ギルドだって by神
太陽も沈み、月が顔を出している真夜中に俺とチャ子、メイドさんの3人で静けさが辺りを包み込む町を歩いていた。
「なあ、ほんとに賑やかなのか。ギルドは?」
右見ても、左見ても、何処見ても街頭の光くらいしか賑やかそうな物はない。一体何処が賑やかなんだか。
「賑やかなのは本当ですよ。ただ、此処は居住区なのであまりに騒がしいと苦情が来まして...」
『そして町の端に追いやられたということね』
「追いやられたって...」
確かに事実なんだろうけど、もう少し言い方があったんじゃ。
「大体はあってますが少し違います」
『・・・・何が違うのよ』
「実はギルドの副局長がその苦情に対応をしに来た際、色々と言われたことがストレスになり、胃に開きそうになったので局長が焦って何とかしたとかしてないとか」
『結局、どっちなのよ』
「さあ?私はそこまで知りえませんから」
聞こえるはずが無いのだが、チャ子からブチッと何かが切れた音が聞こえた。此処でツッコンだりしたら更にこじれそうだし、無難に話題を変えなくては。
「あーそういえば、何でチャ子はそんなに頭が切れるんだ?」
「刃物だけにですか?」
「いや、そんなうまいこと言って無いから。ほ、ほらチャ子も気にするなよ」
『何が?別にそんなの気にしてないし』
「気にしてるじゃん」
『気にしてない!あと私が賢いのは、か・し・こ・い・のは、昔から...昔?』
「どうしたんだ、チャ子?」
『な、何でも無いわ!』
「何も無いなら、いいけど」
とりあえず、話を逸らすことは出来たようだ。てか、チャ子。そんなに賢いとか強調して言うと逆にバカに見えるぞ。......言う気はないけど。
あと何だか昔って言った所から様子がおかしい気がするのだけども、大丈夫だろうか。いや、まずチャ子に不調があったとして聖戦輪として影響があるのか?
今思うとチャ子のことに関して何も知らないな。これから一緒に旅するパートナーとしてそれはいいのだろか?一小市民の俺としてはそんな答え出るはずも無いのだが。まあ、今やそんな小市民から勇者になったんだしこれから考えていけばいいか。
そんなことを考えて10分経ったかどうかというところで、
「着きました。此処がセイレン王国本部第一ギルドです」
セイレン王国。確かこの国の名前だっけ?昨日常識的なことはメイドさんに教えてもらったけど一夜漬けだしなあ。うろ覚えになってるから合ってるか分からない。というか、
「全然騒がしくないじゃん」
音が全然聞こえてこないんだけど。どういうこと?
『これは防音魔法ね』
「よくご存知ですね、チャ子様。防音魔法は中々マイナーな、魔法なのですが」
『別に。ただそういうのを知識で知ってるだけよ。それとチャ子って言わないでくれる。一応セントのことは別にいいとして、アンタにだけは言われたくないわね』
「......チャ子」
多分俺のことは認めたけど、メイドさんのことは認めてないってか。何でそんなに嫌ってるんだか。
「そうですか。なら何とお呼びすればよろしいのですか?」
『聖戦輪様と呼びなさい!』
あ、何かチャ子のドヤ顔が頭に浮かんだ気がする。
「分かりました。では入りましょうか、セントさま、聖戦輪様」
『それでいいのよ、それで』
チョロ過ぎですよチャ子さん。そう思う俺を置いてメイドさんはドアを開く。さて、ギルドとはどんな所何だか。メイドさんが先に入ったので少し遅れて中に入ると、
「うおっ!うるせぇ!」
騒がしい。この一言でギルドの説明が済むくらい騒がしい。イメージするなら、パチンコの店内の音を人が行ってる感じだ。入った瞬間、反射で耳を塞いでしまった。
『う、うるさいわね』
チャ子も驚いているのか、声が若干裏返ってる。
ギルドの中は広く、壁には大量の紙、更にそれを上回る人の多さ。人口密度がすごいことになっている。
机に座って一枚の紙を持って考え込んでるグループ、酒と思われる液体をのんでるグループ、1人で武器を磨いてる奴、色々なことになってる。見たところ男も居るが、6対4くらいの割合で女の人もいるようだ。それよりも、
「個性がすごいな」
そう、個性がすごい。メイドとゼンマイ付きが居るのに全く目立っない。......やっぱ訂正。
「おい、何だあいつ?」
「新入りか?」
「てか、何であんな物付けてるんだ?」
「隣にいるのメイド最精鋭組み隊長じゃねえか?」
「何であんなやつと一緒にいるんだ?」
俺すげえ目立ってる!何、何なの!ゼンマイってそんなに珍しいのか!?あとメイド最精鋭組み隊長って何!
