1.元英雄、今やニート
流石にこの不景気なご時勢で高校も出ずにニートをしているのは社会的にまずい。
といっても仕方の無い事情があったわけで、本意ではないのだ。
誰が信じられる? 高校受験間近なのにある日突然異世界に召還させられるなんて。
こっちは折角志望校の勉強を頑張っていたのに、試験受けられないのは確定で何故か目の前には大勢の人々が魔王討伐を懇願してくる始末。
美女にまで迫られたら断れないよな、ああ、断れない。
断れる自信のある奴がいたとして、彼女――セルファ・ドミリアに会わせて俺と同じく迫らせれば絶対に断れまい。
そりゃもう美少女で、上目遣いで懇願してくる姿、ああ絶対、絶対断る奴はいないね。
それ以外にも色々とあったのだが仕方の無い事情を細かに話すには長くなる、割愛させていただこう。
そういうわけで魔王討伐のために修行やらギルドに入って冒険やら、魔王の情報を集めて――二年経って、魔王を討伐して。
英雄というこれといって俺の世界では特に役の立たない称号を頂いてお帰りになるのだが。
さて、ここで問題だ。
三年間行方不明だった青年がいきなり元の世界に戻ってきた時、何が待ち受けているか。
「やばっ、プレスタ4出てる」
素直にこれは驚いた。
「アメリカの大統領、変わったんだ」
これもそれなりに驚いた。
「俺、死んだことになってんの?」
これは一番驚いた。
あれから家族には怒られるだけ怒られて、少しは喜んでくれないのかと傷ついて。
この三年の空白を元の世界で埋めるには少々苦労する。
勉強面もそうだし、何より生活面ではこう……どこか心の中に空洞ができたかのような気分に陥ってしまう。
街を歩いても魔物がいるわけでもない。
俺を頼りに遠慮はるばるやってくる旅人も訪れない。
討伐の依頼も来ないので当然金も稼げない。
退屈している。
俺は確実に退屈している。
だからやる気も追いついてこず、家でだらだらする日々。
家にいると息苦しくてたまらないし両親の視線も痛い。
考えた上で俺は一人暮らしをしている姉を頼った。
姉は独身でそれなりに稼いでいるらしい、俺のいない三年間にいい会社に入って出世街道まっしぐらのようだ。
うらやましい限りである、俺も異世界だったら出世街道まっしぐらだったんだがな。
「まああんたも大変かもしんないけど、ちゃんと働きなさいよー。じゃ、行ってくるから家事よろしく」
「あいよー」
ふふ、何が悲しくて家事全般を任せられているんだか。
異世界では剣を振るっていた俺が、今ではハンディモップを振るっている。
魔物退治じゃなく埃退治だ、俺の誇りも退治されてしまったらしく今では掃除にちょっとした生きがいすら感じている。
セルファによくこういった家事について聞いたりしたな、彼女にはお世話になった。
その経験が今こうして活きているのだ。
けど、願わくば異世界にまた戻れたら……。
そんな願いはけなげにも既に三ヶ月祈り続けている。
異世界での役目は終わった、平和になった世界は英雄の伝説があるだけで十分。
俺がいる必要はないし、俺がいたところで異世界で就職活動でもするのかって話になる。
平和になったからお払い箱、というネガティブな考えにはつなげたくない。
「……暇だ」
だったらバイトでもしろと。
自分ではわかってはいるもののどうも行動に動けない。
というのもだ。
姉ちゃんは俺が家事をしていれば割りと居候は文句言わず、それどころか働かずとも一日三食出るわパソコンやりたい放題のこの環境――動き出そうとする俺に怠惰の手が絡みついているのだ。
このままじゃあいけない、それは百も承知。
でももう少しだけここで楽な暮らししちゃおうかなー?
プレスタ4もあるし、姉ちゃんがやってるゲームジャンルって俺とかなりかぶってるから楽しい日々が送れるのは間違いないのだ。
しかも家事をちゃんとしていればお小遣いももらえる。
はっ!? これってある意味俺はアルバイトをしているのと同じなのでは?
