もぎ戦その2だね by神
俺は左手の聖戦輪を体を捻りつつ、真っ直ぐメイドさんに向かって投げる。そして体を回転させることによって生み出される遠心力を使い、右手の聖戦輪をメイドさんから少し左に行くように投げる。
「――――――‘ガード‘」
メイドさんは両手に被さるくらいの大きさの紫色の魔法陣を作り出し、それを盾に真正面から聖戦輪を防ぐ。だが、それでいい。だってもう目の前には俺は居ないのだから。
俺は右手の聖戦輪を投げた時、そのまま右方面からメイドさんに走り出していた。メイドさんが弾いた聖戦輪が俺の姿をうまく隠してくれたおかげで無警戒にも近い形で接近出来た。
そして、メイドさんが二つとも聖戦輪を防いだ時には俺はすでに拳を振りかぶっていた。その時に特典の敵の弱点が分かるという目を使っているため、何処を殴れれば良いかが分かる。女性に拳を上げるのもどうかと思うが、この世界でそんな甘いことは言ってられない。例え、女子供だろうが戦わなくてはいけない、というチャ子の言葉を聞き、改めて常識が違うことを知った。
「――――――ふっ!」
軽く息を吐きながら、脳内でトライ&トラーしたイメージを再現する。だが、右に弾いたが能力によって俺に向かって戻ってくる聖戦燐と我ながら綺麗な型だと思う拳に挟まれてもメイドさんはあっさりバックステップによって回避する。同時に俺に向かって飛んできた聖戦輪と、弾かれたもう1つの聖戦輪が戻ってくる。
『次は右に―――』
「了解」
早めに言っておくがチャ子が考え出した戦法はチャ子が考え、俺が動く。これだけだ。
聖戦輪の能力は【使用者の所に戻ってくる】。これには2つのパターンがあって、真っ直ぐ戻ってくるパターンと、チャ子が直接操作して戻ってくるパターンがある。この2つをチャ子が場合によって使い分け、俺がそれを実行する。
これが俺達の戦闘スタイル。名付けるならば、[ゼンマイ流:聖知旋動]だな。これを聞いたチャ子が、
『あんた、ネーミングセンス無いわね』
と言ったのを俺は今後一生絶対忘れない。
「特にゼンマイ流というのが無いですね」
メイドさんもか!くそう。此処に味方は居ないのか。
何てバカなことを考えていたからか、俺の目の前には青色の魔法陣が、
『避けなさい!』
チャ子の言葉に一拍遅れて動き出す。まず、首、上半身、そして下半身を横に傾けて飛ぶ。次の瞬間、
「――――――‘アイスロック‘」
メイドさんの声が聞こえ、魔法陣から物凄くでかい氷の塊が凄い勢いで出てくる。チャ子が言ってくれたおかげでほんの少し足をかすった程度ですんだ。
「あ、危ねぇ」
『あんな大掛かりな魔法陣を発動しながら、此処までのレベルの魔法が使えるなんて...!』
俺もチャ子も驚きで気付けなかった。目の前にメイドさんが接近してるなんて。それに気付いたのも俺がメイドさんの方を見ようとした瞬間だった。
―――居ない!?
「こっちですよ」
メイドさんの声がする方向を向かず、無意識の内に聖戦輪を振りかぶる。でもメイドさんは、
「――――――‘ガード‘」
またもや右の手に紫色の魔法陣を作りだし、聖戦輪を防がれる。
いや、これでいい。右手は押さえたし、弾かれる反動を使ってバックステップで後ろに。
此処で俺は気付いた。右手は押さえた。なら左手は?
気付いた時には遅かった。俺が後ろに飛ぶより、俺がもう1つの聖戦輪を振りかぶるより速く、メイドさんは左手の拳に黄色の魔法陣を作り、俺の腹に突きつけていた。
「――――――‘ショック‘」
スタンガンみたいにバチッ!という音を立てるメイドさんの拳は俺の腹にしっかりと命中し、俺は意識が段々薄れていく。意識が消える前にチャ子が、まさか、そのレベルでこの威力って!という声が聞こえたが、何が?と聞く前におれの意識は暗闇に包まれた。
■◇■◇■
ギコ、ギコと何かを回してるような音を目覚まし代わりにして、ゆっくりと目を覚ます。此処は、俺の部屋?
