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8.苑崎さんは。

 数件程度ではあるが、街でまた魔物が現れ始めた。


 下級の魔物ばかりであるため銃で対処できたらしい、一番の問題はやはり噂だ。

 噂はインターネットを通せば爆発的に拡散していく。

 マスコミも食いついて魔物の存在が世間に公開されて今や街中での話題はこの世界に魔物が! とかいうニュースで持ちきりだ。


「この世界に魔物がっ」


「あ、はいっ」


 飛鳥がやってくるや、開口一番にその話ときた。

 そういえば今日は土曜日、学校も休みなんだよな。


「……っていうけどさあ、実際どうなんだろうねぇ。今やCGとかでもなんとかなるしニュースでやってるようなのってちょーっと信用ならないのよね」


「確かに」


「しかもこのご時勢に剣を使って魔物を倒す奴が現るぅ? ファンタジー世界から飛び出したんじゃないんだから、不自然もいいとこよね」


「そ、そうだよなあ……」


 剣を使った人物が目の前にいるんですがそれは。


「つーか引っ越したっていうから来てみたら思った以上に普通ね、むしろちょっとボロい? 設備はよさそうだけど」


「設備はいいよ、すごくいい」


 特に防弾仕様とか。

 見た目はボロいかもしれないけど多分そこらのアパートよりここは比べ物にならないくらい充実した設備だよ。


「てかニートのあんたが一人暮らしって大丈夫なの?」


「そこらは大丈夫だぜ。色々と、つてがあって」


「すねかじり虫~」


「お○りかじり虫みたく言うのやめて」


 ずかずかと上がりこんで座り込み、ちゃぶ台をとんとんと叩く。

 何か飲み物が欲しいらしい。

 仕方ない、安い茶を出そう。


「でもいいわね一人暮らしって、憧れるわ。あんたのニート生活は憧れないけど」


「一言多いなおい」


 何しに来たんだか。

 ここも教えてないのに、情報源は姉ちゃんからか?


