道端に咲く花の揺らめきは
それは彼女と一緒にコンビニへと向かう途中だった。
「寒いな」
「暦上では春だけども、気候はそんなこと気にしなんかしないわよ」
僕は苦笑いを浮かべて、彼女の左側を歩いていく。
そして僕たちは公園へと入っていった。ここを通ったほうがコンビニに近いのだ。
「でも、子どもたちはそんなのお構い無しのようだな」
「『子どもは風の子』なんて言葉が当てはまるわね」
のどかな雰囲気を壊すように、子どもたちが僕たちの前を騒ぎながら駆け抜けていく。
「くらえ!」
「うわ!」
「当たった! お前はこれから貧乏だ!」
一人は笑いながら逃げ惑い、もう一人は追いかけながらクサを
「お、懐かしい。『ビンボウグサ』じゃないか」
僕は子どもの姿に目を追いながらつぶやいた。
「ねえ、あなたもその呼び名を使うの?」
冷たい風が頬をなでた。ヤバイ。
「いやいや、昔の話だよ」
「本当かしら?」
「本当だよ! 本当、本当!」
「そう。それならよかった」
ふぅ……一難は逃れらた。
「でも、あの花の名前をまだ知らないな」
「『ハルジオン』よ」
感嘆の声を上げ、僕は彼女を見る。
「普通のことよ。ちなみに、ピンク色の花をつけているのは『ヒメジオン』よ」
「あれだろ。当たると大金持ちになれるやつだろ」
彼女の眉毛がピクッと動いた気がした。
「あそこのベンチに座りましょうか」
僕は始まりのスイッチをどうやら押してしまったようだ。
「まず、私が許せないのは白いから貧乏という名前をつけたその先人たち」
「まあ、名前からして哀愁の漂い方がすごいな」
「そう、それはあの花が許しても私は許さない」
その決意、頭が下がる。
そんな僕の感想などお構いなしに彼女は声高に続ける。
「なにより、一番許せないのは、道端で生命を宿している草をぬくその残酷さよ」
実際は雑草の扱いだから抜かれても仕方がないと思うが、彼女はそれが許せないらしい。
「どこにでも咲いてるからって軽く見ているのよ」
「そ、そうかもな」
「だから、当たった人よりも、草をぬいた人が貧乏になってしまえばいいのよ!」
彼女の演説を、ベンチの傍で咲いている花だけが風に揺れて頷いた。
僕たちはベンチから立ち上がり、コンビニへと歩き出した。
「さて、今日はどんなおいしいものを奢ってもらえるのかしらね」
「え?」
「ハルジオンをぬいてきた過去を清算せよ」
僕は何も言えずに、ポケットに入っている財布の感触を確かめた。
読んでいただき、ありがとうございました。