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13.命がけのデート


 どうしてこうなったのか。


 今日は苑崎さんとデートすることになってしまった。

 別に嫌ではないんだがね、危険の伴うデートなのが大きな不安要素なのだ。


 だって普通ありえるか? 命がけのデートなんて。

 しかも皆に監視されてのデートだ、別に苑崎さんとのデートが嫌というわけではないのだが、楽しめる気がしない。


「デートかあ」


 異世界ではセルファとよくデートっぽいのはしてたが、この世界ではデートなんて初めてだ。


 ここは彼女を守るべく、しっかりやらないとな。

 一応デートという名の作戦ではあるが、作戦内容もセルファにいちゃいちゃぶりを見せ付けて発狂させて表に出させるということで、作戦と言えるのかどうか怪しい。


 彼女を迎えに行こう。

 待ち合わせ場所は隣の部屋、なんだろうねこれ。

 ノックすると少ししてゆっくりと扉が開かれる。


「あ、おはよう。準備できた?」

「……す」


 おっとこれは……。

 ジャージ姿だ、そういえば彼女がジャージ以外を着てるのは見たことがない。


「服、これしか、ない」

「買いに行こうかっ。折角のデートだし」


 これはこれでよしだ。

 デートなんて何をすればいいのか分からんのだ、今日は先ずは服を買いにいくっていうデートらしい予定が一つできたじゃないか。


「さ、行こう」

「ほぁ」


 あんまり意識してなかったが、手を差し出したら彼女はまるで爆弾にでも触るかのように二、三回ほど突いて、


「は、い」


 ようやく手を取ってくれた。

 ジャージを入れるために手提げバッグも持たせていざデートへ。


「どこかお気に入りの服屋はある?」

「ない」


「じゃあ俺の知ってる店にでも行こうか」

「うん」


 街へ向かう間、彼女は俺の手を握るのは緊張するからか服の裾を掴んでついてきている。

 これはこれで、悪くはない。

 苑崎さんの可愛い一面が見れて幸せだ。


『周辺に異常はない。これからどこに向かう?』


 イヤホンから石島さんの声が流れてくる。

 襟の裏につけていた小型マイク、これで返答ができる。


「服屋に向かいます、平日なので人は少ないでしょう」

『了解だ』


 本来デートは休日にするものだろうが、人が多いとなると俺達のデートは不都合が生じる。

 街中に入るまではこれといった異変もない。

 魔物も出てくるわけではないし、セルファは俺達を見ていないんじゃないか?

 まあいい、とりあえず服だ。

 女性用の服を多く取り扱っている服屋を見つけて、石島さんに報告。


『中は異常なし。入っていいぞ』


 どの店に入るにも石島さんに報告しなくちゃいけない。

 このデート、雰囲気も糞もない。


「気に入ったの選んでよ、お金の心配ならいらないよっ」

「いい、の?」


「勿論!」


 魔物退治で結構稼いだからね。

 服には興味ないのかと思いきや、彼女は小走りで店内を見て回る。


「いいね、デートらしくなってきた」


 店員に声を掛けられて挙動不審になる苑崎さん。

 大丈夫かな、俺が入っていったほうがいいのかな?

