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11.修羅場?

「なぁんで布団が二つあるわけえ? 同棲でもしてるの?」


 飛鳥がやってきた、学校からそのまま来たようだ。

 わざわざ遠回りして何が心配で俺のとこに来るのだか。


「これには深い事情が」

「布団は一つでも私はかまわうぐぐ」


 苑崎さんの口は塞いでおこう。

 火に油を容赦なく注ぐ行為に等しいのだ、今の彼女の発言は。


「どういう事情よ!」

「苑崎さん、ちょっとストーカー被害に遭って俺の部屋に避難してるんだ」

「へえーストーカーねえ?」


 苑崎さんが耳打ちをしてくる。

 何々?


「犯人、この人、では」

「それはないさ、安心して」


「なんか失礼な容疑をかけてない?」


 睨みつけてくる、次には拳でも飛んできそうで怖いなあ。

 ここはお茶を出して、と。

 彼女を座らせる、苑崎さんとは反対側に。


「あんたが隣の部屋にいるんだし、わざわざ避難する必要ないじゃない。ここって噂じゃこの街で一番安全なアパートでしょ?」


 大家さんや居住者のことを考えると安全を通り越して物騒ともいえるが。


「念には念を入れて」

「苑崎さんさー、浩介の部屋にいたいだけとかなんじゃないの?」


「……」


 無言。

 飛鳥の尋問は続く。


「あとはご飯目的とかじゃ? 浩介が便利だから一緒にいるんでしょ!」

「……ご飯は確かに、美味い」

「ありがとう」


 今晩はまた美味しいものを作ろう。


「浩介! あんた利用されてるのよ、なんとも思わないの?」

「え、俺は……」


 彼女の身の安全を考えるならば一緒にいるべきなんだが。


「利用はしていない」

「へー、そう?」


「恩は返す、家事から、何でも、する」

「そんな気を遣わなくても」


 彼女が持ってきたバッグからメイド服が出てきた。

 それを着るというのか?

 それを着て、俺にメイドとして仕えてくれるというのか?

 悪くない!


「浩介、あんた今もしも変なことを考えてるのだとしたら、ビンタしたいわ」

「俺の心は今静かな無と化しています」


 悟りの境地。


「……てか絶対おかしいし! 引っ越してくるや転がり込んでくる時点で妙な感じ!」

「おかしくない」


「いーやおかしい! あんた最初から浩介を狙ってたんじゃないの!? いいカモだとか考えてるんじゃ?」

「いい人だと、私は思う」


「お人よしニートよ!」


 そんな酷い呼び名つけないで。

 異世界でもお人よしだと時々言われては損をするときもあったなあ。


「修羅場なのー?」


 そこへチャイムも押さず中にやってきたのは姉ちゃん。

 手には買い物袋、青ネギの部分が頭を出していて、袋のふくらみ具合から何か様々な食材が入っている模様。


「修羅場を見ながら一杯やるのも悪くないか」

「修羅場じゃありません!」


 まだまだ飛鳥の勢いは止まらない模様。

 ブレーキはどこにあるんだろう、はやくブレーキをかけないと玉突き事故でも起こしかねない。


「いい肉が手に入ったから今夜はここですき焼きを食べる予定なの」

「は?」


「折角だから一緒に食べない? ほら浩介、準備準備」

「え、はい」


 何故いきなりすき焼きの話になったのか。

 みんな開いた口が塞がらず、しかし目線は姉ちゃんの取り出した神々しいほどの肉。


「美味しいわよ、得意先から頂いたすんごい肉」

「……い、頂きます」

「うんうん、じゃあお行儀よくしましょう! 怒ってちゃお肉の味も分からなくなるわよ」


 姉ちゃんになだめられてようやく飛鳥は落ち着き始めたようで。

 てか俺のとこで飯を食うなら事前に連絡をくれよ姉ちゃん。

 まあでもこの場を収めてくれたのはありがたいが。

 つーかなんで飛鳥は苑崎さんにこうも突っかかるのかねえ?


「んはー! 仕事終わりにこんな美味いすき焼き食べながらのビールは最高ね!」


 酒くさっ。


「葵ちゃん聞いたわよぉ。ストーカー被害あったんだって? 私にも力になれることあったら協力するわ!」


「ありがたし」


「浩介はこの手の問題なら役に立つからこき使ってやって!」


 姉ちゃんは俺をなんだと思ってるんだ。


「助かってる」

「利用してるの間違いでしょ」


「違う」

「違わない!」


「あーもうまた始まった」


 姉ちゃんが俺に囁いてくる。


「きっと嫉妬してんのよあの子、んははっ!」


 酒くさっ。


「嫉妬?」

「まあ、そこらはちゃんと理解してやんな。選ぶのはあんただけど」

「何の話?」


 酔ってるからか言ってる意味がよく分からんな。


「浩介ちゃんは馬鹿ねー」


「浩介が馬鹿なのは否定しません」


「浩介、馬鹿?」


 みんなして馬鹿馬鹿言わないでくれよ、この場で号泣してすきやきを涙味に変えるぞ?

