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4.フェイ・アスァーナ

 どれくらい経過しただろう。

 熱心に聞いてくれるものだからこっちも熱く語っちゃったな。


「なるほど、ならば銃じゃそれほど効果ないか」

「そうなりますね」


「魔力ってのは、我々にも使えるのか?」

「どうでしょう……俺は異世界で魔力を使えるようにしてもらったので」


「誰にやってもらったんだ?」


「……神様に」


「神様?」


 あっちの世界には神様もいる。

 刑事さんは神様の見た目をどう想像しているかな。


 髭もじゃの爺さんとか、女神とかを想像しているかもしれないが残念ながら異世界の神様は生意気な小娘だ。

 たまに助けてもらったが今はどうしているのやら。


「君が言うのならば、いるんだな。まったくファンタジー世界の話を聞いているみたいな気分だ」

「異世界は実際ファンタジー世界と変わりないですよ」


「実際に見てみないとな」


「なら、証拠の一つとしてイグリスフを見せましょうか?」

「イグ……?」

「剣ですよ、ちなみにマジックとかじゃあないですからね。いいですか」


 右手を机の上に出し、俺は集中する。

 出現の位置を考えないと卓上に置いてあるものを壊しかねない。


「よっと」


 イグリスフを出してみせる、途端に刑事さんと、後ろの刑事さんも立ち上がり、驚愕。


「じ、実際に見せられると、なんと、言っていいのか……。さ、触っても?」

「どうぞ」


 最初はつんつんと。

 次は刃に恐る恐る触れる。

 切れ味を試したいのか、煙草を一本取り出して刃に滑らせた。

 これくらいなら容易く斬れる、切れ味は抜群だ。研がずともイグリスフは自動で刃を修復できるようになっている、その分俺からの魔力が使われるがね。


「ほ、本物だ」

「はい、本物です」


「銃刀法違反だ」


「えぇ!?」

「あ、いや、冗談だよ」


 笑えない冗談だよおい。


「だが君がいつでもこれを出せるというのはな、危険なのだよ」


「承知してます。だから普段は人前では出さないし人にも向けたことはありません」


 イグリスフは俺の手から離れると一分で消える、そのことを話して彼にイグリスフを持たせた。


「ぐぉ……相当重いな、こんなの、よく振れるな君は」

「俺以外の人が持つと重くなるようで」

「君専用ってわけだ」


 一分が経過し、イグリスフは消失。

 刑事さんは腕を組んで小さなため息をつく。

 何を考えているのか、実に深刻そうだ。

 そこへ刑事さんが一人入室し、書類を彼に渡していた。

 ひそひそ話の内容が気になるなあ。


「ふむ」


 と、彼は一言。

 資料を眺め終えるや、


「煙草、吸っていいかね?」

「どうぞ」


 一服、味わいながらなのか吸うペースはやや遅い。


「来月から取調室も全面禁煙になる、喫煙者の肩身は狭くなるばかりだ」

「この際禁煙をしてみたらどうです?」

「それが出来たら苦労しないんだがなあ」


 親父も喫煙者だが、同じことを言ってたな。


「資料を見せてもらったんだが、君、行方不明だった二年間は異世界で過ごしていたんだな?」

「はい、そうです」


 その資料、俺について書かれていたのか。

 話をしてる間に他の刑事さんが調べていたのかね。


「今は無職、と」

「まあ……」


「学校やアルバイトは考えているのかい?」

「ぼちぼち、そのうち……」


 思わず目を逸らしてしまった。

 正直、後ろめたい。


「今は姉の下で暮らしているようだが、金銭面に悩みは?」

「いえ、ないですけど」


 お小遣いが出るんで。

 あと姉ちゃんが機嫌がいい時か酔った時もたまに。


「まさか俺がイグリスフを使って悪事を働くのでは、とか考えてたり?」


「今の生活は長続きしないだろうし、もし君の環境が悪くなった場合、そういった未来も考えられる。君は剣を持ってそれを自由に出し入れできる、それだけでも、な?」


「はあ……」


 まあ銀行に突撃して金庫を斬って中の金を奪うことも可能だしねえ。


「もしも辛い状況に陥ったら俺に訪ねなさい、あとこれ名刺」


 渡された名刺には石島洋平と書かれていた。

 そういえば名前聞いてなかったな。


「それにこれからまた異世界からの敵が来た場合には君の協力が必要になる」


「勿論協力はするつもりですっ」


「あの化け物、次はいつ出るか分からんが、頼むぞ」


 今日はこれで終わりらしい。

 随分と長く話をしたな。

 一応セルファのことは伏せておいた、まだこの騒動が誰によって、何が目的だとかは分からないのだ。

 下手に話してセルファが疑われて追われるようなことだけは避けたい。

 てるてる坊主は別に追われてもいいけど。

 にしても石島さんは見た目は怖いけど普通にいい人だ、俺の心配までしてくれるなんてね。

 てかまあ。

 ニートが剣を自由に出し入れできるなんて危険人物以外なんでもないしな。

 ……バイト、探そうかな。



 * * * * 

 


