魔王?知らないよ 首をコテンと傾げて彼女は言った。
連投
「お前が魔王だと、ありえん、ありえん。魔王ってのはもっと、こう、ラスボス感溢れるような奴であってな、こんな序盤から出てきていいもんじゃねんだよ。しかも、お前みたいに幼い少年じゃなくて、こう暗黒感が滲み出るようなオーラがあって、しかも、もっと貫禄があるようなやつじゃないのか?ええ?何で、こんなに早く出てきてんだよ。RPGで始めに出てきたのがスライムじゃなくて魔王ってどんなクソゲーだよ。城に籠もって大人しく待ってろ。仮に、仮にだ。もし、お前が魔王としてだ。......認めてないけども。そんな奴と一緒に居る俺って何なの。もうあの国に戻れ無いじゃん。下手すりゃ指名手配もんだろ。メイドさんだけでもヤバイって言うのに、もうこれからどうすればいいんだよおぉぉぉぉ!!」
『とりあえず、落ち着きなさい。軽くホラーだから』
「いや、だってこいつが魔王だぞ。仮に倒せって言われて倒せるか?子供に刃物持ってボッコボコに出来んのか?出来るわけねえだろ!」
『いや、だから落ち着きなさい。ほら、かなり引いてるじゃない』
「しょうがねえだろ!こちとらファンタジー求めて来てるのに、何でこうもぶちこわしてくるんだよ!だいたい、―――エウッ!」
『セント!?』
「大丈夫です。峰打ちです」
「何なんですかぁ、コレェ」
■◇■◇■
「あれ、何やってたんだっけ、俺。後なんか首が痛いんだけど」
「大丈夫です。何もありませんでしたよ。ただ、セント様が転んで私の手に偶然あたりどうやら当たり所が悪かったらしく、気絶をしていただけですから」
「何か、無理矢理感がすごいけど。それってメイドさんにやられたってことじゃね?」
「いえいえ、偶然ですから。偶然」
「何か釈然としないけど、それはいいとして。これからどうするよ?何か対策建てとかないとヤバい気がするんだけど......」
『それ、フラグ乙』
「いや、まだだ。まだ何か手があるはずだ」
「茶番は終わりましたでしょうか?」
「茶番じゃねえよ!誰のせいでこうなってると思う!」
「さて、それはセント様の運の無さでは?」
「主にあんた達のせいだよ!」
「ならば、さっさと私達を捕まえれば、よろしいじゃありませんか。煮るなり焼くなりされる私達を金に変えて、悠々自適に暮らせばいいのでは?」
「そういう言い方は卑怯だと俺は思うんですよ」
「はて何のことやら?」
このやり取りをそばで見ていた魔王―――プレムは思った。
何コレ、と。
同じく、そのやり取りに参加していたセントも思った。
何このカオス、と。
「で、お前はどうしたいんだよ」
段々カオスになってきた空間に耐えきれなくなったセントがプレムに話しかける。
「どうしたいって言われても......」
しかし、彼は記憶がないため、何を言えばいいのか分からない。
「そっかぁ、そうだよな。」
遠い目をしながら頷く。何でこうなったのだろうかとセントは考える。
そもそも、大陸同士で争っているからって、相手の国の王様―――魔王を倒すっていきなり野蛮じゃね?