 姉ちゃんがいるとなんだかんだで飛鳥は苑崎さんに突っかかることは少なくなった。

 犬猿の仲というのはこういうのを言うのだろうかねえ。 

 苑崎さんがいる時は飛鳥を入れないようにしなきゃそのうち飛鳥がぶち切れるんじゃないだろうか。


「じゃあ私達は帰るけど、あんたは変なこと考えずに後片付けしなさいよ!」

「後片付けはしてくれないのね」


「浩介ぇ、落ち着いたらおとーさん達に殴りこみしに行くわよぉ!」

「物騒な予定だなあ」


 飲みすぎたのか足元がふらついている。

 飛鳥がいるし帰りは大丈夫だろうが。

 苑崎さんと二人で見送る。

 なんだろうねこの状況。

 飛鳥は何度か苑崎さんを睨んでいたが彼女の表情は変わらない。

 部屋に戻って二人で片付けをする。

 落ち着いたらテレビを見て――ってなんだこの生活。

 よくよく思い返せば、夫婦か! って突っ込まれても不思議じゃない。


「は、犯人、捕まるといいねえ」


 意識したら心臓の鼓動が、激しくなってきた。

 いかんいかん、今更なのだが今俺は苑崎さんと一緒に暮らしている。

 最近は日常で色々とありすぎて思考がぼんやりとしていたが、おいおいこの生活ってやばくないか?


「浩介は、以前、誰かと、お付き合い、を?」

「ん、俺? 付き合い、っていうか、うーんどうだろう。慕ってくれた人はいたね」


 尽くしてくれたというか尽くしすぎた人が。


「その人、今は?」

「……行方不明、かな」

「なるほど」


 手紙から滲み出るあの嫉妬。

 もはや犯人はあの子で間違いないよって本能が叫んでいる。


「た、多分なんだけどさ」

「はい」

「犯人は、俺の知り合いで間違いないと思う」


 どう考えても一人しかいない。


「ほう」

「ごめんよ、俺のせいで」


「君は、悪くない」

「でも結果的に君に迷惑をかけてる」


「私は、気にしないで」


 気にするよ。

 か弱い少女が、か弱いように見えて行動力がすごい個性が尖りすぎた子に狙われてるんだから。

 ピリリリ、と。

 電話だ、画面には石島さんと出てる。

 また魔物が出たのだろうか、だとすればここは松谷さんに苑崎さんを任せるか。


「はい、もしもし」

『今大丈夫かい?』


「はい、魔物、ですか?」

『いや、そうじゃないんだがな。苑崎さんのことだ。手紙も見せてもらったが、送った人物は異世界の関係者と見ていいか?』


「……おそらくは」

『実はついさっきな、英雄を探しているという人物が現れた。異世界からやってきたらしい』


「ほ、本当ですか!?」


 誰だ? まさか手紙を送った人物――なわけないか、少なくともそいつは俺の居場所も分かっているはずだ。

 今も行動を監視されているかもしれない、いややりかねない。


『もしかすれば手紙を送った人物と関係があるかもしれん。話を聞こうとしたんだがバイトがあるからと行ってしまってな、明日また会う約束をとりつけた』


 バイト?

 なんでバイトを?


『明日の予定は?』

「ニートに予定を聞きますか?」


『申し訳ない』


 すみません、ニートで。


『では明日の十五時に迎えに行くよ、苑崎さんも一応連れて行きたいが彼女の予定はどうなってるか聞いてもらえないか?』


 彼女なら俺の隣にいる。


「苑崎さん、明日の予定は?」

「何もない」


 即答だった。

 もしかして苑崎さんもニートなんじゃないだろうか。


「じゃあ明日少し付き合ってくれるかな?」

「いいともー」


 どうして○っていいとも風?


「大丈夫らしいです」

『よし、では明日。あっと、言い忘れてた。今日は小物の魔物しかでなくてこちらで対処できた。魔物は日々増えているのだがどうも君の住むアパートから離れたとこばかりでな』


「このあたりは安全とみていいんですかね」

『だが妙じゃないか? まるで我々をアパートから離したい気がして』


 それもそうだな。

 石島さんと一緒に魔物討伐をして分かったのだが、この人なら僅かな違和感も見逃さない、石島さんの推測は的中率が高いから基本的に彼の話を聞いていて損はない。


「魔物の出現位置も、敵の意図が含まれると」

『だとしたら着実に準備が進んでいる、注意してくれ』


「分かりました」


 石島さんと連絡を終えて、俺は窓から外を覗いてみた。

 これといって何も変化はない。

 こちらからでも分かるような場所に敵が潜んでいるわけはないのだが、かすかな変化でも見逃したくないところだ。

 苑崎さんの望遠鏡――こいつで広範囲を見てみるか?


「あ、そういえば苑崎さんっていつもこれで何を見てたの?」


「マンション」


「マンション?」


 望遠鏡を覗けばマンションの居住者がちょくちょく覗ける、どうせ誰も見てないとたかをくくってるのかカーテンを開いている居住者には暮らしぶりが丸分かりだ。

 覗き見るのはあまりよろしい行為とは言えないがね。


「マンションに何かあるの?」


「マッチョが見える」

「マッチョ」


「仕事を終えるといつも筋トレしてる」

「筋トレ」


「たまに女の人が見える、あとマッチョ」

「女の人&マッチョ」


 よく分からないが彼女の人間観察はそれなりに楽しそう。


「てか普段、外に出ないけど、学校は? あれ、もしかして高校はもう卒業した?」


 意外と年上だったりして。


「在学中。最近は、あまり行っていない」

「理由は、聞いても?」


「苦手」


 とだけ、彼女は呟いた。

 人間関係とか、そういったものをひっくるめて苦手、ということかな。

 この手の話は深く知らないほうがよさそうだ。


「君は、苦手じゃない」

「な、なんだか照れるね」


 なんだろうなあ。

 苑崎さんってどうしてもこう、世話したくなってしまう。


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