ここにいればアルバイトしながらいつでもゲームできていつでも寝られる。
最高の環境だ。
やっぱり今すぐには行動できないな、少なくとも棚にあるゲームを全てやり終えるまでは。
「我ながら今日も素晴らしい働きだ」
そうこう考えているうちに部屋の掃除が終わった。
無駄に広いから時間掛かるんだよね、ちょっとでも手を抜くと姉ちゃん怒るし。
怒ったときの姉ちゃんは異世界の魔物レベルで怖いんだよなあ。
「ひと段落着いたし少し外でも歩くかなぁっと」
本屋にでも行って新刊でも確認しとくか、食材の買出しもしなきゃな。
ここで一つ気をつけておかなきゃならんのは、
「よっと」
扉を開けて左右確認。
よし、お隣さんや同じ階の住民は出てこない。
少し時間をずらしたから皆はもう会社に行ってしまったはず、大丈夫だ。
「おっけぃ」
なんだろうな、悪いことはしていないんだがどこか後ろめたい。
周りの視線も気になるし、平日の朝っぱらから本屋にいるというのももしかしたら店員とかにはこいつニートなのでは? なんて思われているかもしれない。
家事をしているのだ、これも立派な仕事、一応……ニートではない。
本屋には基本的に長い時間は入り浸らない、雑誌の立ち読みも来週号を待つだけになってしまって退屈だし店員に見られている気がして落ち着かないのだ。
店を出るときに求人誌が目に入った。
「……」
くそっ、中々手が出ない。
買出しに行くか。
道中に魔物でも出てこないだろうか。
愛用の剣はまだ持っている、持っているというかあれは俺の体内に宿らせているから出そうと思えばいつでも出せるんだ。
この世界では出した瞬間に銃刀法違反という処置が待っているから出す機会など微塵もないのだがね。
たまに大根を切るときや大きい魚を捌く時には出してるがこうも剣を使える機会が少ないと腕も錆付いちまう。
異世界と違ってこの世界は本当に平和だ。
魔物が出てくれて誰かが困っていれば俺も活躍する場があるんだがなあ。
「あら? 浩介?」
「えっ」
振り向くや、そこにいたのは――幼馴染、夏添飛鳥だった。
「飛鳥か」
「飛鳥ですが?」
「8時ちょうどに定評のある」
「それはあずさ2号」
俺を知っている人にはあまり会いたくはなかった。
「朝からどうしたんだ、学校は?」
「今日は休校なの、六月は行事の休みがちょいちょいあるのよ」
そういえば私服だ、ファッションセンスも抜群でイケてる女子って感じ。
俺はというと安っぽいパーカーにジャージ、酷いファッション落差である。
「またふらふらしてるの?」
「俺には家事という仕事がある」
「ニートがよくほざくよね、控えめに言って働けカスだわ」
さらりと汚い発言するね君、でもぐうの音も出ない自分が悔しい。
「暇でしょ? ちょっと歩かない?」
「俺には昼食と夕食の買出しという使命があってだな」
昔はもっと立派な使命があったのに今じゃこれだよ。
「そんなのすぐ終わるじゃん、どうせ家に帰ってゲームしてごろごろしてるだけでしょ?」
図星。
こいつ、まさか俺の部屋に盗聴器やカメラでも仕込んでいるのか……?
