出会っちゃたね by神
人は常識外のことを体験すると、どうなるのか。それは人それぞれだと思う。俺の場合はどうか。
驚愕して動けなくなる?違う。
未知に対して歓喜する?違う。
何も思わず無関心?違う。
「ああ、俺は今何処に居るんだっけ?」
『ちょ、ちょっと何言ってんの!?今はそれどころじゃないでしょ!』
「うん。分かってるよ。分かってる、分かってる」
『分かってない!』
ちょっぴり無関心、ちょっぴり驚愕、かなりがっかりだ。
俺達はあのパラシュートで落ちてくる人を助けるために着地点に走っている。
此処は魔法があってモンスターがいるファンタジーな世界なんだろう?じゃあさ、落ちてくるのも羽が生えていたり、魔法を使うんじゃないのかと思っていたんだよ。だからさ、
「流石に、パラシュートは無いだろ」
ちなみにこの世界にもパラシュートはあるらしい。使うことはほぼ無いらしいけど。
『そんなことを言ってないで、速く走りなさいよ!』
そんな俺の心情も知らず、チャ子が棘ある言葉を俺に向けてくる。
「そろそろ着きますよ」
メイドさんの一言で意識を落ちてくる人に向ける。
此処まで来たら、俺の目がその人物をはっきりと捕らえる。髪は藍色で短く揃えてある。身長は大体小学4年生くらいだ。顔は男とも女とも取れる中性的だ。服は何かキラキラした豪華な服だ。
地面との距離20メートル。
「......子供?何で子供が?」
距離15メートル。
「アレは・・・・魔法?」
メイドさんがポツリと呟く。生憎俺には見えないので何の魔法か知らないが。
距離10メートル。
「メイドさん。魔法で風を操ったり出来る?」
「ええ、承りました」
メイドさんが魔法で風を操り、パラシュートを安定させる。
距離5メートル。
「よっと。...案外軽いもんなんだな」
距離0メートル。
何とかこの子を助けることは出来たけど、この子一体何者なんだ?
「おかしいですね」
「え、何が?」
「この子の頭の中には複雑な魔法が掛けられています。おそらく、記憶の一部を封印する類のものですね。それもかなりの魔力が込められています。よほど思い出させたくないものなのでしょう。しかも本人しか解けないしくみになっています。無理に解こうとすると...」
「すると、どうなるんだ?」
「ボカンッとなりますね」
「・・・・・・・・」
記憶の封印というところに違和感を感じるけど、今はこの子のことが先だろう。とりあえず、
「何処か、安全なところに行こう」
「では、あの洞窟などどうですか?」
メイドさんが指を指した方向を見ると、如何にも怪しそうな洞窟があった。
「え、あそこ?」
「ええ、一先ずあそこに―――『ダメよっ!』―――なんですか聖戦輪様」
「おいおい、どうしたんだよ。確かに怪しいけど、それが最善だと思うぞ」
『ダメなものはダメなのよ!』
何故だか分からないが頑なに反対するチャ子の声は何処か裏返っている気がする。
「へえ、そういうことか。・・・・おい、チャ子」
『な、何よ。私は絶対に反対なんだから!』
「お前、怖いんだろ。ああいう暗いところが」
『な、そそ、そんなわけ無いでしょ!私を舐めないで!あんな洞窟なんて全然怖く―――「じゃあ、1人で入っても大丈夫なんだな」―――え、もしかして』
「その、もしかしてだな。じゃあ、行ってこい」
この間ネーミングセンスが無いと言われた、[ゼンマイ流:聖知旋動]の構えをし、出来るだけ奥まで届くように体を捻り、力を込める。
『わあー!待って、待って!ほんとに!ほんとに謝るからぁ。やめてよぉ。...うぅ、うえぇぇーーん!」
ガチ泣きだった。頭の中で凄く泣き声が響く。
「・・・・セント様」
メイドさんの蔑むような視線を感じる上に、声が少女なので罪悪感が半端無い。
「その、あー、ごめん」
「ですが、結局はあそこが一番安全そうなので、あそこに行くしか無いんですよね」
『......メイド』
上げて落とすメイドさん、ヤベー。チャ子も泣くのをやめて腹の底から出した怨念が凝縮されたような声を出してメイドさんをかなり怒ってる。
この空気を如何すればいいんだよぉ。
「えーと、一発芸をやりまーす」
「黙ってくれますか?」
『黙れ』
怖いよぉ!何で俺が責められないといけないんだよ!チャ子に至っては、もう命令じゃねーか!
