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3.取調べ

 警察が来る前にこの場を離れたかったのだが。

 てるてる坊主が転位魔法によってその場から一瞬にして姿を消すと同時に、パトカーがやってきてしまった。

 慌ててイグリスフを収める、見られないだろうか。

 大丈夫かな、心配だ。

 状況説明するにもどうしたものか。

 現場を収拾させている間、なんだかんだで俺は……警察署に。

 別に悪いことはしていない、人助けもした。

 でもどうしてドラマでもよく見る部屋に連れて行かれて椅子に座らされてるんだろう。


「やあ」

「はあ、どうも……」


 刑事さんが一人やってきた、スーツをびしっと決めた強面、遠めで見ても刑事だって分かりそう。


「えーっと」

「浩介、楠葉浩介くすばこうすけです」

「ああ、浩介君。悪いねこんなとこに連れてきて、しかも昼時だ、腹ぁ減ってないか?」


「ええ、お腹が空きましたね」

「カツ丼でいいか? 定番っていうかなんつうか、まあここは近いからって理由なんだが」

「あ、どうも」


 俺はこれから取り調べでもされるのだろうか。

 かすかな沈黙でさえやけに痛く感じる。

 カツ丼が来るまでただたた沈黙。

 刑事さんは眠いのは腕を組み始めるや目を閉じて動かなくなった。

 この人が目を開けるのはカツ丼が来てからになりそうだ。


「むっ」


 っと、数分後にて。

 扉のほうを見るやノックが二回。

 カツ丼が来たようだ。

 この人はどこでそれを察知したのか。


「よし、食おう!」


 満面の笑み、強面がこうも和む表情になるとは思いもよらなかった。

 カツ丼をほおばるのはいいとして、俺がここにいさせられる理由が未だに分からない。

 まさかやっぱりイグリスフを見られて銃刀法違反とかそういう疑いを持たれているとか?

 まあ――それよりもカツ丼が美味いからこいつをじっくりと味わってから考えよう。


「どうだ美味いか?」 

「美味しいです!」


 この人、見た目とは違って喋り方はまるで父が子に話しかけるような、柔らかい口調で思わず和んでしまう。


「それでな? お前さん、あの現場で剣を振り回してたって聞いたんだが」

「んげほっ! むほっ!」


 咽た。

 唐突に本題を出してくるなこの人。

 呑気にカツ丼食ってる場合じゃなかった。


「例の魔物だとか妙な布野郎とかが暴れた形跡はちゃぁんとあるが、あいつらはうちらが到着した時にはいなくなっててお前さんは手ぶら、誰かが撃退したと見るべきなんだがなあ」


「いやー……」


 とりあえずカツ丼食べよう。

 鋭い眼光が突き刺さるようにこっちに向けられている。

 目を合わせたら吸い出されるように供述してしまうかもしれない。


「お前さん、助けた人いるだろ」

「た、助けた人?」


「その人は君が妙な剣を持ってたのも話してたし、君が剣を振って妙な奴らを倒したのもばっちり見てるわけだ」

「た、他人の空似では?」

「近くにコンビニあったの知ってたか? 入り口付近のカメラに君が剣を振ってたのばっちり映ってるが、他に用意していた言い訳をここで披露するかい?」

「すみません、俺です」

「うむ。それでいい、カツ丼食え」


 なんだかようやくカツ丼を心から味わえる気がする。

 この人は先ず妙な奴らを撃退した謎の人物を特定したかった。

 それが分かった今、あの現場での善と悪を把握できたとは思うが――その後はどうするつもりなのだろうか。

 把握した上で俺が何も悪いことをしていないのも理解できたはずだ。

 お前は悪いことをしていないが働かないのは実に悪いことだと言われたらぐぅの音もでないんだがね。


「俺が知りたいのはいきなり現れたあの妙な奴らだ」

「魔物、ですか」

「魔物、か。見た目からして確かに納得できる。そう、その魔物なんだが、奴らは今日十三箇所で暴れた、それは知ってるか?」

「十三箇所!?」


 初耳だった。

 てっきり俺を最初の襲ってきたのが先制、後は俺の目を引いて力量を試すべく留まらせたものだと、その場限りのものだと思っていた。


「そのうちの一つに君が現れ、あのような戦いになり、被害は一番少なくなった。これは感謝する、だがもしも君が原因で他十二箇所が大事故に見舞われたのだとしたら、見逃せないんだわ」

