もぎ戦その1だね by神
あの緊張した食事終わり、俺は部屋でうつ伏せになりながらベッドに寝転んでいた。ていうより倒れていた。
『情け無いわね。あのくらいでへこたれるなんて』
「そんな事いうけどな、お前。むこうはこの国のトップで俺はただの庶民だ。気を使わないといけない食事なんて、学校の給食で失恋した先生が泣きながら愚痴を漏らしてた以来だぞこのやろう」
『学校ってのは分からないけど微妙に嫌ね、それ。それに貴方はもうただの一般人じゃないわ』
「は?いやいや、俺の心はまだ庶民だぞ。転生してもそこらへんは変わってないと思うぞ」
『確かに貴方は小市民でヘタレで庶民かもしれないけど...』
「おい。途中変なのが混じってなかったか、おい」
『は、本当のことでしょう?...いえ、そうじゃないわ。貴方の心が庶民でも貴方は私、聖戦輪のパートナーなのよ?しかも昨日あんな宣言しちゃたし。もう普通の日常には戻れないのよ、分かってる?』
普通の生活。それは夢、走馬灯―――でも見たあの日々。
平和で平穏で変化のなかったチャ子の言う普通の日常。それが、戦いの日々で常に死と隣りあわせでグルグルと変化していく普通じゃない非日常に変わる。
俺は痛いのも戦いも怖いし、又死ぬのは嫌だ。この間のアースウルフだってたまたまにすぎない。だけど、
「......いいさ、俺は戦ってやる。他の奴らに負けないくらい強くなってあいつらに勝つ」
何か、死んでから精神面が強くなった気がする。これもあのガキ神がやってくれたのか?もしそうだったら、今朝の件は水に流してやろう。
すると、頭の中にガキ神が、そ、そうなんだ~的な感じで目を逸らしながら胸を張っている様子がリアルに、鮮明に浮かぶ。
・・・・・・ギルティ。
今度は、わ、わわわ!って感じで手を振って焦ってやがる。うん、あざとい。かなりあざとい。
『さっきから何変な顔してんのよ』
どうやら顔に出ていたらしくチャ子に訝しげな目で見られた気がする。勿論武器に目なんて物は無いが、昨日見たチャ子の本当の姿が頭の中に浮かんでそれが訝しげな目をしていたのだ。
「それは俗に言う妄想ですね」
「ああ、そうそう。それだよ妄想...って、何勝手に入ってんだよ!?しかも妄想って何だ!」
またもや俺にもチャ子にも気付かぬうちに入ってきた明度さん。違った。メイドさん。
「そういうのやめてくれ、メイドさん」
「え?妄想では無いのですか?」
「そっちじゃなくて!」
何処かズレた会話をする俺達。確かメイドさんって心が読めるんだっけ?だったらこの流れはワザとなのか?それにチャ子もだんまり決めてるし。
「そういうことですか。さっきから敵意が隠されないで此方に向けられていますので驚きましたよ」
『何が驚いたよ。そういう風に見えないんだけど』
チャ子が喋ったと思ったが、俺にも分かるくらいの敵意をメイドさんに向けていた。
「嫌われたものですね。私の正体なんてすぐ分かるものですよ。それに貴方達に何かをするつもりもないですよ」
『なら、ここら一体にかかってる何か分からない魔法を解きなさいよ』
「さすが聖シリーズですね。何時お気づきで?」
『此処に来た瞬間に決まってるでしょう。こんな大規模な魔法、一目見たらすぐに気付くわよ』
「ふむ、意思を持っていても武器には効かないということですか」
此処で俺は、お前に目なんて無いだろ、というツッコミをしたいところだがそんな雰囲気では無いことくらい分かるのでしないが、これだけは言わせてもらおう、
何コレ怖い!あれか、これが女の戦いだと言うのか!くっ、俺の力じゃこの中に入るのは無理だ!こうなったら俺も女になるしか!
『何ふざけてんの?』
「ふざけないでくれます?」
「すいません」
怖い。こっちに矛先向いたし。何で俺のことだと息ぴったりなの?
『それで、何の用?こっちも忙しいんだけど』
チャ子が苛ただしげに言う。もしあの体があったら腕組みしながら足をパタパタしてそうである。
「そうでしたね。もしよろしければ、力試しをしてみないかと王からの伝達です。セント様、チャ子様」
「力試し?」
『チャ子って言うな!』
力試しという言葉にピンとこないが、おそらく模擬戦みたいなものであろう。それより気になるのは、ちゃっかりメイドさんがチャ子と呼んでいることだ。チャ子も俺の時より力強く否定している。
「ええ、力試しです。如何ですか?」
『ふん!そんなの別に必要ないわ!』
「ちなみに私が相手となりますね」
『よし!その話乗ったわ!』
見事な手のひら返しを見せたチャ子。相手するのは俺なんだけどなあ。
■◇■◇■
所変わって、此処は城の中にある主に騎士達が使う訓練場。そこに俺とチャ子、そしてメイドさんが対峙していた。
「そちらからどうぞ」
メイドさんは特に構えたりしないが、あきらか仕掛けてきたら返り討ちにするという意思が強く感じられる。だから俺は、
「作戦タイム!」
メイドさんに背を向けて座り込み、今から作戦を立てることにした。
「ヤバイ、ヤバイ!どうするよこの状況!」
『大丈夫よ作戦くらいあるわ』
「ほんとか!よし、早く教えてくれ!」
『いい、よく聞きなさい。多分この方法がこれからの戦法になると思うわ』
「おお、そんなに凄いのか」
『ええ、あのメイドに一泡でも二泡でも吐かせてやるわ』
チャ子はそう自信満々に、体があれば胸を逸らしているだろう感じで―――言った。
作戦タイムと叫んでから3分は経ったと思う。俺は立ち上がるとメイドさんはようやくといった様子でこっちを見た。
「待たせて悪いなメイドさん」
「いえ、それほど待っていません」
そういう人ほど待ってるんだよなあ。俺は苦笑いしながらチャ子を構える。
左足を前に出し、半身になる。左手に持ったチャ子、いや、聖戦輪を胸の前に構え、右手に持ったそれを背中に構える。
この構えは即席で創ったわけでは無い。
脳の回転の速さをそこらへんの人の√853倍にする特典で頭の回転を速くし、イメージでトライ&エラーの繰り返し。
それで導き出したのがこの構え。チャ子からのお墨付きだ。
「ふむ、それで初めてとは中々光るものがありますね」
「そりゃどうも。メイドさんもヤバそうな魔力を出してるじゃないか」
さっきの作戦タイムでチャ子から教えてもらった魔力。知っていると思うが、魔力は魔法を行使する際に使うエネルギーで血液のように体中に駆け巡ってるらしい。その量と質が高いほど強いらしい。
俺にもあるがまだ感知出来るほどの熟練度がないため分からないが、メイドさんの放つ魔力は質と量が高すぎて肌が痺れるほど感じることが出来る。
「そういうことですか。それで何処まで出来るか楽しみですね」
メイドさんの表情は覆面に隠れ見えないが、声を聞く限り、楽しみだ、と言っているようだ。
『さっきから上から目線で喋って、ほんとに腹立つわねえ。セント、あの顔を歪ましてやりなさい!』
チャ子の声を皮切りに俺は、左手の聖戦輪を体をひねりながらメイドさんに向かって投げ、メイドさんは右手に魔法陣を作り魔法を仕掛けようとしている。
今、俺とチャ子の初めての戦いが始まる。
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