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12.フェイの提案

 翌日、前にも一度行ったことのある飲食店へ三人で行くこととなった。

 ここで例の人物と話をする約束になっているらしい。

 待っている間飲み物を注文して、そしてまた気になる向かい側に建つ居酒屋マッチョ。

 苑崎さんが観察していたマッチョはあそこで働いているんじゃないだろうか。


「今回、君はちょっと特殊なストーカー被害にあっていると思うのだがね。松谷からはその辺の説明は聞いていたかい?」

「聞いた、異世界の話」


 彼女は俺を見て、


「彼が異世界から帰ってきた英雄というのは、言っちゃ駄目と」

「言っちゃってるけど」


 はっとして口を両手で塞ぐが、時既に遅しだよ苑崎さん。


「異世界が本当にあるというのも、言っちゃ駄目と」

「言っちゃってるけど」


 また同じく口を塞ぐ。

 この子はコントをしに来たのだろうか。


「普通じゃない奴が君をどうしてか敵視している、ただのストーカー事件ならばあまり動けないんだがね、こっち関係ならすぐ動けるから安心してくれ」


 そういやストーカー事件って警察は中々腰上げないよなあ。

 あれって警察内で何か事情でもあるのだろうか。


「例の人、なんですが。名前や外見といったところは」

「名前は聞きそびれてしまってな。外見はそうだな、ショートヘアで若干赤髪、身長は君と同じくらいか。心当たりは?」

「ありますね」


 フェイだ、フェイ・アスァーナ。

 彼女もこの世界に来ていたか、だとすれば手紙を送ってきた人物とは関係がない。

 あいつがあんな殺意こもった手紙なんて送ってくるはずもないしね。


「おまたせいたしまし、あっ」

「あっ」


 噂をすればなんとやら。

 ご本人の登場だ。


「フェイ……久しぶり」

「英雄様、お久しぶりでございます。少し太りました?」


「うぐっ……」


 こっちの世界に戻ってから恋しかったラーメンをよく食べてたせいで、ちょっとだけ、そうちょっとだけ太った。

 そこらへん見逃さない彼女も流石だ。


「ああどうも、ふえいさん? でいいのかな?」

「フェイです」


「ああ、よろしくふえいさん」

「何この行き違いのデジャヴ」


 向かい側、石島さんの隣に座り彼女はメニューを開くやパスタを注文。

 手馴れている、すでにこの世界に順応してしまっているなこれは。


「まさか英雄様がここに来るとは思いもよりませんでした」

「俺も君がこの世界に来てるなんて思いもよらなかったよ」


 今回、この邂逅はことを解決する大きな近道になるのではないか。


「あの、一つ確認したいんだけど」

「なんでしょう」


「……セルファもこの世界に来てるんだよね?」

「はい、おそらくは」


 おそらく? では一緒に来たのではないのか。

 ならばセルファの居場所も分からないかもしれない。


「セルファ?」


 石島さんには話していなかったな。

 話していいものか、ちょいと悩むところではあるが。


「異世界で、その、俺を慕ってくれた女性でして」

「ほう」


 ここからは、どんな人物かの説明に入るのだが。

 全てを話すべきか、話したら苑崎さん、怖がらないかな。


「彼の説明には不足があります。あの方は彼のためだったらなんでもするし近寄る女性には容赦ない、病んでいると言っても過言ではないです」


 そんなすんなりと言っちゃう?


「……危険な人物、なのか?」

「ええ、危険ですね。あの人の人生は英雄様を中心に回ってますし、この世界に来たのも英雄様目的ですし、正体不明の者と手を組んだのも英雄様と会うためですから」


 全ての元凶は俺。

 それは、薄々ながら予想はしていたが。


「あ、貴方。英雄様の隣に座ってるけど遺書は書きました?」

「いしょ?」


 唐突に苑崎さんに、からかうというのではなく心底心配してフェイは問う。


「英雄様の隣に別の女性が座っている、この光景を見られるだけでどれほどの危険が伴うのか分かってますか?」

「お、大げさな」

「とりあえずカーテンを」


 言われるがまま、石島さんはカーテンを引く。

 これで一応外からこちらは見られないが。


 既に見られていたのだとしたら現状の危険性が大きく変わってくる。


「魔物騒動もニュースで見ました、ネットでも騒がれてるし5ちゃんでは画像がアップされてますから」


 君、一体いつから日本に?