とまあ、本人を前に言えるほど俺には度胸がないので、黙って見守る。
この状態になり何分経ったが分からないが、そろそろ胃が痛くなってきた時、遂に終わりを迎える。
「あ、あれ?此処は?」
あの落ちてきた子が目を覚ましたのだ。
『・・・・チッ、運がよかったわね』
「ええ、私は昔から運がいいんですよ」
「え、何処なの此処?ていうか何この状況」
今だに剣呑な空気をだす2人と、目が覚めたら意味不明な状況に巻き込まれていた子と、2人に何も言えない俺の変な空間が出来上がった。
■◇■◇■
「まず、自己紹介をしようか。俺はセント。セント=アオゾラサキだ」
ふっ、前みたいにな失敗はしないぜ。
「私はメイドさん、とでもお呼び下さい」
「えっと、僕はプレム=クレイジュです。...あの僕は何でこんな所に居るんですか?それとメイドさんは何でそんな覆面被っているんですか?」
「ああ、この人の事は気にしなくてもいいから。いや、そっちじゃなくて。何があったのか、覚えていないのか?」
「はい、道を歩いているときに急に意識を失って、そこからがうまく思い出せないんです」
「じゃあ、何処に住んでいるんだ?」
「すいません、それも分からないんです。覚えているのは名前と意識が失った前後くらいしか思い出せないんです」
「う~ん。それじゃあ対処の仕様が無いよな。城に預けるにも誰かさんのせいであの国には戻れないしなあ」
チラリと覆面を被った誰かに皮肉を交えて言う。
「誰のせいでしょうね。全く迷惑な物です」
この人マジの天然なのかわざとなのか本当に分からないな。
「あの、僕はこれからどうなるんでしょうか?」
不安そうな顔でこっちを見てくるプレム、君?ちゃん?どっちだ?
「なあ、君は男の子?女の子?」
「お、男ですっ!分からないんですか!?」
グーパンを貰った。いいパンチだぜ、グフゥ。
腹を押さえ、膝から崩れ落ちる。
「ああ、ごめんなさい!ごめんなさい!」
「いや、いいんだ。ナイスパンチだ」
ジワジワと痛む腹を押さえて、ビシッとサムズアップを決める。
「そ、それより君のこれからだっけ?あーどうしよ」
「あの、もしよければ一緒に旅に連れて行ってくれませんか?色々な所を回れば記憶が戻るかも知れないので...」
最後の方が段々小さくなって聞こえなくなった。
いや、別に誰が着いてきてもいいんだけどさあ。誰も着いてくるなとは言ってないし。ただ、問題は戦闘は、出来なくてもいいけど、せめて自衛くらいは出来てほしい。
「旅をするって色々とモンスターにも出会うんだぞ?それでもいいのか?」
これは昨日、チャ子の部屋でチャ子に言われたことだ。
―――いい、旅には色々な危険が付きまとうのよ。それでも行くの?今なら逃げれるわよ?―――
「・・・・はい。僕は自衛くらいの力ならあります。迷惑も掛けません。だから、お願いします。僕を連れて行ってください」
さて、俺は別に連れて行ってもいいと思うが、俺1人が決めていい問題ではないしメイドさんにも一応聞いておこう。まあ、メイドさんも子供をこんなところに置き去りにしようと思わないだろう。
「俺はいいけど、メイドさんは?」
「私も異論はありません」
「よし、これからよろしくな、プレム」
「そ、そんなに簡単に決めてもいいんですか?もっと話し合うとかしないんですか?」
「いや、別に必要ないだろ」
「そ、そんな簡単な...はぁ、ありがとうございます」
「おう、よろしくな」
静かだなと思ったら、チャ子は寝てた。
現在の仲間
セント=アオゾラサキ
チャ子(聖戦輪)
(名前不明)メイドさん
プレム=クレイジュ
■◇■◇■
あの洞窟で一晩明かし、朝になり、メイドさんが作った朝ごはんも食べたので、そろそろ進もうと思うが此処が何処か分からないが、俺には特典がある。
「さてさて、何処を指すんだ~」
とりあえず、魔王の居場所を指してもらおうとアホ毛に念じる。
「で、何処を指してるんだ?」
メイドさんに聞いてみると、
「え、右?」
メイドさんの指は俺の右を指す。その方向はプレムが居る方向。その方向にいるプレムは場所を移動して俺の左に立つ。
「なるほど、東か。え、違う?今度は西」
ほんと、どっちなんだよ。やっぱりあのガキ神ミスったのか。
拉致が開かないのでアホ毛を掴んで自分で確かめる。アホ毛が指すのは、
「斜め左下?」
斜め左下を見ると、首をかしげたプレム。
え、マジで?
「プレム、プレム。ちょっと左に移動してみ」
分からないといった感じのプレムが少し左に移動する。それと一緒に左に移動するアホ毛。
「こ、今度は右に」
また右に少し移動したプレム。それと一緒に移動するアホ毛。
本当だと主張するようにピコピコと揺れ動くアホ毛。
信じたくない。これも信じてしまうと此処がファンタジーな世界だと信じられなくなりそうだ。
「もう一度、もう一度だけでいいから移動してくれないか」
「う、うん分かったよ」
三度目の正直。それに懸けてアホ毛を掴む。
プレムは右に動く。アホ毛も右に動く。
「お前が、お前が魔王かよ」
俺の何処か悲しい声が小さく響いた。
感想、批評待ってます。