 どうやらセルファ様とはぐれたようね。


 というより、移動の際に時間軸の捻れが発生してそれに巻き込まれたのでセルファ様よりも先についているのか後についているのかも分からないねこれ。

 こちらの世界の情報は詳しく得て勉強したつもりだけど一人じゃ不安だなあ。

 今は夕暮れ時? こっちの世界の空ってなんか少しにごってるのね。

 空気もあんまりよくない、すごい勢いで悪臭を放ちながら走るあの箱が英雄様の言っていた車って奴ね、車車車三つで轟ってやつね。

 うぅん……これからどうすればいいの?

 服の違いからか周りにはじろじろと見られて少し恥ずかしいしなんとかしたいなあ。


「あ、君か!」

「えっ、なんです!?」


 何この無駄にムキムキマッチョな人、すっごい輝かしい笑顔で向かってくるんですけど。


「いやー目立つ格好でいるって言ってたから分かりやすくて助かったよ!」

「は、はあ……」


「じゃあ行こう!」


「どこに!?」

「どこって今日から厨房に入ってくれるんでしょ? 聞いたよ? 料理は得意だから厨房でも大丈夫だって」


 このマッチョは一体何の話をしてるの?

 頭の中まで筋肉で出来てるの?


「女の子が厨房に入るだけで周りも士気が高まるだろうし! さ、頑張ろう!」

「えっ、ちょっと、いや、何故私を持ち上げるのです!?」


 よく分からないけど運ばれてしまった。

 むむ、もしかしてこれもセルファ様がはぐれた私と合流するための仕込み?

 ただ街に見とれて気がついたら妙な店の前に着いてしまった。

 居酒屋マッチョ。

 失礼だけど普通に入りたくない。


「さあ、レッツマッチョ!」

「えっ」


 着替えさせられて厨房に。

 この世界、厨房は私達の世界とは比べ物にならないわね。

 フライパンも様々な種類にすごい数、包丁もすごいわ、一つ一つ手入れが行き届いていて切れ味は心配ないようね。

 火もすぐに出せる、つまみをひねればぼわってこの世界の魔法技術は私達の世界よりも優れているの!?


「レシピは一つ一つ教えるから心配しないでくれ! 筋肉のつけ方に関しても一つ一つ教えるぞ!」

「それはいいです」


 ……この人の勢いに圧されてどうしてか私は今厨房でフライパンを振ってます。


「聞いていた通り、やっぱり君の料理技術は素晴らしいな! 上腕二頭筋が優秀なのかな!」


「言っている意味がよく分かりません」


 なんか抜け出すにも抜け出せない状況だし、ここは黙ってフライパンを振っておこう。

 この人、すごい勢いで野菜を千切りするわ簡単に肉や魚を捌いていくわで料理技術は私よりもすごそう。

 私だって異世界ではセルファ様の舌を唸らせたのだ、闘争心が沸いてくる。


「うむ! やる気も素晴らしい! ここは任せていいかな! 接客もあるのでね!」


「はあ」


 レシピもあるし私だけでも出来そうだ。

 てか私以外厨房の人達みんなマッチョなのはなんなの?


