表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

14.セルファ

 結局苑崎さんのスコアは然程伸びず、自分のスコアが刻まれた紙を睨みつけるように見ていた。


「次こそは」

「それまでまた脳内でイメトレしよう」


「そうする」


 それが結果に繋がるかはさておき。

 午後になってもセルファが現れる様子はない、デートで彼女をおびき出そうというこちらの魂胆が見切られたか?

 午後は二人でアイスを食べながら公園でぷらぷら。

 ここの公園は動物を管理しているのでちょっとした動物園気分も味わえる。


「そのアイス、美味しい?」

「美味しいよ、イチゴとバニラミックスも中々だ」


「いい?」

「あ、うん」


 咄嗟に返答してしまった。

 いい? という質問、それは彼女が一口食べても? という要求だった。

 ぱくりと小さくその口でアイスを食べる。

 これは、間接キスに、なるのではないだろうか。

 彼女は気にしていないようだが。


「お返し」


 俺の口元にアイスを近づける、チョコとバニラのミックスだったか彼女のは。

 いただきます、とアイスを食べる。

 極上である、アイスも気分も雰囲気も。

 恋人ができたらこんな風にデートするのかなあ。


「さ、さす、がに、ね……」


 ん?

 どこからか声が。


「そ、それ以上、は、許せません、わ」


 バキバキと、何か音を立てて、静かな公園に雑音を与える。

 離れたところの木陰に何か近づいてくる。

 女性――ああ、おそらくはセルファ。

 着ている服は異世界のものではなく、こちらで手に入れたもののようだ。パーカーのフードを深々と被っていたが、俺達の前に出るやフードを取り、その長い金の髪があらわになった。

 手に持っているのは半壊した双眼鏡。

 粉々になって地面へと落ちていき、彼女は静かに近づいてくる。

 その表情は、鬼気迫るものがある。


「セ、セルファ」

「お久しぶりでございます、英雄様」


 笑顔に変わるも、どこか力んでいる笑顔。

 何よりその手、進行方向を少しでも遮る太い枝を掴むやまるでマッチ棒のように折られていく。

 俺に向かってくるだけで森林破壊をする女性、怖い以外浮かばない。

 昔は可愛いなんて思っていた自分は頭がおかしかったんじゃないだろうか。


「あの人、が?」

「ああ、彼女がそうだ」


「そこの女、私の英雄様と何を喋ってるんですか?」


 言い寄ってく彼女の前を、怖いが俺が遮るとする。


「どいてください英雄様、そいつ殺せない」

「どこかで聞いたような物騒な台詞をさらっと喋るな君は」


「英雄様は騙されております、私と昔みたく楽しく過ごしましょう。彼女はそうですね、どこか遠くで静かに暮らしてもらうのがいいかと思います。地面の中とかどうでしょうか、私は賛成です」


 俺は賛成しかねるなあ。


「待てセルファ、落ち着こう」

「分かりました、その女をひき肉にしてから落ち着きます」


 くっ、駄目だ。

 セルファの目が誰が見て分かるようにやばい。

 デートという挑発をしすぎたか……?


「その女、英雄様といちゃいちゃしては間接キスまで、これは許されません! 即刻処刑あるのみです!」


 あーもうなんなのこの修羅場。


「英雄様、その女を殺して私と異世界で末永く暮らしましょう。大丈夫です、私が全てお世話いたします。お腹がすいたら料理をしましょう、お金がなかったら与えましょう、邪魔なものがあったら取り除きましょう、苛立つ要素がありましたら処分もしましょう、愛のはぐくみも是非ともいたしましょう! 子供は何人欲しいですか? 一人? 二人? 三人? ああいくらでも!」


 とてつもない誘惑。

 でも彼女の狂気がその誘惑を削いでくれている。


「浩介、この人やばい」


 俺も同感だ。

 だが口にしたら、俺も状況的にやばくなりそう。


「はあ? 何がやばいんですか? 私はただ英雄様を想ってのことなんですけど!? 切り刻みますよ!?」


 セルファが懐からナイフを取り出したところで、


「動くな!」


 石島さん達が取り囲んだ。

 いつの間にか近い距離まで接近していたようだ。


「武器を捨てて両手を上げるんだ!」


 手に持っているのは銃。

 だが、彼女にとっては銃など子供が持ち出した木の枝に等しい。


「ふぅん? この女、我が身可愛さに護衛まで隠していましたか。なんという卑劣!」


 ああ、誤解が誤解を招いていくこの悪循環!


「この世界の武器が私に通じると思います?」


 彼女は手をかざすと自身の四方に半透明な壁を出現させた。

 魔法防壁だ、銃ではあの防壁に傷すらつけれないだろう。


「セルファ、大人しくしてくれ」


 イグリスフを出して、彼女に向ける。

 こいつなら軽く切りつけるだけで防壁を破壊できる。


「セルファ様、ここはどうか英雄様の言うとおりに」


 フェイも駆けつけた、彼女がいるとこれまた頼もしい。


「あら、フェイ。やっと合流できましたね」

「おかげさまで」


「英雄様と一緒にいるところ、見ておりましたよ? 貴方も英雄様に身を寄せようとしていたのです?」

「断じて違います」


「それならいいわ、しかし何故、英雄様が私に刃を?」

「セルファ……これ以上この世界で騒動を起こすのはやめてくれ」


「何を仰いますか、全ては英雄様を想ってのことなのですよ」


 目が怖い。

 もはや言葉が通じるのかすら怪しいほど。


「どうでした、今までの魔物は。英雄様が活躍できる場面を提供したのです、素晴らしい活躍で私は最高の気分でした」

「まさか……」


 今まで魔物が出現していた理由は――俺を活躍させるため、だって?