「おや、起きましたか」
声がするほうを向くと、そこには俺のゼンマイをギコギコと巻きながらこっちを向くメイドさんが居た。いや、何してんの?
「そろそろ一時間なので巻いておこうと」
「あ、ありがとう。...あれチャ子は?」
メイドさんにお礼を言いつつ、部屋を見渡すといつもは俺に何かを言ってくるであろうチャ子が居ない。もしかして負けて拗ねてるとか?いや、それは無いか、と思う前にメイドさんが、
「ええ、それであってますよ」
「え、マジで?」
合ってた。まさか本当に拗ねているとは。
「じゃあ、何処に?」
「窓辺で夕日を見ていますが?」
あれか?太陽に向かって叫んでるのか?太陽に向かって叫ぶ武器。うーん。想像できん。
「今回の模擬戦どうでしたか?」
チャ子の黄昏ている姿を想像していたら急にメイドさんに模擬戦の感想を聞かれた。
どうだったかと言われても、ねえ。初めてということもありそれなりに良かったんじゃないのかと思ったり、まだ切り札もあるし、とか何やら思いつくがやっぱり、
「・・・悔しいな」
悔しい。これに限る。別にメイドさんが女だったからといって本気を出さなかったわけでもないが、やはり負けるというのは男としてやはり悔しい。
「ですが、初めてであそこまで出来たのは良かったほうですよ。それに...」
それに、とメイドさんは少し溜めて言った。
「最後の攻撃に反応出来たのですよね?」
「え、ああ。出来ましたけど?」
確かに速かったが反応出来ないほどでもなかったはずだが?
「実はあれ強化の魔法を重ねがけして、余程の実力者でなければ反応出来ないはずなんですが。それが反応出来たということは現時点でもかなりの才能があるってことです。これから鍛え続ければトップクラスでも相手が出来るはずです」
え?そんなに凄いのか、俺?
「ええ、それもそうですし。あの作戦も良かったですよ」
「いや、あれは俺が考えたんじゃなくて...」
『何よ、皮肉のつもり?最後のあれは完全狙ってたんでしょう?』
「......チャ子」
俺のセリフにわざわざ被らせて言うチャ子。メイドさんに対する印象がさらに悪くなって、言葉も何処か刺々しい。
「ええ、意趣返しのつもりだったんですが。まさか避けられるとは思いませんでした」
『貴女、そこらへんの奴とは格が違うわね。この大規模な魔法を維持しながら、あそこまでの魔法を使うとなると上位種しか思いつかないわ』
「私はそこまでの者じゃありませんよ」
覆面メイドと武器の間に火花が散ってるが、見てるこっちはシュールすぎて何も言えない。というか雰囲気が怖すぎて割り込めない。
「あ、そ、そうだ!メイドさんは何の用で?」
とりあえず、話題を逸らしてみることに。
『そうね、貴女は此処に何をしに来たのよ』
「そうでしたね。セント様」
「...何か?」
話題は逸らせたが雰囲気は変わらないまま。てかチャ子が一方的に敵視してるだけなんだけど。メイドさんは何処吹く風でスルー。
「貴方様の実力ならば、ギルドに加盟してもよろしいかと」
「ギルド?」
「ええ、簡単に説明すれば何でも屋ですね。詳しくはギルド本部で聞きましょう」
「話は分かったんだが、今から行くのか?」
もう太陽も半分沈んで、少し暗くなりかけている。そんな中を出歩くのはちょっとあれではないのか?
「・・・ああ。そういうことですか」
心を読んだのか勝手に理解するメイドさん。いや、教えてくれよ。それも読んだのかメイドさんは、
「大丈夫ですよ。ギルドは夜のほうが賑わってますから」
と何かを安心させるように言った。表情は分からないので、あくまでようにだ。でも、ギルドに行く前に、
「服を着ていいか?」
何故か上半身裸だったので服を着ることにしよう。
後から聞いた話だが、服はメイドさんが汗を掻いていたので洗濯するのと、ゼンマイの付け根がどうなっているのかを見るためだったらしい。そういえば俺もゼンマイの付け根がどうなってるのか知らないな。後で聞いとこ。
感想、批評待ってます。