「あんたここ二年間何してたの?」
「いや、まあ……その」
「あんたのお姉さんにも聞いたんだけど、話さないらしいじゃない。秘密にしなきゃならないことでもあったの?」
「正直に言っても信じてもらえないかなって思って」
ほんとそれ。
「え、何よ、言ってみなさいよ」
「実は異世界に飛んで魔王討伐をしてたんだ」
「すぐ近くに病院があるの、私が一緒についててあげるから……大丈夫、安心して」
「そんな哀れんだ目で急に優しくなるなよ」
ほらこれだよ。
飛鳥は更にスマホでなにやら検索し始めていた。
どうやら心を病んでいる人への接し方について調べているらしい。
彼女なりの優しさだろうが俺には辛い。
「今日暗くたっていいじゃない、明日が明るいと信じていれば」
「いきなり何言い始めてんの?」
「後ろ向いたって何もない、下向いたって地面だけ、上を見れば空があって、前を見てれば希望があるのよ」
「なんで人を励ます名言集みたいな発言を?」
「頑張れ頑張れやれるやれる絶対やれるやれるって諦めるな!」
「何こいつすごくうるさい」
ここは俺が本当に異世界にいたというのを信じさせるべきか。
剣を出してみせれば流石に信じるかね。
周りには人はいない、異世界に行ったという証拠を見せるのならば今だ。
「じゃあ、異世界に行った証拠を見せよう」
「病院に行ってからにしない?」
「これを見せたらそんな口もたたけなくなるからな」
俺は強く念じる。
あの剣は一心同体、いつどんな危険な時でも――聖剣イグリスフがあったからこそ俺は生きていられた。
この世界の人間に見せるのは初めてだ、まさか幼馴染に見せる羽目になるとは俺も予想外だった。
「はぁぁぁぁあ!」
右手を空へと差し出す。
あ、太陽光が若干まぶしい。
「でやぁぁぁあ!」
てかイグリスフを出すのは久しぶりだ。
「うりゃぁぁぁぁぁあ!」
……どうやって、出すんだったかなぁ。
それから三十分後。
「今日はこれといって予定っていう予定もなかったし、あんたについててあげるわ」
俺は待合室にいた、どうしてこうなったんだ。
これからお医者さんに診てもらうらしい、心の病についてどうたらとかで。
ほんと、どうしてこうなった。
「わざわざ医者に見せる必要はないと思うんだが」
「皆そう言うの」
だからその哀れみを込めた目をするのやめてくれないかな。
暫く待っていると診療室に呼ばれ、俺は妙な心理テストみたいなのをやらされ、医者に自分の心と現実に向き合いなさいとか言われて薬まで処方された。
これほど午前という貴重な時間を無駄にした日は無い。
「何故こんなことに……」
「完治したら新しい世界が開けてるわ」
「完治もなにもな……」
しかし何故イグリスフが出なかったのか。
やはりあまりにも出していないと勘が鈍ってしまうのかね。
帰ったらもう一度挑戦してみよう。
「お昼はどこで食べる?」
「え、家で食べるよ。昼ドラ見たいし」
「家事がひと段落した主婦かあんたは」
それに近いものではあるが。
「折角奢ってあげようと思ったのに」
「行こうか」
「現金な奴ね、てか女に奢られるのを少しは恥じなさいよ」
タダならばそりゃあ話は別だぜ。
恥なんてなんの腹の足しにもならん。
「何食べたい?」
「なんでもいいの?」
「別になんでもいいわ」
意外と羽振りがいいなこいつ。
「お前、バイトでもしてるのか?」
「そりゃあしてるわよ、あんたもバイトしてみたら? うち紹介するわよ?」
「そのうち……」
「そのうちって言って長くなりそうね」
くっ、こいつには何から何までお見通しな気がする。
「親御さんに追い出されて姉に泣きついて入り浸ってさぁ、情けないったらありゃしない」
「やめてくれ飛鳥、説教は俺に効く」
「効いたならそれでよし、少しは自分から動け」