「いやあ期待の新人が入ったね」

「やはり女子は筋肉量がどうしても男には劣るけど、あの料理技術は素晴らしいね」


「彼女に今度教えてもらおうかな」

「おかえしに良い筋肉との付き合い方でも教えるのはどうだろうか」


 筋肉との付き合い方は知りたくもない。

 厨房での私の印象は悪くないようだが、さて、私はセルファ様と合流するのが最初の目的なのだが、どうすればいいのか。

 この料理も仕上げなくちゃ申し訳ないし、一先ずここでフライパンを振るうべきなのかもしれない。

 今の時間帯が丁度客入れ時らしく、私は終始フライパンを振った。

 見慣れない野菜や肉など扱いは難しく、魚だけは捌き方が分からず他の人に任せたが、その他の料理に関しては今日だけである程度作れるようになった。

 我ながらこの人生で培ってきた技術を褒めたい。


「お疲れ、プロテインはどう?」


「水ください」


 妙なものを出してきたが断っておいた。

 この世界の人達はプロテインというものを飲んでいるのか、よく分からないから飲まないでおこう。

 飲んだらこの人達のようになってしまう気がする。


「お疲れ様! 今日は大活躍だったな! 教えたことはすぐに覚えるしなんでも作ってしまうなんて君は料理の天才なんじゃないか!?」

「いやあそれほどでも」

「明日もよろしく頼むよ!」

「えっ」


 どうしてこうなったのだろう。


「そういえば、君上京してきたらしいけど、住む場所は?」

「いえ、ないですけど……」


「ふむ、着替えなどもないようだし、よし! ついてきなさい!」

「えっ」


 何この人。

 てかどうして私と一緒に行動するたびに私を持ち上げるのですかね。

 歩いていると人目を引いて恥ずかしいんですが。


「着替えなど一通り買ってくるといい! なあに金は心配いらない! 私が全部出すから!」


 おや。

 この世界の服を無料で提供してくれると見ていいのかな。

 ならば遠慮なく服を選ぶけど。

 ……なんか袖のないこの人と同じ服ばかりあるのは気のせい? あと例のプロテインとやらがやけに多いのだけど。


「プロテインは買ったかい?」

「買いませんけど!?」


 でもそれなりに服装はマシになった、パーカーというのはいい、頭を覆うものもあるし着やすい。


「では次は住む場所だ!」


 また私を持ち上げるマッチョ。

 この人ほんとなんなの?


「ここだ!」

「ふわ……た、高い!」


 まるで天を突き刺すような高さ、私の世界ではこんな高い建物は魔王の塔以外ない。

 この人、魔王級にこの世界では権力を持っているのか? ただの筋肉馬鹿にしか見えないけど、見た目では判断しないほうがよさそうね。


「ここの十二階だ! 私のほかに二人ほど従業員が住んでいるが部屋は広いし空き部屋もある! 住むには十分だぞ!」

「そ、そうですか……」


 彼についていくとしよう。

 エレベーターというのはどういう原理で動いているのかしら。

 それに廊下から何までいくつも光が使われている、この世界の光は無限に湧き出るものなのだとしたら、夜は光に困らなくて住むわね。魔物も近寄らなさそう。

 部屋まで案内されるや、室内では厨房で見た人らが二人、妙なものを持って体を鍛えていた。


「やあどうも!」

「今日はいい筋肉日和だったね!」


 この世界の人達の鍛える道具は、なんだか妙に鉄っぽくて、私の世界でのマッチョ達のように砂は使わないらしい。


「自由に使ってくれたまえ!」


 寝る家具もある。

 座るものもある。

 なんだか薄い箱も置いてある。

 近くには細長い黒い箱っぽいのがある、いくつも突き出したものがあり、一つを押してみると薄い箱が光を帯びて音を出し始めた。


「ひぁ!?」


 こ、この箱、中に人がいる!

 あ、こ、これは英雄様が言っていたテレビというものか! なるほど、妙な力を使って状況を保存、再生をするものらしいがこうして見るとすごい……。


「うふ、ふかふか」


 この世界での就寝に関する道具はどれも素晴らしい。

 何もかもがふかふか、これは落ち着いて眠っていられる。


「やあ! どうだい! 何か欲しいものがあったら言ってくれ! あとこれは君用の歯磨きと入浴用品一式! それとプロテイン!」

「プロテインはいらないです」


「そういえばだが、布栄明日菜ふえいあすなさん」


「フェイ・アスァーナです」


「うむ、布栄さん!」


「フェイです」


「うむ!」


 どうしてかしら、ものすごくすれ違いを感じるわ。


「実はね、今日布栄と名乗る女性から連絡があったんだが、君が不栄さんで間違いないよね?」


「フェイです」


「間違いないようだな!」


 またすれ違いを感じたわ。


「どうやら相手の方も思い違いをしていたようだ、確認できてよかった! また明日から頑張ろう! 風呂に入るならすぐに沸かそう!」

「あ、ではお願いします!」


 この世界って室内に風呂が本当にあるのね。

 しかもすぐ沸かせられるなんて、すごいわ。


「了解だ! 入浴後の水分補給も欠かせない、冷蔵庫の中には飲み物がたくさんあるから好きに飲んでくれ!」


「あ、はい」


「女性の君は何かとケアもあるだろうし我々はお邪魔しないよう室内にいるので居間など好きに使ってくれたまえ! 自室に戻るときは鈴があるので鳴らしてくれよな!」


「は、はい。ありがとうございます……」


 というよりこの人達、自室でただ鍛えているだけなんじゃないだろうか。

 でもご好意に甘んじよう。


 なんだか私の世界よりもこの世界、すごく優遇されて過ごしやすい。

 暫くここで過ごすのもいいかもしれない。


 そのうちセルファ様も私を見つけてくれるはず……。 


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