というか、そもそも、こんな子供を武器持って倒せと。―――鬼畜か。
「なあ、メイドさん」
とりあえず、現在進行形でチャ子と睨みあっているメイドさんに声をかける
「はい。何でしょうか」
「メイドさんなら、記憶を封印している魔法を解除できないのか?」
「出来ないことはありませんが、どうしてですか?」
「どうしてって、そりゃ......」
「今なら抵抗されることもなく殺すことだって出来るのですよ?」
人殺しはダメ、悪人ならば殺すべき。2人の価値観の違い。
それがこの場での決定的なズレを生み出しているのだが、それにセントは気付くことができない。
「こ、殺すって、そんな野蛮な......」
「どうしてですか?そもそ―――」
「ああ!!やめやめ、その話。―――俺が言いたいのはそうじゃなくて、魔法が解けるかどうかなんだよ。そんな無抵抗にボコるなんて出来ねえよ」
言葉だけなら、優しいセリフ。しかし、その中にある違和感からセントは無意識に意識を逸らす。
メイドは何かに気付いたかのような反応を見せるが、あえて言わない。
「―――そうですか。まあ、それが長所と考えておきましょう」
「長所?」
「ああ、いえ、何でもありません。―――えっと、魔法が解けるか、否かですか。まあ、楽しょーですね。今すぐやります?あ、ちなみに失敗してボカンッとなっても私の責任じゃありませんのであしからず」
「待ってくださいぃ!!そんな、ボカンッって何ですか!?そんなちょっと可愛く言ってますけど、軽く頭吹き飛ぶんですか!?もっとこう、安全な方法は無いんですか!?」
「では、プレム様は記憶を取り戻したくないと」
「そうじゃなくてですね!もっと安全な方法がいいんです!」
「我侭ですねえ。我慢というものを覚えてはどうですか?」
「~~~~~~ッ!?」
「いや、もういじめてやるなよ」
メイドさんには煽らせる才能でもあるのでは無いかと疑わしくなる。
流石に可哀想になったセントはプレムを助けようと言葉をかけるが、
「はて、何処がいじめているのでしょうか?」
本気で言ってんのかこいつ、セントとチャ子の心の声がハモる。
「ええ。その通りですが、何か?」
「いや、全然信用できねえよ」
はてさてどうしてでしょう、とか言ってるメイドさんを無視して今だ、プルプルと震えてるプレムに声を掛ける。
「で、どうする?オススメは保留だけど」
「記憶は戻したいですけど、保留でいいです」
涙目即答で答えるプレムを見て、俺だけは優しくしてやろうと心に誓うセントだった。
■◇■◇■
「とりあえず話は纏まったことだし、これからの方針を決めようと思う」
「はい、セント様。私から提案がございます」
あきらかに怪しそうな感じ満々で挙手するメイドさん。
「さて、俺的にはとりあえずあの国から一刻でも離れようと思―――いった!」
「私を無視するとは、いい度胸ですね。―――私は西に進むのがよろしいかと」
ちょっと冗談じゃないくらい痛い頭を押さえながらこの世界の地図を思い出す。
俺達が居た国―――セイレン王国は地図的には東にあったはず。
「ってそれ俺が言ったこと同じじゃねえか!そんくらい心読んで分かってただろ!?何で俺叩かれたの!?」
「私が先に言おうとしたことですから」
「それだけのことで俺は叩かれたのか!?しかもかなり痛いし!」
「話が進まないので黙ってくれます?」
「俺の扱い酷くね!?」
俺等の様子を見て、苦笑いをしながらプレムが言う。
「じゃあ、迷宮搭城を目指すのはどうですか?あそこなら人に紛れますし、お宝も見つかるかもしれませんし」
「ああ、あそこですか。確かにあそこなら実を隠すのは楽かもしれませんね」
迷宮塔城?何それ。
『世界の中心に存在する古代文明の1つで、世界の秘境ナンバーワンのスポットよ』
へえ~そんな凄いとこなのか。
『凄いどころじゃないわ。あそこは秘境として有名だけど、別名【探求者殺し】といって毎回構造が変わるの。だから地図なんて無駄だし、一度迷い込むと二度と出れないわ。勿論踏破した奴なんて居ないわ』
はあ~そりゃすごいとこだな。......いや、待てよ。この高機能道案内機能があればいけるんじゃね?お宝もあるって言ってたし、うまくいけば俺大金持ち?
「あれ?急に立ち上がってどうしたんですかセントさん」
「ふはははは!いける!いけるぞ!さあ、早くその迷宮塔城に行こうじゃないか!」
『うわあ、引くわぁ』
チャ子が何か言ってるが、これ以上無いほどハイテンションになっている俺には聞こえない。
「さあ!お宝が俺を待っている!」
「あ、言い忘れていましたけど、お宝の前にはかなり強いゴーレムが居たり、転移の魔法陣が大量にあったり、謎解きをしないといけないそうです」
......先に言えよ。
感想、批評待ってます。