飛鳥の深いため息。
彼女は彼女で俺を心配してくれているのは分かる。
俺も働きたいっちゃあ働きたい、かも。
確実なのは今こうした生活は長続きしないし自分のためにもならん。
けどなあ……いざ動こうとすれば不安が押し寄せるし、今の生活は俺を堕落に引きずり込んで手放さないし。
結局後回しになっちゃうんだよな。
「楠葉さーん、楠葉浩介さーん」
「呼ばれたわよクズはこうすけさん」
「おう、って誰がクズだ!」
それにしてもここ数ヶ月は外食なんてあまりできなかった。
ラーメン、そう、ラーメンは皆大好きな食べ物だ。
奢ってくれるとあれば肉、ラーメン、寿司の三択でありおそらく肉と寿司のどちらかを答えた瞬間に俺は飛鳥から強烈なビンタを食らうのでやめておく。
今はもう俺を慕ってくれていたヒーラーもいない、回復魔法の無いこの世界は不便だねえ。
それは置いといて、だ。
――病院での診察を終えて、今俺達はラーメン屋にいる。
豚骨ラーメン、それも中々のこってり。
飛鳥はこってりと聞いた瞬間眉間にしわを寄せていた、カロリーが気になるお年頃らしい。
そんなラーメン一杯で太るわけがないと言ったら渋々入ってくれて一安心だ。
店内は豚骨の香ばしい香りが漂い鼻腔をくすぐってくる。
これだけでよだれが口の中に広がって胃が早く豚骨をと叫んでしまう。
飛鳥も同様なのか、店内に入って数歩目、唾を飲む音を俺は聞き逃さなかった。
メニューを見たら空腹の俺達にはもうたまらん。
「豚骨醤油ラーメン二丁!」
即決だね。
何気に有名なラーメン屋だ、丁度二人分の席が空いていて大助かり。
「ふっ、中々よさそうね」
「感想を言うのはまだ早い、食べてからだぜ」
「それもそうね」
ラーメンが来るまでの間にて。
「んで、話を戻すけど。病院では異常なしだったけど、療養が必要とか言ってたけど、あんたはこれからどうするの?」
「ラーメンを食べる」
「いやそうじゃなくて。しばくわよ?」
やめてもらいたい。
君って中学時代は空手で何気に全国大会出場したつわものだよね、しばかれたらたまったもんじゃない。
「俺は、その、ぼちぼち考える」
「もう夏に入るのにニートしてるじゃん」
「今はまだ本気を出していないんだ」
「今すぐ本気を出すべきなのに何言ってんの? マジでしばかれたいの?」
「しばくならせめてラーメンを食べてからに……」
この幼馴染怖いわぁ~。
どうしてラーメンを食べる前に指の骨鳴らす必要があるの? 俺を威圧してるの? 怖いわぁ~。
この話はあまりしたくない。
口篭っている間にラーメンが丁度来て俺は内心安堵した。
ラーメンを食べている間なら幼馴染の説教も出るまい。
「んで、どうするの?」
「あー……食べながらもそうきます?」
こいつ、一筋縄ではいかないようだ。
「ほら、ちゃんとラーメン食べなきゃ」
「……こいつ、ま、いいいわ」
ラーメンを優先してくれたらしい、よかった。
にしても久しぶりのラーメン、これは正直嬉しいってもんじゃない。
異世界から戻って一回は行ったか、その時も歓喜したものだが今も歓喜している。
やはりラーメンは最高だな。
もし異世界に行けたらラーメン作りに精を出すのも悪くないんじゃないだろうか。
この世界で修行して異世界でラーメン屋、割りといける気がする。
あっちの世界じゃあラーメンの技術はよろしくなかった、というよりラーメンと言える段階に到達していなかったのだ。
これは売れる! けど――異世界への行き方が分からん、あいつらどうやって俺を異世界に召還したんだ?
「どう?」
「必死にバイトして得たお金で食べるラーメンは最高だわ。ねっ?」
「働いてない人に対するその威圧やめなーい?」
俺だって今まで魔王討伐とか家事とっかそれなりに頑張ってたんだよ?