 思っていたよりも事は大きくなっていたようだ。

 俺が魔物を相手している間、他中に箇所で魔物が暴れていた――とあれば、今回の被害は俺のせいでもある。


「いやしかし」

 彼は手元にある資料を見る。


「君、妙な経歴だな」

 いつの間に調べていたんだろうか。


「ここ二年は行方不明、いきなり姿を現しては今はアルバイトも職を探すことなく姉のとこに居候、と」

「色々と事情がありまして……」

「その事情が今回の件に絡んでるんじゃねえの?」


 この人、頭が切れるなあ。

 少ない情報であれ繋いでいってきちんと核心へと近づいてる、将来もっと優秀な役職につきそう。


「空白の二年間に出来た人脈、敵対組織、そういったものの清算が今きてるんじゃないのか? なあ?」

「か、かもしれませんが……」


「お前が持ってた剣、あれはどうやって隠した? 聞いた話だけだけどよ、あんなの強力ってもんじゃねえ、もしかしたらあれも今回の騒動に関係してるのか?」

「あ、あの剣はですね、その……なんと言いましょうか。あ、そう、見間違え!」


「カメラに映ってるって言ったろ」

「すみません、あの、うん……」


 カメラに映ってる時点で言い逃れしようにもできるわけもないんだよね。

 言い訳をぺらぺら言おうが見苦しい光景を見せびらかすだけになる。


「こちらとしてはお前さんの抱えている事情もなるべくは考慮して話を進めたいんだわ」


 カツ丼を食べ終え、刑事さんは食後の一服を始めて話し始める。


「こっちはな、魔物とやらの存在の把握、対処法、敵の情報、それらを知った上で住民の安全に、その時限りじゃなくこの先ずっと安全でいられる街を築きたいんだよ」

「そ、尊敬します」


 ニートの自分にはまぶしいくらいで。


「だからお前の協力がいるし次はいつ魔物が襲ってくるかも把握しておきたいし、何故襲ってくるかも知っておきたい、そんでもって敵の親玉も取り押さえてこの騒動を収められるなら対策本部も立てて本格的に動きたいわけよ」


 俺の知らないうちにこの人達、すっごい考え込んでる。

 俺はどうすればいいんだろ。

 イグリスフさえあれば魔力を蓄えて敵に立ち向かえはするが警察が銃をパンパン撃ったとしても効果は薄い。

 彼らに情報を与えても対策は取れないのは目に見えている。 

 ロケットランチャーとかグレネードとか火力高いのを用意するならまだしもね。


「んで、お前が何者か、あいつらは何か、目的は何か、知ってること全部教えてくれると俺もお前に協力できることがありゃあ協力するんだが」

「んー……じゃあ、正直に言いますね?」

「おぅ」


 信じてもらえないかもしれないが。


「実は俺、ここ二年間、異世界行っててそこで剣を手に入れて魔王討伐して戻ってきたわけなんです」

「お前は何言ってるんだ?」


 まあそうなりますよね。

 でも本当のことを言っているだけで俺に非はない。

 どう信じてもらえるかってのが難題なだけで。


「本当なんですって!」

「……あの剣もその、異世界で得たものなのか?」

「はい、この話をした人のはほんと少ないんですから」


 刑事さんはにわかには信じられないといった様子で頭を掻いていた。

 否定しようにもイグリスフの存在は、揺るがない。


「実は数ヶ月前からああいった化け物が現れる事件が何件もあってな」

「そうなんですか? ニュースにはまったく流れなかったのに」


 俺が戻ってきたあたりから既に魔物はこの世界にやってきていたわけか。


「流したら混乱を招くと思ってな、情報規制はしていたがそろそろ限界だ」


 あの騒動じゃあ隠すのは無理だろうなあ。


「公開する前に、君にはあの化け物がなんなのか、もっとも有効な対処法は何か、兎に角知っていることを全て話してもらいたい」


 説明には時間を要するだろう。

 今後の対策についても俺の意見を聞くかもしれない。

 それはいいのだが。

 全然今日は家事が出来ない、ただそれだけが不安だ。

 カツ丼を食べ終えてから、俺は刑事さんに役に立ちそうな情報は全て話すとした。



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