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9.討伐

 魔物は様々な種類がいて、上級になると色が違う。

 一番多いのはやはりトカゲ型、次は獣型、そして鳥型。

 鳥型となると一筋縄ではいかず、上級は色違いの他に体がふた周りも大きく倒すのは困難になる。


「はあ……すごく、大きいです」

「追い込むのも苦労したよ、ここらは廃工場ばかりだからある程度暴れてもらっても問題ない」


 まさかあんなのも出てくるとは思わなかった。

 そのうちこの世界も異世界のように魔物の存在が普通になるのではないだろうか。


 深夜であるためにあの鳥型――リデオルのほうが夜目が利く、加えて動きも俊敏。


 光を嫌う性質から電灯のないこのあたりでは人も少なくて助かるが、はるか上空まで飛び立たれたらどこに向かっていくかは不明だ。


「決めるなら一気に、ですね」

「ああ、俺達もライトの操作ぐらいで攻撃は加えんから、確実にいけると思ったらやってくれ」


 廃工場の物陰に隠れながら、少しずつ距離を詰めるとする。

 この魔物騒動では対策部隊が設立されており、精鋭部隊顔負けの人達ばかりだという。

 今ここには俺と石島さんしかいないように物静かだが、集中して気配を探れば確かに人はいる。


「リデオルとかいったか、あいつの弱点は?」

「雷魔法が一番効きますね」

「ほう、だから電線には近づかなかったのか」


 鳥といえば電柱。

 でもリデオルは廃工場の屋根に足を下ろしている。

 リデオルの体重で今にもつぶれそうだ。


「ここからは一人で行きます、俺が攻撃を始めたら周辺のライトを全部点灯させてください」

「分かった、気をつけろよ」

「はいっ」


 廃工場地区の地図は頂いた、これによればリデオルがとまっている廃工場と手前にある建物は繋がっている、と。

 渡り廊下のようなものがあるらしいな。

 それを使ってリデオルの真下まで行く。

 ただ、深夜の廃工場って怖いなあ……。

 異世界にもこんな雰囲気のとこあったなあ。

 死者の街とか言われて、街はグールやゾンビで溢れてて、でも誰も喋らないから終始沈黙。

 物音ぐらいしかしなくて、しかも仕切ってる奴は狂気に満ちてるしあそこは二度と行きたくないね。


「こんな中、ゾンビとかいたら最悪だよ……」


 奴がこの世界に来たらまたグールとゾンビの街を作りそうで嫌だな。

 来ないように祈ろう、ん? 今フラグ立った?