 なんだろうなこの世話係みたいな感じ。


「お客様」

「うん?」


「彼女さんが呼んでおりますよ」

「彼女?」


「あら? 違いましたか、失礼しました」

「いや、うん、彼女。彼女だよ」


 今日は苑崎さんを彼女と思って接するのがいい、セルファが発狂して現れてくれるのならばどんな手でも使うべきだ。


「どうしたの?」

「……自信が、ない」


 試着室のカーテンから彼女の顔だけが出ていた。


「きっと似合ってるって」

「む」


 苑崎さんなら何でも着こなせそうだ。

 覚悟を決めたのか、彼女はゆっくりとカーテンを引いていく。


「おおっ」


 思わず声が漏れてしまった。

 ジャージ姿しか印象のない彼女が今はスカートを履いている、眼福ものだ。


「どう、かな」

「最高の二文字」


「よかった」


 表情は、いつもの彼女とは変わらないような、いや、口端は若干だが上がってる。

 笑顔だ、薄らと笑顔を浮かべてる。

 これもまた眼福。


「こういう服を着るのは、初めて」

「よく似合ってる、自信を持っていいよ」


 会計を済ませて店を出るや、通行人は誰もが通り過ぎ際に彼女を見ていた。


「変、なのかな」

「君に見蕩れているだけさ、俺もその一人」


「そ、そう」


 視線が気になってしまうのか、下を向いて俺の服の袖を掴む苑崎さん。

 ああ、こういう初々しさがたまらんですね。

 セルファとは正反対な子だ、彼女なら新しい服とあれば俺に見せるだけ見せて、褒めたら街を歩くだけ歩いて、一日中べったりだもん。


「次はどこ行こっか」

「任せる」


 くっ、任せられてもこれといっていい場所が思いつかない。

 普段カップルはどうやって一日デートを遂行しているんだ?


「石島さん、どうしましょう」

『私に聞かれてもな、君達が行きたいところへ行けばそれでいいんじゃないか?』


 少しは恋愛ゲームでもやっておくべきだったか。

 これまでの経験から思い出すにも、セルファとは異世界でデートしていたから参考にならない。

 ボウリングでもするか? それともゲーム?

 平日でも人は多そうなところしか浮かばないな、なるべく人が少ない場所に行きたい。

 いつ彼女が襲ってくるか分からないのだし。


「散歩でもしながら考えようか」

「うん」


 たまにはのんびりね。

 その間にどこか楽しくなれるとこ、探しておくから。

 人気のない道を進みながら、周辺を意識しながらの散歩は、意外と疲れる。

 石島さん達が見守ってくれていると分かっていてもだ。


「風」

「ん?」


「心地いい」

「ああ、そうだね。天気もいいしただこうやって散歩するのも悪くないね」


 彼女はそれなりに、楽しめてはいるのかな?


「楽しいデートにもしたいんだけど、なんにも思いつかなくてごめんよ」

「こうしてるだけで、楽しい」


「え?」

「楽しい」


 それならこっちも嬉しいんだけど、散歩だけだと物足りない感があってね。

 でも本来の目的を優先すればデートを楽しみすぎるのはいけないことだ。


『この先に喫茶店がある、チェック済みだ。そこで一息つくといい』


 石島さんからの救いの指令。

 ぶらぶらと散歩していても異常なし、このままだと午前中で歩き疲れてしまうところだった。


「入ろうか」


 喫茶店には客は俺達以外は二人だけ、ここならいいな。

 コーヒーを注文して休憩としよう。


「敵が狙っているかもしれないデートは、気が抜けないなあ……」

「楽しもう」

「楽しむといってもね」


 君は今日は結構微笑を浮かべるね、楽しんでくれて何より。


「私の心配なら、しなくてもいい」

「心配しちゃうよ、君は命を狙われてるんだよ?」

「いざとなったら、全力で逃げる」


 相手は全力で追っかけてくること間違いないからな。

 彼女をちゃんと守れるかは俺次第だ。


「逃げ足は、速い」

「そうなの?」


「多分」


 最後の一言がなければ少しは不安が取り除かれたんだがな。


「中学の時は、陸上部だった」

「へえ、意外」


「走っている時は、喋らなくていい」

「自分の都合の良さで部活決めてない?」


「そんなことは、ない。走るのは…………好き」


 間が長いなおい。


「高校で部活は?」

「面倒」


「走るのが好きだったんじゃないの?」

「それはそれ、これはこれ」


「どれがどれ?」


 中々掴めない子だ。


「そういえば高校に行ってないの、親御さんは知ってるの?」


 口に近づけたコーヒーが、一度止まった。

 これは聞いてはいけない質問だったか……?


「知ってると、思う」

「何か言われたりは?」


 一人暮らしをしている時点で何か家庭に事情があるのかもしれない。

 まずったかなあ、この話はやめにしたほうがいいかな。


「何も言ってこない。つまり私は学校に行かなくていい」

「いやあそういうことにはならないと思うなあ、もったいないよ? 折角の高校生活」


「私、このデート生きて帰れたら学校に行くんだ」

「フラグ立てるのはやめようね」


 一気に危険性が増したじゃないか!


