「陽向、家にいる時は先生はやめないか?」


先生は少し不満げに、あたしの顔を覗き込んだ。


「…………ゆ……優馬さん……」


「よくできました!」


恥ずかしそうに、名前で呼んでみると、優馬さんは子供をあやすように、あたしの頭をくしゃっと撫でた。


「あ!また子供扱いして!」


むすっとさせながら、優馬さんを見ると、子供が無邪気に笑うみたいに、可笑しそうに笑う。


「ごめんごめん」


あ、この顔好き!


あたしにしか見せない顔にドキンと胸が高鳴った。


「遅刻するぞ」


優馬さんの顔に見とれていると、急かされ慌てて学校へ行く。





学校へ行くと、校舎に貼られたクラス発表の掲示板に人の群れができていた。


さっそく、自分のクラスを確かめていると、ポンと誰かに肩を叩かれた。


振り向くと、友達の日吉奈留ひよしなるが、浮かない顔で立っていた。


「奈留、おはよー。どうしたのしょんぼりして」


「……まだ、クラス見てないの?陽向とクラス離れたのに…………」


奈留に言われて、自分のクラスを確認して同じクラスの名前の子を辿っていくけど、奈留の名前は見つからなかった。


2年間、同じクラスだった奈留だったけど、今回ばかりは同じクラスにはなれなかったみたいだ。


でも、隣のクラスに奈留の名前を発見すると、


「隣のクラスだから、遊びに行くね!」


あたしは、励ますように奈留に言葉をかける。


「絶対だよ!」


奈留は安心したのか、笑顔をあたしに向けた。




いよいよ、始業式が始まり、体育館で優馬さんが自己紹介をすることに。


「ーーー杉浦優馬です。担当教科は英語…………」


「あっ……、優馬先生」


周りの子が、優馬さん姿を見ると驚いた顔で呟いていた。


うちの学校では結構、優馬さんが講師をしていた塾に通っていた子がいるから、優馬さんのことを知ってる子も多い。


ルックスも、顔もキリッとしていてイケメンの優馬さん。


塾の時は、みんなに囲まれて人気だった。



嫌な予感がして、落ち着かない気持ちを抑えながら、あたしは優馬さんを見つめた。





うちのクラスの英語の授業は、優馬さんが担当することになって、クラスのみんなは歓声をあげていた。

特に、女子はキャーキャー騒ぎっぱなしで、授業の時間、優馬さんに質問詰めの状態。


「先生ー!彼女とかいるんですか!?」


「休みの日は、何してるんですか?」


みんなそれぞれ、聞きたい放題。


優馬さんは苦笑いしながら、曖昧に受け流して授業を進めていたけど、あたしとしては気が気じゃない。



「はぁ~~~」


あたしは、思わず大きな溜息をついてしまった。


「西野、俺の授業つまらないか?」


旧姓の名前を呼ばれて、複雑な気持ちで優馬さんの顔を見る。


「い、いえ……………」


優馬さんの授業は塾で教わっている時も、解りやすかったし楽しかった。



授業が終わると、廊下に出たあたしを優馬さんが引き止めた。


「西野、今日、授業でやったプリント集めて、英語準備室に持ってきてくれないかな?」


「…………わかりました」


本当は、日直が持って行くんだろうけど、優馬さんが、あたしに頼んできたことが嬉しい。



さっそく、みんなからプリントを集めて、ウキウキしながら優馬さんの所へ持って行った。


「失礼しまーす」


ノックをして準備室のドアを開けると、何人かの女子に囲まれている優馬さんが目に飛び込んできた。


「…………………………」


あたしは、ムッとさせながら机の上にプリントを置いた。


「に、西野………プリント、ありがとうな」


優馬さんは、あたしに気がつくと笑顔を向けてくれた。


「優馬先生、ここわからないの。教えて!」


「あたしは、こっちの英文教えて!」


女子達は、持参していた教科書を広げる、



この子達、確か同じ塾に通ってた子達…………。



「わかったから、そう一度に言わないでくれないかな」


そう言いながら、優馬さんはみんなにわからないように、ごめん!とあたしに目で謝っていた。



せっかく、2人っきりになれると思ってたのに……。


本当なら、優馬さんはあたしと結婚してるんだから!って、みんなに叫びたい。


でも、家に帰れば優馬さんに逢えるし今は我慢だ。



そう思っていたのに、優馬さんは仕事で遅い日が続いた。





「よし!出来上がり~~」


朝食を作り終え、お皿に盛り付けるとテーブルに並べた。


ここのところ、朝もゆっくり優馬さんと朝食をとれないでいた。


今日は一緒に食べられるかな?