 いや、来ない来ない、来ないね絶対。

 建物に入って、通路をまっすぐ。

 扉を開ければ廃工場、と。


「ぬぉっ!?」


 物音に軽く飛び上がってしまった。


「……猫か」


 野良猫が居座っていてもおかしくない。

 野良猫は天井を見つめて威嚇、こいつもリデオルの気配を察知しているようだ。


「あいつすぐに倒すから、待っててよ」


 リデオルは視覚は優れているが聴覚や嗅覚は人と然程変わらない。

 魔力を察知する感覚――魔覚も全然だ。

 羽根をおろしているときであれば十分に奇襲できる。 


「このあたりか」


 リデオルの体重をなんとか支えているために天井がミシミシとさっきから悲鳴を上げている。

 その周辺を、


「イグリスフ!」


 こいつで四角に切断――天井が崩れるやリデオルが落ちてきた。


 同時に外は光で覆われ、外の変化にリデオルは怯みすぐには飛び立たなかった。

 予想通り、さて、やろうか。


 ギィィィィイっと鳴くリデオルは俺を敵と判断して威嚇し始めた。


 あの野良猫は大丈夫かね、多分もう逃げたとは思うが。

 羽を広げて飛び立とうにも俺の空けた四角の穴はそれほど大きくはない、もはや捕らえたも当然だ。


「うおっと!」


 啄ばみによる攻撃、避けるや地面が深くえぐれる。

 距離を取って口を開きだしたら――あれだ。

 閃光、魔力凝縮による強烈な攻撃だが、イグリスフならば防げる。

 閃光を防いでリデオルはようやく俺の力量を把握したらしい。


「ギィ……」


 この建物を破壊して飛んで逃げるべきか、とでも考えているのか天井を仰いでいた。


「そこだっ!」


 一瞬だけでも俺から目を離したのが運の尽きだ。

 懐に入り込み、俺はイグリスフを振り上げる。

 逃げようにも後ろは壁、左右も同様。

 翼を広げようにも障害物も多々。

 リデオルの体を一閃――


「ふう……」


 といった安堵も束の間、建物が嫌な音を立てていた。


「おいおいおい」


 これはまさか。

 まさか、だよな?

 天井が少しずつ沈んでいく。

 壁には斬ったような線が何本かついていた、リデオルめ……最後にここを崩そうとしてやがったな!


「うわわわわ!」


 急いで窓へ向かう、野良猫も発見! 

 そのまま野良猫を抱えて窓を突き破ると同時に廃工場は崩れた。


「大丈夫か!」

「は、はい……」


「それは?」

「中にいた野良猫です……」


 お前子供とかいないよな? まあいないか、他には動物のいる気配もなかったし。


「あの鳥はやったか?」

「倒しました、最後のあがきで廃工場崩されたのは焦りましたけど」


 石島さんが安堵のため息をついた。

 リデオルによる被害は今まで一番大きかったらしい、それによく目立つ。


「助かったよ。すまないな、一般人である君に危険が伴う事件への協力は間違っているのだが」

「でも俺じゃなきゃ解決できないなら喜んで協力しますよ」


 それにお金も出ると聞かされちゃあやらない手はない。

 魔物倒して経験値稼ぎみたいなものだ。


「すまんな、後片付けは彼らに任せてある。行こう」


 現場には極力いてはいけないというのも、大人の都合が絡んでいる。

 今回、設立された魔物討伐の本部では表向きは俺は参加していないことになっている。

 本部以外の警察に見られるだけでも駄目なのだ。

 マスコミは尚更だ、彼らに知られたら面白おかしく広められてしまう。


「どうだ、うちの班の奴らは。資料集めから機材集め、現場の援護に不満は?」

「特にないですよ、おかげでやりやすいです。異世界で精鋭部隊が揃ったギルドに入ったような気分でした」


 今回が初の顔合わせといきなりの魔物討伐にも関わらず誘導から誘導先の情報も揃えてくれたのはありがたかった。


「九人しかいないが優秀な者達で構成されたからな。おかげで私は現場に出るより君の補助専門だ」

「俺としては石島さんがついていてくれれば気が楽になるからいいですけどね」

「ははっ、それは嬉しいね」


 班の人達とは少しだけ話す機会があった。

 といっても三人だけだが。

 彼ら曰く石島さんも相当やるとか、何がやるのかは詳しくは聞いていないが。


「君から聞いてまとめた資料によれば今回のがリデオルだったか」

「はい、そうです」

「資料のおかげで誘導もやりやすかった、感謝するよ」


 あの狭いアパートに五人くらいやってきて話をしては書き留めて、後ろではパソコンで資料作成といったのが六時間続いたからね、魔物に関する情報は資料を見ればある程度は把握できるほどの完成度だ。


「てるてる坊主に関する情報はまだ出てないんです?」

「ああ、しかし魔物が増え始めたのはもしかしたら奴が撹乱のためかもしれない。仕掛けるなら近いうちだと俺は推測している」


 撹乱、か。

 しかし――


「しかしそのてるてる坊主の目的が未だに見えてこないな」

「ええ、何を狙っているのやら……」

「君の疲弊を狙うには魔物の出現頻度も間が開きすぎている」


 未だに目的が見えてこないのが実に不安。

 もしかしたら俺達の知らないところで大きな計画が動いているかもしれない。


「奴の捜査もしているが目撃証言の一つもなくてなあ」

「多分魔法技術に長けた人物でしょうから姿を隠すのは容易かと」

「魔法、か。この世界でそんなものが本当に実現するとはなあ」


 異世界ならば日常茶飯事、この世界ならば異常事態。

 大きな差異だ、この世界で魔法師達が手品だと言ってショーに出ればたちまち大人気だろうなあ。

 俺も魔法は使えるし、これは……俺も手品師になるべきか!?