「浩介は、学校、行かないの?」

「俺? ああ、俺は行かないっていうより行けないんだよね」


「どうして?」

「異世界から帰ってきたのは中途半端な時期だし、親とも関係は悪化して学校どころじゃないしさ」


 できれば学校で授業を受けたいし、部活もやってみたい。

 異世界に召還されてしまったために、高校で過ごすはずだった二年は取り戻したいんだ。

 身体能力が上がった今なら部活でエースになれるかもしれないし。


「そう」

「今の生活も悪くないけどね、魔物退治で自分が社会に役に立てれるから」


「浩介、すごい」

「それほどでもないさ」


 いやはや照れますな。


「異世界は、どんな、世界?」


 やっぱり皆気になるよね。


「んー……どんなっていうと、こう、有名なファンタジーゲームを想像してくれればいい。機械が一切なくて自然がいっぱい」

「空気がおいしそう」


「うん、吸ってるだけで気分がよくなるよ」


「合法ドラ○グ」


「違うよお?」


 言い方が悪かった。

 そんな危ない世界じゃないからね?


「英雄になるまで、大変、だった?」

「まあね。修行が特に。あっちの世界の神様にビシバシ鍛えられたりしてそりゃもう穴という穴から血が吹き出るレベル」


「すごそう」


「魔王に困ってるなら神様が自分でやれっていったらすんげえブチ切れされてさあ、神様っていうか悪魔だったよ」


 異世界の話は流れるように出てくる。

 最初の魔物はどんなのだったとか、一番危険な旅はどういう場所だったとか、魔王はどんな奴だったか、剣はどうやって手に入れたとか、英雄になって何か変わったことはだとか。

 彼女も興味深々で聞いてくれる止まらない止まらない。


「長居しちゃったね。そろそろ出ようか」


 次はどうしよう。

 行きたいところ、行きたいところ……。

 石島さんから周辺のチェックした店を教えてもらうも、どうしていいものやら。


「ボウリング」


 すると苑崎さんが指を指して俺を見る。


「ボウリング? よし、ボウリングしようか!」


 どこか彼女の頷きは今までよりも大きかった気がする。


「ちなみにボウリングの経験は?」

「脳内で数十回」


 つまりそれは未経験なのでは?

 やっぱり平日の午前中となると人は少ないな。

 苑崎さんは実際に店でボウリングをするのも初めてなのか、シューズや玉の選択に戸惑いつつもなんとか準備は済んだ模様。


「よし、やろうか!」

「やれる自信しかない」


 その自信はどこから来るんだろう。

 それに一番軽い玉か子供用かで悩んでたよね?

 いざ始まるや、予想通りといえば予想通りで。

 苑崎さんは玉を片手で投げるも重さに耐えられなかったのか、レーンの一番手前で落ちて力なくガーター。


「こんなはずでは」

「初めてならそんなもんだよ」


 ボウリングは久しぶりだ。

 異世界では絶対にやれなかった娯楽。

 昔はうまく投げれなかったが今なら重い玉でも軽く感じる。

 カーブとかはできないけど、まっすぐになら容易く投げられるな。


「よしっ、ストライクだ!」

「むっ……」


 ハイタッチはするも、苑崎さんの表情はどこか渋い。

 負けず嫌いなのか、しかし玉の重さには勝てず彼女は両手でまっすぐいくように奮闘。


「ぐぐ……」


 半分終わって彼女が倒したピンは十二本。

 方や俺は六十三本、まっすぐ投げるだけでも意外といけるものだな。

 口をへの字にしてスコアを見る苑崎さん、この表情はかなりレアなほうに入るのではなかろうか。


「これから逆転する」

「ふふっ、かかってきなさい」


 彼女の瞳に闘志が宿っている。

 だが両手で投げてへろへろとガーターへ向かっていく、現実は残酷だ。


「ボウリング、クソゲー」

「そこまで言う?」


「現実、クソゲー」

「生きてれば神ゲーって思うときもきっとあるからめげないで!」


 少し手加減してやろう。

 だけど彼女のこれまでのスコアから察するに、手加減をしたとしても彼女が俺のスコアに追いつくことはないだろう。

 にしても、投げるときは前半と違って力んでいる。

 スカートが、こう、ね?

 ひらひらと靡くわけだ。

 そりゃあ目線はそっちに行っちゃうわけで。


「見た?」


 くるっと振り返る苑崎さん。


「え、あ、ごめん、見てない、見てないですっ!」

「う……初の五ピン倒し」


 ああ、そっちかあ。

 安心した……。


「ごめんごめん、次はちゃんと見るから!」


 これはスカートの中を指しているのではない。


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