「いきなりなんだけどさあ」


「何?」


「あんた私に何か隠してない?」


 なんだこいつ、いきなりすぎるだろ。


「別に何も隠してないけど」


「だってニートがいきなり一人暮らし始めるのはおかしいっしょ。つうかあんたの姉ちゃんが許可するわけもないし」


 否定できない。

 けどこれはきちんと石島さんも加わって説得して納得した上で決まったことだ。

 そんでもって一般市民にはこの話は内緒。


「これはだな、姉ちゃんが俺に一人暮らしをさせて自分で家事がちゃんとできるかの試練も兼ねててね」


「嘘くさい」


 この話は出来れば広げたくないのだが。

 飛鳥の眉間のしわが深くなるばかりだし疑念を晴らすには何が必要か。


「ああそうだ! ホットケーキでも食べる? ほら、三時のおやつ!」


 多少強引ではあるが。

 俺はすぐに台所へ。

 姉ちゃんが一袋分けてくれたのがあったんだよね、食べる機会が中々なかったが利用させてもらおう。


「……」


 ただ背中に痛いほどの視線を感じる。

 俺は黙々とホットケーキを作った。

 甘いものを提供すればきっと心も和らいでくるだろう。

 出来上がると同時に――ノック。

 おや、これはまさか。


「はいはいー……ってやっぱり君か」


「……」


 鼻をすんすんと鳴らしている。

 ホットケーキの匂いに釣られたのかね苑崎さん。


「た、食べる?」


 即座に頷く。

 甘いものは特に好きなのだろうか。


「え、何この人、いきなり隣に座ってホットケーキ凝視してる」


「隣に住んでる苑崎さんだよ」


 なんだろう、このやり取り前にもあったような。

 俺は苑崎さんの分のホットケーキを出してやり、三人でいざホットケーキ。


「ふ、ふぅん……早速お友達になったわけ?」

「付き合いは大切だよ」


「付き合い!? つ、付き合いって何!?」

「いや、お隣さんとの付き合いは大切じゃん?」


 何興奮してるんだお前。


「あ、はあ。そういうこと」

「どういうこと?」

「なんでもない」


 飛鳥は苑崎さんをじろじろ見ながらの食事。

 見られていてもまったく気にせず彼女は「す」と一言呟いてホットケーキを只管食べていた。


「こういうの、いつもなの?」

「前に何度か」


 毎日ではないがちょいちょいやってくる。


「そう」


 毎日何をしているのかは不明だが彼女は人畜無害だ。

 ホットケーキを食べるだけなのにどうして飛鳥は重たい雰囲気を纏っているのやら。

 そんなに警戒心を強めなくてもいいのに。


「他の住民ともこうした付き合いを?」

「いや、他の人達は……ないな」


 一人は刑事さんだし、ここに住んでるというより潜んでいるといったほうが正しい。

 俺の周りで何か動きがない限りあちらからは接触はないだろう。

 他は時間が合わないのか会うこともないな。


「じゃあこの人と、こうやって一緒に食べる機会が、増えるわけだ」

「ん~そうかも」


 俺は俺で一人で食べるのは寂しいから苑崎さんが来てくれれば嬉しい。

 料理を食べてもらえる幸せというのか、そういうのもあってね。


「あんまりよくないと思うなあ」

「え、なんで?」

「だって……いやー、なんと言えばいいのか。男と女、同じ部屋で、ね?」


 顔を赤くしながら言う飛鳥。

 言いたいことは、伝わってくるが、そのだな。

 苑崎さんはホットケーキを食べ終えるや、腕を組んでなにやら考え始めた。

 相変わらずの無表情で何を考えているのか読めない。


「苑崎さん、どうかしたの?」

「……思考が」


「そ、苑崎さんが喋った!?」

「驚くのそこなのっ? この子今まで喋ったことなかったの?」


 一応はあるが、「す」くらいでまともに喋ったのは初めてのことだ。

 おっと、苑崎さんが喋るタイミングを見逃してしまう、ここは口を閉ざしておこう。


「……思考が」


 あ、仕切りなおした。


「思考が?」

「やらしい」


 飛鳥を見て、彼女はそう言い切った。


「や、やらしいって……」


「思考が、エロい」


「い、いきなり何を言うのかしらぁ?」


 飛鳥の声が震えている。

 怒りがすごい勢いで蓄積されているのが分かる。

 冷や汗が出てきた、願わくばこのまま何も起きなければいいが。


「やらしい想像をしていたのは、事実」


「そ、それは……いえ、そうね、それは否定しないわ! でもおかしいじゃない! 一人暮らし始めてまだ間もないってのにあんたは普通に上がりこんでるし夕飯もそうするつもり!? となれば……」


「となれば、私は、彼と、性行為を、すると?」


「せ……な、長くそんな付き合いしてたら、そういう関係になるかもって!」


「そういう関係になったとして、お互い了承の上の、付き合いとなる。ならば、貴方に何の問題が?」


「うぐっ……。こ、こいつはニートだし、勢いでやっちゃうような野獣だったら、やばいじゃない!」


 君は俺を普段からどう見てたの?


「別に、構わない」

「はあ!?」


 苑崎さんは最後にそう言って、きちんと食器は片付けて部屋を出て行った。


「……」

「……」


 何この気まずい空気。


「あの」

「何!!」


「俺、そんな勢いでやっちゃうような野獣じゃあないんだけど」

「知ってるわよ!」


「えぇ……?」


 ホットケーキを鬼面顔負けな表情で食べる飛鳥。

 それはそんな表情で食べるものじゃないと思うなあ。


「じゃあ、帰るから!」

「お、おう……」


 苑崎さんがうちに飯食いに来る時は気をつけないとなあ。

 でも彼女のあの言葉。

 別に、構わないって……。

 いやいやいや俺は何を!


「もしかして意外と彼女に気に入られてたのかなあ」


 なんて。

 思い上がるのは、やめておこうかっ。

 うん、そうしよう。


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