その苦労を理解してほしいけどこればかりは難しいな、せめてイグリスフを出せるようにしとかなきゃならんね。
よし、次に会った時にはイグリスフを出せるようにしておこう。
「働かざるもの食うべからずって、いい言葉よね」
「いきなり何故その言葉を?」
俺が海苔に手を出した瞬間、飛鳥は鋭い視線で海苔を凝視していた。
そういえばこいつ、海苔系が好きだったな。
巻物は勿論、蕎麦にも海苔を山盛り、さっきもそうだがいつだかラーメンを一緒に食べた時も海苔のトッピングは必ずだ。
「海苔、食べます?」
「あ、いいの?」
白々しい奴。
「どうぞ、一枚とは言わず二枚」
「浩介ったら優しいのねえ」
飛鳥ったら鬼畜よねえ、とか言ったらしばかれるかな? しばかれるな。
異世界だったら俺を慕ってくれる人ばかりだったのにこの世界じゃあ肩身が狭くてたまらんね……世知辛い。
完食後の彼女の表情を見る限り、ここのラーメンは満足していただけたようだ。
薄らと浮き出た汗を彼女は手持ちのハンカチで拭い、ふぅっと一息。
周りの客は一瞬見とれて箸を止めていた、喋らなければ美少女なんだがなあ。
店を出るや、
「満足したわ」
「満足していただいてなにより」
「また来るわ、今度は一人で」
「そこはせめて俺を誘ってよ……」
あと奢ってくれればなお良し。
飛鳥とはその後別れて俺は帰路についた。
それなりに楽しいひと時を味わえた、こっちの世界に戻ってから誰かと一緒に食事するなんてなかったからか、普通に楽しかった。
あいつくらいか、俺が異世界から戻ってきても何事も無く接してくれたのは。
度々働け的な威圧が痛いけれど、そこを除いては割りと一緒にいて楽しい。
異世界じゃあセルファが一番一緒にいて楽しかったかな、雰囲気は違えど彼女とどこか似ている面はある。
一緒にいて居心地がいいっていうあたりは特に。
「どりゃぁぁぁあ!」
自宅に帰って早々、俺はすぐにイグリスフを出すために何度も手を空に差し出した。
出そうで出ない、なんだろうこの感覚。
「うん、これは、あの感覚だ」
出そうで、出ない。
これは……。
「いや、あれと比べるのはやめとこう」
じゃないと、ね?
努力すること数時間。
家事も忘れて只管に、こうして何かに取り組むのは久しぶりだ。
「うりゃぁぁぁぁぁあ!」
五時間、いや六時間か。
まあ途中は休憩挟みましたけど? ここでようやく右手が発光。
「あっ」
右手の周りが僅かながら、説明はしづらいが空気が震えるような感覚が、あった。
手のひらをゆっくりと閉じる、この感覚、忘れてはならない感覚。
俺は、ぎゅっと握ると――金属の感触が手のひらに伝わってきた。
「で、出た!」
と、同時に、剣は壁に刺さっていた。
しかも姉ちゃんのお気に入りのポスターに。
「おぅふ……」
ポスターに写っている名も分からぬ青年の顔が見事に拉げてしまっていた。
イケメンが台無しだ、今なら俺はこの青年よりイケメンだと自負できる。
「おい」
同時に。
扉の開く音。
「……遺書は書いた?」
「姉ちゃん、違うんだ……」
姉ちゃんは水も凍るような目で俺を見ていた。
死期が近いかもしれない。
「それ、出すなつったろ」
「違うんだ、適度に出さないと、出し方が、ね?」
「ね? じゃねぇよな? お前の顔をそのポスターに写ってる私の大好きなアイドルの今の状況みたくしてやろうか?」
「す、すみませんでした……」
姉ちゃんだけは知っている。
俺が異世界に行ってたことを、イグリスフを出せることを。
そして約束もした。
一つはイグリスフを無闇に出さないこと。
もう一つは出したとしても緊急時のみであり、なおかつ人目につかず何も被害を与えないこと。
……被害を与えないこと――とありますが、ポスターに写る青年の顔をぶっ刺すのは被害に当たるかどうか。
「こ、これくらいは、ね?」
「それが遺言?」
駄目みたいですね。
その日、異世界で英雄と呼ばれた男は姉に尻を百回叩かれた。