 そんなくだらない理由で、君は、君って奴は……。


「こちらの世界には光景を保存できるものもありましたので全て撮りました、家宝ですね、ふふっ」


 ここははっきりと言わなければならないのだが、どうしても言葉が出づらい。

 イグリスフも、彼女に向けたけど、傷つけることだけはしたくない。

 彼女がこの世界にどれほどの被害を与えたのかは分かっている、でも悪いのは俺だ。

 彼女を歪ませてしまったのも、俺なんだ。


「英雄様、私と共に参りましょう」


 この場を収めるには、彼女に従うしかない気がしてきた。

 全て丸く治めるならば、ね。


「……あの」


 苑崎さんが不意に前へ出た。


「あ、危ないよ!」

「何? 貴方には用はないのだけど」


 彼女はぎゅっと拳に力を入れて、何か覚悟した様子だった。


「浩介の意思、尊重してない」

「はあ? 尊重? 私は十分に尊重してますが!?」


 女と女のバトルが始まった。

 石島さん達もどうしていいのか分からず、銃を向けたままだ。


「貴方は、彼のことを想うのならば、本当に、彼のためになることをすべき」

「しているでしょう!? この女、わけの分からないことを言いますねぇ!」


 君は君でわけの分からない行動をしてるんだよセルファ。


「彼は、迷惑してる」

「迷惑? どうしてですか? 私は英雄様のために魔物を召還して、英雄様はちゃんと活躍できて今や頼られる存在になったではないですか!」


 その面では、感謝はしているがしかし、やり方が悪かった。


「他の人が傷つくこと、彼は嫌がる」

「他人なんて私の知ったことではないですね!」

「貴方は、彼の嫌がることをやっている。それを理解して」


 俺の言いたいことを彼女がずばずば代弁してくれている、これは助かるがしかし、俺が言うべきであって、彼女に任せっきりは、男としていけないよな。

 何よりセルファの表情が見る見るうちに怒気に包まれている。

 あのナイフを振る前に俺が入っていかなくちゃ……。


「理解? 私は英雄様の全てを理解しております! 英雄様は喜んでおります、私には分かるのです!」


 喜んではいない、この時点で彼女は苑崎さんよりも俺のことを分かっていないんじゃないだろうか。


「何も、分かってない」

「黙りなさい! 黙らないなら私が黙らせます!」


 セルファは防壁を解除してナイフを振りかざす。

 同時に俺は二人の間に入り、イグリスフで防御。


「フェイ、助かるよ」

「なんとかしてくださいよあの人」


 それは分かっているんだがね。


「英雄様、どうして邪魔をするのです? まさかその女、英雄様を洗脳する力が!?」


 俺もセルファがエヴァルフトに洗脳されてるんじゃないかって思ったけど、お互いに思考がすれ違ってたね。


「攻撃する瞬間はあの盾のようなものは消えるようだな、もしもの時は――分かってるな?」


 セルファが再び防壁を張るも次に解かれたときは何かしら大きな進展へと繋がる。

 だがその方向には、いかせたくない。


「待て……」


 空間に亀裂が生じた。

 魔物が出現する予兆だ。


「魔物だ!」


 セルファが口元を緩めて、彼らを一瞥する。


「あの方々は魔物と戯れてもらいましょう」


 邪魔になる要素はすぐに排除に回ったか。

 石島さん達に加勢したいがここを離れるわけにもいかない。

 にしても、彼女は魔物を召還するような素振りはなかった。

 エヴァルフトが近くに潜んでいると見ていいだろう。


「フェイ、皆の援護をしてくれ」

「しかし、こちらは」


「俺がなんとかする」


 セルファがもう悪役中の悪役にしか見えんな。

 少しは話の通じる子だとは思ったが、怒りに飲み込まれてしまっている。

 話すだけ無駄の領域に入ってしまってるかもしれん。


「死んでください、私達の輝かしい未来のために!」


 セルファは容赦なく苑崎さんを狙ってナイフを振り下ろす。


「やめろセルファ!」


 イグリスフで防ぐ――が、こいつに刃をつきたてて壊れなかった武器はない。

 それなのに、彼女の持つナイフは刃こぼれすらしていなかった。


「そ、それは……」

「イグリスフ小剣でございます英雄様、新たに見つかったのですよ。イグリスフが」


 なんつーもんを見つけたんだこいつ。

 俺の持つイグリスフは正式にはイグリスフ大剣、他に槍や盾もあるとかなんとか。

 神様が酔い気味でべらべら喋ってたから本当かどうか怪しかったが今ようやく照明された。


「英雄様はどうしてもその方のほうが大切なのですね?」

「誰かと比べて大切だとかじゃない、君が彼女を殺そうとするから守っているんだよ!」

「ああ、英雄様が私にはもう恋慕の情がないのならば……」


 セルファは俺をじぃっと見始め、唐突に涙を流し始めた。


「いっそこの手で殺すしかありませんね……」

「ちょっと落ち着こう!?」


「英雄様を殺してあの女も殺して、私も死にます!」

「何このドロドロの展開!」


 一先ず逃げたほうがいいっ。

 逃げるたびに彼女が公園の木々を破壊しながら進んでくるから恐ろしいが。

 ああ、公園の管理人さん、申し訳ないです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