 外見は違えど中身はもう日本人だよ。


「ま、待ってくれ。その、君についてまだ詳しく聞いていないんだが」

「私? 私は異世界からやってきました。二年前から英雄様と共に異世界で魔王討伐のために陰ながら尽力を尽くさせていただきました」


 尽力というより君が補助してくれたおかげで魔王討伐にまで至ったんだよね。


「……」


 なんか苑崎さんがフェイをじっと見つめてる。


「あら、貴方、どこかで」


 彼女のその視線に気付いたようだ。


「……す」


 でた、苑崎さんの「す」、何を言っていたのかは声が小さすぎて聞き取れなかったが。


「思い出したわ、いつだか望遠鏡で覗いてた子ね」

「す」

 流石フェイ、遠くからであろうが見られていたら気付くとは。


「なんだ、君達知り合いだったのか?」

「知り合いというわけでもないわ」


 覗き見していた苑崎さんと、数キロ先であるのに覗かれていると気付いたフェイ。

 話すのも今回が初めてなはず。


「しかしよかったです、英雄様と会えれば現状をなんとかできそうですし」

「つまり彼女を狙っているのはそのセルファという女性で、しかも危険人物であり魔物騒動も彼女が関わっていると」


「はい、そうなりますね」

「思わぬ進展だな。てるてる坊主の協力者が苑崎さんを狙っていただなんて、こりゃあ彼女を本格的に保護せねばな」


「す」


 相手は魔法を使う。

 こちらの世界での防衛力がどれほど通じるものか。


「ああ、あと君についても聞きたいんだが」

「私に?」


「君はこの世界に何をしにやってきたんだい?」

「私はセルファ様の護衛としてこの世界に来ました」


 そうだ、フェイもセルファ側だ。

 だが今の状況、彼女はどう動く? 少なくとも敵にはならないと思うのだが。


「セルファと合流できたら、協力はするのかね?」

「いいえ、しません。あの人を止めて英雄様と話でもさせて満足させて帰るつもりです」


 フェイがまともな人で本当によかったよ。


「元々あの人が暴走しないためについてきたのですから」


 暴走しちゃったね、どうしようね。


「それならよかった」

「英雄様を連れて帰る気かもしれないので、貴方も場合によっては覚悟したほうがいいですよ」


「えっ、俺を? 異世界ではやることも済んだし、戻ってもニートなんだけど」

「この際異世界で就活すればいいんじゃないですか? そうすればとりあえず問題解決しそうですから」


 このご時勢、就活するのに異世界まで行かなきゃ駄目なの?


「いや待て。むしろ逆に、セルファがこの世界に残る可能性も考えたほうがいいんじゃないのかね?」

「可能性は、考えられますね」


「てるてる坊主はこの世界に来た目的は分かるかい?」

「てるてる……は、確かエヴァルフトとかいう名前でしたね」


 エヴァルフト――異世界でもその名前は聞かなかったな。

 けど相当な力を持った魔法師だとは思う。


「目的は分かりませんが、今魔物を解き放っているのはこの世界の者達の魔物への対応力などを観察しているのかもしれません」

「魔物も魔法でこちらの世界に出しているのかい?」


「大型の魔物はエヴァルフトが出していて間違いないでしょう、小型はもしかすればエヴァルフト以外に、こちらへ私達がやってきた時に空間に歪みでもできたのか、そういった隙間からやってきている可能性があります」


「この世界への移動手段はやはり君達お得意の魔法かね?」

「特殊な魔法です、私には使えません」


 懸命にメモを取っている。

 この手の話には一つでも書き残しておかなければ理解が追いつかないものだ。

 俺も最初はそうだったなあ。


「君さえよければ我々に協力してもらいたいのだが、どうだろう」

「別に構いませんよ。先ずはセルファ様の暴走を止めるあたりでしょうか?」


「ああ、そうなる」


 エヴァルフトかセルファ、どちらかを抑えれば魔物騒動も終息する。

 今はセルファを優先だ、なんといっても彼女からこっちにやってきそうだし。


「ではこちらの世界の軍隊を彼女につかせるのをお勧めします」

「それほどなのか?」


 それほどかもしれない。

 あの子、包丁で魔物討伐できるし。


「どんな子なのか想像ができないな」


 普通の女の子ですよ。

 うん、普通の。


「英雄様もよくセルファ様と親しくできましたね」

「え、そう?」


「もしかしたら病んでる子が好きなのですか?」

「いや、そういうわけではないんだけど」


「英雄様が来るまであの方とお付き合いした方々は皆一月もせずに逃げ出したのに、二年間だなんて新記録もいいとこでしたよ。おかげでセルファ様の執着も高まってしまいましたね」


 女の子と仲良くできるなんて今までは考えられなかったから、俺は浮かれてたのかもしれない。

 そうだよ、よくよく考えれば……セルファ、ちょいちょいおかしかったもんなあ。

 料理に血を入れたりするのは、うん、普通の子はしないよな……。

 苑崎さんにあんな手紙を送るのも、うん、普通の子はしないね。


「結果、彼女は危険にさらされ、この世界には魔物まで放たれたと」

「彼女が洗脳されてるっていう可能性は?」


「ないですね、はい」


 きっぱりと断言された。

 俺の唯一の希望が費えた瞬間だった。


「英雄様、目を覚ましてください。セルファ様は非常に病んでいます」


「うん……」


 現実を受け入れるべく、落ち着くためにも水を喉へ流し込んだ。


「セルファの確保も考えなくてはな」

「簡単にあぶりだせると思いますよ」


「何か方法が?」


 彼女は俺達を見て、


「二人がデートでもすればいいんです、そうすればおそらく発狂して現れますよ」

「……デート?」


 苑崎さんと顔を合わせ、一瞬止まる。

 彼女は頬を赤らめて、視線を逸らした。

 この反応は……むむむっ。


「確実に確保できるのならば……いやしかし危険が」

「彼をお忘れですか?」


「彼?」

「英雄様ですよ、彼ほど頼もしい護衛はいないでしょう?」


「おお、そうだったな」


 頼ってもらえるのは嬉しいのだが、相手はセルファ――不安要素が大きすぎる。


「私は、構わない」

「作戦を練るか。ふえいさん、今週予定の開いている日は?」


「バイトのシフト確認してみます」



 ……本当にやるの?



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