あたしは、優馬さんを起こしに部屋へ行こうとした時、ちょうど優馬さんが部屋から出てきた。


「優馬さん、おはよー!朝ごはんできてるよ」


「ごめん!陽向ーー、朝一で職員会議があって……もう、出かけないと行けないんだ」


「え…………っ…………昨日もゆっくり食べられなかったのに」


「本当にごめん!行ってきます」


優馬さんは慌てて行く用意をして、素早くあたしの唇にキスをすると、出て行ってしまった。


優馬さんが出ていった後、お弁当を用意してあったのに渡すのを忘れて、愕然としてしまう。


仕方ないから、バレないように学校でお弁当を渡そう………。





学校へ行ってからも、いつ渡そうかそわそわしながら授業をうけた。


「これから、体育祭の実行委員を男女1人ずつ決めたいと思います」


担任の先生も交えて、学級委員がチョークで黒板に書く用意をした。


「誰か立候補する人はいませんかー?」


委員長の呼びかけに、ざわざわと騒ぎ始める。


何度か呼びかけても、誰も立候補する人はいないのに困った先生は、口を開いた。


「誰かー、いないか?いないなら、クジで決めるぞ」


「えーーーーー!!」


みんな一斉に、不満の声をあげた。


そんなみんなの不満な声にもおかまいなしに、先生は用意していたクジ入りの2つの箱を教壇の上に置いた。



うわー、もう用意してある。


きっと、こうなることを予想して作っておいたのかも。



「列ごと順番に、男女別に引いて行くように」


先生の合図で、仕方なくみんな並んでクジを引いて行くことにした。


当たったら、ますます優馬さんとの時間が作れないかも知れないのに…………。


あたしは、当たらないことわ祈ってクジを引くと、紙の切れ端に赤い印がついているのが目に入った。


…………………………………!!


運悪く、当たりくじを引いてしまうなんて最悪

だ。



あたしが、呆然と当たりくじを手に持ったまま立ち尽くしていると、先生があたしの肩をポンと叩いた。



「お~~、女子は西野かー。頑張れよ」


人ごとみたいに言うと、先生は男子の方へ様子を見に行ってしまう。


そして、その結果


「男子は、辻陽翔つじはると、女子は西野陽向が実行委員に決定と言うことで、2人ともよろしく頼むな!」


先生は教壇に立つと、黒板に名前を書き始めた。


今まで同じクラスになった男子は何人かいるけど、まだ、名前を覚えていない人もいる。


辻君って、どの人だったかな?


思い出しているうちに、終わりのチャイムが鳴り、お昼の時間になってしまい、みんながまだ、教室にいるうちに慌ててお弁当が入った袋を持つと教室を飛び出して、優馬さんの元へ急いだ。


優馬さんに逢えなくても、準備室に行って机の上に置いといたら、きっと気がついてくれるよね?