「行きましょう。勇者様」
「え、ああ」
「今、勇者様って言ったか?」
「ああ、確かに言ってたな」
「じゃああいつが最近噂になってる」
「多分それであってると思うぜ纏う覇気がメイド最精鋭組隊長と同じくらいだ」
何言ってんの、メイドさん!更に目立ってるじゃん!あと覇気って何!?そんなの纏ってねえよ!
ギルドには人がギュウギュウ詰めなるほど居たのに、メイドさんと俺が歩くと皆一歩下がって後ろの方が更に小さくなっていく。何かごめん。
奥のほうに行くと、カウンターに着く。そこには薄い金髪に金眼のメガネをかけた女性が制服らしき服を着て座っていた。
「お久しぶりです、副局長。前回の苦情以来ですね」
「ええ、お久しぶりです、メイドさん。それとその話はしないでください。胃が痛みますので。それでそちらが例の?」
「ええ、セント様です」
「えっと。どうもセント=アオゾラサキと聖戦輪です」
「あの、別に武器の紹介はいりませんが?」
「あ、すいません」
そうだった。チャ子の声は他人には聞こえないのか。メイドさんが心を読めるせいで忘れてた。
それともう一件。名前の件だ。この世界では英語みたいに苗字と名前が反対になるみたいで俺もそれに習って同じにしていたけど、どうにも発音が変なんだよな。やっぱり慣れないといけないのかなあ。
「今回はどのようなご意見で?」
「セント様をギルドに加入させようと」
「ギルドの加入ですか。それでしたらいくつか書類を書いてもらいますが、よろしいですか?」
「あ、はい」
『待って。まずメリットとデメリットを聞いときなさい』
「あ、あのギルドに入ることであるメリットとデメリットは何ですか?」
「メリットですか......そうですね。ギルドの説明からさせていただきます。まず、ギルドとは町の方や、国、店から依頼を請け負い、それを冒険者方に紹介するシステムになっております」
冒険者。ギルドに入り、依頼をこなす何でも屋だったはずだ。つまりハローワークみたいなものか。
「それでですね。冒険者達は依頼こなすことで得る報酬の2割増し、アイテムの換金など様々なサービスを受けることが出来ます。逆にデメリットというのはありませんが、依頼実行中における損傷、死亡などの責任は一切受けませんのであしからず。とまあこれくらいですね」
『つまり傷つこうが、死のうが関係ないって事ね。でもそれは裏返せば強ければ問題ないのよね?なら入りましょう。そっちの方がいいわ』
「分かりました。じゃあ入ります」
「ではこの書類に記入をお願いします」
「......これでいいですか?」
「はい、承りました。それでは少々お待ちください」
そう言うと副局長さんは奥に引っ込んでしまった。待ってる途中で腕が振動したのでメイドさんにゼンマイを巻いてもらうと、周囲の人から更に変な目で見られた。
「お待たせしました。此方がギルドカードです。これは身分証明書にもなりますので大事にしてくださいね」
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種族:人間
名前:セント=アオゾラサキ
冒険者クラス:1
達成依頼数:0
依頼実行中:無し
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「あ、あのこのクラス1ってのは?」
「ああ、それですか。それは冒険者としてのランクを表しており、ランクが上がるごとに受けられる特典も増えますのでランクを上げることをオススメします」
「分かりました」
「では、行きましょう。セント様。こんな時間に出歩いては王様が心配なされます」
「え?もしかして何も言ってないの?」
「ええ、そうです」
「ヤバくない?」
「ヤバイですね」
「あ、あの!此処に勇者様とメイド長はいませんか!?」
「「・・・・・・・・」」
衝撃の事実を聞いてお互いヤバイと思った瞬間、鎧を着込んだ、おそらく王国騎士だと思われる―――男が息を切らしながら俺とメイドさんを探しに来た。おそらくだが、俺とメイドさんの心は一致した。
マジヤベェ、と。
感想、批評待ってます。




