私が悲劇の語り手になった日
昔、むかし、時を精確に数えるならば2世紀前―――200年も前のお話。
それは戦乱も戦争もないまだ、国と国の争いのない時代。
始まりは小さな、小さな村から始まった。
■◇■◇■
国から少し遠けれど、決して不便ではない小さな村があった。
大人は畑を耕し、自然溢れる森でモンスターを狩り、子供達はそんな大人達を見て真似をしたり、遊んだりと変哲もなく、平和があった。
大人も子供も笑いあえる。幸せな時代。
そんな村に‘それ‘が現れたのは偶然か必然か。どちらにしろ、‘それ‘は彼らに漠然と襲い掛かった。
「ねえ、―――。悪いけど、森に行って薬草を取ってきてくれない?お願いよ、後でお小遣いあげるから」
その日、彼女は母親の使いで森に薬草を採りに行った。
村周辺の森にはモンスターは居らず、子供だけが出ても会うことは無いため、子供達の遊び場として子供達の声が聞こえるはずなのだが、その日はたまたま他の子供がおらず、ただ木々を撫でる風の音だけが静かに少女の耳に届いた。
早く終わらせようと少女は薬草を探すため、奥に進む。
どれだけ経っただろうか。少女は地面から顔を上げ―――
少女は見た―――見てしまった。
森を覆い、此方に向かってくる謎の霧。魔法という現象があるこの世界、子供であろうが目の前に高密度の魔力で構成された霧ならば、それが魔法であると一目で分かる。しかし、それだけではどんな魔法であるかは分からない。
此処で、少女は逃げるべきだった。逃げて村に逃げるべきであった。しかし、少女は目の前の現象を前に動くことさえ出来なかった。金縛りにあったように全身が動かない。
そして、霧が少女に触れた。此処から少女の意識は無い。
少女が目が覚めたのは夜の帳が落ち、木々の隙間から月の明かりが少女を照らす。
いつの間に寝ていたのか疑問に思うが、急いで帰らねばと思った少女は急いで村に帰ろうとする。自分を待つ家に帰るために。しかし、少女は気付けなかった。自分の体に起こった変化を。
息を軽く切りながら戻った少女を迎えたのは、変わり果てた村人達。
体は腐敗し、目に生気はなく、腕や脚は取れそうなほど脆い。人によっては片腕を落としたりしている。しかし、その腕はグチャグチャと音を立てて、戻る。既に人とは言えぬ、モンスターと化した村人達。
大人も子供も見境なく。―――大人も子供も笑いあっていた。
畑を踏み、ただ歩く者。―――大人は畑を耕していた。
目的もなく、動く者。―――子供は遊んでいた。
そこに人は居らず、居るのはただの化け物。
待っているはずの母親も父親も友達も知り合いも皆化け物に。―――平和だったはずなのに。
その時、やっと気付いた。自分の体が既に人で無い事に。
■◇■◇■
少女の村を襲ったのは、正体不明の魔法。
少女の村だけでなく、近くの村、町、果てには国すらをモンスターに変えた。
その被害は100万人を超え、収取するのに5年の月日が掛かった。
そして、彼女は―――
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