あたしは、周りに人がいないか確認しながら、英語準備室に行ったのはいいけど、鍵がかかっていて中に入れない状態だった。



ガッカリと肩を落としながら、準備室を離れようとした時だった。


「優馬先生!お昼忘れたなら、あたしのわけてあげるー!」


「あたしのも!って言うか、明日から先生のぶんも作ってきてあげる」


女子に囲まれながら、優馬さんがこっちに歩いてくるのが見えた。


あたしは、お弁当が入った袋をぎゅっと握し締める。


優馬さんはあたしに気がついて、声をかけた。


「ひな……西野、どうした?何か用事でも…………」


優馬さんの周りにいた子が、一斉にあたしに注目する。


「べ………別に用事って言うか……と…通りかかっただけなので」


その場にいずらくなって、あたしはお弁当を持ったまま駆け出していた。



せっかく、お弁当を持ってきたのに無駄になっちゃった………。


次第に、あたしの目からじんわりと涙が溢れてきた。



奈留とお昼ご飯、一緒に食べようと思っていたけど、まだ優馬さんのこと話していないし、お弁当のことも説明するのも勇気がいる。


裏庭へ行って、自分の分のお弁当と一緒に独りでやけ食いしよう……………。




重い足取りでとぼとぼと裏庭へ行く。


運良く誰もいないことに、ほっと胸をなでおろすと、ベンチに座り2つお弁当を広げた。


「2つも弁当、食べる気か?」


ふいに声がして、ハッと振り向くと優馬さんが焦った顔で立っていた。


「優馬さん………………」


「その呼び方は禁物。学校では先生だろ?」


「だ……だって………………」


また、涙がじんわりと溢れてきて、慌てて涙を拭いた。


「悪かった……わざわざ、お弁当届けに来てくれたのに」


優馬さんの言葉に、あたしは無言で首を振る。


優馬さんは、あたしの隣に座るとお弁当を食べ始めた。


「朝もごめんな………せっかく、作ってくれたのに」


「ううん……」


あたしは、ブンブン首を振る。


「今日は早く帰れると思うから、夕飯一緒に食べような」


くしゃっとあたしの頭を撫でてくれる優馬さんの手が、凄く優しくてさっき虚しかった気持ちが、嘘のように和らいでいった。


2人で、お弁当食べながら、


「あ、そうだ。体育祭の実行委員になったから、遅くなる日もあるかも…………」


ふと思い出して、口にする。


「頑張れよ」と、優馬さんは応援してくれたけど、あたし達の危機が訪れるなんて、まだ知らないでいた。




すっかり心は晴れて、スッキリした気持ちで教室へ戻ると、クラスの男子に声をかけられた。


「西野さん。随分、ご機嫌だね」


「ーーーーーー?」


「やだな~、一緒に実行委員をやるのに名前覚えておいてもらわないと」


「あっ………辻君……………」


あまり、話したこともないので、関心がなかったけど、ちょっとチャラそうで、あまり関わりたくない感じだ。


「名前の漢字一緒のもの通し、よろしく!」


「…………………………………」


確かに、最初の漢字の陽は一緒だけど、あたしとしては複雑な気持ちだ。


「早速だけど、今日の放課後に実行委員は集まるようにって先生が言ってたぜ」


「え………………」


早く帰って、優馬さんに夕食に美味しいものを作ってあげようと思ったのに…………。


「あーあ、面倒だよな。実行委員なんて」


辻君は、溜息混じりに呟いていた。


「そうだね………………」


がっかりした顔で、相槌を打つ。


「ぷっ……………」


辻君が、いきなり肩を震わせながら笑い出して

、あたしはキョトンとしてしまった。


「あー、ごめん。西野さんの表情がコロコロ変わるからさ、面白いなと思って」


いけない………つい、顔に出しちゃった。


「だ、だからって、笑うことないじゃない」


あたしがムッとすると、辻君はまた可笑しそうに笑う。


「ほら、また変わった~~西野さんて、面白いね」


お、面白いって…………!からかわれてる!?


辻君と、実行委員をやっていけるか不安で一緒にいっぱいになった。






放課後、実行委員の集まりがあることを伝えようと、優馬さんの所へ行こうとした時、辻君に捕まってしまった。


「西野さん!もう、時間ないのに何処に行くの?」


「え、あ……………」


「ほらほら、行くよ」


辻君に急かされて、慌てて後を追いかける。



仕方ない、優馬さんにはメールで伝えておこう……。




実行委員が集まる教室へ行くと、嬉しいことに奈留も同じ委員だった。


「よかった~~、陽向も一緒で!って、陽翔も一緒なんだ………」


辻君の姿を見るなり、ガッカリとさせた。


「なんだよ、俺がいたら悪いのかよ」


2人のやりとりに、仲の良さを感じたあたしは、口を開く。


「もしかして、奈留と辻君って付き合ってるの?」


「まさか~、ただの幼なじみ………あれ、言ってなかったっけ?」


「幼なじみ!?」


唖然としてしまうあたしに、辻君はケラケラ笑う。


「ないない、こいつと付き合うとか、絶対にないし!」


「そうそう、あたしだってこんなヤツお断りだから」


絶妙に2人の意見が一致していて、見ているこっちが飽きない。




そして、委員会が始まり、思いの他時間がかかってしまい、外は薄暗くなっていた。


「あーー、終わったー!」


辻君はぐーと両手を上げて背筋を伸ばす。


「陽向、一緒に帰ろう」


荷物を取りに行っていた奈留が、教室に顔を出した。


「俺も一緒に帰ってもいいか?」


辻君が、あたしと奈留の間に口を挟む。


「いいよ、どうせ家が隣だし、あのことも協力するって約束だしね」


奈留が意味ありげに、応えると辻君は笑みを浮かべる。


「あのことって…………?」


あたしは気になって、奈留に訊いたけど、


「あー、うん。後で話すね」


曖昧に受け流されてしまった。


「?」


あたしは、何だか胸にひっかかる感じがしたけど、気にせずそのまま帰ることにした。




途中で奈留達と別れたあと、急いで足早に帰ろうとした時、見慣れた車が止まっているのが目に止まった。


「お疲れー」


車のドアが開いて、優馬さんが笑顔で車から降りてきた。


「優馬さん!もしかして、ずっと待っててくれたの?」


嬉しさのあまり、優馬さんに抱きついた。


「もう暗くなってきたし、陽向独りじゃ危ないだろ?」


優馬さんはあたしの頭を優しく撫でると、車のドアを開けてくれる。


「帰ろう」


「うん!」


あたしは笑顔で返事をすると、優馬さんと車に乗り込んだ。







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