「魔物の発生源も突き止めねばならんし、やることが山積みだな」

「俺もできるだけ手伝いますよ」


「いや、君には魔物討伐のみに専念してもらいたい。マスコミにでも嗅ぎつけられたら君の生活が大きく覆ってしまうしな」

「異世界から戻ってきた英雄、この世界で魔物を討伐していた! とかいう見出しになりますかね……」

「そうなった上に君が街中を歩けばマスコミが取り囲んで普通の暮らしができなくなる」


 それは嫌だなあ。


「上にもな、実は異世界の話は伏せてあるんだ。魔物は突然変異で、魔物を対処できる者を集めた組織ってことにしている」

「異世界の話は出来るだけ隠す方針ですか?」

「君も国のお役人に長々と異世界の話を説明するのは嫌だろう?」

「それは……はい、そう、ですね」


「時が来れば、だが、今はこうしておいたほうがいい。裏の世界の奴らにも情報が漏れただけで大事なんだからな」


 俺の情報が少しでも漏れれば普通の暮らしは難しくなる、と。

 だけどこの二年間、普通の暮らしなんてできなかったし、今も普通の暮らしとも言えないし。

 ただ、今は楽しいっていうか、自分を頼りにしてくれる人たちがいるというのは、嬉しくもある。


「そういえばこの前の、筋者の方々のほうは?」


 もし彼らを引き入れていたら大変だ。


「それなんだが。あれからまた調べはしたんだがどうも目をつけていた組のほうでトラブルがあったらしい。魔物はいないどころか組の連中が何人も入院していてたよ」


「魔物が逃げ出したんでしょうかね」

「かもな、こちらとしては勝手に自爆してくれて大助かりだ」


 上級の魔物でも捕らえてたのかな。


「組の周辺では魔物の目撃情報は無かった、大方あいつらの武器で魔物とやりあった上での相打ちだろう」


 こっちが何もせずとも一石二鳥となったようだ。

 心配事も一つ減って何よりだ。


「それとだな。君が班に加わる上で君のご両親とも話をしてきたんだ」

「親父達に……?」


 半ば勘当されたも同然で、今は俺をどう思っているのやら。

 姉ちゃんはきっと定期的に連絡はしていただろうから俺の今の生活はある程度は把握しているんじゃないかな。


「異世界の話にはご両親はやはり半信半疑でね」 

「そりゃそうでしょうね」

「魔物達の写真を見せてようやくといったところだ、そして君が魔物を倒せるという話をしたら怒鳴られてしまったよ。息子を危険な目にさらすのかと。私も危険を承知で君に協力を求めている悪い大人なのは自覚している」


「いえそんな、俺は自分の意思で協力しているんですから」


 でも親父が俺のためを思って怒鳴ったなんて意外だった。

 親父はすごく頑固だから、連絡も一切無かったら俺なんかもはや何をしていようと関係ない姿勢だと思っていたんだが。


「強引に追い出す形とはなったが、今までそっとしておいたのは空白の二年を一人で整理させるためだと言っていた」 

「整理……といっても、この世界に二年もいなかったってのは、簡単に整理できるものじゃないですよ。願わくばまた異世界に戻りたい自分が正直います」

「ただ魔物を倒している間は、異世界での二年間が役立つ」

「そう、ですね」


 そういう喜びもあるから、魔物討伐は楽しい。


「ご両親にはまた少し説明をしに行くつもりだ、君から何か伝えてほしいことはあるかい?」

「んー……元気で、ええ、元気でやってますと。後は、落ち着いたら自分から言いに行きますよ」


「そうだな、それがいい」


 親父達の顔が浮かんでちょっと涙が浮かんできた。

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